Original works Fate/stay night
(C)2004 TYPE-MOON






月に照らされた彼女の髪は、白く淡く光る。






ゆっくりと手を頭の後ろに回し、その金の髪を留めていたリボンを解く。






さらさらと、きめ細かい音と共に解かれていく髪に合わせて、鎧も消えていく。






そこにいたのは、騎士王ではなく、蒼いドレスを着た一人の少女だった―――。






言葉が出なかった。
ただ、見とれてしまった。
今、アルトリアが大切な事を言おうとしているのが解る。
だから呆けている訳にいかないから、俺は目を閉じてから集中する。
そんな俺を待っている彼女は、何も言わないで待っている。
魔術を行う要領で意識を落ち着かせ、深呼吸してから顔を上げ目を開けた。

「ああ、覚えてる」
「そう答えてくれると思っていました」
「うん、忘れるはずがない」
「だから私は、最後まで自分が王として責務を果たせました」
「そっか……って、それってどう言う―――」
「そして王として全てが終わった時、夢を見たんです……シロウ、貴方の夢を」
「俺の……」
「はい、例え一時の夢だと解っていても、それは楽しくて温かい気持ちになりました」
「うん」
「このまま人生が終わっても、シロウが言ったように誇れる生き方を出来たと、それも悪くないと思いました」
「アルトリア……」
「そうしたら、懐かしい声が聞こえたんです―――お前が行くのはそこではない、と」
「声?」
「はい、私が王となるべき剣を抜く時、側にいた魔術師の声でした」
「それでなんて」
「お前が望む場所がお前の―――アルトリアとしての理想郷なのだと、だから行くべき場所は決まっていました」

ゆっくりと近づいてきた彼女は、あと一歩の所で足を止めた。
夜なのに、その潤んでいるらしい碧眼は月の光で輝いて、俺をじっと見つめてくる。
そっと腕を前に出して俺の手を掴むと、自分の胸の前でぎゅっと掴んで、呟く。

「シロウ、これからも私の鞘でいてくれますか」

そう言って彼女は、真っ赤になった顔に極上の微笑みを浮かべて、俺の胸に寄り添った。
だから、俺も応えるようにそっと抱きしめる。
傷つき折れやすい剣だった、今は一人の少女の体を、自分の思いを込めて抱きしめて離さない。
彼女の柔らかい髪に鼻先を埋めて、囁くように話し掛ける。

「俺の中で、ぽっかりと空いていた場所に、出会った時からアルトリアがそこにいるんだ」
「シロウ」
「だからさ、お前が嫌だって言っても離さないから、安心しろ」
「はい」
「それに剣と鞘は二つで一つなんだから、離れる事なんて無いぞ」
「はい」
「アルトリア……」
「シロウ……」






Stay Re-birth Night 7






お互いがお互いに誓うように、唇を重ねる。
それは子供のキスみたに、すぐに離れると、惜しむように抱きしめ合う。
まあ、二人とも顔真っ赤だし、今はこうしていたい。
それにいろいろ聞きたい事もあるし。

「なあ、アルトリア」
「なんですか、シロウ」
「今のアルトリアは、その俺たちと変わらないのか?」
「はい、この世界の生きています、もちろん両親も健在です」
「そっか、じゃあ消える事はないんだ」
「前にも言ったとおり、そんな事はありません」
「じゃあ、どうして鎧姿になったりしたんだ?」
「それはシロウをからかったんです」
「え、うそ!?」
「嘘です、本当はシロウがどう思っているのか、その不安でしたからあの姿で会った方がいいかなと」
「どうして?」
「もし、シロウにその、思い人がいたら、邪魔になるかなと思いましたので、召還されたと誤魔化せるし……」
「むっ、俺ってそんなに軽い男に見えるのかなぁ」
「あ、決してシロウの事をそんな風に思った訳じゃなくて、シロウが幸せならいいと……その」
「あーもうホントに馬鹿だなぁ……」
「む」
「何度だって言ってやる、俺が愛しているのはアルトリアだって」
「シロウ……あ、あの、私も……愛しています」
「ん? 良く聞こえないぞ」
「ひ、卑怯です」
「もう一回、はっきりと大きな声で」
「だからっ……シロウ、貴方を……愛しています」
「うん」

