GPマシン並みのパフォーマンスを引っさげて、1992年にデビューした「ファイアーブレード」。
8年の刻を越え、「元祖スーパースポーツ」の地位を再認識させるべく、5代目として生まれ変わった。
929ccの排気量に、152ps・170kgという驚愕のスペック。
モーターサイクルファンは、再び狂喜した。

注:このバイクの所有者は私の知人です。予めご了承ください。

■生い立ち
 今日のビックバイクブームのけん引役ともいえる、いわゆるスーパースポーツのカテゴリー。その火付け役と言えば
1992年にデビューした、CBR900RR−通称「ファイアーブレード」です。
 当時はレプリカブームが沈静化していましたが、ホンダは「軽量・ハイパワーでスポーツランを楽しむマシン」を開発。
排気量は750ccを目標としていましたが、スーパーバイクレーサー「RVF」とキャラクターがダブるという点から
直4エンジンでパワーと軽量化を両立できる理想的な排気量−900ccに設定されました。
こうして誕生した「CBR900RR」は、最高出力124ps、乾燥重量185kg、パワーウェイトレシオ1.49kg/ps
という驚愕のスペックで登場。日本は勿論世界中で衝撃を与えました。
  当時大型車に全く興味がなかった私でしたが、このマシンを見たときは「欲しい!」と思いました。その夢がかなった
のは、デビューから5年経った1997年のことでしたが…。


 
私が所有していた、2代目CBR900RR。初期型に対し細かな点で軽量化を促進させ、乾燥重量は2kg減の183kg。
エクステリアにも若干手が加えられ、シリーズ初のマルチリフレクターヘッドランプが採用されています。
アッパーカウルやアンダーカウルに見られる小さな「穴」は、全て軽量化のためのもの。
このマシンは1994年式ですが、当時は乾燥重量にここまでこだわったマシンは存在しませんでした。

■最大のライバル登場
 デビュー当時は独壇場だったスーパースポーツ市場でしたが、当然他社もこれに対応すべく同カテゴリーのマシン
を世に送り出してきます。しかしそれらは全てCBRの前には歯が立たず、揺ぎ無い地位を築き上げます。
 1996年にデビューした3代目は、スペックは若干高められましたがそのスタイルはツアラー的なものに進み始め、
4代目では車体サイズが大きくなり、それまで見せていたスマートさが薄らいできました。このときにデビューしたのが
言わずと知れたヤマハ「YZF−R1」。R1はCBRの培ってきた土俵を更に突き進め、「公道最速スペック」を目標に
開発されたマシンです。当時のCBRのスペック、130ps/182kgを凌駕する「150ps/177kg」を達成。
CBRの「炎」はろうそくの火のように消えかかってしまいました…。
■全てが新設計、真打5代目登場
 衝撃的な「YZF−R1」の登場で、ファイアーブレードは新たに生まれ変わる必要性が出てきました。ホンダはR1を
徹底解剖し、元祖「ライトウェイト・スーパースポーツ」のプライドをかけて、1999年9月、ミラノショーで5代目となる
ファイアーブレードをデビューさせました。
 公表されたスペックは、152ps/170kg。排気量は先代より11ccアップとなる929ccですが、ライバルR1より
小さい排気量で更なる高出力を実現しました。エンジンは遂にインジェクションが採用され、車体周りも一新。贅肉を
剃り落として躍動感あふれるボディワークは、先代の「重ったるい」イメージを拭払。第二世代ファイアーブレードの
誕生です。
 

基本スペック

全長×全幅×全高
シート高
軸間距離
乾燥重量
原動機種類
気筒数配列
総排気量
内径×行程
最高出力
最大トルク
始動方式
燃料タンク容量
燃料供給方式
タイヤサイズ(前/後)
2,065mm×680mm×1,135mm
815mm
1,400mm
170kg
水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ
並列4気筒
929cm3
77.0×53.6mm
152PS /11,000rpm
10.5kgf・m/9,000rpm
セル式
18L
PGM-FI
120/70ZR-17/190/50ZR-17

 

ディテール チェック

 エッジが効いたシャープなデザインとなった5代目。
 車体周りはコンパクトになり、「CBR250RR」と
 言っても通じてしまうほど。
 軽量化=質感低下となりがちだが、各部の仕上げ
 は上々で所有欲を満たす。
 撮影車両は欧州仕様で、北米仕様はグラフィック
 が「ウィングマーク」となる。

