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5月1日(月)
ある位相空間の部分集合Xについて、元々の空間の開集合U,Vが「U∩XとV∩Xがどちらも非空で、かつXがそれらの非交和となっている」を満たすとき、UとVはXを割く、とここでは仮に呼ぶことにする。さて、Twitter上で、「ある位相空間の部分集合Xが連結でないとき、Xを割く開集合の組U,Vが(連結性の定義より)存在するが、このようなUとVが交わりをもたないように選べるだろうか」という趣旨の問いが話題に上がっていた。元々はEuclid空間の場合について考えられていて 、それについてはより一般に、元々の空間が距離空間であれば成り立つことが指摘された のだが、そうなると距離空間ではない位相空間についてどうなっているのかが気になるところである。これについて少し考えてみたことをメモしておく。
条件「非連結な部分集合については、それを割く開集合の組を互いに交わらないよう常にとれる」(*)について、T4 空間が条件(*)を満たすとは限らない。というのも、S := {1,2,3,4}上の開集合系をO := {空集合,{1},{1,2},{1,3},{1,2,3},S}で定めるとSはT4 空間であり(空でない閉集合はどれも4を元に持つので、そもそも「互いに交わらない非空な閉集合の組」が存在しないため)、部分集合X := {2,3}は非連結である(開集合U := {1,2}とV := {1,3}の組はXを割くため)が、Xについては条件(*)が成り立たない(空でない開集合はどれも1を元に持つため)。
(*)を少し強めた条件「非連結な部分集合Xと、それを割く開集合の組U,Vについて、Xを割く開集合の組U',V'を、互いに交わらず、かつU ∩ X = U' ∩ X, V ∩ X = V' ∩ Xを満たすよう常にとれる」(**)を満たす位相空間SはT4 空間である。というのも、互いに交わらないSの非空な閉集合AとBについて、U := S - AとV := S - B(マイナスは集合差を表す)はX := A ∪ Bを割く開集合の組であり、したがって条件(**)のようなU',V'が存在するが、U ∩ X = BかつV ∩ X = Aであるため、U'とV'はBとAを分離する開集合の組であり、T4 空間の条件を満たすからである。
5月2日(火)
大学の生協書籍部で、『ファイバー束とホモトピー』という数学書が機械制御分野の棚に置かれていたのを発見した。恐らく光ファイバーとかの「ファイバー」のことだと思われたのではないか。
5月3日(水)
5月4日(木)
連休。美術館に行ってきた。
某所の日記の移行作業。2012年5月分について、まずは2012年5月14日の分:
旅行で森林浴してきた後にごみごみした都会を通るとちょっと悲しい気分になってくる。
今日は美術館に行った後でその近くの庭園を散策してきたのだが、帰宅しても特に物悲しい気分にはならなかった。現在の住まいには一昨年に引っ越してきて、以前の住まいと比べて良い点も悪い点もあるとは思うけれども、「ごみごみしていない」というのは現在の住まいの明確な長所だと思う。
↑次は2012年5月31日の分:
科研費の成果報告書を書く意義は理解できるが、成果報告書のフォントの種類を事細かに指定する意義は理解しがたい。
これを書いた当時は確か成果報告書をWordで作成する必要があったように思うのだが、現在はウェブページ上のフォームに文章を入力すればよい(したがって文字のフォントを気にする必要はない)システムになっている。(世界の状況はよくわからないが、少なくとも)日本の研究者が置かれる環境は年々厳しくなっていると言わざるを得ないが、それでも良くなっている点も存在はするのである。
5月5日(金)
連休中なのだが、気になっていた査読を一つ片づけた。
5月6日(土)
連休中なのだが、某国際会議から論文reject通知×2が届いてげんなり×2している。
5月7日(日)
5月8日(月)
連休明け。今日の組合せ論の講義では板書のミスが多かったので反省。
5月9日(火)
指導学生が主著の論文が某国際会議でConditional Acceptance with Shepherdingになっていたところ、無事acceptが決まったとの通知があった。めでたい。
5月10日(水)
今日の学生セミナーの発表箇所で、「充分大きなすべてのxについて…が成り立つ」といった文章表現が出てきた。これは「あるx0 をうまく選べば、そのx0 よりも大きなすべてのxについて…が成り立つ」という内容を表す慣習的な略記法で、informalな表現であるのだが、専門書や論文でさえ使われることがしばしばある。確かに記述の見た目を簡略化できて便利なのはわかるが、多くの量化子が入り組んだ複雑なステートメントでこの表現を使ったせいで量化子の依存関係が不正確になっている論文を読んだことがあることもあり、個人的には(口頭での議論のような軽い場ならともかく)formalな文章にはこの表現は使わないでほしいなぁと感じている。(なお、発表した学生が勝手にそう言い換えたのではなくテキスト自体にそう書いてあった。むしろ学生は自主的に正確な表現に直して発表していたので感心した次第である。)
