コトコトとキッチンの方から聞こえる音と共に、良い匂いがわたしの鼻をくすぐる。
そっと覗き込むと案の定、朝が早いパパが手際よく朝食の用意をしていた。

「おはよございます♪」
「ああ、おはよ……うわあっ!?」
「ん?」

振り返って挨拶したパパが、突然叫び声をあげた。
なんなんだろう、顔を真っ赤にして口をパクパクしてキッチンのシンクに
仰け反ってる。

「どうしたんですか、士郎さん?」
「ちょ、ちょっと待ったっ」
「もしかして風邪でも引いちゃったとか?」
「そうじゃなくって〜」
「んん?」

後一歩で抱きつける距離まで近づいたわたしは、じーっとパパの顔を見つめる。
どんどん真っ赤になっていくパパの視線が、一瞬下を見たのでその視線の先を追っていくと
ようやく理解できた。

「あー、あはははー」

寝間着がなかったからシャツ一枚で寝ていたんだけど、体に身につけていたのはシャツと下着だけでした。
しかもボタン全開、おへそどころかほとんどばっちり見えてました。

「と、とにかく着替えてきてくれないか」
「んー、でもわたし士郎さんなら見られても全然平気だけど♪」
「俺が困るんだって」
「どうしてですか?」
「それは遠坂が……」
「わたしがなに?」
「ぐあっ」
「あ、おはようございます、師匠!」
「誰が師匠よっ!」



牛乳パック片手にじっと睨む凛さんの視線を自慢の胸に痛いほど感じながら、わたしは良い笑顔で挨拶をした。







Kaleidoscopes Chronicle Vol.2 〜with IN MY DREAM EXTRA another






「まったく、朝から何を騒いでいるのかと思えば……」
「ごめんなさいアーチャーさん、つい自分の家にいるのと勘違いしちゃって」
「トリア、君のは確信犯だろう」
「酷いなー、そこまで言いますか」
「ああ」

英国は倫敦の朝食は、白いご飯とおみそ汁で始まった……あ、納豆もちゃんとあるのがパパらしい。
そして食事の間、凛さんの視線がまだ突き刺さっていた、もちろん顔じゃなくて胸だったけど。

「……やっぱり敵だわ」
「あの凛さん、思いっきり口に出てるんですけど?」
「私も凛の意見と同じです、貴方はシロウに近づかないでください」
「セイバーさんの士郎さんじゃないのに?」
「わ、私は剣に誓ってシロウを守ると決めたのですから当然です」
「凛さん、マスターとしての意見は?」
「セイバーの意見と同じよ」
「うーん、アーチャーさん」
「自業自得だ、良い機会だから今までの自分の行動を振り返りなさい」
「振り返る事なんて無いのになぁ……」
「はぁ……」

アーチャーさんの大げさなため息に、わたしは心底振り返る事なんて思いつかない。
パパと一緒にお風呂入ったり、パパと一緒に抱きしめながら寝たり、パパと一緒にデートしてお泊まりしたり、
何にも疚しいこともないんだけどなぁ……。
そんなことを考えていたわたしの顔を見たアーチャーさんが、更にわざとらしく大きくため息をついた。
そして朝食が終わりのんびりしていると、凛さんが話しかけてきた。

「それで、二人は今日はどうするつもり?」
「特にはないな」
「わたしは士郎さんとデートがいいなー」
「それは却下よ、わたしと一緒に時計塔に行くんだから」
「ぶーぶー」

わたしの意見を秒殺した凛さんは、何かを考えるように黙り込むと、頷いてからおじさまを見る。

「……よし、ちょっと一緒にきてくれる、アーチャー」
「ふむ、時計塔にかね?」
「ええ」
「よかろう、少し確認したいこともあるしな」
「確認って?」
「大したことではない、現状での情報を集めるだけだ」
「そう、トリアはどうする?」
「わたしは留守番してます」
「ふーん、士郎も行くから着いてくるって言うと思ったんだけど?」
「時計塔は好きじゃないんです」

そう、凛さんにも言ったけど、わたしは昔から時計塔が嫌いだった。
理由はよく解らないけど、倫敦に来た時もわたしは時計塔には近づかなかった。
なんだか、記憶が曖昧になっている部分があるみたいで、小さい頃の事がいくつか思い出せなかったりする。

