やって来た来た遊園地! 後編
「んあ?」
ふあぁ〜……どうやら完全に熟睡してしまったようだ。
おお、時計を見るとすでに午後二時に近い……。
まわりには秋子さんと香里がなにやら話している以外、みんな遊びに行ってしまった様だ。
ちょっと寂しいぞ。
「……うぐぅ」
おっといけないけない、あゆあゆも居たんだよな。
しかも俺の上着の裾をガッチリ握って寝てやがる。
こうしてると本当に天使みたいな寝顔だな、こいつって。
俺は上着を脱ぐとあゆあゆに掛けて、立ち上がった。
「あら、おはよう祐一さん」
「すいません、秋子さん」
「ホント、名雪みたいにぐうすか眠っちゃって」
「良いじゃんか別に……」
なんか香里の奴、機嫌悪いな・・・あの日か?
ぼかっ。
「何でなぐるんだよ、香里?」
しかも、ぐーで殴るか普通……。
「あんたが失礼なこと考えたからよ!」
「失礼な事ってなんだよ?」
「だ、だから……その……」
おーおー赤くなっちゃって可愛いんだから。
「あん、もう何であたしが悩まなくちゃならないのよ!」
「勝手に悩んでるくせに……」
「ちょっとこっちに来なさい!」
「お、おい何処に行くんだ?」
俺の手を掴んだまま人混みの中を歩いて行く香里。
でもこれって……。
「なあ、香里……」
「何よ?」
「俺は別にかまわないけど、いいのか?」
「だから何が!?」
「これ」
そう言って目の前に繋いだ手を持ち上げて香里に見せた。
「ああっ!」
ようやく解ったのか……、香里って一つの事に集中すると他が見えないのか?
あ〜あ、赤くなって俯いちゃったよ。
しょうがないな……。
「ほら行くぞ!」
「え、ちょ、ちょっとまって……」
「こっちで良いのか?」
「う、うん」
手を繋いだまま俺と香里は人混みを離れて、大きな温室に入った。
どうやらここはあんまり人が来ないみたいだな。
一本の大きな椰子の木の前で立ち止まった。
「ここでいいか?」
「う、うん、あの……祐一」
ん? なんかもじもじしているぞ香里の奴。
「どうした?」
「その、手、手を離してくれないかしら?」
「おおっとすまん」
「ううん」
心なしか俯いた香里の頬は俺が見ても赤くなっていた。
こんな香里は初めて見たな……なんか可愛いな。
「ねえ、相沢くん」
「なに?」
「相沢くんって誰が好きなの?」
「みんな」
がくっ。
「何転けてんだ、香里?」
「そう言う好きじゃなくて、女の子として誰が好きか聞いてるのよ!」
「う〜ん、そうだな……」
誰が好きか……、結構難しい質問だな、それって。
「気になっている女の子ぐらいはいるんでしょ?」
「まあ、一応……」
がさがさ。
「ん? 誰かいるのか?」
にゃあ〜。
何だ猫か。
「で、どうなの?」
「それなんだけど、どうして香里が知りたがるんだ?」
「別にいいじゃない」
何だよそれ、自分で聞いてるくせに。
「いいから早く答えてくれる」
「香里」
「えっ」
「だから香里だって言ってるんだけど」
「あ。あたしっ!?」
そう、いま気になっているのは確かに香里だ。
こんな香里は今しか見られないからな。
顔を赤くして落ち着きがない香里って本当に可愛いなぁ〜。
がさがさ。
んん、やっぱり誰かいるのか?
にゃぁ〜。
なんか視線を感じるぞ、それも一人や二人じゃない。
それに何で猫がこんな所にいるんだ?
も、もしかして!
「香里」
「な、なに?」
俺は香里を椰子の木に寄せると、手を着いて顔を思いっきり近づけた。
「あ、相沢くんっ!?」
「香里は俺のこと、どう思ってる?」
「あ、あたしはそ、その、あの、つまり……」
俺は徐々に顔を近づけて行く。
「香里……」
「だ、だめ……」
香里の奴、目を大きくして首から耳まで真っ赤にしてるぞ。
これってかなり美味しい状況だな……しちゃおっかな?
ぞくっ。
でも止めておこう、俺だってまだ死にたくないからな。
「香里」
俺は赤くなった香里の頬に手を当てると真剣な瞳でその綺麗な顔を見つめた。
びくっ。
香里の奴、体まで固くなったみたいだな。
俺は横目で確認する……よし、出口はあっちだな……。
「昼は焼きそばだったのか?」
「は?」
「青のり、ほっぺたに付いてるぞ」
俺はニッと笑うと香里のほっぺたを軽く摘んで一目散に出口に向かった。
もちろん茂みにいる奴らにも声を掛けるのも忘れない。
「名雪! 栞! 香里のこと任せたぞ!」
「「は、はい?」」
やっぱり居たな……しかも舞に佐祐理さんに天野におまけの真琴まで。
「誰がおまけなのよー!?」
自覚が足りないな、真琴。
ちらっと振り返って香里を見ると木の根本に座り込んで呆然としてるようだ。
ちょっとやり過ぎちゃったかな? 後で謝っておこう。
とにかく、俺は全速力であゆの所に戻った。
おっ?
