---ルパン三世 メビウスの輪---

エピローグ

 きれいな芝が敷き詰められた静かな墓地に、穏やかな陽の光が差していた。
その墓地の一角、あまり目立たない隅の方に、神父と、3人の男性、1人の女性の姿が見える。
ルパン、次元、五右ェ門そして不二子だ。
4人とも、とくに喪装というわけでもなく、普段通りの服装をしていた。

 「・・・主よ、永遠の安息を彼女に与え、絶えざる光を彼女の上に照らし給え。
                   彼女の魂の安らかに憩わんことを。  アーメン・・・」
神父は、ジーナの墓に祈りの言葉を捧げると十字を切った。

 神父が立ち去った後も、ルパンはしばらく、彼女の名が刻まれた墓石を見つめていた。そして、ほとんど聞き取れないような小さな声で、「ジェシカ・・・」とぽつりと呟いた。
 ルパンの力無い背中を見た次元は、彼の肩をそっとたたいた。
 「ルパン、泣いたっていいんだぜ・・・」
その言葉に、ルパンは顔を上げて空を仰ぐ。そして、振り切った様に次元の方に振り返り、無理して笑顔を見せると、
 「何言ってんだ!この俺が女のことなんかで泣くわけねえだろう」 と強がった。

 4人が墓地の門を通り、歩いて外へ出ると、そこに1人の男が待っていた。
 「ルパン、ちょっと話がある。付き合ってくれ」
それはFBIのスコットだった。
ルパンは、スコットの真意を探る様に、彼の目をじっと見詰めながら、「ああ、いいぜ」 と返事をした。

 オープンカフェのテラスのテーブルに、向かい合う形でルパンとスコットが座っている。
次元、五右ェ門、不二子の3人も、少し離れたテーブルに座って様子を窺っていた。

 「今回のことで、スコーピオンの組織には壊滅的打撃を与えられた。 キングとその側近を始末出来たんだからな」
 「だから、なんなんだよ」 ルパンは、面倒くさそうに言葉を返した。
 「・・・これで、私の両親の仇も討てたってことかな・・・・」
 「ああ、聞いたよ、あんたの両親は、あのサーロイン号に乗ってたんだってな・・・」
 「ところでルパン、お前達は大金庫の金の行方をつかんでいるのか」
スコットのその言葉に、ルパンはちょっと驚いた。
 「ほ〜、俺達の狙いを知っていたのか。 さすがだねぇ」
ルパンが茶化しても、スコットは表情を変えずに、淡々と話を進めた。
 「神戸港から、ここニューヨークに貨物船でコンテナがやってくる。その受取人は例のスコーピオンの貿易会社だ。つまり、そのコンテナの中身は・・・」
 「どうして俺達に、そんな情報を話すんだ?」
スコットは、ルパンのその問いかけには答えず席を立った。
歩き出そうとするスコットに、ルパンが再び問いかける。
 「とっつあんは、その事を知ってるのか?」
 「ああ、もちろん知ってる。 待ち構えているだろうなぁ」
そう言い残すと、スコットは店を出て行った。

 「ルパン、ヤツの話は信用できるのか? 罠じゃねえのか」
次元が訝しそうに訊く。
 「そうよ、FBIの言うことなんか信用できないわ」
不二子も同様のようだ。
 「拙者、あの男の話に嘘は無いと思える。あの目には・・・」
五右ェ門は、2人とは違う意見らしい。
 「あぁそうだな・・・、この話に乗ってみよう。罠だっていいじゃねえか」
ルパンは真剣な表情になっていた。
 