「そうか、ならおとなしくしているんだぞ」
「どこにも行かないですって、いってらっしゃ〜い」

そうしてわたし一人だけが、よく知っていて全然知らないこの家に取り残された。
静まりかえる家のリビングで、行儀が悪いけどソファーに寝転がって天井を無意識にぼんやり見つめる。
おじさまの言ったとおり、良い機会だから思い出せないことを思い出してみる。

「時計塔が何で嫌いなのか、その辺に有るのかもしれないなぁ……」

目を閉じて思い出すために思考の海に沈んでいたわたしは、いつの間にか眠り込んでしまった。
でも、この時に気がつけば良かった……どうしても思い出せないのか。
それは優しい嘘、わたしを見守ってくれる人たちが掛けてくれた魔法だって……。



Interlude



「執行者は、ここにいると言うことか……彼女を連れてこなかったのは正解だったな」

凛たちと別れた私は、よく知っている時計塔の中を歩いて、情報を集めていた。
立場上、凛の使い魔として振る舞っている私は、それを利用し気になることを調べ始めたが、
結果は好ましくない方だった。

「やはり、世界が違うと言うのは、勝手が違うか……」

一通り調べて凛との待ち合わせ場所に来たが、早かったのかまだ姿は見えない。
傍らを通り過ぎる魔術師たちの視線を感じるが、気にするほどでもない。
だから目を閉じてこれから起きるかもしれない不測の事態を想定して、対策を考える。
もしかしたら、今の状況以上にやっかいなことになるかもしれない、ならばどうするか……。

「まあ、答えは決まっているがな」
「何の答えでしょうか?」
「むっ」

その声に瞼を開くと、目の前にはよく知っている雰囲気を纏った女性がいて錯覚を起こしたが、凛では無かった。
気品高い空気にセイバーとは違った長く縦ロールな金髪の女性が、笑みを浮かべて私を見ていた。
ああ、そうだった……彼女は凛の宿敵だったな。

「これは失礼しました。わたくしはルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト、貴方がミス・トオサカの使い魔で
よろしいのですか?」
「ああ、私の事はアーチャーと呼んでくれたまえ」
「なるほど、確かに人とは違うようですわね。それにしてもミス・トオサカも英霊を二人も使い魔するとは、
正直驚いていますわ」
「なに、私はセイバーと違ってずっといるわけではない。それに君にもその内、使い魔みたいな情けない奴が
側にいることになるだろう」
「それはどう言う意味でしょうか?」
「あ、すまない、今の一言は忘れてくれ。深い意味はない」
「残念ですけどしっかりと聞いてしまって、忘れるのは無理ですわ」
「ふむ、君は凛によく似ているな」
「その言葉、冗談でも言ってほしくありませんわ。わたくしはあんなにがさつではありません」
「そうだな、君の方が淑女かもしれないな」
「かもではありませんわ」
「……ちょっと、人がいないのを良いことに、勝手なこと言わないでよ」

禍々しいオーラを放ちながらその言葉を告げたのは、苦笑いをしている小僧とセイバーを連れた凛だった。
どうやら途中から聞かれていたらしいが、わざわざ気配を立ってまで聞き耳たてることも無いだろうけど、
あえてそこは口にしない。
肩を怒らせてずんずんと女性らしくない闊歩で近づいてきた凛は、私の側に来るとバーサーカーも射殺せそうな
視線を向けてくる。

「このむっつりスケベ、時計塔に来た理由はナンパだとは聞いてなかったわよ」
「失敬だな君は、誰がそんな事しにここまで来るかね」
「アーチャー」
「凛、君がどういう目で私を見ているのかよく解ったが、それはあの小僧にも言っていると思って良いのかな?」
「あいつはいいの、だって私にべたぼれだから」

一瞬に呆気に取られてしまった、私が知っている遠坂凛と言う女性はここまで恋愛に対してオープンな意見を
返してきた事が無かったからである。

「なによ、その顔? なんか文句有るの?」
「いや、小僧も果報者だな、君にそんなに愛されているとは……セイバー、凛から小僧を奪うのは大変だぞ」
「ア、アーチャー、変なこと言わないでくださいっ。シ、シロウの相手は私ではなく……」
「だけどセイバーも小僧もお互い好きなのは事実だろう? そこの未熟者はあわよくば両手に花を考えているかもしれないぞ」
「お前なぁ、変なこと言うなよ!」
「ふん、セイバーが好きなくせに凛まで手を出したお前に反論する権利なぞ無い」
「……ああ、やめやめ。その辺のことは後でじっくり追求するとして、そいつがここにいる理由を聞いてないんだけど?」
「そいつとはずいぶんな言い方ですわね、ミス・トオサカ」
「ふん」

