Original works Fate/stay night
(C)2004 TYPE-MOON
―――嘘だ。
こんな事有るわけながない。
だって、彼女は―――。
「先輩?」
「…………」
「士郎?」
「……あっ」
「あの……お味噌汁、辛かったですか?」
「いや、いつも通り美味しい」
「はぁ……よかった」
「もう士郎、食べてる時に考え事はだめだぞー」
「うん、そうだな、ごめんな桜」
「い、いいえ」
せっかく作ってくれた桜に悪いことしたな。
しっかりしろっ、衛宮士郎。
不思議な顔している二人を気にしながらも、気を取り直して食事に集中する。
でも、そう思えば思うほど昨日の夜が、浮かんでくる。
Stay Re-birth Night 2
静かな土蔵の中で、自分の鼓動が耳鳴りのように頭に響く。
息をするのも忘れて、彼女を見つめる。
喉が渇く、けど気にもならない。
何かに気を取られたら、この夢が覚めてしまうと思ったから―――。
「―――シロウ」
呼びかけるその声に体が震える。
でも、近づく事が出来ない……体に意志が伝わらない。
どうして?
その代わり、やっと口だけが動いた。
「セイバー……」
俺の声を聞いた彼女は頷き、一度目を閉じてから、再び見つめ返してくる。
ああ、やっぱり夢だ……だって、彼女はこんな笑顔を見せてくれた事がない。
嬉しかった、本当に嬉しかった。
こんなにも好きだったなんて、これからも思い出せる。
忘れても忘れない、きっと……。
彼女と同じように目を閉じ頷き、再び開いた時には、土蔵の中にいたのは俺だけだった。
「ねえ士郎、あの転校生、セイバーちゃんにそっくりだったね」
「そうだな……でも、セイバーとは別人だよ」
「先輩、そんなに似てるんですか?」
「ああ、よく似てるよ……」
「そうだ、桜ちゃんも見に行ってみれば?」
「え、ええ、そうですね……」
「ほらっ藤ねえ、急がないとまた遅刻だぞ」
「またって言うなーっ!」
「ふふっ、もう先輩……」
朝練に出る桜と藤ねえを見送って、食器を洗い戸締まりをして、家を出る。
途中、先に来ていたのか、いつもの交差点に遠坂が立っていた。
……なんだろう、何か気になる。
「おはよう、遠坂」
「おはよう、衛宮くん」
「?」
「なに?」
「いや、その何か違和感が……」
「なによ、それ?」
「何でもない、気のせいだろう」
「へんなの、ほらっ遅刻するわよ」
「う、うん」
歩き出して暫くしたら、その違和感がなんだったのか解った。
隣の遠坂を見てそれは間違いないだろう。
だってこんなに朝から上機嫌だし。
「なあ、遠坂……」
「なに、衛宮くん?」
「どこかおかしいのか?」
「なによ?」
「いや……いつもだったら後から来ると『遅い!』って言う遠坂が、笑顔で挨拶するから」
「は―――ってどういう意味よ、それ?」
「ほらっ、なんて言うか反応が遠坂らしく無いというか、うん」
「あなたね、どういう目でわたしのこと見てるの、っていうかそんな目で見てたんだ、ふーん……」
「ま、まてまてっ、俺はただ……」
「ただ、なに、つまんない言い訳だったらこの場でガンド撃ち、いい?」
「よくない!」
まったく、人が心配しているのにどうしてこう捻くれて受け取るのか、この赤いあくまは。
目の前で腕を上げ、袖を捲ろうとしている遠坂に、思っている事をはっきり口にした。
どっちにしろこのままだと俺の命がなくなるし。
「さあ、言いなさい、士郎」
「はぁ……決まってるだろう、遠坂が心配だった、それだけだ」
「―――!!」
「?」
待て遠坂、なぜそこで顔を赤くする。
俺、なんか変な事言ったか?
普通、いつもと様子が違ったら心配するのは当たり前だろう。
やっぱり調子でも悪いのか?