某所の日記の移行作業。2012年6月分について、まずは2012年6月3日の分:
今日、Twitterで「○○幾何」という形の数学の分野名を列挙して遊んでいる人たちを見掛けて、それでふと思ったのだけど、「○○幾何」という順番に名前が繋がった分野名は多数あるのに「幾何○○」という順番の分野名はあまり見掛けない気がする。代数と解析と幾何の三本柱から二つ選んで分野名を作るときも「代数解析」「代数幾何」「解析幾何」の並びで、綺麗に「代数→解析→幾何」という順序に固定されているし、この辺りの分野名に関する感覚の背後には何が潜んでいるのだろう。
「何が潜んでいるのだろう」と書いてあるけれども、今にしてみると(ざっくり言うと)「前半部が研究の手法、後半部が研究の対象」ということなのだろうと思う。「代数解析」は代数の手法を用いた解析であり、「代数幾何」は代数的に(多項式系の共通零点として)定義された図形の幾何学であり、「解析幾何」…はよく知らないのだけど多分そういうことなのだろう。で、それはそれとして確かに「幾何」が前半にくる分野名はあまり見ないなぁと思って少し考えてみたところ、「幾何学的群論」という例を着想した(「幾何」ではなく「幾何学的」なのは言葉の綾の範疇だろう)。あの分野は確かに「群論を用いた幾何学」ではなく「幾何学に現れる群の研究」だよなぁ、と一人納得。
↑次は2012年6月11日の分:
この頃は身体の冷えを防ぐために極力温かい飲み物を飲むようにしているのだが、暑くなるにつれて自動販売機の品ぞろえが冷たい飲み物一辺倒に変わってきている。冷たい飲み物を増やすのはよいのだが、温かい飲み物も少しぐらい残るといいのになぁ。
今にしてみると、温かい飲み物と冷たい飲み物を同時に用意するのは大変そうなので自動販売機にあまり文句を言うのは気が引けるのだが、「温かい」ではなく「冷たくない」(つまり、常温の)飲み物は以前よりも入手しやすくなったと思う(自動販売機では難しいかもしれないが、お店ではわりとよく売られるようになったと思う)。
↑↑次は2012年6月18日の分:
今日も今日とて論文書き。「主定理の証明を書きながら定理の仮定を調整する」という書き方をしているため、主定理のステートメントが未だに固まらない。
↑↑↑次は2012年6月28日の分:
名古屋出張。打ち合わせ相手の某氏の通勤時間は私の20分の1ぐらいであることを知るなど。
私の記憶が確かなら、この某氏は別に大学の隣に住んでいたとかいうわけではなく(徒歩圏内ではあるのだが)、単に比較対象であるこちら側の通勤時間が長すぎたのである。当時は片道3時間ほどかけて通勤していたので、某氏の通勤時間が徒歩10分弱ぐらいでも計算が合うことになる。なお、当時使用していた6ヶ月用の通勤定期券は(新幹線通勤というわけではなく全部在来線なのに)とんでもない金額で、当時の勤務先の通勤手当の上限ぎりぎりの金額になっていた(もう当時の通勤定期券は処分してしまったけれども、当時は通勤定期券の価格欄を見せるだけで良い雑談のネタになったものである)。ちなみに別に好き好んで長距離通勤していたわけではなく、当時の所属部署が勤務地ごと移転した影響を受けた恰好である。なお、私ほど極端ではなくてもやはり困ることになった同僚は多かったようで、その後の組織改編の関係で一部の部署が勤務地を変更できることになったときに、うちの部署が全力で手を挙げていたのも今となっては微笑ましい(?)想い出である。
↑↑↑↑次は2012年6月29日の分:
名古屋名物(?)小倉あんトーストに初挑戦してみたのだが、よく考えるとパンと餡子というのはあんパンの構成要素と同じであるわけで、食べた瞬間「ああ、これは包まれていないあんパンではないか」と気が付いて少々拍子抜けした。
「拍子抜けした」とはいえ、味は普通に自分好みだったことを憶えている。
5月11日(木)
学生セミナーで、グレブナー基底を計算するアルゴリズムであるBuchbergerアルゴリズムのあたりの発表をしてもらった。セミナーは黒板に板書する形式なのだが、アルゴリズムの具体例を手計算するのはだいぶ大変なので具体例はだいぶ端折ってもらうことにした。
5月12日(金)
