迷宮都市カイロの魔法街キリエ。
占い師や魔道士の屋敷が立ち並ぶその一画に、ちょっぴり風変わりな一軒の店がある。
淡い燐光を放つターコイズブルーの看板が目印のその店の名前は萬屋骨董品店。
白い髪の主と二匹の猫が棲むその店では、文字通り骨董品に関するよろず事を承っているらしい。
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カランカランと涼やかに鈴が鳴って、通りに面した扉が開く。
その音に重なるように、店の中から苛立ちを孕んだ声が聞こえてきた。
「こら!ルー!待ちなさいっ!」
驚いて立ち竦んだ少女の足許を、鮮やかなソレルの毛並みをしたフォーリンタイプの仔猫が駆け抜ける。
おそるおそる店内を覗き込めば、外套付きの黒いロングジャケットを纏った白髪の青年が表紙の破れた本を片手に腰に手を当てて立っていた。
少女は、思いがけない出迎えに困惑しつつ店の人間と思しき青年におずおずと声をかける。
「あの…」
「おや?失礼、お客様でしたか」
その声に我に返った青年は、こほんとひとつ咳払いをしてからにっこりと微笑んだ。
「いらっしゃいませ。店主のサカキです」
後ろに撫でつけた髪や整った顔立ちが与える冷たい印象を、ちょこんと鼻に乗せた丸眼鏡とおっとりとした言葉遣いが柔らかなものにする。
綺麗で優しげなその笑顔に当初の驚きも幾分和らいだのだろう、少女は僅かに頬を赤らめつつ用件を切り出した。
「こちらのお店では、魔法のかかった品の鑑定をしていただけると伺ったのですけれど…」
半ば問いかけるような躊躇いがちな言葉に、サカキの菫色の瞳がそれと解からない程度にすっと細められる。
「萬屋骨董品店」という名前の示す通り、この店では確かに骨董品の売買以外にも様々な依頼を受け付けている。
作者や作成年代、商品価値の鑑定に始まり顧客の捜し求めている宝の探索、破損した骨董品の修繕、魔法や呪いの類の解呪から果ては悪霊払いに至るまで、およそ骨董品に関する物事なら何でもござれの便利屋としてその筋では有名な存在なのだ。
今回もまた何やら厄介事の気配に、サカキは内心溜息を落とす。
それでも、営業用スマイルだけはしっかりキープしてにこやかに口を開いた。
「とりあえず、お話をお伺いしましょう」
どうぞ、と店の奥へと少女を促しながら、店の入口へとちらりと視線を投げかける。
ほんの少し開いたままの扉の隙間から、先程飛び出して行った筈の仔猫がじっと金色の眼差しで彼を見上げていた。
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