Original works Fate/stay night
(C)2004 TYPE-MOON






彼女の言葉、それは驚く事でもなく、そう―――。






剣となり戦う彼女を守ると決めた俺の半身、その鞘の名は―――“全て遠き理想郷”






最後まで王として生き、貫き通した彼女がたどり着く場所は、最初から決まっていたんだ。






だから言える、俺たちが出会うのは運命じゃなくて、それは当たり前の事だった。






今日も一日ご苦労さんと、授業も終わって鞄に教科書を詰めていると、なんとなくそわそわする。
これから彼女と夕飯の買い物なんだけど、なんて言うかわくわくするのはしょうがないか。
だって、アルトリアと二人行くと思うだけで、顔が熱くなってくるし。
あー、だめだ、顔がにやついてくる。
思わず手で顔を押さえるけど、落ち着こうと思うほど、楽しさが溢れてくる。
落ち着け衛宮士郎、こんなことじゃこの先どうするんだ。
これから俺とアルトリア、二人で何かをする事が沢山あるはずだ。
その度に赤面している場合なんて恥ずかしいじゃないか。
と、心の中で葛藤していると、獲物を見つけたーって顔した美綴が話し掛けてくる。

「衛宮、ご機嫌じゃないか」
「美綴」
「ふむ、察するところこれから何かあると見た、なんだ?」
「そ、そんなことないぞ、ただ夕飯の材料を買いに商店街に行くだけだ」
「なるほど、料理好きの衛宮らしいな」
「そう言う事だ、じゃあな」
「で、誰と行くんだ?」
「なっ」
「遠坂……じゃないか、一成は生徒会だし、部活の桜でもないよなぁ」
「くっ、美綴、お前解って言ってるだろっ」
「いや、あたしは超能力なんて無いから全然解らないなぁ、ふふっ」
「シ、シロウ……」

なんて底意地が悪いんだ。
さすが遠坂と親友なだけの事はある、有る意味似たもの同士だ。
一つ安心出来るのは、普通の人間だってことかな。
でも、実は魔術師だって言われたら、信じて疑わないだろうな、だって美綴だし。
それはともかく、からかわれているのが解っているらしく、側にいるアルトリアが困った顔している。
いかん、このまま付き合っていたら根ほり葉ほり聞かれるのが目に見えている。
ここはさっさと行くに限る、よし。

「じゃあな美綴、また明日、いくぞ、アルトリア」
「は、はい、シロウ」
「衛宮」
「なんだ?」
「お幸せに」
「うっ」
「あっ」
「なるほど、仲良く手を繋いで買い物か、同棲でもしているのかな、ん?」
「い、いいからほっといてくれ!」
「シロウ、落ち着いて」
「そうそう、良く周りを見るんだ」
「え……」

美綴の言うように教室を見たら、クラスメイト達がなにやら俺たちを……いや、俺にいろんな視線を送っているのが
解った。
なんだか嫌なプレッシャーが感じられるんですが、俺が何をした。
特に男子たちの視線が、こう聖杯戦争の時に感じた殺気に似ているって言うかそのままか、おい。
ニヤニヤして、自分の結果に満足している美綴を睨んでから、足早に教室を後にした。
もちろん、アルトリアの手は握ったままだけど。
この時、いつもなら教室に来る遠坂の姿を見なかったが、一刻も早くこの場から逃げたかった俺は気に留めなかった。
それがこれから起きる事の、前振りだったんて思う奴はいないと思う。






Stay Re-birth Night 6






「少し買いすぎましたね、シロウ」
「いや、きっとすぐになくなるから」
「シロウ、何度言ったら解るんですが、私は……」
「ショートケーキにモンブラン、どらやき、芋ようかん、あとみつ豆だっけ?」
「あ、いえ、それは……」
「ついでに言うと、みんな一個じゃないよな」
「これはそう……凛やタイガたちの分ですから」
「両手に抱えるほど食べるかなぁ……」
「む」
「ははは、冗談だよ」
「もうっ、シロウはいつから意地悪になったんですか」
「ごめん」

