「天の羊」-1-

ふわりと温かい手が頬に触れた。
「……ン」
誰かに優し気に名を呼ばれた気がする。
ー俺は死んだのか?それともー

白い、一面の白い壁が瞳に飛び込んで来た。
「…………」
病院?、にしては回りに一切の音が無く、静まり返った空間が広がって居る。
「…?」
枕代わりのクッションに覚えの有る髪の匂いが染み付いて居る。
「瞳、覚まさはりましたぁ」
思わず笑みが漏れる位、可愛らしい声が隣の部屋に向かって発せられた。
「ご気分どうですかぁ?」
ー此奴は確か、リーブが作った試作品(プロトタイプ)のケット・シー…。感情が入ってしまったから一号機には使えないとか、何とか…。何故此処に?ー
ケットがぴょいとリーブに飛び付くと、ツォンは漸くケットが此処に居る訳を知った。
「気分は?」
「…悪い。最悪だ」


「リーブさん、包帯買って来ましたよ。あれ?瞳覚めてるんですか、ツォンさんの…」
「ああ、有り難う。ツォン、起きれる?」
「此処は…?」
リーブはがさがさと袋から包帯を取り出し、包帯を替える準備をする。
「レノのマンション」
レノと二人掛かりでツォンを起こし、熱いお湯で絞ったタオルで汗を拭き取って行く。慣れた手付きでテキパキと包帯を替え、パジャマを着せたリーブは、ゆっくりとツォンを寝かせた。
「説明は後でちゃんとしてやるから、今は寝ろ。熱も大分高いし…」
「………」
「駄目だ」
ツォンとリーブのやり取りに首を傾げたケットが、こそっとレノに近付く。
「僕、分からへんのですけど…」
「ツォンさんが、説明が先だ。古代種の神殿は?リーブさんが、駄目だ」
「何で分かるんですかぁ?」
「さぁな。伊達に部長や部下やって無いからじゃ無いか?」
「???」
首を傾げるケットを抱き上げ、レノは微かに笑った。
「いい加減にしろ!」
「まだ、やってたんですか?そんなもんこうすりゃ良いんですよ」
右手でケットを抱いた儘、レノは左掌をツォンに向けた。
「俺、『ふうじる』のマテリア、付けっ放しなんですよね」
辺りが薄ぼんやりと光ったかと思うと、ツォンは暖かな光に包まれ、その意識を手放した。

「ツォン?ふ…ん、タークスの主任か。私はルーファウス神羅だ。宜しく頼む」
ー大人ぶってる子供ー
第一印象はそれだった。黄金の髪を掻き揚げ、自分の事を私と言う。典型的な『背伸び』だとツォンは思った。
一流と言われる大学を出て、超一流と言われる企業に入った。
其処で何故餓鬼のお守りだと、ツォンはこの部屋に来る途中の廊下で考えて居た。
しかし出会った瞬間、自分の中で何かが頭を擡げた。
ーこの感覚はなんだろう…?ー
疑問を抱きながら、ツォンはひとまず退室した。
それから何年後の事だったろうか。
出会って此方、ずっと胸に隠して有った思いを抱いた儘、アイシクルロッジへの出張の供をする事となった。
普段はリーブがして居るのに仕事が立て込んで居て、とてもお供など出来る状況では無いらしい。
「リーブ、…っと、ツォンか。つい、癖で…」
「はい」
「アイシクルロッジの進出計画を何か聞いてるか?」
「いえ、私は何も存じません」
「そうか。…しかし寒いな」
ミッドガルの様な温暖な気候に育てられたこの方は、寒さに可也弱いらしい。
「申し訳ありません、気付きませんで…」
すっと自分のコートを脱ぎ、ふわりとルーファウスに羽織らせたツォンは、それを返そうとするルーファウスの手を止めた。
「私は寒さに強い方です。彼方のお体の方が大切です」
にこっとツォンに笑い掛けられたルーファウスは、赤くなりつつある顔を見られたくないが為に、くるりと背を向けた。それと同時に、有り難うと言えない自分に少し腹が立った。
「…日が暮れそうですね。宿に向かいましょうか」
「ツォン!」
叫んだものの何を言って良いか分からなくなって居るルーファウスに、ツォンはそっと手を差し延べる。
「御足元、お気を付け下さい」
言った側からツォンの胸に突っ伏せる様に足を滑らせたルーファウスを、ツォンが慌てて抱き留めた。


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