一瞬耳を疑った君は、次の瞬間こう怒鳴りつけていた。
 「この際何でも良いからやってみろ!」
 ――こうなったら、もう何とでもなれだ!
 破れかぶれな気分で言い放った君の言葉を、だが、ロビンは誠実に受け止めたようだった。
 野犬の群れに怯えて後退りかけていた足を止め、茶色いスモックの胸元をきゅっと握ったロビンは、すうっと息を吸い込むと徐に歌い始める。
 柔らかく澄んだボーイソプラノが歌うのは、有名な子守唄だった。
 天使の歌声…そんな恥ずかしい言葉を思い浮かべてしまうほど綺麗な歌声に、君はしばし聞き惚れる。
 ややあって、場違いな感慨に耽っている場合じゃないと我に返った君は、慌てて周囲を見回して放心してしまった。
 薄汚れた牙を剥き出しにして今にも飛び掛らんばかりの勢いだった野犬達が、なんとぐっすり眠りこけてるではないか!
 ――もしかして、歌唄いって凄くお役立ちかも?
 ひそかに尊敬の眼差しを向ける君に、ロビンはちょこんと首を傾げてみせる。
 「僕、お役に立てましたか?」
 「立った、立った。凄いよ!」
 君が素直に賞賛の言葉を口にすると、ロビンははにかむような笑顔で「良かった」と呟いた。
 ――あぁ、もう可愛いなぁ。
 帽子を被ってなければくしゃくしゃと髪を撫でてあげたいくらいだ。
 「今のうちに先に進もう」
 ロビンの背を押して先を促した君は、ふと倒れている野犬の足元できらりと光るものを見つけてその場にしゃがみ込む。
 「ん?」
 手に取ってみると、それは「g(1)」と書かれた使途不明の謎の欠片だった。
 「ふうん」
 何だか解らないけど一応拾っておこうと、君はその欠片をパーカーのポケットにしまい込む。
 それから、手にしていたライトセーバーのスイッチを入れ、剣身の放つ光を懐中電灯代わりに掲げて再び歩き出した。



 そうして、新手の襲撃者に備えつつ進んでいた君達は、いつの間にかちょっとした広場に辿り着いていた。
 

先へ進む。