アルトリアも恥ずかしいけど、俺も恥ずかしいから、おあいこだな。
でも悪くない、うん悪くない。
何も遠慮する事なんて無いし、もっと言葉を交わしたい。
まだまだ知りたい事だらけだ。

「ところで、どうやって鎧姿になってるんだ?」
「これはその魔術師が、今の私の祖父になっているので……」
「うん? でも、アルトリアは魔術師じゃないんだろ?」
「はい、ですがちょっと仕掛けで、とにかくいつでもこの姿になれます」
「そっか……」
「でも、シロウには夢だと思われて残念です、あれほど勇気を振り絞って会いに行ったと言うのに……」
「ご、ごめん」
「ですが、それも楽しかったです、シロウがどうなっているか話も聞けましたから」
「ひ、人が悪いぞアルトリア」
「だけど、一番気に入らなかったのは、学校で会った時です」
「あ、う、それは……」
「シロウは全然私を見てくれませんでした、それに話し掛ける事もしませんでした」
「それについてはなんて言うか……」
「あまつさえ、凛と屋上で仲良さそうに抱き合って寝ているなんて……」
「あ、あれは俺が寝た後でああなっていたし、それに遠坂は腕にしがみついていただけで、抱き合ってないぞ」
「言い訳はいいです、今聞きたいのは何故私を避けたのかです」
「あー、うー」
「シロウ、私たちの間には隠し事はいけません」
「解った解った、あれは……」
「あれは?」

まいった、本当にまいった。
お互い遠慮が無くなったと言う事は、つまりアルトリアも遠慮しないって事だ。
しかも、以前のように力任せに迫る迫力じゃなくて、微笑みながら聞いてくるなんて、すっごい反則だ。
その笑顔に俺が抵抗出来るわけないし、知っててするなんて狡いぞアルトリア。
さっきの仕返しか、うぐっ。
もちろん、無条件降伏するしかない俺は、恥ずかしさに赤面しながら答える。

「―――嘘になると思ったんだ、俺がセイバーを愛した気持ちがさ」
「え、シロウ……」
「俺が器用じゃないし、第一似ているからってその人を簡単に好きになったら、相手にだって失礼だろ」
「シロウ……」
「あの日、別れる事しか出来なかったけど、あの気持ちだけは本物だし今もそうだから……」
「ごめんなさい、シロウ」
「ん?」
「貴方を悩ませるつもりは有りませんでした、素直に最初から話し掛ければ良かった」
「ああ、いいよ、気にしてないから」
「ごめんなさいシロウ、でも嬉しいです……シロウの深い思いが解ったので」
「うん」
「この先、貴方の心を試すような真似はしません、我が身に誓って」
「い、いいって、本当に怒ってないし」
「シロウ、やっぱり貴方はシロウだ、私が愛したただ一人の―――」
「アルト―――」

腕の中で踵を浮かし背伸びをして唇を重ねてくる。
それは自分の非礼を詫びるように、丁寧な優しいキスだった。
俺もその気持ちを受け止めて、彼女の髪を撫でる。
サラサラと指の間を流れる感触に、アルトリアの魅力を再発見したりした。
そう、どこまでいっても、アルトリアは女の子なんだ。
嬉しくてもう、頭を乱暴に撫でてしまう。

「や、止めてください、シロウ」
「ははっ、ごめん、なんかもう嬉しくってさ……同じ時間で生きているんだなって」
「だからと言って乱暴です、もう髪が……」
「うん、ごめん」
「……なんか抱きしめて誤魔化していませんか、シロウ?」
「気のせいだ、それともいやだった?」
「いえ、私としては不本意ですが、これはこれで……その、問題有りません」
「素直じゃないなぁ、誰かさんは」
「む」
「怒った顔も可愛いぞ、このまま押し倒したい、うん」
「あ、あの、そのここでは……こ、困ります」
「ここじゃなければいいのか?」
「あ―――!」
「案外アルトリアって……むぐっ!?」
「シロウ、これ以上詰まらない事言うと、承知しません」
「うっ」

腕の中から離れた彼女は、剣を構えるそぶりをしてみせる。
まさかと思ったけど、今の彼女に剣が有るわけがない夜なぁ……。
しかし、万が一と言う事もあるし、素直に聞いてみよう。

「アルトリア」
「なんですか、シロウ、詰まらない事ならどうなるか―――」
「いや、素朴な疑問なんだけど、剣無いんだよな?」
「はい?」
「そうだよな、伝説通りなら聖剣は返しちゃったんだから有るわけ―――え?」
「実はですねシロウ……」

彼女手の中で見えなかったはずの剣が、星の光を集めた聖剣がそこにあった。
ちょ、ちょっと待てよ、何で返したはずの剣があるんだ。
どういう事なんだ?