怒った顔が見たいからなんて言ったら、もっと怒りそうだから黙っている。
そんな顔も可愛いし、もっと見たいと思うだけでくらくらくる。
これが毎日続くんだよなぁ……ううっ、俺暴走しそうだ。
だが、これでも正義の味方を目指している者としては、強靱な理性で押さえなければならない……と、思ったり。
あーもー、これもアルトリアが可愛いからいけないんだ、うん。
今も俺の横で夕焼けに照らされた彼女の髪が、眩しくて目を細めてしまう。
ふと、思う―――俺は彼女に相応しい男なんだろうかって。
自分を卑下しているとは違うかな、今までこう恋人と呼べる存在がいなかった男としては、
彼女が好きになった理由が気になるところである。

「なあ、アルトリア」
「なんですか、シロウ」
「俺のどこがその……いいんだ?」
「え」
「つまり、アルトリアがす、好きになったところと言うか、うん」
「あ……その、それは……ですね」
「言いにくいところか?」
「いえ……」
「ごめん、忘れてくれ」
「ま、待ってくださいシロウ」
「うん」
「それは、シロウがシロウだからです」
「はい?」
「だからっ、シロウがシロウだからその……好きなんです」
「えっと、すまんアルトリア、もう少し細かく教えてくれないか」
「……っ、シロウ!」
「は、はい」
「これ以上、ここでは言えません」
「どうして?」
「ま、周りを気にしてください」
「あ」

商店街のど真ん中で、しかも夕方で人が多くて俺たちの会話に興味津々の人集りが出来ていて、
割と大きな声でそんな会話してたと気が付いて。
瞬間、注目されている恥ずかしさに顔が真っ赤になって、俯いた姿のアルトリアの耳も真っ赤で、
何故か周りから拍手されて、ますます赤くなっていく俺たちでした。
あー、暫くあの時間に買い物にいけないなと、つまんない事考えたり。
いかん、アルトリアと一緒だと、周りが見えなくなっている。
それだけ彼女から目を離せなくなっているんだろう、それだけ俺の心を捉えて離さないんだろう。
今更ながらあんな事聞く俺がどうかしてた、聞く必要なんて無かった。
俺を見つめる碧眼の目が、彼女の心を全て語ってるんだから―――。
アルトリアが言ったとおり、俺は俺らしくしているのがいいんだな、うん。
そう納得して隣にいる彼女と目が合うと、自然に笑えたと思う。
あー、幸せ……だと思っていたら、落とし穴ってあるらしい、しかも割と目の前に。

「「ただいま」」
「「「おかえりなさい、士郎、先輩、シロウ」」」
「ど、どうしたんだみんな、玄関で?」
「凛、なにか有りましたか?」
「そうね、有ったと言えば有ったかな……ふふん」
「え、えっとですね先輩、実は……」
「ダメよサクラ、それは食事の後でよ」
「ん? まあ話なら夕飯の後でゆっくり聞かせてくれないか」
「そうですね、それにこのままだと重くて困ります」
「はいはい、同棲始めて一緒に買い物してきましたって顔するんじゃないわよ、士郎!」
「な、何言ってるんだ遠坂!?」
「り、凛!?」
「先輩、デートしてたんですか?」
「いや見ての通り夕飯の買い物してきただけだぞ、桜」
「そうです桜、デ、デートなんてまだ……」
「ふーん、まだなんだ、へー」
「なんですかイリヤ、その笑いは?」
「別に、まだまだチャンスはあるんだなって、そう思っただけよ」
「何のチャンスですか……」

それから俺を放置気味で話し出したので、ため息ついて居間に行くと、虎が寝てた。
それはもう、色気もない姿で、女性に対して幻滅を抱かせるようによだれたらしてまー、おい藤ねえ。
いい加減にしないとイリヤに先超されて最後まで孤高に生きるぞータイガーと、小声で耳元に囁く。
それが解ったのか、むむむと唸りながら転がり始めて―――柱に激突した。
痛さにのたうち回る藤ねえを見て、今がチャンスだとどめを刺せと、誰かが言ってる気がしたが無視した。
これでも俺にとっては家族だから無下には出来ないし、報復が怖いって言うのが本音だけど。
早くいい人見つけて人間戻ってくれと、心で願いつつ夕飯の準備を始める。
そして台所に良い匂いが立ち始めた頃、玄関からみんながどたどたやってきた。
決まった席に座って、アルトリアは俺の横に座った瞬間みんなから緊張伝わったけど、桜も手伝って運んだ料理は、
藤ねえが皿を抱えるほど好評だった。
そしてデザートを食べ始めた時、唐突に遠坂が言い出した。