まだ寝ているようだな、よしよし。
「あら、祐一さん香里さんは?」
「なんかみんなで温室の方で花でも見てるんじゃないですか?」
「そう、私も行ってみようかしら?」
「あゆは俺が見てますから、どうぞ」
「それじゃあとお願いね」
「はい」
むむっ、秋子さんがステップ踏んで歩いて行くの初めて見たぞ。
なんだか今日はいろんな事解って結構楽しいな♪
「ふぁ〜……あ、おはよう祐一くん」
「おっ、やっと起きたかあゆ?」
「祐一くん、ひょっとしてボクの寝顔……」
「おう、寝顔可愛かったぞ、あゆ」
「は、はずかしいよ……うぐぅ」
あ〜あ、真っ赤になって顔隠しちゃったよ……。
う〜、香里も良かったけど今日のあゆはめちゃ可愛すぎるぞ。
やっぱり俺って……。
「あれ、みんなは?」
あゆはきょろきょろ辺りを見回す。
「適当に遊んでるんじゃねえか?」
「ごめんね、祐一くん」
ど、どうしたあゆ? 急にしゅんとなって俯く。
「何が?」
「だって、だってボクの所為で……」
あゆの奴、上目使いで涙目になって俺を見つめる。
しょうがないな……。
ぎゅっ。
「ゆ、祐一君!?」
俺はあゆの小さい体を思いっきり抱きしめると耳元で言ってやった。
「あゆ、今日の約束は忘れちゃったのか?」
「え、ううん、覚えてるよ」
「なら問題ねーだろ」
なでなで。
ついでにあゆの頭も優しく撫でてあげる。
「うん、ありがとう祐一君」
「よし、それじゃ行くか!」
「うん!」
俺はあゆとその場所を早足で歩き出した。
その後、みんなが戻ってきたらしい。
だだだだだだだだだっ。
「相沢くんっ!!」
「あゆちゃんもいないよ〜」
「どうやら遊びに行ってしまわれたようですね〜」
「……逃げた」
「酷いです、祐一さん」
「あぅ〜、真琴はおまけじゃないもん!」
「落ち着いて、真琴」
「くっ、相沢くんの奴……」
「ところで姉さん」
「何、栞?」
「さっき祐一さんとキスしたのですか?」
「なっ!?」
「私も知りたいよ〜」
「佐祐理もぜひお聞きしたいですわ」
「……知りたい」
「あぅ〜」
「一応お聞きします」
みんなは笑顔だけど異様なほど真剣な視線が香里に集まる。
「あ、あたし……その、あ……」
そして香里の顔が真っ赤に染まった瞬間、みんなは誤解した。
「酷いです姉さん、私を応援してくれるって言ったのに」
「香里〜私達ライバルなの〜?」
「佐祐理、負けませんわ」
「……勝負」
「あぅ〜」
「一応よろしく、香里さん」
「そんな、誤解よ!!」
そんなことはつゆ知らず、俺とあゆは大きい観覧車に乗っていた。
どうやら最後に乗ろうとあゆは決めていたみたいだ。
「わぁ〜ねえねえ祐一くん、あんな遠くまで見えるよ♪」
「お、なかなかいい眺めだな」
「うん、やっぱり乗って良かった」
「そうか」
ゴンドラの外を眺めて喜んでいるあゆは見てるだけで楽しかったな。
「祐一くん……」
「ん? なんだあゆ」
振り向いて俺の目を見つめて聞いてきた。
「祐一くん、好きな女の子っている?」
「は?」
何で香里と同じ質問するかな……。
「うぐぅ、教えてよ祐一くん」
いつになく真剣な表情のあゆは同じ年の女の子だった。
俺も釣られてあゆの目を見つめた。
あれ? 勝手に俺の手があゆの方を掴んだ。
ちょっとまて、何で俺の体が勝手に動くんだ?
「あゆ」
ああっ、口まで勝手なこと言ってるし……。
「祐一くん……」
うわっ、目を閉じるなあゆ!
こら俺! 止まれ! 止まれったら!!
ちゅっ。
あっ!
やっちゃった。
ど、ど、どうしよう?
「嬉しい……祐一くん」
あゆは喜んで俺の胸に抱きついてきた。
今の笑顔は今日一番の笑顔だな。
それが見られたからまあいいか。
さてそろそろゴンドラが下に着くはずだよな、どれ。
げげっ。
みんな揃っているぞ。
秋子さんはいつも通り微笑んでいるけど。
それ以外はこっちを睨んでるし……。
特に香里の顔はめちゃめちゃこわひ。
まさか見られちゃったのか?
ううっ。
「祐一くん……ボク幸せだよ」
あ、やっぱり可愛い……じゃなくて!
どうしよう……。
あ、そうだ! 秋子さんに頼むしかない……か?
秋子さんなんか言ってるぞ……なになに。
「了承」
それってどういう意味ですか? 秋子さん!
全然分かんないっす……とほほ。
はぁ〜……。
俺は改めてみんなを見ると大きくため息を付いた。
そして……。