「これは紛れもない―――約束された勝利の剣、あの時私が使っていた物です」
「なんで……」
「その、魔術師が……お爺さまが誕生日プレゼントだと、知り合いの人から貰ってきたとかで、私に」
「は、ははっ、あはははーーーっ」
「シ、シロウ」
「やられたよ、ホント凄いな、アルトリアのお爺さんは、俺の負けだ」
「はい?」
「そこまで演出されているんなら、俺も精一杯応えないと怒られそうだ」
「どう言う意味です、シロウ」
「うん、名実共にアルトリアの鞘になって、あらゆるものから護れって言われたんだよ」
「はぁ……」
「もう深く考えるのは止めた、アルトリアがここにいる、それだけで十分だ」
「あの、シロウ」
「さあ帰ろう、早く帰らないと何言われるか解らないしな」
「良く解りませんが、シロウが納得しているなら、私は何も言う事はありません」
「うん」

少し訝しげな表情だったアルトリアだけど、俺が笑顔でいるのを見たら、一緒に歩き出した。
そして、少し遠慮がちに俺の腕を掴んで頭をすり寄せる。
ちょっと歩きにくいんだけど、まあいいやと思う。
話はしなかったけど、俺とアルトリアの間には、こうしっかりとした絆が感じられて、良かった。
まあ、家に帰ればこうする事が簡単に出来ないと思うから、二人だけの時間を満喫しよう。
視線を横にいる彼女に移すと、至福だって笑顔が浮かんでいた。
ああ、この笑顔を守るために、俺は正義の味方を目指していこう。
それが借り物じゃない、俺が思った本当の思いだった。
しかし、家について玄関の扉を開けた時に、こちらを睨んで仁王立ちな三人を見たら、幸せな気持ちが吹き飛んでしまった。

「「「おそい(です)!!」」」
「「えっ」」
「何をしてたの、二人とも!」
「シロウ、素直に話した方がいいわよー」
「先輩、不純異性交遊はいけないと思います!」
「な、何言ってるんだよ、アルトリアの荷物を取りに行ってただけじゃないか」
「そ、そそそうです、私たちは別になにも……」
「「「怪しい(です)」」」
「「うっ」」
「士郎、唇に何か着いているけど、それはなに?」
「え、まさかっ」
「シ、シロウ!」
「あ―――」
「語るに落ちたわね、衛宮くん」
「ほーんと単純ね、シロウって」
「先輩、本当ですか!?」
「い、いいじゃないか、アルトリアとキスしたって……好きなんだからっ!」
「あ、シロウ……」

言った、言いました。
男らしくすぱーんと宣言しました。
アルトリアも嬉しいのか、潤んだ瞳で俺を見つめている、間違い無い俺は正しかった。
そう胸を張って、今は無き親父に報告出来る、好きな人が出来ましたって―――。
だけどその前に……目の前のこう異様なオーラが湧き出ている三人の女の子たちが怖いんですけど、もの凄く。
それで気が付いた俺の失言、好きな人じゃなくて恋人だって言えば良かったと。

「そう、好きならキ、キスしてもいんだ、そうなんだ、ふーん」
「遠坂?」
「じゃあわたしもシロウにキスしてもいいんだねー♪」
「イリヤ?」
「せ、先輩、わたしも先輩の事……す、すす好きですから、その……」
「えっと、桜?」
「だめです!」
「ア、アルトリア?」






そう言って、俺の前に立つアルトリアは、鎧姿になりその手にはエクスカリバーが―――って、ちょっとまてっ!?






後ろからアルトリアを羽交い締めしながら、それでも睨み合う彼女たちを見ながらふと思った―――。






いつになったら部屋に上がれるのかなって、そして何時になったら寝られるんだろうって、はぁ。






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