やはり彼女は凛の天敵であったか、世界が違えどもその辺りは同じとは、こちらの凛も苦労が絶えないな。
類は友を呼ぶ言葉通り、ルヴィアと凛は驚くほどよく似ている同じ魔術師だからな。
ふと、ここで気になったことがあったので、凛に聞いてみることにした。

「凛、大師父と最後に会ったのは何時だ?」
「え、何であんたそんなこと知って……」
「何時なんだ?」
「あれは聖杯戦争が終わった直後だから、2年前ね」
「そうか……」
「大師父がどうかしたの?」
「いや、確認しただけだ……そうか、気まぐれだから頼めはしないな」
「あ、もしかして宝石剣の?」
「うむ」

あの性格からすれば、素直に助けるなんて期待するのが間違っている、それに余計なことをされたら困るので
不在なのは良いことと思えばいい。
それであっさり無視されていたルヴィアの機嫌が、良くなることなんてなく寧ろガンドを撃つ寸前の凛と同じ空気を
纏始めていたので、こちらから話しかける。

「すまない、ミス・エーデルフェルト。失礼な態度を取ってしまったな」
「いえ、気になさらずに。それとわたくしのことはルヴィアと呼んでくださって宜しいですわ」
「そうか、ますます君は淑女だな。誰かさんにも見習ってほしいものだ」
「アーチャー、遠回しに言わなくてもいいのよ?」
「誰も君とは言ってないだろう。それに心当たりでもあるのかね、凛?」
「これっぽっちもないわよ、ええっ」
「ふむ、それならば先ほどの話に戻るが、ルヴィアがここにいたのは偶然だ」
「そう言うことにしておくわ」
「まて凛、どうして君は素直じゃないのかね? そこの小僧に告白された時はかなり女の子らしかったと思うのだが……」
「恥ずかしいこと言うなっ!」

そう言って人目もはばからずガンドを撃ってくるが、慣れ親しんだ日常で体制が付いている私はあっさりと避ける。
自分で言ってなんだが、こんな日常は遠慮したいと思っているが、『凛』はからかうと面白いから止められないと言う悪循環
が、私に止めさせるのを留まらせている。
その度に、自分がいかに『遠坂凛』に惚れていたのか、何回も自覚していた。

「ふっ、人の事は言えんか」
「こらそこっ、避けるな一人で納得するなっ」
「さて、用事も済んだしそろそろ戻らないと、お腹をすかせているセイバーとよく似た女の子が家で暴れているかも
しれんぞ」
「失礼ですねアーチャー、何時私が暴れましたかっ」
「そうだぞ、ただ機嫌が悪くなるだけだぞ」
「そうだったな、小僧が八つ当たりされているだけだったな」
「シロウ、アーチャー……どうやら私はあなた達とじっくり話をしないといけないようです」
「遠慮する、それは小僧だけにしてくれ」
「てめぇ、逃げる気かっ」
「私はそれほど器用じゃなくてな、複数の女性を相手にするほど手は広くないぞ」

凛、セイバー、ルヴィア……これだけで十分奴は女たらしだと証明しているようなものだ。
だから私は小僧とは別人だと言い切れる、これが可能性の一つとしてもまだ向こうの衛宮士郎の方が
アルトリア一筋な分ましなのかもしれん。

「ふっ、精々背後には気をつけるんだな」

それだけ言って背を向けると、はらぺこ騎士王の娘が待つ家に戻ることにしたが、事態はそれほど
悠長な事を想像している場合ではなかった。



Interlude out



「―――投影・開始」

一人ベッドの上で静かに目を閉じて、聞き慣れた使い慣れた言葉を口にする。
それはアクション、撃鉄が撃ち下ろされ魔術回路を活性化される。
思い出すのはパパの事、それは魔法使いにも似た魔術師、たった一つの魔術師か使えない正義の味方。
だけど、その力は世界を凌駕する。
ママを愛した、ママを求めた、ママをその腕の中に引き寄せた。
最後に愛は勝つを実践して世界にそれを認めさせた自慢のパパ―――深山町のヒーロー『衛宮士郎』なのだ。

