Original works Fate/stay night
(C)2004 TYPE-MOON






土蔵の中で意識を集中させて、体の中にある回路に魔力が流れ始める。






遠坂の指導もあって、投影魔術にだけ特化している衛宮士郎は、
僅かながらも前に進んでいた。






思い浮かべるのは、あの日一度だけ投影した黄金の剣。






「―――投影、開始」






瞬間、あらゆる行程を省いて完成した物、幻想を超えて現界した確かな物。






その剣―――”勝利すべき黄金の剣”を、目の前の騎士に差し出す。






「この剣は、アルトリアによく似合う」






差し込む月明かりに照らされた彼女がその剣を手にした時、最後のピースがかちりとはまった。






そうだ。
彼女の記憶を夢で見た時、王としての生き方を選んで国を護り、戦場を駆け抜けた
傍らに常に在った。
この剣は本当は選ばれた者を支えていたんじゃないかって、王の証ではなく携える者を護る為に
存在していたんじゃないか。
いや、本当はそんな事はどうでもいいんだ。
俺の勝手な思い込みだ、ただこの剣はやっぱりアルトリア似合っていた。
彼女が持つに相応しい黄金の剣―――。

「シロウ」
「うん、ごめん」
「なぜ、謝るのです?」
「この剣で、アルトリアの生き方は変わったんだよな」
「はい、確かにこの剣を抜いた時から、私の人生は決まりました」
「その剣に込められた意味は大きなものだったよな、でも……」
「でも?」
「俺にはそんな事はどうでもいいんだ、ただこの剣はアルトリアに似合うなって思った」
「シロウ……」
「ははっ、でも俺が作った物だから、本物には及ばないけどな……」
「いいえ……いいえ、シロウ。これは間違いなくあの剣です、私が認めます」
「そうか」
「はい、ありがとうシロウ」

子供のように、碧眼を輝かせてその剣を抱きしめる姿は、王でもサーヴァントでもなく―――一。
一人の女の子だった。
俺はこの娘を護りたい、いつも笑っていられるように、何も無かったこの胸の中には
確かな存在が、目の前の彼女がいるんだ。
だからさ、ごめんな親父……俺の進むたぶん道は変わっていくんだ。
いや、親父の理想を超えたその先を目指していくから、だから……もう、迷わない。
これからも、自分を信じて歩くよ。






Stay Re-birth Night 11






なんとかアルトリアを説得して居間に戻ってくると、フェイさんがいた。
あれ? たしか帰るとか言ってませんでしたか?
そして後ろにいたアルトリアが、フェイさんに食って掛かる。

「姉上! 聞きましたよ……」
「あら、お楽しみはもう終わり?」
「な、何を言ってるんですか!?」
「ふふっ、シロウくんも若いのね」
「ぶっ!?」

……これってあれだよな、元祖あかいあくま?
そうやって笑っている目が、そっくりですよフェイさん。
しかし、俺には差し迫った重要な問題があった。

「先輩、若いって何ですか!?」
「そうね、土蔵で一時間もなにしてたのかしらねぇ」

涙目と言うよりジトって説明してくださいと目で訴えた桜が叫んだ。
それに相乗りしている遠坂は、少しぐらい桜に説明してくれもていいじゃないか。
だが、あの笑い方は楽しんでいる、この状況をこれでもかってぐらいに。

「しーろーうー」
「ふ、藤ねえ……」
「なんなのよなんなのよ〜、お姉ちゃんは一人いればいいでしょ! それなのに新しいお姉ちゃんを
連れてくるなんてわたしを捨てる気なんでしょーけど、そうはいかないったらいかないんだからー」
「少しは物考えてしゃべれ、虎っ」
「わたしを虎と呼ぶなーっ!」
「すごいわね、想像だけで当たっているのは関心しちゃうわ」
「フェイさん、煽らないでください!」
「当たり? 当たりってまさかほんとうにわたしをすてるきなんだー」
「意味わかんねぇよ、藤ねえ」

