Original works Fate/stay night
(C)2004 TYPE-MOON






世界が変わるって言葉があるけど、今体感している。






隣には、世界で一番大切な、彼女がいる。






目が合うと、頬を染めて俯く仕草が、愛しすぎる。






幸せ一杯胸一杯、徹夜明けとは思えないほど、俺は元気だった。






「……シ、シロウ」
「なに、アルトリア?」
「その……ですね」
「うん」
「貴方が鈍いのは解っていますが……」
「うん」
「……シロウ?」
「うん」
「む」
「うん」
「シロウ!」
「うん……って、な、なんだアルトリア、怖い顔して?」
「シロウ、貴方にはこの気配が察知出来ないのですか?」
「解ってるぞ」
「だったら……」
「それよりも、こうしてアルトリアと一緒にいる方が嬉しくて気にならないんだ」
「うっ」

どうも、頭の中のねじが緩んでいるか、本音を言ってしまった。
アルトリアは耳まで真っ赤にして、俯いちゃった。
もちろん俺も耳まで真っ赤なんだと思う、顔中熱いし。
ちなみに、今は一緒に登校中だ、すっごく嬉しい……いや、メチャクチャ嬉しい。
だから、後ろから着いてきている、遠坂と桜とイリヤが殺気を漲らせているが、
全然気にしない。
だって、側にはアルトリアがいるんだ、これ以上何を望むって言うんだ。
今の俺なら遠坂のガンド撃ち百発撃たれても、軽く流せそうだ……無理だけど、気分的にはそんな感じ。
それになんと言ってもどうして俺に殺気を向けてくるのか解らないから、その方が気になる。

「なあアルトリア」
「なんですか、シロウ」
「あのさ、遠坂も桜もイリヤも、どうして俺に殺気を送ってくるんだ?」
「は―――」
「もしかして、今朝の朝食が気に入らなかったとか」
「あの、シロウ……」
「それとも、アルトリアを黙って泊まらせた事かな?」
「本気で言ってますか、シロウ?」
「うん、なんでだろうなぁ……」
「はぁ……凛たちが不憫でなりませんが、私にとっては良い事ですね……」
「え、アルトリア?」
「な、なななんでもありません!」
「んん?」
「と、とにかく、今日は凛たちの好きな物を夕食に出して上げてください」
「ああ解った、それで機嫌直ってくれるなら助かる」
「ええ、そうしてください」

アルトリアのお願いもあるし、遠坂たちの機嫌が良くなるなら、俺も協力しないと。
こう、いろいろあるんだろうなぁ……アルトリアは同じ女の子だから解ったみたいだけど。
俺も彼女の気持ちを少しでも解る努力しないとだめだな、もう泣かせたくないし。
これからは二人でいろんな事して、いろんな所に連れて行って上げたい。
英霊じゃない、彼女はもう一人の女の子なんだから―――。






Stay Re-birth Night 5






話は朝食の時間に戻る。
みんな、俺が彼女を連れてきたので、呆然としていたけど、
真っ先に遠坂が復活して、それに習うようにみんなも睨んできた。
敢えて見なかった事にしてアルトリアを横に座らせて、俺も座っていただきますを言おうと思ったけど、
遠坂の言葉がそれを邪魔してくれました。

「衛宮くん、なんで彼女がこの時間に、しかも貴方の部屋の方から現れるのかしら?」
「そ、そそそそんな事言えるかっ!」
「じゃあ彼女―――アルトリアさんに聞くけど、いい?」
「よ、よせって、イリヤだっているんだし」
「あら、わたしは構わないわよ、シロウ」
「イリヤ?」
「だから教えなさいシロウ、昨夜から今朝までのあなたの行動を」
「だ、だめだって、イリヤにはまだ早いから」
「―――先輩」
「桜?」
「誰にだって過ちはあります、ですから正直に話してください」
「あのな、桜……人を犯罪者みたいに言わないでくれ」
「どっちにしろ士郎、あなたには逃げる事も出来ないし許されないんだから、きりきり吐きなさい」
「だから遠坂も、俺を犯罪者扱いするなっ!!」
「落ち着いて、シロウ」
「あ、ああ、すまん、アルトリア」
「ふぅ……私から説明した方がいいですね」

しっかりご飯を三杯もお代わりを食べて、食後のお茶を飲み終わったアルトリアは、静かに湯飲みを置いた。
それにしても食べる事には相変わらずなんで、やっぱり彼女なんだなぁと内心ほっとしていたり。
まあ説明は彼女に任せて、俺は冷え切った朝食に手を付ける。
……ってみんないつの間に食べたんだよ。
それはおいて、何か忘れている気がするんだけど……まあいいか。
たぶん、問題ないと思う。
しかしアルトリア、どんな事言うのか気になるところだ。

「アルトリア=ペンドラゴンです、曾祖父とシロウの父切嗣との約束を果たすために、日本に来ました」
「ふーん、約束ね……持って回った言い方しないでハッキリ言ってくれないかしら、アルトリアさん」
「私はシロウと許嫁の間柄なのです、そしてその事を伝えたらシロウも快く私を認めてくれました―――凛」
「くっ、そう来たか……迂闊だったわ」
「ですから、凛もシロウの腕を抱きしめて一緒に昼寝をするなんて事はしないでください」
「な、ななななんでその事を知ってる……って話したの士郎!?」
「俺は何も言ってないぞ、単に見られてたらしい」
「み、見られてた―――」
「遠坂先輩」
「さ、桜!?」
「先輩に抱きついて寝ていたって本当ですか?」
「だ、抱きついてなんていないわよ、そんなことより今は―――」
「そうですね、今は遠坂先輩が抜け駆けした事が問題ですね」
「抜け駆けって、ちょっと桜っ」
「人の事は言えないでしょ、サクラは」
「な、何でですか?」
「いっつもいっつも、わたしがシロウ起こしに行くって言ってるのに、起こしちゃうし」
「それは、今までわたしが先輩を起こしていたから……」
「今まではでしょ? これからはわたしが起こすから、いいわねサクラ」
「……認めません」
「聞こえませーん」
「認めませんと言ったのです、先輩を起こすのはわたしの役目です!」
「そんなの誰だっていいじゃない、今は彼女を……」
「抜け駆けした人は引っ込んでてください!」
「そうよ、シロウと一緒に寝るのはわたしが最初だったのにー!」
「あんたたち、言いたい放題言ってくれるわね……」
「―――少しは落ち着いてください、今は朝食の時間です」
「アルトリア……」
「あ、あなたは……」
「ふーん、余裕ね……」
「とにかく、これからシロウとは節度を持ったお付き合いをお願いしますね、凛、桜、イリヤスフィール」

