「それはちょっと…」
 クロウの返事に、君はさっきとは別の意味で口許を引き攣らせた。
 こんなところで火を使って、火事にでもなったら大変だ。
 それに、蛇王を刺激しないように単独行動を取ってる筈なのに、此処で騒ぎを起こしたら本末転倒だろう?
 クロウは、ちょっと不満そうな顔をしたものの君の言い分そのものには納得したらしい。
 一旦は構えかけた杖を納めると、腕を組んで視線を茂みの方に投げかける。
 「で、どうするの?」
 言外に茂みへの対処法を尋ねられた君は、小さく肩を竦めてこう答えた。
 「仕方ない。頑張って此処を抜けるしかないよ」
 とは言え、けして楽な道程ではないのは目に見えている。
 できるだけ枝の少なそうな場所を選んで潜り込んでは見たものの、月明かりさえ届かない暗がりの中を手探りで進まざるを得ないものだから、うっかり棘を握ってしまったり手の甲を引っ掻いたりであっという間に生傷をこしらえる破目になる。
 そんな君を見かねたのだろう。
 はぁ、と大きく溜息をついたクロウが乱暴な足取りで君を追い抜いて先に立った。
 彼女が掲げる杖の先には、蛍火のような淡い光が留まっている。
 「明かりを灯すだけならいいでしょ?」
 そう言ってずいと杖を突き出すクロウはやっぱりどこか不機嫌そうだったけれど、それでも君の意見を尊重しようとしてくれているのは単純に嬉しかった。
 「うん、ありがとう」
 素直に礼を述べた君にふんと鼻を鳴らして、クロウはスタスタと茂みの中を歩き出す。



 そうしていい加減傷だらけになった頃、だんだん明るくなる茂みの向こうに小さな広場が見えてきた。
 

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