タン タタタタタン
リズミカルな音が、シンプルな家具で統一された部屋に響く。
物自体が余り置かれていないためかひどく殺風景に見えている。
ツォンは持ち帰った仕事を処理するため、自宅でキーボードを叩いていた。
疲れてきたものか、首を回し肩を揉む。
そして、傍らに置いてある少し冷めてしまったコーヒーに手を伸ばそうとしたとき、来客を告げるベルが鳴った。
セキュリティのモニタを覗くと、そこには辺りを気にしつつ立つ黄金色の髪の青年が見える。
薄く笑うと、ツォンは誰何せずにドアを開けた。
「どうなさったんですか?こんな所までおいでになるとは。」
淀みなく出てくるセリフにはその言葉とは裏腹に、やって来た理由を確信しているような響きがあった。
それを受けるルーファウスの臆したような蒼い瞳は、真っ直ぐに見つめることをしない。
いつもの彼ならば、考えられないようなことだ。
そもそも、ツォンの自宅まで来るようなことが今まで無かったことだが。
おもむろに、後ろ手に持っていた濃い色の布を差し出す。
「これ。掛けていってくれたんだろう?返しに来た。」
それはツォンの制服の上着。
帰りがけに副社長室に寄ったとき、ルーファウスが書類の上に俯せて眠っていた為に背に掛けてきたものだ。
部下の部屋を訪ねてきたということを見られたくないのか、それとも別に理由があるのか、差し出しながらも辺りの気配を伺っている。
ごく普通の白いシャツとベージュのパンツを身につけただけの姿だが、見る者が見ればその正体は知れるであろう。
「とりあえず、中にお入り下さい。そんなに人目が気になるのならば。」
ハッとしたルーファウスは見透かされた思いで薄く頬を染めながら、ドアの内に入る。
バタン
ドアは閉じられた。
「どうぞ。」
ツォンはルーファウスのために紅茶を出す。
人を迎えるための家具など用意されていないその部屋では、先程まで携帯用端末を叩いていた場所が片付けられ、ルーファウスは座らされていた。
「邪魔をしたな。」
ポツリと呟く。
「いいえ。」
カップを手に取り、ツォンの様子伺いながら口を付ける。
そのまま、沈黙が続いていった。
ルーファウスは、当たり障りのない会話さえ出てこないほど緊張している自分に気付く。
こんな風に、何故部下の前で緊張して待っていなければならないのかが分からなかった。
(・・・・待って・・いる?)
自分の思考に驚いたように顔を上げると、ルーファウスはカップを置き立ち上がった。
「じゃあ、返したぞ。帰る。」
きびすを返して立ち去ろうとする腕が掴まれる。
「ツォン!?」
ルーファウスが咎めるようなきつい眼差しで振り返った。
「それだけじゃないでしょう?用事は。」
「何をっ。」
手を振り払おうとするがビクともしない。それどころか、さらに強い力が込められる。
「まだ、大事な用が済んでいませんよ。」
ツォンは自分の元にルーファウスの身体を引き寄せると、きつく抱きしめた。
「ツォン!!」
激しく抗うが、腕に込められた力は弛まることはない。
「欲しいのでしょう?確かな快楽が。」
耳元でそう言うと、そのまま耳朶を噛む。
ビクリと何かに貫かれたように震えたルーファウスは、首を反らして必死に避けようとする。
それを追うようにツォンは首筋を舐めた。
「ひゃっ」
思わず声をあげ、身体を竦ませたルーファウスを抱き上げ、そして、机の上に放り出した。
「痛っ・・・何をする気だっ!」
起き上がりながら、キッと睨み付ける。
強い瞳で睨むことがさらにツォンの征服欲を刺激することも知らずに。
「あなたはそのつもりのはずですよ、ルーファウス様。」
起き上がった身体を再び机に押しつけると、ツォンは口元に冷たい笑みを浮かべる。
「そうでなければ、どうしてやって来たんです?上着など、明日でもいいはずだ。」
右手の指が頬を撫で、唇をなぞる。
ゆるゆると首をもたげる乱暴な衝動を少しだけ抑えていると、見る見る間にそれはツォンの身体中を支配していった。