運命の流れが一巡りした時
〜グロールフィンデル〜
恋 人-26-

 百年…否、もっとかもしれない。本当に久し振りに逢ったレゴラスは、以前とは随分と印象が違っていた。
 髪は腰まで伸びており、背も高くなっていた。
 少し目を細め、口角を上げて笑う笑い方は変わっていなかったが、何処か大人びて、精悍さが備わった感じがした。
 抱き締めた身体の感触も、以前の様な何処か女性的な線の細さではなく、戦士の身体付きになっていた。
 幾多の闘いが、彼をそうしたのだろう。
 私の上で、快楽に身を委ねて腰を揺らし、身体を抑け反らせて髪を踊らせ、官能的な声を上げる姿は、私に甘い戦慄を覚えさせた。
 今、私の腕の中で夢の小道を彷徨うエルフは、すっかり大人になっていた。
 顔に掛かる髪を、そっと退ける。
「……ん」
 僅かに身じろいで、我が愛しの君は目覚めた。
「起こしてしまいましたね」
 レゴラスは眠たそうに目を瞬かせ、白い指先を、私の髪に絡ませた。
 そして、私の方へ身体を向けると、そのまま擦り寄って来た。
「…ん、も…少し、このまま…」
 折角現れた蒼い瞳は、瞼で隠されてしまった。
「私は構いせんよ」
 レゴラスの滑らかな肩を、指で撫でる。
「でも、今日からエステルに弓を教えるのでしょう?」
 この言葉に、レゴラスはゆっくりと瞼を開き、私の方を不満そうに見上げて来た。
 そして肩を竦めると、気怠そうに起き上がった。
 シーツが滑り落ち、均整の取れた裸体が晒され、早朝の爽やかな陽の光に反射して、光輝いて見える。
 鎖骨から胸に掛けて、私が昨夜付けた跡が、その存在を主張していた。
「お早うございます」
 夢から覚め遣らぬレゴラスの身体を引き寄せ、唇を重ねる。
「ぅ…んっ」
 彼の身体を抱き締めると、私の首に腕が回される。
 最初は軽く啄む様なキスを繰り返し、そしてどちらからともなく舌を絡ませ合う。
 あぁ、あなたの可愛らしい舌は、蜜の味がする。空気を求め、時折洩らす吐息は、林檎の香り…。
 お互いの唾液が混ざり合い、私の口内は、その愛の雫で満たされる。
「目覚めましたか?」
「…えぇ」
 返事とは裏腹に、その声音は不服そうで、レゴラスは尚も気怠そうに、髪を掻き上げた。
 しばらく逢わぬうちに、随分と寝起きが悪くなったものだ。
「ほら、そろそろお部屋に戻らないと」
 私は寝台から降りると、床に落ちているレゴラスのシルクで織られた夜着を拾い上げ、持ち主の肩に掛ける。
 レゴラスは渋々といった様子で、袖に腕を通した。
 乱れた髪を手梳きで整えてやる。
「さあ、私も行きますから」
 促す為に両肩に手を掛けると、振り返ったレゴラスの唇に軽くキスをする。
 それで、ようやく彼は寝台から降りた。
 レゴラスは、半分私に寄り掛かる様に歩く。未だ夢路を歩いている様だ。
「名残惜しいですが、また後で。ね?」
 部屋の前で、最後にもう一度額に口付けて、この朝は別れた。


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