necessity
-3-


 やがて、ダルメシアンは飼い主の女性に連れられて、行ってしまった。
 明るく、幸せそうな彼女は、獲物とはならない。足元だけとはいえ、泥だらけの愛犬に向かって、呆れた様に文句を言っている。
 グリフィンは泥塗れの子犬を、服が汚れない様、抱え上げた。
 そのままベンチへ戻り、その上に置いた残りのコーヒーを飲み干し、食べ終えたハンバーガーの袋と共にゴミ箱へ入れた。
 子犬をこのままにはしておけないので、水道を探す。
 程無くして見つけた、水飲み場の水道で、子犬を洗う。子犬は暴れる事もなく、却って気持ち良さそうだ。
「よし、いい子だ。終わったぞ」
 子犬は身体を大きく震わせて、水滴を飛ばし、歩き始めた主人の後を付いて行く。
 ゆっくりと歩くグリフィンの前から、二人の男が歩いて来ていた。
 スーツにコートを羽織った姿は、明らかに警察関係者だ。
「こう手掛かりが無いと、どこから手を付けて行って良いのか、サッパリ判らんな、ジョエル。――お、子犬だ。可愛いなぁ」
 グリフィンは、そのままの調子で歩き続ける。
 二人の捜査官は、彼の連れている子犬に目を向けている。
「お前、犬好きだったのか?」
 ジョエルと呼ばれた男が、聞き返す。
 そしてすれ違った瞬間。
――彼だ!!
 『ジョエル』と呼ばれた男。
 昨夜、雑居ビルの闇の中から見た、そして唯一ビルを覗き込んだ男に間違いない!
 グリフィンは横目で『彼』を盗み見る。
「酷いなぁ、お前と組んで何年になる? だけどさ――」
 二人の会話は次第に聴き取れなくなって行った。
「『ジョエル』か…」
 グリフィンは、まだ毛が生乾きの犬を拾い上げて、両手で抱え、そう呟いた。
 さも愛おし気に、子犬の身体を撫でながら…


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