大学院入試の受験希望者で、合格したら私のところに来たいという学生さんと面談をした。希望する研究テーマは暗号分野なのだが、うちの大学院はれっきとした数学の大学院なので、まずは数学の試験に合格してもらわなければ話が進まないのである。暗号分野自体は数学が得意でなくても研究テーマが存在する分野だと思うので(もちろん数学が得意な方が有利ではある)、数学が得意でないと入学できないうちの大学院は大変だと思うけれども、数学がある程度できる学生さんでないと私の側がどう指導してよいか悩むので、私の側はこの制度で助かっているといえるかもしれない。
5月13日(土)
週末。久しぶりに数学書をがっつり読んで過ごしていた。
5月14日(日)
週末。町内会の草刈り大会に参加して、推しの敵とばかりに雑草の根っこと格闘していたら、見事に足腰が痛くなってしまった。
5月15日(月)
選択公理が必要な(ZF集合論では証明できないけれども選択公理を追加したZFC集合論では証明できる)命題を証明するとき、しばしば選択公理自体ではなくZornの補題の形で選択公理を用いることがある。これは主に超限帰納法の利用を回避する知恵だと思うが、そもそもZornの補題自体の(選択公理を用いた)伝統的な証明に超限帰納法が用いられているため、学部生向けの(例えば基本的な代数学などの)講義ではZornの補題の証明を紹介することが難しく(もしくは、講義の担当教員が超限帰納法や超限帰納法を用いたZornの補題の証明を知らないため)、Zornの補題を「証明抜きで認める」という運用がなされることが多いと認識している。個人的にこの風潮をどうにかしたいと思っていて、以前より超限帰納法を用いないZornの補題の証明を考えてこちらのページでノートを公開 したりしていた(なお、超限帰納法を用いずにZornの補題を証明する営み自体は(私は最初は知らなくて、後から調べて知ったのだが)別に私が最初というわけではなく古くから存在している)。将来的には「普通の(つまり、集合論や数理論理学を特に手厚く教育しているわけではない)数学科の講義でZornの補題の証明が紹介される」ようになることを願っているのだが、その最初の一歩ということで、今日の組合せ論の講義で(ちょうど半順序集合を題材としていたこともあり)Zornの補題の証明を紹介してみた。受講生がこの証明自体をどれだけ理解してくれたかはわからないが、「どうやらZornの補題は(単に「認める」だけではなく)証明できるものらしい」ということは今後も憶えていてくれるといいなと思う。
5月16日(火)
5月17日(水)
昨日の日記に書いたZornの補題の証明の改良 の件、今日も改良のアイデアが浮かんだのでさらに改良版のノートを公開 した。なお、昨日のバージョンでの証明には(また、他の既存の証明のほぼすべてにも)整列順序の概念を用いていたけれども、改良した結果、整列順序の概念すら必要のない証明が出来上がった。これは初等的な証明と呼べる代物なのではないかと喜んでいる。
なお、上記の改良のアイデアはなぜか学生セミナーの最中に浮かんできたので(セミナー中に元々内職していたわけではないです、念のため)、思考が走り出すのを抑えてセミナーに集中するのが大変だった。(私は一応自動車運転免許を持っているけれども、自分には自動車通勤は無理だなぁと思うのはこういうときである。仕事帰りに研究モードの頭のまま運転なんかしたら危なくてしょうがない。自動車通勤している世の中の数学者の皆様はどうやって安全運転しているんだろう…。)
5月18日(木)
昨日の日記に書いたZornの補題の証明の改良 の件について、ふと思い立ったので、証明の行間をかなり細かく埋めた版をおまけとして追記してみた。元々の証明もそれなりに詳しく書いたつもりでいたのだが、とことん行間を埋めていった結果、1ページ弱だった証明が3ページ半ぐらいにまで膨張したので驚いている。どのくらい「とことん行間を埋めた」のかはノートの現物を参照されたい。(と宣伝)
5月19日(金)
ここ数日(だったと思う)、TwitterでFermatの小定理の証明についての話題をちらほら目にしていた。群論の基礎的な知識を仮定すれば、Fermatの小定理は「Lagrangeの定理の系」とするのが手っ取り早いが、それ以外の方針でなるべく簡単な証明を考える、という趣旨の話題である。例えば数学的帰納法(と二項定理と、素数pおよび1からp-1までの整数kについて二項係数p Ck がpの倍数であること)を用いる証明などが紹介されていたが、それなら組合せ論的な証明(の定義はあまり明確ではないが、ここでは「非負整数をある有限集合の元の個数として捉える論法」といった意味)ができないだろうかと気になって、以下の証明を考えてみた。(具体的な文献は見つけていないけれどもさすがに既知だろうと思う。)
