迷宮都市カイロの魔法街キリエ。
占い師や魔道士の屋敷が立ち並ぶその一画に、ちょっぴり風変わりな一軒の店がある。
淡い燐光を放つターコイズブルーの看板が目印のその店の名前は萬屋骨董品店。
白い髪の主と二匹の猫が棲むその店は、骨董品に関するよろず厄介事の持ち込み先としてその筋では名の知れた存在である。
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カランカランと涼やかに鈴が鳴って、通りに面した扉が開く。
「やぁ、サカキいる?」
威勢の良い声と共に現れたのは、大柄な赤毛の女性だった。
戦士か、或いはそれに近い職に就いているのだろう。小麦色に日焼けした肌が、鍛え上げられた体に良く似合う。
広い肩や二の腕に逞しく筋肉を纏っている反面、豊かな胸や腰と括れたウエストからなるラインは肉感的で、健康的な魅力に溢れていた。
ヘンナの色をした髪が収まり悪く波打って広がる様は野性的で獅子の鬣を髣髴とさせるが、額に巻いた布を左耳の上で大きな蝶結びにしているのが華やかで愛らしい。
金属的な光沢を持つ肌の色と強靭で豊満な肉体は、吟遊詩人達をして赤銅の戦女神と謳わしめるものだった。
「いらっしゃい、サヴァ」
カウンターに備えつけのスツールにちょこんと腰掛けていたデューが、彼女にしては珍しく親しげに声をかける。
「あぁ、久しぶり、デュー」
サヴァという名の女丈夫は、大股で店内を横切ると、両腕を広げて軽々とデューを抱き上げた。
ヘイゼルの瞳を細めて満面の笑みを浮かべ、デューの蒼い髪に幸せそうに頬を擦り寄せる。
「相変わらずデューは可愛いなぁ」
少々手荒でスキンシップ過剰な愛情表現にもデューはおとなしくされるがままになっていたが、それを面白く思わない者がいた。
デューの膝の上で気持ちよく午睡を楽しんでいたところを邪魔されたルーである。
身軽な動きでカウンターに飛び乗ったルーは、果敢にもサヴァの力強い二の腕にかりかりと爪を立て始めた。
「何だい、ルー、一人前にやきもちかい?」
仔猫に引っ掻かれるくらい何でもないサヴァは、からかい混じりに笑みを含んだ声を投げかける。
「だいじょーぶ、あんたもちゃんと可愛いよ。それとも、デューを盗られる方が心配かい?」
その途端、ルーはサヴァに向かって必殺の猫パンチを繰り出した。
これにはさすがにサヴァも危険を感じたらしい。
小柄なデューの体をしっかりと抱えなおしつつ、声を荒げてルーを叱りつけた。
「こらっ!痛いよ。危ないだろう!」
「フーッ!!」
一方、ルーは橙色の毛を逆立て、小さな牙を剥いてサヴァを威嚇する。
どうやら自分を巡って時ならぬ紛争を勃発させそうな1人と1匹を前に、デューはこっそりと嘆息した。
どうしてこうもくだらない事で熱くなれるのかと、呆れ半分で無表情に困惑する。
そんな彼女を救ったのは、店の奥から現れたサカキののほほんとした声だった。
「何です、騒々しい」
額に落ちかかる白い髪をかき上げる仕草は物憂げで、本人の美貌とあいまって凄艶な色香を醸し出していたが、生憎と頭の中が沸騰中の1人と1匹には通用しなかったようだ。
「だって、サヴァがっ!」
とんっと床に降り立つついでに人型に戻ったルーが叫べば、サヴァはふふんと小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「ルーがガキっぽいやきもち妬いて突っかかって来たんだろ」
「何だと〜っ!!」
「おっ、やる気かい?」
「言っておきますけど」
再び口論を始めそうな勢いの2人に対して、サカキはのんびりと口を開いた。
「店の品を壊したりしたら、しっかり弁償していただきますよ」
にっこりと、それはもう極上の笑みを浮かべるサカキに、店内の体感温度が数度下がる。
だらだらと冷や汗を流して凍りついたサヴァとルーの間で、デューはもう1度小さく溜息をついた。
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