「そうそう、今日からわたしもここに住むからよろしくね、もう荷物も運んだから」
「そっかー、ここに住むんだ……っておい遠坂、なんでそう急にしかも事後報告なんだよ」
「言っておくけど、わたし負けたままって納得出来ないし、なにより中途半端が許せないから、みっちり仕込んで上げるわ」
「確か俺は未熟なのは解るけど……って本音は最初の方だろ」
「当たり前でしょう、必ず仕返ししてやるからそのつもりで」
「くっ」
「シロウ、わたしもリンに協力するから、ここに住むわ」
「イリヤまで、でも藤ねえ起こさなくて良いのか?」
「そうよ、私が遅刻しちゃうし、それにここに住むなんて許さないんだからー!」
「おいタイガー、言ってる事情けないぞ」
「私を虎と呼ぶなー!!」
「でも、ライガがいいって言ったわ、もちろんみんなの同居もね」
「お、お爺さまー!!」
「あ、あの先輩、みんなのお世話も先輩一人だと大変かなって思ったので、私もここに住み込みますね」
「桜?」
「あの、だめですか?」
「い、いや、それは助かるけど……」
「……はぁ、良かったぁ……」
「なあアルトリア……」
「シロウ、解っていると思いますが、どうしてこんな事になったかなんて言わないように」
「え、えーっと?」
「いいですね、シロウは思っている事を素直に口にし過ぎますから黙っていてください」
「ア、アルトリア」
「い・い・で・す・ね」
「は、はい」
「シロウ、紅茶のお代わりを頂けますか?」
「う、うん」

問答無用、竹刀で叩きますよって睨むアルトリアが怖かったので、そのまま台所へ新しい葉を取りに行く。
何もそんなに睨まなくてもいいじゃんかよー、と思ったけどまた鈍いって言われるだけじゃ済まないから
ここはおとなしく彼女の指示に従う。
ちなみにむっとした顔で睨んでくるアルトリアも、なかなか捨てがたいものがあったり。
どんな表情も、俺にとっては大切なもので、それが見られるのが嬉しい。
しかし、なんでみんな家に住むなんて言い出すんだろう。
でも、この言葉を言ったら最後、明日の朝日が見られないなんて気のせいだと信じたい。
そして台所から戻ってきた俺が見たものは、タイガーを除いて笑顔で笑い合っていた。
なのに俺の背中には嫌な汗が流れた、確かにみんな笑顔なんだけど、この空気はいったいなんだ。
親父、こんなにも笑顔が怖い女の子たち、見た事あったら教えてくれ。

「はぁ、どうしてこんな事になるんだ……」
「そうですね」
「アルトリア」
「なんですか、シロウ」
「もしかしなくても、怒ってる?」
「どうして私が怒るんですか?」
「いや、どうみても怒ってるじゃないか」
「それはシロウに責任があります」
「俺?」
「まったく、そこまで鈍いのは最早悪と言っても過言でありません」
「おいおいっ、それって酷いぞ」
「事実を言ったまでです、何か問題が有りますか?」
「うっ……ごめん、言いたい事は何となく……」
「でも、私としてはそのままでいいです、それがシロウですから」
「あー、うんってなんか誉められていないような……」
「誉めたつもりはありません」
「アルトリア!」
「くすっ」

夕飯の後、彼女の荷物を滞在していたホテルまで取りに行った帰り道、俺は虐められていた。
着替えだけとはいえ、かなりの荷物に俺の両手は塞がっている。
まだ、話を聞いてないけど、彼女が泊まっていた部屋がかなり高級なのが、支払いをしているを横目で見て解った。
だから、これから話してくれる話が、余計に楽しみになってしまう。
もう一つ気になっているのは、あの鎧姿だ……確かにあれには魔力を感じた。
とにかく話を聞かない事にはしょうがないし、俺なんかが想像しても解らないだろう。
うん、と頷いて前を向いた時、いつの間にか先を歩いていた彼女が振り向いて足を止める。
ここは、あの日と同じ、彼女を守りたいと思った公園だった。






「シロウ―――あの時、私が言った言葉を覚えていますか」






そう微笑むアルトリアは、あの日と同じ月明かりに輝く、騎士王の姿に変わっていた。






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