運命の流れが一巡りした時
〜グロールフィンデル〜
恋 人-17-

 そう言って、二人同時に同じ様に、父親の末娘への溺愛振りに少し呆れた様に笑った。
「まあまあ、エルロンドも久し振りにウンドミエルに逢ったのですから、大目に見てあげましょう」
「でもね、グロールフィンデル様!――」
 エルロヒアが更に言葉を続けていたが、私はふと視線を動かした先に、釘付けになってしまった。
「あ! レゴラス!」
 私同様に、彼に気付き声を上げたのはエルラダンだった。
 レゴラスが現れた途端、回りのエルフ達がざわめいた。
 父王の後ろを、冷ややかな表情で付いて歩くあなた。
 私との間を隔てる客人達の陰に見え隠れするレゴラスを目で追いながら、私は心密かに優越感に浸る。
 彼が身に付けている衣装は、私が贈ったものであり、彼と私は肉体関係を結んでいるのである。
 今すぐ彼に触れたい衝動を耐え、ぐっと拳を握った。
 するとレゴラスがこちらを見た様な気がした。
 そして――笑った…? いつもの不敵な笑みで。
 それを確認する事は適わず、スランドゥイル殿と共にフレトへ上って行った。
「さて、我々も参りましょうか」
 私は双子の背に手をやり、先を促した。
 続けられる歌の中、招待客が続々と席に着いて行く。その様子を、私は一段高い席で眺めていた。(この席は、上のエルフの席なのだそうな)
 その客人の多くが、見慣れぬ闇の森の若いエルフの方を見ながら、ヒソヒソと耳元で話し合っている。その様子に少なからず、不快感を覚えずにはいられなかった。
「おやおや、眉間に皺が寄ってますぞ、金華公。長い間エルロンドの側にいる所為ですかな?」
 そっと私に囁いて来たのは、ロスロリアンの領主・ケレボルン殿。
「いやいや、そんな事を言ったら、私は裂け谷におられませんよ」
 何と答えたものか、銀樹公に苦笑いを返す事しか出来なかった。
 客人達が全て席に着き歌が終わると、主催者のガラドリエルが席を立ち、挨拶を始めた。
《我が同胞達よ。遠路はるばる、よう参られた。我らが中つ国へ戻って久しく、またこの混沌とした世に、今宵も宴を開く事が出来て、嬉しく思う。わらわと――》
 銀樹公の隣りで挨拶を続けるガラドリエルから目を離し、長いテーブルが幾列にも整然と並べられた会場をぐるりと見渡す。私が見知った顔もあれば、初めて見る顔もあった。
 懐かしい面々を余所に、私の視線は会場の一角、シルヴァン・エルフ達のテーブルのある一点に注がれる。
 私の心を捕らえて離さない美しい緑葉。
 あの日と比べると、更に大人っぽくなっただろうか。表情を現わさないのは、相変わらずだけれど…。
 私の視線に気付いたのか、レゴラスと目が合った。
 私が僅かに微笑むと、レゴラスは口端を上げて笑った。
 そうしているうちに、給仕がグラスにワインを注いで回って来た。全ての客のグラスにワインを注ぎ終わると、ガラドリエルが《我らの繁栄を願って!》と、グラスを掲げた。
 あちらこちらで、隣りの者とグラスを合わせる音が響き、私も両隣りとグラスを合わせ、最後にレゴラスに向けて、グラスを掲げた。レゴラスもそれに応え、私に微笑みグラスを掲げてくれた。
 宴が始まり、皆が昔話や近況話に花を咲かせ、席を立ち挨拶回りを始めた。
 私も銀樹公やガラドリエルと、裂け谷での生活を話したり、旧知のエルフが席へ訪ねて来て挨拶を交わしたり、上のエルフとしての務めを果たしていた。
 私としては、早くレゴラスの元へ行き、私からの贈り物を纏った姿を間近で見たかったのだが…。そしてその白い手の甲に恭しくキスをし、その身体を腕に抱き、額に瞼に、そして唇に口付けを――。
 レゴラスは如何様にしているのかと、彼の方へ視線を伸ばす。
 席を立ち、ごった返している客達の隙間を縫って、レゴラスの姿を探る。さぞかし宴を楽しんでいるのかと思っていたが、その様子は全く無かった。談笑する父王の横で、憮然とグラスを口に運んでいる。
 宴会好きで知られる父王に似つかず、こういう場は嫌いなのか。何とも彼らしかった。
《――失礼》
 私は堪らず席を立った。
《金華公?》
 怪訝そうな顔で、私を呼び止めるケレボルン殿の側近を無視して、レゴラスの元へと向かった。
 そっと彼に近付く。
《こういう場は、あまりお気に召しませんか? 美しい方》
 そう声を掛けると、レゴラスは驚いて、私へと顔を向けた。こんな表情の彼は、初めて見た。
「お久し振りです、レゴラス」


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