「――――――I am the bone of my sword」

目を開けて手の中に生まれ落ちた一降りの剣をわたしは見つめる。
それはおとぎ話の剣、この地では伝説となっている王の剣、そしてパパが愛したママの剣。
でも、これはそれに届かない……確かな感触があるけど、これは幻想だった。
あのセイバーさんの剣と打ち合えば、おそらく負けるだろう……だけど、それでもこれは確かにここにある。
パパはそれでママを助けた、たとえ幻でも存在しているのなら、それは間違いなく力になる。
世界がなんと言おうと、パパは間違ってない……その証が今、こうして存在しているから。

「はー、もう少しなんだけどなー、きちんと教わった方がいいのかなぁ……」

なにしろわたしが投影出来るなんて、誰も知らないし教えてもいない。
パパやママの前では普通の女の子していたかったのもあるけど、必要なかったから。
だけど、そうと言ってられない事が起きる予感がして、隠していられる自信がなくなってきた。
これはママ譲りの直感なのか、とにかくここに来てから背筋を寒く感じていた。
そして投影以上に何かできるかもしれないと、それが確実に近くなっている気がする。

「考えてもしょうがないか、パパとママの娘としては後ろ向きは良くないしね〜」

ベッドから立ち上がり、しっかりと握った剣を軽く振って青眼に構えると、意識を剣に向ける。
何が足りないのか、どうしたら届くのか、目を閉じて剣に問いかける。

「やっぱりイメージが足りないか、今度ちゃんと見せて貰おうっと」

そう言って黄金の剣は光となって消えていく、手には何も残らない。
ふーっと息を吐いてなんとなくベッドにごろんと寝転がったとき、それを感じた。

「な、なに? この力って……」

もう一度立ち上がり辺りを見回すと、部屋全体が二重にぶれて見えた。
わたしだけがはっきりとして、それ以外は輪郭がずれたように細かく振動している。
一瞬、地震かと思ったけど違う……だってこれはよく知っている魔力だったから。

「まさか、師匠っ!? でもいくら何でも身重だしなぁ……」

そしてずれが収まったと同時に、目の前には彼女が立っていた。
師匠によく似た容姿だけど中身はお淑やかな女の子で、でも今日の衣装はどっからどう見てもアレな感じで、
手にしたステッキがこれまたわたしの想像を肯定していた。

「魔法少女?」
「ん……あ、あっ」
「小凛?」
「やっと見つけた……もう二人していなくなるから、アルトリアさんとお母様が大騒ぎでした」
「あちゃー、それに関してはごめん」
「いえ、無事ならいいんですけど、それよりお父様は一緒では?」
「あー、今出かけているけどそろそろ帰ってくると思うよ。それよりもその格好はなんのな?」
「あ、これは……」
「それは私から説明しましょうー」

それは小凛が持っているステッキから聞こえてきた、なにこれ喋るんだと思っていたら、べらべら話し出した。

「わたしの名前はマジカルルビーです、ルビーちゃんって呼んでくださいね♪」
「で、どうして小凛がこんな格好しているの? これじゃまるで魔法少女じゃない」
「その通りー、小凛ちゃんは今、凛さんの跡を継いで魔法少女カレイドルビーとしてデビューしたのです」
「したのですじゃない、怪しいことに小凛を巻き込まないでよ」
「似合ってませんか、こんなに可愛いのに?」
「いや、それは認める。今風に言うのなら萌えーって感じだけど……って凛さんの後を継いでって事は、凛さんも
魔法少女だったってこと?」
「はいー、それはもう凶悪なまでに世界をハラハラドキドキワクワクさせた伝説の魔法少女です♪」

