「私、今ここに福沢祐巳を妹<プティ・スール>とすることを宣言します」







勝ち誇ったような微笑みを浮かべて、小笠原祥子は部屋の中にいる者たちに言い放ったが、
名指しされた当事者の辛辣な皮肉を込めた言葉にその表情が固まった。







「お断りします、一昨日来てください」







ファーストフードで見られる極上の営業スマイルを浮かべて、福沢祐巳はばっさり切り捨てた。







「どうして、って聞く権利ぐらい私にはあるわよね」







こめかみに青筋を立てて睨んだ祥子だったが、祐巳は何言ってんのよとばかりに大きなため息をついた。







「理由なんていくつもありますけど、どれがいいですか?」







質問には質問で返す辺りに皮肉を込めたのだが、このお嬢様には通じない事を祐巳は知らなかった。







「あ、あるなら言ってみなさい」







ヒステリックに叫ぶ祥子を見て、あーだめだと言う表情になった祐巳は大げさに肩を竦めて、
改めて質問の答えを上げていく。







「名前も知らない人を妹呼ばわりする考えが理解できない、今そこで押し倒して謝りもしないで名前を聞いた直後に堂々と
知り合いだと言い切るのが理解できない、自分が嫌だからって他人をスケープゴートにする根性が理解できない、
こちらの意見も聞かずに一方的に話を進める思考が理解できない……まだ続けます?」






指折り数えながら話していた祐巳は、再び営業スマイルを浮かべて注文を取るように祥子に話しかけた。







「ま、まだあるって言うなら言ってみない」







どうやら、大きくプライドを傷つけられた祥子は後に引く考えが浮かばなかったらしい。







だから、祐巳は理解した……この人には言い方を変えようと。






「あなたの相手をするより夕方からのタイムセールが大事、あなたの事を考えるより今日の夕飯を考える方が大事、
あなたより実の弟の方がとっても大事、あなたより友人の桂さんや蔦子さんや志摩子さんの方がすっごく大事……あ
志摩子さんなら姉でも妹でも問題なくOKなのは余談、んーっとそれから……」






あら、光栄だわと言う志摩子さんに手を振り、言い過ぎよと苦笑いする蔦子ににへへと笑顔で応え、そして呆然としている
祥子には三度営業スマイルをぶつける。







「やっと解って頂けたようで良かった……あ、もう時間だから後は蔦子さんが勝手にやってね」
「ごめんなさい祐巳さん付き合わせちゃって、それで今日のセール品はなんなの?」
「うん、お醤油が一本100円でしょ、あと卵も1パック100円で、あとぶりの切り身が4つ入って300円なのー」
「それは大変、おばさんたちに負けないでね」
「あはは、それじゃ志摩子さんもまた明日ー」
「ごきげんよう、祐巳さん」
「ごきげんよう、志摩子さん、蔦子さん」






そしてぺこりと一応薔薇様たちにお義理で頭をさげると、祐巳はスカートを翻してとんとんと階段を駆け下りて行った。
残ったのは銅像よろしく固まった祥子と、もう祐巳さんたらところころ笑っている志摩子と、写真を見ながらどうしようかなーと
考える蔦子、そして取り残されて呆然としていた生徒会のメンバーだった。







しかし祐巳は知らなかった、この小笠原祥子と言う人物の諦めの悪さを……。






「で、どうするの祥子、まさか祐巳さんの事は彼女が言ったとおり行き当たりばったりだったのかしら? もしそうなら
そんな関係、認めるわけにはいかないわ。あなたの姉<グラン・スール>である私の品位まで疑われてしまう」
「いいえ、必ず祐巳を妹にして見せます。私が調教……じゃなくて教育して立派な紅薔薇にしてみせます。だったら、何の問題も
ありません」






一部、本音が出た言葉に薔薇様もその妹も蔦子もどん引きになったが、そんなことに気が付かない祥子は祐巳の後を追って
薔薇の館を後にする。







しかし、すでにその頃に祐巳はバスに乗って駅前のスーパーにむかっている所で、校門の所で地団駄踏んでいる紅薔薇の蕾が
目撃されたかどうか定かじゃない。







それが福沢祐巳、立派な庶民派代表の彼女が忘れられなくなる学園生活の幕開けになるとは、思いもよらなかった。







マリア様がみてる# Episode 0





Next Episode






ついに始まった、この先私立リリアン女学園に残る伝説の姉妹の物語が……。






主演、福沢 祐巳。

「私の平穏な学園生活を返して欲しいです」

主演、小笠原 祥子。

「祐巳、私よりお米の方が大切なの?」

助演、藤堂 志摩子、武嶋 蔦子、桂さん。

「祐巳さんて本当に素敵だわ」
「んー、あれでこそ祐巳さんだわ」
「私の名字はなにー!?」







その他、リリアン女学園生徒会の豪華メンバーでお送りする怒濤の学園ドラマ。







次回、マリア様がみてる# Episode 1






「今日のシンデレラ? 明日のツンデレラ?」






「祐巳ーっ、いい加減に言うこと聞きなさい!」
「……ホント、勘弁して」