藤ねえに、野生の虎に理性を求めるのは無理だって解るんだけど、それでも求めてしまう自分が悪いんだろうな。
がおーがおーと叫んでいる藤ねえと俯いて上目遣いで睨んでいる桜と、一番たちの悪い笑顔の遠坂に
追いつめられている衛宮士郎の明日はどっちだろう。

「落ち着いて、女性が取り乱すのはいけません」
「え、あ…」

いつ来たのか、それよりも藤ねえの後ろをああも簡単に取るのは凄い。
これでも冬木の虎と言われた強者なのに、すっと背中から抱きしめている。
しかしその笑顔がアイツに似ている気がして、なにかカチンとくる。

「あら、やっと来たのね」
「これは申し訳ありません、初めての日本と言うことで、少々浮き足だってしまったようです」
「ふーん」

藤ねえを抱きしめたまま、フェイさんと話している長身の男……見かけは優男だけど、違う。
油断できない雰囲気が、その笑顔の下に隠れている。
そしてもう一人、長身の男が静かに現れた。

「嘘はお止めなさい、ランス」
「これは異な事をベディ、何を根拠に……」
「行く先々で女性に声を掛けていたの、どこの誰ですか?」
「美しい女性を無視するのは、冒涜と言わないか」

桜も遠坂も唖然としている、藤ねえもなぜか静かだ、時折あごの下を撫でられてごろごろしてるが。
まさかこの男、猛獣使いか?
……ごめん、冗談言ってる場合じゃないよな。
だけど、俺より先に動いたのはアルトリアだった。

「いつまで抱きしめているつもりですか、ランスロット?」
「おお、これはアルトリアお嬢様、少し見ない間に綺麗になられましたなぁ」
「申し訳ありませんアルトリアお嬢様、私が付いていながらこのような……」
「あ、ああ、ベディを責めるつもりはありません。それにいつも騒動の原因はランスロットです」
「そうね、いい加減その人を離さないと、ヴィアに連絡するけど?」
「むぅ、ここは潔く引きましょう」

腕を解かれた藤ねえはそのまま座り込んでしまう。
しかも、なんか赤い顔でぽーっとしているけど……まさか、いくらなんでも、でももしかして?
フェイさんの側にいった、ランスロットさんをじーっと見ているような……。

「それでお荷物はどちらにお運びしますか?」
「ベディ、荷物とはなんすか?」
「はい、電話で『ホテルの荷物を全部、指定する屋敷に運んで』と連絡を受けましたので、
ホテルを引き払ってきたのですが……」
「姉上!」
「あ、ごめ〜ん。そう言えばそんなこと言ったわね」
「……わざとですね?」
「ああ、うっかりだったわ」
「うっかりなどと……そんなのは凛だけで結構です」

なんか、遠坂の胸に、こう鋭い刃物が刺さった気がした。
あと、ぶちって何かが切れる音も聞こえた。
やばい、これは言峰以上の悪魔が光臨しそうな予感が……。

「アルトリア、今なんつーった?」
「凛、邪魔しないで……あ」
「そっか、あんたって心の中ではそう思ってたのね」
「ち、違います凛、これは言葉の綾でっ」
「なるほど、アルトリアの中ではうっかり=遠坂凛なんだ、へー」
「……おおっ」
「そこっ、あとでガンド100連発!」

しまった、つい感心して口に出しちゃったよ。
ああ、怖い。親父……目の前にあかいあくまがいます、しかもワラッています。
しかしこれって言峰の影響なんじゃないか?
一度がつんと言ってやらないと……無駄だけど。
まあ、しょうがない
アルトリアと遠坂が言い合いをしているのに肩を落として、俺は客間の用意をしにいくことにした。
そして戻ってきてもまだ二人の言い争いは、更にエスカレートしていた。