 サイドビュー。
 このアングルから見るとコンパクトでシャープな
 車体が見て取れる。シートは厚みがあるが少々
 硬めで、燃料タンク容量は18リットル。
 シートレールは別体式で、万が一の転倒時に
 フレームへのダメージが防げる。
 (98〜01年式R1は一体式で、シートレールが
 曲がると修正は困難!)
 フレームは新設計で、ホンダお得意のピボット
 レス。マフラーはチタン製で軽量。

 特徴的な大型ヘッドランプは3灯式。ロービーム
 は真ん中のみ点灯し、ハイビームで左右も点灯。
 マルチリフレクター式で明るいが、H7という特殊
 なバルブなので、ツーリング先でバルブ切れ時は
 入手が困難な場合があるかも。
 左右上端にポジションランプを装備。

 テールランプも先代のイメージを残しつつスマート
 なデザイン。流行のLEDではないが、2灯のバル
 ブが点灯して視認性は抜群。
 テールランプ直下にはタンデムシートをオープン
 するためのキーシリンダーを装備。ウィンカーは
 先代からの流用で、やや大型。国内のレーサー
 レプリカに採用されていたウィンカーが採用されれ
 ば良かったのに…と思うのは私だけ?

 フロントフォークはRVFに続く倒立式を採用。
 先代まではカートリッジ式正立フォークで話題を
 集めたが、剛性アップを狙ってこの形になった。
 ちなみに正立フォークは構造が単純なため軽量
 化が狙えるというメリットがあるが、この辺りは
 性能(剛性)確保を狙った。
 タイヤは伝統の16インチを捨て、ライバル同様
 17インチ化。切れ込むようなハンドリングは影を
 潜め、ナチュラルな操舵に。

 エンジンをスイングアームと連結させて剛性確保
 としなやかさを両立させる、ピボットレスフレーム。
 R1のように主要3軸をオーバーラップさせるので
 はなく、同フレームを採用する事によってスイング
 アーム長を確保。勿論エンジン本体もチタン素材
 をふんだんに使って軽量化を促進。カムシャフトは
 鍛造。

 マフラーは軽量かつ耐久性の高いチタン製。
 若干内側に絞り込まれて空気抵抗の低減を
 考慮している点が、仕上げのこだわりを感じる。
 リアタイヤは190/ZR17サイズ。先代より
 ワイドになり、旋回性と走安性を高次元で両立。
 エキパイもチタン製で、これまた軽い。
 ホンダ初の排気デバイス「H−TEV」を採用し、
 低回転時の使いやすさと高回転時のパワーを
 同時に確保。原理はヤマハのお家芸「EXUP」
 と同じだが、こちらはチタン製というこだわり。

 ライダーからのコクピット視点。
 メーターは先代よりスポーティになり、小型化。
 アナログ式タコメータを右側に配し、デジタル
 表示の液晶部分には、スピード・オド・トリップ・
 時計が切り替え無しで同時に表示される。
 タコメータ下の液晶は水温計。
 ホンダ独自のエンジンイモビライザー「HISS」
 を装備し、オリジナルのキー以外ではエンジン
 始動が不可能。

 メーター照明は視認性の高いLEDを採用。
 明るいオレンジ照明はスポーティで見やすい。
 メーター本体は電気式で、カプラー一つで結線
 されている。
 軽量化を促進させつつ使い勝手も犠牲にしない
 のは、ホンダのこだわり。ウィンカーランプも左右
 独立で判りやすい。 タコメーター内のキーマーク
 はエンジンイモビライザー「HISS」警告灯。

 

■私とファイアーブレード
  全てが新しく生まれ変わった、5代目ファイアーブレード。このニュースを聞いたとき、なんしぃは胸が高鳴った。
 2代目ファイアーブレードのオーナーであったなんしぃは諸事情によりそれを手放し、虚空の日々を送っていた
 ところに、ホンダの意地とプライドを見せるスペック。このニュースが流れたのが99年9月で、翌年1月には
 北米仕様をオーダーしてしまった。しかし、このバイクのインプレッションが報道されるようになると心境は変わって
 しまった…。この経緯は「YZF−R1購入動機」を見ていただけるとお分かりになると思う。
 そして時は流れ、4年後。YZF−R1オーナーの私にこのファイアーブレードをインプレできるときが来た。

