やって来た来た遊園地! 完結編
ゴンドラを下りた俺達の前に香里を始めとする全員が立っていた。
「よう香里、お前も乗りに来たのか?」
さりげなく話しかけた俺を殺気を込めた視線で見返す、ううっこわひ。
「別に」
う〜んやっぱりさっきの事、怒っているんだよなぁ。
「相沢くん……」
「すまん!」
香里が何か言う前に俺は深々と頭を下げる。
「ど、どうしたの祐一くん?」
隣のあゆが声を掛けるが無視して顔を上げると香里に謝る。
「さっきの事は冗談なんかじゃない、本当に気になってたからつい……」
「ちょ、ちょっと相沢くんっ!?」
「済まない、香里の気持ちも考えないであんな事して……」
「な、なに言ってるのよ!?」
「でも決していい加減な気持ちでした訳じゃないんだ、それは解ってくれ」
俺は香里を真剣な目で見つめながら言った。
もちろんそれを聞いていたみんなは香里に詰め寄った。
「香里ひどいよ〜、やっぱりそうだったんだ〜」
「嘘付く姉さんなんか嫌いです!」
「な、名雪! 栞! 違うのよ!」
「佐祐理はどうやら本気にならないといけないみたいです」
「……祐一は渡さない」
「だ、だから違うって……」
「あぅ〜、祐一はわたしが虐めるの〜!」
「真琴、がんばってね」
「ああ〜、もうっ相沢くんっ! 相沢くん? に、逃げたわね〜!!」
「がんばってね香里さん♪」
秋子さんの微笑みに香里はがっくりと頭を落として項垂れた。
『くっ、相沢くん……こうなったらきっちりと責任をとってもらうわよ』
すでにマジ切れになった香里に怖い物は無かった。
「ふう、あぶなかった……」
俺はみんなの注意が香里に向いた瞬間、素早く逃げ出した。
もとい、戦略的撤退だ。
「ゆ、祐一くん、そろそろおろしてよ、うぐぅ」
「あ、悪い」
さっきから小脇に抱えたあゆが暴れていたので手を離す。
がん。
あ〜顔面から落ちちゃったよ、生きてる?
「ひどいよ祐一くん! ううっ、鼻ぶつけた〜うぐぅ」
「すまん」
「うぐぅ」
涙目で赤くなった鼻を押さえて俺のこと見つめている、ううっ。
「そ、それにしてもあゆは軽いな」
「え、そ、そうかな?」
「うん、まるで羽みたいだったぞ」
「ちょっとだけ……嬉しいかな」
やっと笑顔に戻ったか、やれやれ。
「そろそろ帰るか、あゆ」
「うん、もうちょっといたかったけど……」
あたりを見回すあゆは少し寂しそうだった。
「また来ようぜ、あゆ!」
「じゃあね、今度はその……二人だけで!」
「そうだな」
俺はあゆの手を握ると笑いかけた。
「帰りに商店街に寄って何か食べていくか?」
「うん!」
今日最高の笑顔を見せてあゆは元気良く頷いた。
こうして俺達は遊園地を後にした。
めでたしめでたし。
え? そうは問屋が卸さないって。
そうなんだよ、そしてそれは月曜日の昼休みに起こった。
「相沢くん」
「ん?」
俺の横に香里が弁当の包みを持って立っていた。
「はい」
「なにこれ?」
香里がにっこりと笑うと俺に手渡した。
「お弁当に決まってるじゃない」
「何で香里が俺の弁当を作って来るんだ?」
俺の質問に香里はちょっと大きな声で答えた。
「何言ってるのよ、恋人にお弁当作ってあげるのがおかしいの?」
「なぬ!?」
その瞬間クラスのみんなの視線が一斉に俺に降り注いだ。
特に北川を筆頭に男子の視線には嫉妬、羨望、殺気とあまり歓迎したくない。
「相沢お前って奴は……」
「ちょ、ちょっとまて」
そうだ、名雪! 名雪はどうした?
「おい名雪」
「うん、今日は香里が作ってくる日なんだよ〜」
「はぁ?」
名雪の奴、一人でお弁当を食べ始めていやがる。
「ちゃんと説明しろ!」
「く〜」
「寝て誤魔化すな!」
くそっ、フォークをくわえたまま狸寝入りしやがって。
「あたしが説明してあげるわよ」
自分の弁当を広げながら香里は話し始める。
「あの後みんなでよく話し合った結果、順番で作ることになったの」
「順番て何だよ……」
ちなみに月曜日は香里。
火曜日は名雪。
水曜日は佐祐理と舞。
木曜日は栞。
金曜日は天野と真琴。
香里の奴、妙に嬉しそうな顔で俺に話しかけてくる、なんだ?
「つまり、全員が相沢くんの恋人って事よ」
「「「「「なんだって〜〜〜〜〜〜〜!!」」」」」
うわっ!? クラスの男子達が一斉に叫んだ。
「そう言うわけだから……ね、祐一」
「な、なに?」
「責任取ってね♪」
これ以上無いってくらいの最高の微笑みで俺を見つめながらそう言った。
ううっ、可愛いじゃねえか・・・ってそうじゃない!