「いいですか凛、この際はっきり言っておきますが、シロウは私の夫となるのです。ですからこれ以上
ちょっかいを出さないでいただいきたい!」
「それは無理ね、わたしは士郎の師匠なんだから、これからも来るわよ。それにあんまりべたべた
いちゃいちゃしないでね。それって修行の妨げになるし、恋愛なんて一人前になってからすればいいのよ」
「それではいつになっても、シロウと恋愛できないではないですか! 全然実力が付かない凛の教え方にも
問題があるのではないのですか?」
「ちょっと、へっぽこな士郎の責任をわたしに押しつけないでよ。あの馬鹿がもっと才能が有れば
問題ないんだからっ」
「いいえ、少なくても私と剣の鍛錬をしている時は、僅かですが成長の兆しが見られます。
それなのに凛の方は生傷ばっかり増えていくだけで何の成果も見られません!」
「言い切ってくれるじゃないっ!」
「言い切って上げたがなんです?」
「あのさ、それって誉めてないよね、士郎くんのこと?」
「「なんですかっ!?」」
「んー、彼を見てからもう一度自分の発言を思い返した方がいいわよ」
「「あっ」」

へっぽこだってさー、ははっ……。
それは自分で解っているけどさ、そう何もはっきり言わなくていいじゃないか。
剣にしたってアルトリアの足下にも及ばない、魔術は素人同然といつも遠坂に怒られてるよ。
それでも少しは攻撃よけられるようになってるし、強化に関してはほぼ成功率100%になってるんだぞ。
なにより、自分の恋人と憧れていた女の子に面と向かって言われるのは、正直凹むさ。
くそう、泣くもんかっ。

「あ、あの、シロウ、別に私はその……」
「そ、そうよ士郎、これは悪口じゃなくって……」
「なあ桜……」
「は、はい?」
「剣もダメ、魔術もダメ、残っているのは料理だけ……しかしそれも桜にも追い越されてそうだし」
「い、いいえ!」
「桜?」
「先輩はいつまでもわたしの師匠です。これからもずっと側で一緒にお料理作っていきたいです!」
「ありがとな桜、俺がんばるから」
「はい、わたしも微力ながらお手伝いさせていただきます!」

ああ、桜の笑顔が俺の日常を取り戻したくれたよ。
さっきのは見間違いだよな、うん、そうに決まっている。

「待ちなさい、桜」
「あんた勝手なこと言ってるんじゃないわよ」
「アルトリアさんに姉さんも女らしくすっぱり諦めてください。これからはわたしが先輩を影日向に
サポートします」
「何を言ってるのですか、シロウと共に歩むのは私です!」
「いい桜、こいつは卒業したらわたしと一緒に倫敦の時計塔に行くの。そして魔術を極めるのよ」
「いいえ、先輩はこの町でわたしと一緒にお料理屋さんをやって慎ましく幸せに暮らしていくんです」
「「桜っ!!」」
「大体お二人の貧相な……いえいえ、スレンダーな体では先輩を満足にさせて上げられません!」
「「くっ」」
「それにわたしにはまだ強力なお友達が居ます! ライダー!」
「お呼びですか、桜?」
「「なんでライダーがっ!?」」
「わたしの力を持ってすれば、お茶の子さいさいです」
「お久しぶりです、セイバー」

えっへんって胸はるって桜? なんでライダーが?
そう言えば、ライダーって慎二のサーヴァントじゃなかったのか?
ライダーが俺と目があったら手を振ってきた。
俺もつられて苦笑いで手を挙げて応える。
『何やら疲れているようですが?』
『お心遣い感謝』
目と目で通じ合うテレパシー、ライダーの労いが心にしみる。
それはさておき、本人無視でどんどん盛り上がっています。
こんな中で俺に出来ることはたった一つ、そうだよなオヤジ。
急須にお湯を入れてお茶を湯飲みに注いで、楽しそうにアリーナで見ている
フェイさんにだし出す。

「どうぞ」
「あら、ありがとう」
「今度は日本茶です、あとこれも美味しいですよ」
「どらやき……?」
「ええ、我が家のお茶請けといいまして、まあ欠かせない物です」
「ありがと、頂くわ」
「ライダーも座れよ、お茶入れたからさ」
「ありがとうございます、シロウ」
「ひとつ聞きたいんだけど、ライダーって慎二のサーヴァントじゃなかったのか?」
「いえ、わたしは元々桜のサーヴァントです」
「なるほどって、桜も魔術師!?」
「シロウ、もしかして気づいてなかったのですか?」
「いや、遠坂から妹だって話は聞いたけど……そっか」
「あの時は慎二が無理矢理わたしを使っていたに過ぎません」
「あ、それがあの本か?」
「はい」

