「よし、叩き壊しちゃえ!」
 剣を手にしたホークのカッコ良さにつられて、君はわくわくしながら彼を焚きつけた。
 ホークは、横薙ぎに木の幹を薙ぎ払うつもりらしく、肩の高さに剣を構えた腕をぐっと身体に引きつける。
 彼が剣を振るおうとしたまさにその時、頭上から悲鳴混じりの制止の声が投げかけられた。
 「わぁーっ!ストップ!」
 顔を上げると、幹の上の方に開いた洞から小柄な影が飛び出して来る。
 小人族、とでも言うのだろうか?
 ふわふわの毛皮を打ったベルトの端を尻尾のように揺らしながらちょろちょろと器用に幹を伝って降りて来たのは、君の膝小僧くらいまでの背丈の小さな男の子だった。
 彼は何故だかホークに怯えてるみたいで、妙におどおどした様子で君に縋りつくと黒目がちの大きな瞳で上目遣いに懸命に訴えかけてくる。
 「お願いです、この木を倒すのは止めてください!此処には私達の家があって、幼い子供達と妻が眠ってるんです」
 …訂正。妻子持ちってコトは、男の子ってのは間違いらしい。
 うーん、侮れない、などと全く関係のない事を考えながら、君は困惑気味にホークを振り返った。
 「君の言い分は解ったけど、此処を超えない事には蛇王とやらを倒しに行けないからなぁ。どうする、ホーク?」
 だが、ホークが何か答えるより早く、小人の方が甲高い声を上げて飛び上がる。
 「あぁ!そういう事なら!」
 「ちょっと待っててください!」とだけ言い置いて、彼は降りて来た時と同じようにちょろちょろと素早く幹を登ると、洞の中に姿を消してしまった。
 君は、ホークと2人顔を見合わせた後、首を後ろ90度の角度に倒して頭上を仰ぎ見つつ相手の出方を待ってみる。
 すると、しばらくして蔦が絡んで出来た縄梯子もどきが枝の上からするすると降りて来た。
 これが人の手を介さずに自然に編まれたのだとしたら奇跡的な技だと感心する君に向かって、さっきの小人がひらひらと手招きする。
 「これを伝って木を登ってください。天辺近くまで行けば進むべき道が見えて来る筈ですから」
 一見アスレチックに良くある木製の遊具とたいして変わらないからたぶん登ろうと思って登れない事はないだろうけど、問題は何の変哲もない蔦にしか見えないその縄梯子もどきが2人分の体重に耐えられるかどうかだ。
 ちょっぴりその強度に不安を抱く君を余所に、ホークは躊躇いもなく縄梯子もどきに手をかけた。
 おまけに、君の戸惑いをどう勘違いしたのか、剣を握ってない方の腕で君を抱えて行こうとする素振りまで見せる。
 さすがにそれは遠慮したかったので、君は意を決して木に登る事にした。
 時々ホークに助けられつつ天辺を目指す途中、洞のところで小人が君を呼び止める。
 「勇者様」
 「ゆ、勇者様?」
 意外な呼びかけに、君は素っ頓狂な声を上げてしまった。
 照れも手伝ってどぎまぎする君に、小人の彼は大真面目に尊敬の眼差しを向けてくる。
 「どうか、これをお持ちください。私には使い方も解りませんが、もしかしたら何かの役に立つかもしれませんから」
 そう言って彼が差し出したのは、「u(2)」と書かれた謎の欠片だった。
 何が何だかさっぱり解らないけれど、好意の印と言う事でありがたく貰っておくことにする。
 「ありがとう!」
 笑顔でお礼を言って、君はホークと2人、樹上の人となった。



 そうして綱を登り続ける事半刻余り、ようやく開けた視界に小さな広場が見えた。
 

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