CBR900RRを手放し、ビッグバイカーの道から退いた私。ある程度覚悟していたとは言えその空しさは
日に日に増して行くばかり。
「あぁ、寂しいなぁ。でも、自分が選んだ道だ。後悔はしないと決めたはずだ」
そう自分自身に言い聞かせ、トメさんから貰ったジールでバイクライフを満喫していた。
こんな私の決心は、行きつけのバイクショップで行ったツーリングで見事にうち砕かれた。
この日の目的地は「しまなみ海道」。ご存じの通り、しまなみ海道はその殆どが有料道路である。
私とジールはこの道を快適に流すつもりでいた。
しかし、折しもビックバイクブーム。総勢25台弱の参加だったがそのメンツはZZR1100や9Rなど、
「高速御用達」マシンばかりで、400cc以下はわずか2、3台。
平均速度は120km/h以上で、ジールを始め250cc勢ははっきり言って「無茶言うなよ」状態。
どう頑張っても140km/h出せないジール君は、敢え無く戦線から離脱。
私とジールは苦汁をなめた。
「やはりビックバイクが欲しい!」
そう思った私は、やめていたバイク雑誌購入を再び始めた。
そんな11月のある日、雑誌の一つのスクープ記事が私の目に飛び込んだ。
2000年モデル・CBR900RRが、乾燥重量170kgに152psのスペックでデビューする!
近年のスーパーバイクブームを築き上げてきたCBR900RR、通称「ファイアーブレード」。
だが130psのパワーで185kgのスペックは、ライバル達の出現によって見劣りする存在になった。
2年ごとのマイナーチェンジでツアラー的なデザインのメーター周りや大きくなっていくボディ周り。
何か他のバイクになっていく、そんなイメージを持っていた。
しかし、そのスクープ記事に載っていたCBRは、これまでのCBRとは明らかに違っていた。
約15kgもの贅肉を絞り落とし、インジェクション化により一気にパワーアップされたエンジン。
その精悍なスタイルは、俺が変えるぜ!と自己主張していた。
私は、北米仕様のイエローをオーダーした。
2000年を迎えて2ヶ月が過ぎたあたりで、雑誌各誌にもCBRのロードテストが記載されるようになる。
記事の内容の殆どは「CBR vs R1 vs 9R」。あと2ヶ月あまりでオーナーとなる私も、それらの
雑誌全てを見て研究する日々が続いていた。
が、ここで私自身思いも寄らなかった心の変化が生じ始める。
各記事を読むと、「絶対的な速さはCBR。でも、操る楽しさはR1や9Rに分がある」と書かれている。
「確かに速いマシンが欲しい。だけど、バイクの醍醐味とは『操る楽しさ』ではないのか…?」
私は、操る楽しみを追求されているマシン「YZF−R1」に興味を持ち始めた。
スペックだけで比較するとCBRに分がある。だが、「ツイステイロード・ナンバー1」を目指して作り込まれた
R1は、そんなスペックの差などは気にならなくなるくらい魅力的に見え始めたのだ。
自分の気持ちの整理がつかない日々が続く。そんなある日、行きつけのバイクショップに何気なく行った私は
中古車として展示されていた赤白R1と対面。
店長に頼んで試乗させてもらうと、それまでの気持ちの迷いはなくなった。
「やはり、R1しかない」
CBRのオーダーをキャンセルしR1購入の手続きをしたのは、それから一週間後のことであった。
R1のお部屋に戻る