「相沢」
「き、北川……」
「殺す!!」
俺は全速力で教室を抜け出した、その手に弁当を掴んだまま。
ふうっ。
商店街まで逃げて来ちゃったよ、おい。
結局午後の授業はサボりかよ。
ま、あのままあそこにいたら俺は無事じゃ済まなかったから仕方がないか。
「あれ? 祐一くん〜!」
こっちに向かってあゆが走ってきた。
さっ。
ずしゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜。
いつもながら見事なスライディングだ、俺も尊敬しちまうぜ。
「尊敬しなくてもいいよ! うぐぅ」
「いや、俺は審判をしてあげようと思ってな」
「何でいつもいつも避けるんだよ、うぐぅ」
「え、よけじゃ駄目なのか?」
「うぐぅ」
後ろを向いて拗ねてるあゆの背中から抱きしめて耳元で呟いた。
「ごめん、お詫びに何か買ってあげるから許してくれ」
「……ホントに?」
「ああ、ただし俺の買える範囲内だけどな」
俺の腕の中でくるりと振り返ると嬉しそうな顔をしていた。
うっ、今月は貧乏になるかもしれん。
でも、そんなに大した物じゃなかった。
「あゆ、そんなんで良いのか?」
「うん♪」
あゆが満足してるならいいけどな。
「ありがとう祐一くん、ボクすっごく嬉しいよ!」
「そっか」
あゆは指できらきら光る、露店で売っていた安い指輪をウットリ眺めていた。
「ねえ祐一くん、今日祐一くんの部屋に行ってもいいかな?」
「遠慮するなよ、いつだって夜這いに来てかまわんぞ」
「そ、そう言う意味じゃないもん!」
「冗談だ」
「うぐぅ」
俺はあゆの小さな手を握ると歩き出した。
「行くか」
「うん」
なんか忘れているような……まいっか。
そして家に帰った俺達を待っていたのは……とほほ。
「ただいま〜」
「お邪魔します」
玄関の所に名雪と真琴がいた、まあそれはいつものことだが。
「あ、祐一〜、遅かったね」
「祐一! どこ行ってたのよ?」
「ちょっとあゆと遊んでただけだよ」
続いて秋子さんもやって来た、これもいつも通り。
「あら祐一さんお帰りなさい」
「ただいま秋子さん」
「こんばんわ秋子さん」
「あら丁度良かったわ、あゆちゃんも一緒に夕飯食べていきましょう♪」
「え、いいんですか?」
「もちろん、今日は沢山用意してあるから遠慮しないでどうぞ」
何、沢山?
「秋子さん、そんなに作ったんですか?」
「いえ、作ったのは香里さんよ」
は、今なんと?
「あら、お帰り祐一♪」
「な、なんで香里がここにいるんだ?」
しかも手にはお玉を持ってさらに制服の上にエプロンなんか着けちゃって。
なかなか似合うじゃないか……ってそうじゃない!?
「もう忘れたの? 今日はあたしが作る日だって言ったじゃない」
そ、それって弁当だけじゃないのか?
「ほらほら、早く手を洗って来てね」
と、とにかく俺とあゆは手を洗うとリビングに入った。
「あはは〜、お帰りなさい祐一さん」
「…………遅い」
「遅いです、祐一さん」
「今晩わ、相沢さん」
佐祐理さんと舞と栞と天野が仲良くお茶を飲んでいた。
さすがに変に思ったあゆが俺に聞いてくる。
「ねえ祐一くん、どう言うことなの?」
「いや、なんと言ったらいいか誠に遺憾でありまして」
「うぐぅ、変なこと言って誤魔化さないでよ!」
「うぐぅ」
「祐一くん!」
「あゆちゃん、ちゃんと説明するね〜」
おお名雪、さすがは俺のいとこ。
「つまり、みんな祐一の恋人なんだよ〜」
「ええっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
みんなも同時に頷いている。
ば、馬鹿野郎! さらりと言ってどうすんだ? それ説明になってねえよ。
「ほ、本当なの? 祐一くん!?」
「いや、なんて言ったらいいか俺にもわからん」
「うぐぅ」
そ、そうだ、こんな時は秋子さんに助けを求めるしかない。
「あ、秋子さん!」
あれ、電話中みたいだな、何処に掛けてんだろう。
ちん。
「祐一さん」
「あ、秋子さん何とかなりませんか?」
「了承」
「は?」
「さあみんな、御飯にしましょうか」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
何ですか「了承」って?
俺は秋子さんが何処に電話を掛けていたのかすんごく気になった。
いったいどこに……。
「ほら祐一も食べましょう」
御飯を茶碗に盛りながら香里がニコッと笑って俺を呼ぶ、なんか良いかも……。
「……うぐぅ」
あ、なんかあゆの体が震えているぞ。
「ボク、ボク負けないんだから〜!!」
すまんあゆあゆ、でも俺の中ではおまえが一番なんだぜ。
おわり