【証明】素数pと正整数aについて、ap - aがpの倍数であることを示せばよい。1からaまでの整数をp個並べた列は全部でap 個ある。そのような列の成分を巡回的にシフトする(つまり、例えば(1,4,3)を(3,1,4)にする)操作を考える。このシフト操作はp回続けるともとに戻る。さて、上記のような列は、「シフト1回で元々と同じ列になる」(*)か、もしくは「シフトp回で初めて元々と同じ列になる」(**)かのいずれかである。というのも、もしシフトk回(kは2以上p-1以下)で初めて元々と同じ列になる列sがあったとすると、p以下であるkの倍数のうち最大のものをnとしたとき、pが素数であることからnはpではなく、したがってnはp-k+1以上p-1以下である。すると、sはシフトp回でもとに戻り、またシフトn回でももとに戻ることから、シフトp-n回でももとに戻り、また上記よりp-nは1以上k-1以下となる。これは列sがシフトk回で初めてもとに戻るとした仮定と矛盾する。よって、上記のような列は、(*)を満たすか(**)を満たすかのいずれかである。ここで、(*)はすなわちその列のどの成分も同じということであるから、そのような列の個数はa個である。すると(**)を満たす列の総数はap - a個である。一方、(**)を満たす列たちは、シフト操作の繰り返しで互いに移りあう列たちに類別したとき、類の各々がp個の列からなっている。これは、(**)を満たす列の総数ap - aがpの倍数であることを意味する。【証明終わり】
今学期の組合せ論的の講義で上記の意味での「組合せ論的な証明」を例示する際にはもっと人工的な問題を用いたのだが、来年度はこの証明を題材にすることにしよう。
5月20日(土)
週末。日頃の疲れが出ている。
某所の日記の移行作業。2012年7月分について、まずは2012年7月7日の分:
この日は七夕だったのだけど、確か天気がものすごく悪かったような気がする。Twitterで某氏が「雨期に星夜祭をやろうなんて正気の沙汰ではない」(←意訳)みたいに仰っていたけれども、近年では雨期が結婚式シーズンとして扱われたりしている(ジューンブライド)わけで、何か相通じるものがあるのだろうか。
七夕も地域によっては(旧暦に沿った日程のまま)8月に行っているわけで、その日程のままであれば梅雨の心配は要らなかったのであるが。
↑次は2012年7月15日の分:
論文を読むのに定義などのメモを取るのが面倒なので、定義のページをiPadで開きつつPCで先を読み進めるという無精をしている。
5月21日(日)
5月22日(月)
組合せ論の講義。グラフ理論の基本的な内容で、この日の主な結果として有限二部グラフの完全マッチングの存在条件に関するHallの結婚定理と呼ばれる定理を紹介した。色々あってこの定理には思い入れがあるし、グラフ理論の入門として紹介するのに手頃な内容なので重宝もしている。
5月23日(火)
指導学生が主著の論文について、投稿先の論文誌から条件付採録の報せが届いた。ひとまずrejectにならなくて何より。
5月24日(水)
事情によりスーツを着用。スーツはまだしも、ネクタイを付けるのが個人的にとても苦手なので、スーツ着用の機会が滅多にないという点だけでも現在の仕事はありがたい限りである。
5月25日(木)
「グラフ同型問題が多項式時間で解けることを示した」と主張するプレプリント がarXivに上がっているのを目にした。P=NP?問題やコラッツ予想(や、一昔前であればフェルマー予想)ほどセンセーショナルではないものの、グラフ同型問題が多項式時間で解けるか否かという問題も重要な未解決問題であり、また「解決した」と主張する(結果的には、技術的に正しくない)プレプリントが定期的に発生するいわくつきの問題でもある。今回のプレプリントについては中身を読んでいないのでその意味では何とも言えないのであるが、はたして信憑性のほどはどうなのだろうか。
5月26日(金)
共同研究の打ち合わせや会議などが計3件あってだいぶ疲れた。
5月27日(土)
5月28日(日)
週末。将棋の叡王戦(藤井聡太叡王、対、挑戦者の菅井竜也八段)の対局が行われたのだが、2回も千日手指し直しになったらしい。いやはや大変である。
5月29日(月)
組合せ論の講義の日。Ramsey理論について、というよりも、Ramsey理論を題材とした確率論的存在証明(うまい確率分布を定義すると、所望の性質が成り立つ確率が正の値になるので、所望の性質が成り立つ場合が存在する、というアレ)についての紹介をした。こういう基本的な証明技法もどこかで習わないと知らないままになると思うので、その「どこか」をこの講義で提供しているわけである。
5月30日(火)
昨日から共同研究のお客さんがうちの大学に来ているということで、大学の近くにあるお店まで出かけていって昼食を食べたのだが、あいにくの大雨で移動が大変だった。食事自体は美味しかったのでまた行きたいところである。
5月31日(水)
私が世話人の一人である研究集会があり、私も発表を行った。発表中にスライドの間違いを見つけたので発表後に修正するなどした。