きっとものすごい魔法少女で、パパもママも巻き込まれて大変な目に遭ったに違いない。

「……深くは追求しないけど、それでなぜ小凛までそうなっちゃたの?」
「そうです、それが重要なのですよ! ご存じの通り小凛ちゃんは純情可憐な乙女、凛さんと違って腹黒くありません!」
「そんなことないです、それにお母様は素晴らしい尊敬できる人です」
「ああ、なんて優しい言葉と思いやり。これにわたしの心は洗われて真っ白になったのですー」
「つまり、それ以前は真っ黒だったと言うこと」
「過去を振り返っては行けません、とにかく心を入れ替えたわたしは正当派美少女ヒロインの小凛ちゃんに一生着いていくと
決めたのです!」

憑いていくの間違いじゃない? どう見ても呪いのアイテムとしか思えないんだけど……まあいっか。
確かに呆れるほど可愛さ爆発しているし、わたしが着るわけじゃないしね。
そんなこと考えつつじっと見ていたわたしは、小凛に話しかける。

「小凛はいいの?」
「えっと、困った人を助けるんでしたら……ちょっと恥ずかしいけど」
「くぅー、この恥じらいが堪りません!」
「それは解らなくもないけど……小凛が納得しているなら反対する理由が見つからないか」

彼女は遠坂小凛(こりん)、師匠とアーチャーさんの娘で、外見は凛さんの若い頃とうり二つだったりする。
美少女という言葉が相応しい彼女は頭も良いし運動神経も抜群、学校ではクラスメイトでマドンナな大切な親友でもある。
とにかく、中身が凛さんと全然違って腹黒くない正当派美少女なのは、わたしも認めるところかな。
何より一番凄いのは、英霊で有るおじさまの子供を根性で妊娠して産んでしまった凛さんだけど、すでに二人目が生まれそう
なので、さすがは師匠だと感心してしまった。
そして凛さんと同じく、小凛は魔術師でもある……アベレージ・ワンと呼ばれる五大元素の使い手で、高校卒業後は
時計塔に無条件で入学が決まっているけど、本人はあまり興味がないみたい。
なにしろ、将来の夢はお嫁さんって思っている乙女なのだから、陰気な時計塔は似合ってないとわたしも思う。

「それでどうやってここに来たの? まさか宝石剣を凛さんに借りてきたとか?」
「あ、それはその……」
「……ルビーちゃん」
「あ、あの、そんな目で見つめられると失神しそうなのですが」
「百歩譲って小凛が魔法少女なのは納得できるけど、正直に何をしたのか言えば見逃して上げるけど、どうする?」
「は、話します話します、ぜーんぶ話しますから〜」
「じゃ、説明して」
「は、はいー、実はですね、そのかくかくしかじか……」
「ふんふん……って今時そんなネタで誤魔化そうとするなんて刀の錆になりたいならそう言ってくれれば……」
「わー、待ってください、今のほんのジョークですー」
「次はないわよ」
「ううー、凛さんがいるみたいで怖いですー」
「失礼ね、わたしはあんなに腹黒くないわよ」
「……二人とも何げに酷いこと言っています」
「「ひとつ内緒で、お願いします〜」」
「貸し、一つですからね」

くすくすと笑う小凛は本当に可愛くて、わたしが男なら間違いなく彼女にしちゃうけど、残念ながらわたしはノーマル
なのよね。

「話が脱線したけど、どうやって?」
「実は凛さんが宝石剣を使ったまでは良かったのですが、肝心なところで陣痛が始まってしまって、受け取れなかったんですよー」
「つまり、片道切符でここに来たという事ね?」
「そうなりますねー」
「あちゃー、まいったわね……」
「あ、でも士郎さんとアルトリアさんが側にいましたので、お母様の方は大丈夫だと思います」
「そっか、それは心配ないけど、問題はこっちだよね」
「それなんですが、こちらのお母様はまだ?」
「うん、まだね」
「そうですか……でも、若いお母様に会うのはどきどきします」
「平行世界と言ってもそんなに変わらないかな……あ、向こうと違うのは凛さんの相手はパパだって事だから間違いないでね」
「それは解りますけど、その……」