と、淡々と語るライダーはやはり美人だなぁと思ったり。
しかし桜も魔術師だったのか……なんとなく、たまに感じる迫力みたいのはそれだったのか。
って、その事に気づかない俺ってやっぱりへっぽこなんだと再認識しました、ううっ。
そんな俺の心境に気づくわけもなくどら焼きを食べるフェイさんの姿は、食事の時と同じ
こくこくはむはむで、やっぱりアルトリアの姉さんだなぁなんて。
思わず笑ってしまったら、フェイさんに軽く睨まれた。

「失礼よ、女性の顔をじっと見て笑うなんて」
「ああ、すいません」
「罰として、これをもう一個頂けるかしら?」
「どうぞ」
「ライダーも食べるか?」
「はい、頂きます」

美女二人がお茶を飲んでどら焼きを食べる姿を見ていると、心を洗われる気がした。
俺って疲れているのかな?

「あ、そうだ、客間を用意したので、寝る時はそちらでお願いします」
「ありがと、無理に押しかけたのに迷惑かけるわね」
「あははっ、もうなれっこです」
「嫌な慣れ方ね」
「ライダーも泊まっていくだろ、桜がも今日から住んでるからさ」
「そうさせて貰います」
「あ、あと、フェイさんの連れの方もどうぞ」
「あらら、また気を遣わせちゃったわね」

そう言うと、フェイさんが手招きをして、二人を呼び寄せる。
静かに座る姿も様になっている、これは武道をしている者と共通して動きだった。
まあ、名前からなんとなく想像はできたけど。

「粗茶ですが、どうぞ」
「これはこれは」
「ありがとうございます」
「しかし、エミヤ殿が羨ましい……こうも女性を虜にしているのは」
「虜って……」
「ああ、彼の言うことは気にしないでください」
「は、はぁ……」
「しかしベディ、気にはならないか、これだけの女性から愛されているエミヤ殿の本心が?」
「それは確かに……ですが」
「こう言っては何だが、アルトリアお嬢様の将来に大きく関わってくる事ならば、我々もまた見極めなければ
ならないのではないか?」
「何まともなこと言ってるのよ、ランス」
「心外ですな、これでもお嬢様の身を案じてこそ出てくる言葉です」
「まあいいわ、それで具体的にどうやって?」






このフェイさんの一言で、俺とランスロットさんは道場で向かい合う形になった。






「えーっと……」
「エミヤ殿、遠慮はいらない、思う存分アルトリアお嬢様への熱い思いをぶつけたまえ」

たしかに手っ取り早いとは思うけどさ、同じ思いをぶつけるのならアルトリアの方がいいんだけど。

「シロウ、嬉しいです。私の為にこのような事を自ら望むとは……」

あー、アルトリア、そんな瞳をきらきらさせて期待してくれるのは嬉しいけど、俺の実力知ってるよな?

「むー、むむー、お姉ちゃんどっちを応援したらいいのーっ!?」

藤ねえ、何が言いたいんだ、それ?

「負けるのは見たくないけど、勝たれても困るし……とにかくなんとかしろっ」

なんだよその応援は……いや、応援なのか遠坂?

「先輩……」

桜、その一言と突き刺すような視線はどう理解したらいいのかな?

「シローウ! わたしだけ除け者なんてひどいよー!」

たしか藤村の家でじいさんと遊んでいるんじゃなかったっけ、イリヤ?
何ニヤニヤしているんだって遠坂っ、呼んだのおまえかーっ!?

「シロウ、健闘を祈ります」

ああ、ライダーの言葉が一番普通だよ、普通っていいなぁ……。







「では、エミヤ殿、準備は宜しいかな?」






「ああもうっ、やればいいんだろっ!」






俺は両手に握った竹刀を振りかざし、大きく踏み込んだ。






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