共に聖杯戦争を生き延びた仲間としては、気になるところである。
「おーい、遠坂」
「!! な、なによ?」
「顔真っ赤だけど、熱でもあるのか?」
「こ、これはっ……いいから学校に行くわよ!」
「あっ、待てよ」
何故か早足で歩き出す遠坂。
俺の声が聞こえてないのかずんずん先に行ってしまう遠坂に追いつけず、
結局そのまま学校に着いてしまった。
うむ、鬼……あくまの攪乱か?
そして教室の前で、何故か一成が待ちかまえていた。
「おはよう一成」
「うむ、おはよう衛宮、少し話があるのだがいいか?」
「ああ」
「……HRもすぐなので手短に言おう、彼女はセイバーさんなのか?」
「違う」
「そうか、いやつまらない事を聞いた、すまん」
「ああ、気にしてない」
そうだ。
世界には自分にそっくりな人が3人はいるって言うし。
だから彼女もセイバーとは違うし、変に意識するのも失礼だ。
普通に接すれば問題ない、それだけだ。
それに俺の心には、あの夢が……彼女の姿が心にあるから。
そう割り切った俺は、教室の中に入った。
「では、アルトリアさん」
「はい」
淀みなく教師の質問に答え、教壇に立てば黒板に正解を書いていく字も綺麗だった。
つまり、彼女は出来る。
どのくらい出来るかって言うと、遠坂と同じかそれ以上って感じ。
不得意な科目なんて存在してない、それが彼女に当てはまる気がする。
そう……グランドを走る体操服姿の彼女は、一緒にいるクラスの女子と変わらない。
小柄だけど普通の女の子だった。
「またここなんだ?」
「と、遠坂っ」
「む……ちょっと、なんで逃げるのよ?」
「つい……」
「はぁ……」
そうため息をつく遠坂だけど、どかっと俺の横にさも当然と腰を下ろした。
呆気にとられている俺を、何文句ある、有るわけ無いわよね、とジト目でそう告げている。
まあ、憧れていた女の子が横に座っている、なんて状況が嬉しくない俺としては、
このままでもいかと。
会話する事もなく寝転がる俺の横で、昨日と同じように遠坂は口をつぐんで前を向いたままだった。
だから解った、これは遠坂なりの応援だって。
無言のエールに俺も無言で感謝する、いや今夜の晩ご飯はその分がんばるかな。
そう思っていた所為か、今度は眠り込むような事はなかった。
「うわーうわー、どうしたの士郎、今夜は豪勢だよねー、貯金全部使っちゃったの?」
「藤ねえ、この料理で使い切るほど俺の貯金は少ないのか」
「せ、先輩、でもどうしたんですか?」
「んー、まあ俺なりに日頃の感謝ってことかな」
「衛宮くん、なれない事すると禄でもない目にしか遭わないわよ」
「それは心外だな、少なくてもここ最近悪い事はないぞ」
「だからこそよ、だいたい……」
「ねねっ、そんなことより早く食べようよー」
「話は後だ遠坂、藤ねえにみんな食べられれる前に食料の確保が最優先だ」
「同感、さあ桜も箸持って」
「は、はい」
「……って、みんな酷いー!!」
叫ぶタイガーを無視して、みんな食べたい料理に箸を付ける。
負けじと大皿の一つを抱えると、そのままかき込む大胆な食べ方でもみんなを呆れさせる藤ねえの
野生の力に呆然としたり。
とにかく、楽しかった。
もう、めちゃくちゃな食事だった。
最後の方は理性の遠坂が、野生のタイガーを論理で撃破して、怒濤の晩ご飯は収束した。
もう、すっかり藤ねえの天敵……もとい、ハンター化している遠坂が頼もしかったり。
そんな事ぼそっと呟いた俺を見逃すはずない赤いあくまとタイガーに、明日もこれぐらい作れと
衛宮家の財産を食いつぶす約束をさせられたりした。
そして今夜も鍛錬の為に、土蔵に入ると―――。
昨日と同じ姿で、彼女は―――。
「遅いですよ、シロウ」
夢の筈なのに、腰に手を当てて、頬を脹らませる。
「ああ、ごめんセイバー」
などと、間抜けに相づちをしてしまう。
そんな俺の様子に納得したのか、彼女は微笑む。
だから、幸運にも見られた夢の続きを楽しみたくて、つまらない事は考えないようにした。
目の前の彼女と一分一秒でも一緒にいたくて……。
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