 港に到着した船から、コンテナがクレーンに釣られて降りてくる。
作業員が誘導して、コンテナはトレーラーの上に下された。
トレーラーの後ろには、窓にフィルムを貼った1台の車が止まっている。例の貿易会社の社員が確認に来ているのだろう。
 「ご苦労さまです。こちらにサインをお願いします」
トレーラーのドライバーが書類にサインをする。
ドライバーが運転席に乗り込むと、助手席に女性が乗っていて驚いた。
 そう、峰不二子だ。 彼女はミニスカートから伸びた脚をわざとらしく組み替えると、
 「この車はどこまで行くの?」 と甘い声で訊ねた。
ドライバーが彼女の大きく開いた胸の谷間に見惚れていると、突然顔にスプレーが浴びせられ、ガクッと頭を落とし、寝てしまった。
すばやく運転席のドアが開き、次元がドライバーを引きずり落とす。
 「お前ら、何者だ!」
後ろの車から2人の社員が慌てて出てきた。
その時、助手席の不二子側の窓に銭形が飛びついてきて、銃を突き出した。
 「は〜はは! お前らがここに現れるのは承知の上だ!」
 「銭形!」
 「おとなしく車から降りてもらおう」 
 「どうするのよ次元!」 心配そうに不二子が訊く。
 「俺達の狙いを見抜くとは、さすがだな」 車を降りて、手を上げながら次元が言った。
車から飛び出してきた社員の1人が、ドライバーを抱き起した。
 「おい!大丈夫か?」
 「う〜ん・・・。 くっそ〜やりやがったな、あの女・・・」 そう言いながら目を覚まして起き上がった。
 「もう大丈夫だ」 ドライバーは首の後ろを手で押さえると、頭を振りながら運転席へと戻って行った。
銭形は、辺りの様子を窺がいながら次元に訊く。
 「おい、ルパンはどこだ?」
 「さあな」
 「ふん。・・・まあいい。とりあえずお前らだけでも確保だ」 銭型は、2つの手錠を取り出すと、次元と不二子を近くの手すりにつないだ。
その様子を見ていたトレーラーのドライバーは、「警部さん、ご苦労さまです」 と、手を振って車をスタートさせた。
走り去るトレーラーを見送りながら、銭形は首をかしげた。
 「警部さん??  ―――なぜあいつは、俺が警部だって知ってるんだ?」
 「しまった! そうか、あのドライバーがルパンか! 不二子にやられた芝居をしてたんだな! う〜ん待て〜ルパ〜ン!」
銭形は、トレーラーを追って走り出したがすでに遅かった。 とても追いつけない程に離されてしまっていた。
 「くそ〜ルパン! この次は必ず捕まえてやるからな〜!」 銭形は地団駄を踏んだ。

 運転席のドライバーは、顔に手を掛けると変装を取った。銭型の睨んだ通り、ドライバーがルパンだったのだ。
 「とっつあん、今回も俺の勝ちだな。 はっはははは!」
ルパンは、陽気に笑った。

 手すりに繋がれたままの次元と不二子の元に五右ェ門がやってきた。
 「どうやら、上手くいったようだな」 そう言って斬鉄剣を抜くと、2人をつないでいる手錠を斬った。
 「さっさと帰りましょう。早く50億ドルの現金を見たいわ」
 「そうだな」 次元も素直に同意した。

  

 数日後、スコットの両親が眠る墓地に、彼が花を手にして現れた。
スコットが両親の墓に花を捧げると、背後から声がかかった。
 「やっぱりここに現れたな」
振り返ると、そこにいたのはルパンだった。
 「ルパン!」
 「FBIを辞めたんだってな。 これからどうするんだ?」 
 「気楽に探偵でもやるかな・・・はははは」
ルパンは、彼にボストンバッグを放ると背をむけて歩き出した。
スコットがバッグを開けて中を見ると、それは大量の現金だった。
 「これはなんだ?」
 「100万ドルある。奴等から賠償金を取ったと思えばいいじゃないか。 じゃあな・・・」 
そう言うと、手を振りながら歩いて行ってしまった。
 スコットは、歩き去る彼の背中を見つめながら呟いた。
 「ルパン・・・・・、また会おう・・・・・・」

 

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