じっとわたしを見つめる視線が問いかけていたので、わたしは笑顔で応える。

「ああ、きにしないで。それと今のわたしの名前は『アルトリア』だから、本名で呼んじゃだめだよ」
「んー……じゃあトリアちゃんでいいですか」
「うん、それでお願い」

それでけで小凛は深く追求しない、人の気持ちや思いを察することが出来る本当に素敵な女の子なの。

「あーあ、わたしが男なら間違いなく小凛をお嫁さんにしたんだけどねー」
「ふふっ、それは私もおなじです。トリアちゃんが男の子でしたら、夢が叶ったんですけど……」
「人生はままならないことが多いってことかぁ」
「そうですね」
「でもくじけちゃダメです、小凛ちゃんの魔法でみんなを幸せにしましょう♪」
「じゃあ手始めにあなたを壊すってのはどうかしら?」
「ええー、そんなこと言わないでくださいよー」
「トリアちゃん、ルビーちゃんをいじめたら可哀想ですよ」
「ああ、小凛ちゃん、このマジカルルビーはどこまでも着いていきますよー」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」

なんだか噂で聞いたほど酷いルビーじゃないようね、凛さんは心底嫌がっていたけど小凛が相手ならまともそうだわ。
そうこう話している内に玄関が開く音が聞こえて、ただいまとおじさまの声が聞こえたから、二人で出迎えることにしたんだけど、
凛さん譲りのうっかりスキルが発動した事にわたしたちは気が付いていなかった。

「今帰ったぞ、おとなしくし……て……なっ!?」
「どうしたのよアーチャー、廊下で立ち止ま……らな……いぃっ!?」
「え、えっと、遠坂が二人?」
「シロウ、これはいったい……」

しまった、小凛を着替えさせるのを忘れていた。
小凛も自分が今、どんな姿なのか思い出して、自分を見つめるパパの視線から隠すようにもじもじし始めて、
それを見たパパも呆然として呟いた。

「彼女は違うぞセイバー、あんなにしおらしいのは遠坂じゃない」
「そんなことで断言するなっ!」
「ぐはっ」
「シ、シロウっ」

良い感じに背中から腎臓を打ち抜かれたパパは、悶絶しながら床に転がりママに介抱されていた。
どうしてそう余計なことをぽろって言っちゃうのかなぁ……正直すぎるのがパパなんだけど。
そんな状況に驚いている小凛に、おじさまが話しかける。

「も、もしかしなくても……」
「本当に心配しました、お父様」
「「「お父様ーっ!?」」」
「あちゃー、言っちゃったか……」

小凛の衝撃の告白に凛さんたちが固まったので、この場はおじさまに任せてわたしはお茶の用意をすることにした。
さてさて、凛さんの反応が気になるところだけど、楽しくなることは間違いない。
そしてお茶を煎れてリビングに戻ると、おじまさと小凛は凛さんたちと向かい合うようにソファーに座っていた。
うーん、これって隠し子を見つかった旦那がいい訳をしている構図に見えなくもないけど、とばっちりが怖いので
傍観するに限る。

「で、説明してくれるんでしょうね、アーチャー」
「む……」
「む、じゃ解らないわよ」
「むむっ」
「どうして彼女がわたしとそっくりで、しかもあの忘れもしない姿をしているかって事を説明しなさいっ」
「そ、それはだな……」
「私が説明しましょうか、お父様?」
「あー、うん、頼む…特にその姿は私も知りたいところだ」
「はい」

おじさま、それじゃパパと同じだよ……ちょっと格好悪いけど、それでこそおじさまだし、パパにも言えることだし。

「初めまして『お母様』、私は遠坂小凛です。そしてこちらは私の『お父様』です」
「な、ななな……」
「落ち着け、遠坂……」
「あ、あんたがアーチャーとわたしの、娘……」
「はい、そして私に取って自慢の両親でとても仲睦まじくて、ご近所でも評判のおしどり夫婦です」
「ふうっ!?」
「遠坂っ!?」

あーあ、凛さん顔真っ赤にして固まっちゃった。
きっと今、頭の中はいろんな事でぐるぐるしているんだろうなー。
そして一人冷静ぽかったママが、凛さんに代わって小凛に問いかける。

「なるほど、そちらの世界で凛の娘と言うことですか」
「はい」
「それではその姿は一体?」
「えっと、ここに来る前にお母様のお後を継いで魔法少女になったものですから、この姿なのです」
「その通りですー、真・魔法少女カレイドルビー、愛と希望と夢を運ぶ正義のヒロインですー」
「い、今のは誰が?」
「はい、小凛ちゃんが持っているこのステッキの妖精、マジカルルビーです。ルビーちゃんって呼んでくださいね♪」
「は、はぁ……と、すると凛もこの姿になったことが有ると言うことですね?」
「もちろんです、でもあの通り腹黒……おっと、過激な性格だったので、子供の頃は近所のガキ大将を殴り飛ばしていました」
「そ、そうですか……」

