■プロローグ■
どうして、月を見るとこんなに懐かしい気持ちになるのだろう。
開け放った窓からビルの上に浮かぶ月を見上げて、リンクは今夜もいつもと同じ想いを抱く。
帰りたい。
帰りたい。
帰りたい。
それは、憧憬というより回帰願望に近い。
紺碧の闇に抱かれて涙に潤んだ瞳みたいに揺れる、碧い月。
この景色が本当の夜空ではない事くらいリンクにも解っている。
最も、それを言い出したら、こうして肌に感じる風も太陽も雲も作り物でしかない――何しろこの街は、逆さまにした金魚鉢みたいなドームによって完全に外界から遮断されていて、天候さえ人工的にコントロールされているのだから。
だから、この空だって、何処か街の外に設置されたカメラが送ってくる映像を投影しているに過ぎないのだけれど。
それでも、強く惹きつけられずにはいられない。
還りたい。
今にも溶けて零れ落ちそうな月に望みをかけるようにそう呟いて、リンクは寝室の窓を閉ざした。