えーと、そこで何で俺を睨むのですか、お嬢さん方。
無言で睨まれるのはかなり来ます、食事のあとじゃなければ胃に穴が空きそうです。
でも、有無を言わせないアルトリアの言葉に、居間は静かになった事は確かだ。
ほっとため息をついて気が抜けた時を狙ったのかの如く、どどどっと獣が足音響かせてやって来た。
ああ、そっか、藤ねえ忘れてた。

「ひどいよーイリヤちゃん、起こしてくれないから大寝坊だよー」
「わたしはちゃんと起こしたよ、起きないタイガが悪いのよ」
「うー、悪魔っこに磨きが掛かってるよー、なんとかしないさよ士郎!」
「連れて行ったのは藤ねえだろ、自業自得だ」
「ううーってあれ、なんでアルトリアさんがいるの?」
「おはようございます、藤村先生」
「うん、今日から一緒に住むんだ」
「へーそうなんだ、うんうん」
「「「士郎、先輩、シロウ!!」」」
「なんですとーーーーーーーーーーーー!!」
「―――っ、朝から大声出して騒ぐなよ、藤ねえ!」
「やっと女の子連れ込む事が無くなったと思ったのに、今度は転校生と同棲なんてベタベタなラブコメなんてだめー!!」
「ぐあっ―――耳が、キーンと耳があっ」
「大丈夫ですか、シロウ!?」
「ちょっとアルトリアさん!」
「なんですか、藤村先生」
「いいの? 士郎は前に連れ込んでいたあなたのそっくりさんの代わりにしようとしているのよ!?」
「構いません」
「なぜー!?」
「何故と言われても……えっと、実は代わりじゃなくて、その本人だからで―――タイガ」
「なんですとー!?」
「ですから、問題ありません」

アルトリアの言葉を確かめるように、顔を近づけて頭の先からつま先まで何回も舐めるように見つめる。
まるで獲物を吟味しているのか、今にもかぶりつきそうな藤ねえ。
まさにタイガー、その動きは獣そのものだ。
その視線が在る一点で止まった、それはアルトリアの白い首筋だった。
そしてその周辺をめまぐるしく藤ねえの顔ががくがくと動く、それに伴い体もぶるぶる震え始める。
あ……しまった、目に見える場所に付けちゃった……俺のバカ。
慌てて藤ねえを引き離そうと思ったが、遅かった。
そして―――虎が吼えた。
その大声が、町内放送よろしく、俺の秘密を町中にお知らせしてくれくれました、ううっ。

「アルトリア」
「なんですか、シロウ?」
「みんなの好きな物を作るのはいいんだけど、冷蔵庫の中だけだと材料が足りない」
「そうでしょうね」
「それにみんなよく食べるからなぁ……誰とは言わないけどね」
「シロウ、それは暗に私が大食漢だと言いたいのですか」
「いや、俺の作った料理を沢山食べて、幸せそうにしている誰かさんを見るのは大好きだな」
「―――ずるいです、その言い方は卑怯です、シロウ」
「誰もアルトリアなんて言ってないぞ」
「シロウ!」
「ごめん、だからもっと幸せになって欲しいから―――放課後、買い物に付き合ってくれるかな?」
「あ……はい、私でよければお付き合いします」
「うん、アルトリアじゃないとダメなんだ」
「シロウ……」
「もちろん、アルトリアのおかずは一品増やすからさ」
「シ、シロウ、ですから私は大食漢ではないと……」
「いやか?」
「だから……その聞き方は卑怯です、シロウ」
「だめ?」
「……いります」
「うん」

本当に可愛すぎるぞ、アルトリア。
もう、どんな表情も俺を捉えて離さない。
だから、俺は嬉しくて我慢出来なくなりそうで、いつも抱きしめたくなってしまう。
でも、少し不安がある―――。
俺はまだアルトリアがどうやって、帰ってきたのか聞いていない。
人目についても問題ないみたいだし、召還されてるって事でもないようだ。
その疑問を考えていたら、アルトリアが呟いた。

「シロウ、貴方が今考えている事は、夜話します」
「え?」
「大丈夫です、シロウの前から消えたりはしませんから」
「う、うん」
「だからそんな不安な顔をしないでください、シロウ」
「ああ、じゃあ今夜楽しみにしている」
「はい」

考えが読まれたのが、ちょっと恥ずかしかったから、お返しに手を握りしめる。
途端、アルトリアの顔は赤かったけど、微笑み返してくれた。
あー、幸せだな―――。






そしてすっかり忘れていた後ろの三人が、ひそひそ話をしていた事に気が付かなかった。






それが俺とアルトリアのこれからを祝福する内容じゃないことだけは、漠然と解った気がした。






まあそんな事はどうでも良かったんだ、こうして彼女と一緒にいられるのが幸せなんだから。






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