ステッキと話す英霊なんてなんかシュールだけど、害は無いからいいか。
それよりもそろそろ凛さんが臨界点突破みたいな感じに、体が震えてどす黒い何かが溢れ出していた。

「と、遠坂?」
「ふっ、ふふっ……ふふふっ」
「り、凛?」
「あーちゃー……」
「な、何かね?」
「すべて洗いざらい吐いて貰いましょうか〜っ!!」

くわっと立ち上がった凛さんの目は、座りに座りきっていた。
それはもう誰にも止められない、ああなった凛さんに逆らうと明日の朝日が拝めないのである。

「いや、しかしだな……」
「五月蠅い、生きて帰りたかったから、全部吐け」
「うっ」
「お父様、ここは私に任せてください」
「小凛?」
「落ち着いてくださいお母様、尊敬している人のそんな姿は見たくないです」
「あ、そ、そう……はー、ふー……よし」

大きく深呼吸して少し落ち着いたのか、座った凛さんと小凛は合わせ鏡のような二人は正面から向き合う。

「こちらの世界では違いますが、間違いなく私は『アーチャー』と『遠坂凛』の娘です」
「そうなんだ……あなたがわたしとアーチャーの娘ねぇ……って、じゃああなたも魔術師?」
「はい、でもまだ刻印は受け継いでいません」
「な、なんで?」
「お母様曰く『生涯現役』だそうです」
「そ、そう、あは、あははっ」
「……遠坂らしいな」
「衛宮くん、なんか言った?」
「べ、別に……」
「くすくすっ、仲が良いんですね」
「あ、うっ」

さすが小凛ね、クラスでも人気があるのは伊達じゃない。
でも、凛さんが元祖うっかりを実行するのはすぐこの後だった。

「それじゃ二人を迎えに来たのね?」
「あ、予定ではそうだったんですけど……その……」
「そうだった?」
「お母様が陣痛を起こして宝石剣を渡して貰えなくて……」
「陣痛って?」
「はい、私の弟か妹になります」

ギギギと回った凛さんの頭が、おじさまにロックオンされた。
おじさまはその視線を合わせることが出来なかった、だって目があったら石になりそうな気配がしたから。

「こ、このエロ学派がーっ、あんたわたしに一体なにやってるのよーっ!!」
「ま、まて、君には何もしてないだろう」
「世界が違っても『遠坂凛』に手を出して、あまつさえ年が離れた子供作るなんてーっ!!」
「それに問題があるのか?」
「黙れーっ!!」

うん、きっと恥ずかしかったんだと思うよ。
だから照れ隠しで巨大なガンド撃たれてもしょうがないよね。
そんなガンドを至近距離で撃たれたおじさまは、直撃を受けて床で気絶していた。
小凛が介抱しているけど、そう簡単には復活しそうにないけど、凛さんの凄さを再認識した。
だからかな、英霊の子供を産めたんだと思う、良かったね小凛。






NEXT EPISODE






アレは誰、アレは何、アレはアレは……。

知っている、知らない、シッテイル、シラナイ。

「衛宮士郎くんですね。わたしはバゼット・フラガ・マクレミッツと言います」

「封印執行者、なんでっ!?」

駄目、だめ、ダメ、アレにカナワナイ。

「およしなさいセイバー、わたしの目的は衛宮士郎だけです」

勝てない、かてない、カテナイ、アレにはカテナイ。

「しかし凛、私はっ」

させない、サセナイ、モウニドト、サセサナイ。

「トリアちゃん?」

大丈夫、だいじょうぶ、ダイジョウブ。

「よく見ておけ衛宮士郎、そしてセイバー……お前たちの、夢の結晶を―――」

わたしが立つのはどこまでも広がる草原、見上げればどこまでも広がる蒼天の大空。

剣立つ丘で笑顔で見守っている二人の前で、わたしは真名と共に剣を構える。






次回、Kaleidoscopes Chronicle Vol.3 「正しき怒りを胸に、我らは魔を絶つ剣を執る」






ついにわたしの名前と力が解っちゃうかもねー♪