運命の流れが一巡りした時〜ハルディア〜
横 顔-9-

 城の最上階へ出ると、湿気を孕んだ、生暖かい風が吹いた。
 暗雲立ち込める空は、我々の行く末を暗示しているのだろうか。
 遥か彼方で、稲妻が空を引き裂いた。
「ハルディア」
 兵士達の配置を確認し、指示を出していたアラゴルンは、私の気配を察知して振り返った。
 私は歩を進め、彼の横に立つ。
「いよいよだな」
「あぁ、いよいよだ」
 砦内を見渡すと、ひしめき合う人間と、整然と配置に着くエルフの軍隊が一望出来た。
 前方に、ウルク=ハイの大軍の持つ松明の明かりが、チロチロ見え始めて来た。
「アラゴルン。君に確認しておきたい事がある」
 私はアラゴルンに向き直ると、彼は不思議そうな顔をした。
「レゴラスのあの様な顔を初めて見た。彼に、あそこまで影響を与えられるのは、君しかいない」
「私は何もしていない」
「……率直に言おう。レゴラスは君を愛している」
 アラゴルンは目を伏せ、軽く数回頷いた。
「――君の方はどうなのだ? レゴラスの事をどう思っている?」
 私の問いに、アラゴルンは何と答えたものか、困った顔をした。
 しばし、落ち着かな気にしていたが、私を見つめ口を開いた。
「私も…愛している。多分、初めて逢った時から…」
 確信はしていたが、やはり心に突き刺さった。だがこれで…、きっぱりとレゴラスを諦める事が出来る。
「その言葉に、偽りは無いな?」
「あぁ」
 今度ははっきりと、そう言った。
「レゴラスには、言ったのか?」
「…いや」
 アラゴルンは軽く肩を竦めた。
「そう…か。……そろそろ行こう」
 私が先に階段を降り、アラゴルンは後から付いて来た。

 夥しい数の敵が襲って来ていた。
 もう何人斬ったか判らない位に。
 “難攻不落の砦”は、サルマンの術による爆弾で破壊されてしまった。
《ハルディア!!》
 城壁下からアラゴルンの叫ぶ声がした。
 振り返ると、大きく手で退却の合図を送って来た。
《ハルディア! 退却だ!》
 私は頷き、部下にも指示を送る。
《退却! 退却!!》
 目の前に現れたウルク=ハイを斬る。
 それが倒れ、次の敵が現れた瞬間。身体に激痛が走った。
 …何だ? 何が…起ったのだ?
 何か判らぬまま、それを斬った。
《ハルディアー!》
 アラゴルンが私の名を叫んでいた。
「…っ!」
 背後から鈍い音がし、斬られたのだ、と認識した。
 私は死ぬのか…?
 辺りには敵に混じり、血を流し既に息絶えた同胞が、大勢倒れている。
 永遠の命を持つエルフが…。
《ハルディア!》
 意識が遠のく中、身体を抱き抱えられた。
 それはアラゴルンだった。
「死ぬな! ハルディア!」
《アラゴルン…、私はもう駄目だ。彼を…レゴラスを、泣かせる様な…事…だけはする…な…》
「…あぁ、判った。約束する」
 二人の種族が違う限り、そんな事は無理なのに…。それは、アラゴルンもレゴラスも判っている。
 アラゴルンに笑ったつもりだが、上手く笑えなかった。
 レゴラス…。最後にあなたの心からの笑顔が見れて良かった…。



 ナマリエ…、レゴラス……


はい、終わりました。
『二つの塔』でのハルデイアのセリフ、うろ覚えです。←確認しろ。
映画内でエルフ軍の到着から、開戦まで時間にもうちょい余裕があったら、レゴとハルディアにも会話させたかったんですけどね。
でもそうすると、本編の『運命〜』のネタバレも含まれちゃうし。
その辺の加減がムズカシイですな。
『二つの塔』SEEでのハルディアの出番が、増えていなくて寂しかったです。

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