  そう、このバイク、オーナーは私の弟である。弟は3年前に大型免許を取り、ハヤブサ→VTR1000Fと乗り継い
 できたが、何を隠そう私がオーダーして売れ残っていた北米仕様ファイアーブレードに目をつけていた。しかし
 そのバイクは皮肉にも弟が乗っていたVTRのオーナーが購入してしまった。弟は特に嫉妬する事も無かったよう
 だがファイアーブレードに未練があったらしく、ショップに中古車で並んでいた954RR(6代目ファイアーブレード)
 に目をつけた。…が、一足遅くそのマシンは売約済みとなり、弟は肩を落とした。
  そしてそこに、このファイアーブレードが佇んでいた。デザイン的にはこちらの方が(個人的に)好きだったので、
 なんしぃは5代目ファイアーブレードの生い立ちと偉大さを説き、「価格の割に高性能」という言葉で購入となった。
 走行1500km足らず、ほぼ新車のファイアーブレードが私の前に現れた…。
 (「だからおめーのバイクじゃねーだろ!」とツッコミはナシよん)
■ライディングインプレッション
  さて、改めてライバル「YZF−R1」と並べてみると、ファイアーブレードは非常にコンパクト。特にシート周りは
 洗練されたデザインと共に好感が持てる。足を上げてシートに跨ると、それはしっかりホンダ車。座り心地が良く
 タンクとの位置関係も絶妙。しかしR1と比べると若干窮屈に感じた。
  エンジンを始動してまずは軽くアクセルを煽ってみる。インジェクション車に乗るのはハヤブサに次いで二台目
 だが、フィーリングは良くて軽く回る感じがする。早速クラッチレバーを握ってギアを一速に入れ、発進させる。
 しかし、思ったより低速トルクがない。特に3000回転以下はスカスカで、400ccに乗っているようだ。高性能車
 とは言え乗りやすさを犠牲にしてはならない−ホンダ・ファイアーブレードのスピリットが伺える。
  3000回転から上は、回転と共にパワー感が伝わる印象。ただし決してR1のように「ドッカン」ではない。
 エンジンフィールはとても滑らかで、速度感を伴わない。「ふ〜ん」と思っているとスピードが出ている…。インジェ
 クションの癖(ドンツキ)は完全に消え去っていないが、消そうとした努力が伺える。ちなみに私はアクセルを必要
 以上にあおってしまう癖があり、流石にこれはNGだった。変な癖がついていない初心者には問題ないが。
  さて、肝心のフットワーク。若干デザイン重視のタンクは攻めた走りをするとフィットしにくいが、車体が軽く切り
 返しがとても楽なのであまり気にならない。というか、ここはR1との差がはっきり出て「走りやすい」。極端な話
 少々オーバースピードでコーナーに入ってしまい「あ、まずい!」と思ったとき、何とかなってしまう包容力を持つ。
 これがR1だと、コーナー進入から脱出まで自分でストーリーを考えて走る必要がある。これが少しでも失敗する
 と後は…「好きにして」状態となる。このあたりはホンダとヤマハの思想の違いがはっきり現れている。
  ただしR1はツボにはまったときの旋回力と達成感は格別。ライダーがマシンに注文をつけるとマシンは答えて
 くれるし、その逆もある。ファイアーブレードはそういったマシンとのコミュニケーションが取りにくい。17インチに
 なってハンドリングの癖が無くなった5代目は特にそう感じてしまう。 しかしそれは「遅い」と言っているのではなく、
 コーナリング中の早い段階からアクセルを開けられる人が乗れば、間違いなくファイアーブレードの方が速いと
 思う。「ライダーに優しくて、速い。」これがファイアーブレードの持ち味と再認識させられた。
■進化する「炎の剣」
 <6代目:CBR954RR>
  
  2002年に登場した6代目ファイアーブレードは、5代目を更に熟成。ボディワークを更にコンパクトに、更に
  軽量に仕上げる事に成功し、エンジンも扱いやすさを向上。テールランプはLEDを採用し、精悍さをアピール。
  またシリーズ初の「国内仕様」がラインナップされた事もニュースとなった。
 <7代目:CBR1000RR>
  
  モトGPのレギュレーション変更に伴い、レース参戦を視野に入れて開発された7代目。かたくなに「900cc」
  にこだわって来たファイアーブレードは、台頭するライバルに対抗するために遂に1000ccとなり、最高出力は
  一気に30ps近くもアップ。ワークスレーサー「RC211V」のテイストを盛り込んで全てが新しくなった。
  逆に乾燥重量は+12kg増となってしまったが、扱いやすいエンジン特性で「ピーキー」と称されるライバル
  をあざ笑うようにしっかり熟成。「乗りやすさ」=「速さ」というホンダの方程式を具現化した。

「スーパースポーツ」のカテゴリを確立し、頑固たる地位を築き上げた「炎の剣」。
この先どんなライバルが出現しようとも、「炎の剣」の進化は止まらない…。

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