「―――なんでよ?」






これがわたしの第一声だった。
確か師匠の……凛さんの部屋をかたしていた筈なんだけど?
ここはどう見ても部屋の中でもなければ、日本じゃない。
だって目の前にある時計塔は、英国は倫敦にある有名なアレだし……。






「ふむ、間違いなく倫敦だな」






説明遅すぎだよおじさまと、心の中でアーチャーさんに突っ込みを入れた。
でも、頭の上に置かれた大きな手と、冷静な表情がわたしを安心させてくれる。
こう言う所はパパに似ているけど、口には出さない……機嫌が悪くなるしね。
しかし、さすが師匠の持ち物だなーって思っちゃった、だって宝箱の中に落っこちて
中からアーチャーさんが強引に開けて出てきたらこれだもんなぁ〜。






「出られたからと言って、安心するのは早いぞ」
「え?」
「ここが私達のいた世界ならばいいのだが、何しろあの宝箱はかなり特殊だからそうだとは迂闊に言えないな」
「それってどーゆー意味ですか?」
「まあ、その身で体感してみれば解るだろう」
「……なるほど、おじさまは経験済みなんだ」
「思い出したくはないがな」






実際、それは直ぐに解ることになった。
それはそうか、だってもの凄い音がしたから、気が付かない方がおかしいしね。
だって足音がした方を見たら、よく知っている顔が見えたから……。
でもちょっとだけ違うところと言えば、その人はわたしが知っている年齢よりかなり若かった。






「君は何も言うな、ここは私が相手をしよう」
「うん、おじさまの言う通りの場所みたいだからね」
「おじさまは無しだ、それと君の名前だが―――」
「ママから借りちゃおう……その方が面白そうだし」
「まったく、君は凛に影響を受けすぎだな」
「だって、わたしの師匠だよ?」
「ふむ」
「ほらほらっ、後はお願いします、おじさま……じゃなかった、アーチャーさん」
「む……」






そしてこれがわたしが初めて出会った冒険の幕開けだった。






 Kaleidoscopes Chronicle 〜with IN MY DREAM EXTRA another






「ちょっとそこの……って、アーチャーっ!?」
「久しぶりだな、凛」
「な、なんであんたがここにいるのよ!」
「すまない、ここでは無理だ。聞き耳たてている者もいるしな」
「むっ」
「とにかく説明できる所まではしたいが、ここでは人目に付くので場所を移動しよう」
「む、いいわ解った。ところで……」
「ああ、彼女の事も一緒に説明する」

とりあえず、他にもこちらを注目している魔術教会の人たちがいたから、わたしとアーチャーさんは
凛さんたちの後に着いていった。
それよりもパパの若い姿って可愛いよー、ママは変わらないみたいだけど。
ちらちらと振り返ってわたしを見るから、ちっちゃく手を振ると赤くなっていたら隣の凛さんに肘打ちされていた。
うーん、アーチャーさんの言う通り、この世界はかなり違うみたいだね。
なんて思っていたらわたしもよく知っている、倫敦での凛さんの家に到着した。

「久しぶりだし、私がお茶を用意しよう」
「そう、任せるわ」

すたすたと、なれた動作でキッチンでお茶の用意をしているアーチャーさんの背中を見ていたら、
痛いほどの三対の視線がわたしの頬に突き刺さったので、振り返ってえへへと笑う。

「……なに赤くなっているよ、士郎」
「い、いや、それはだな……」
「ふん、誰かさんにそっくりだからって、鼻の下のばして……このスケベ」
「誰が鼻の下なんか伸ばして……」
「シロウですね」
「セ、セイバーまで」

そんなやりとりを見て、わたしは口を押さえて懸命に笑いを堪えていたが、凛さんがジロリと睨んだので
軽く頭を下げる。

「ごめんなさい、だってあまりにも可笑しかったからつい……悪気はないんですよ」
「あなた、何者なの?」
「それはおじ……アーチャーさんが説明するって言ってませんでしたか?」
「本人から聞いた方が確かだと思うから聞いているんだけど」
「うーん、どこまで言って良いのか、正直わたしには判断出来ないんです」
「なによそれ……」
「まあ気持ちは解りますよ、だってわたしの姿はそこの彼女に似ているから当然ですね」

そこまで話して、凛さんの隣に座っているママを見ると、さっきから視線が緩まない。
おじさま〜、早く説明してくれないと、本当の事を言っちゃうかもしれないよ?

「そこからは私が説明しよう」

そんなわたしの思いが通じたのか、ティーセットを持ったおじさまがみんなに紅茶を配り始めた。
うーん、いつもながらの本格的だし、場所も倫敦なら絶好のアフタヌーン・ティーになった。

「そう……でも巫山戯たら承知しないからそのつもりで話しなさいよ」
「ああ、その前にひとつ答えてくれ、凛。今は聖杯戦争から何年すぎた?」
「二年すぎて三年目に入る所よ」
「そうか、では説明しよう……あれは凛の部屋を掃除している時だった、隅にあった宝箱の蓋を開けた彼女が
そのまま落っこちかけてな、助けようとした私も無様に中に入ってしまったんだ。君も知っての通り
アレは外からしか開けられないと解っていたが、救助も望めなかったのでそれで強引に中から開けて
出てきたら、倫敦だったと言うわけだ」
「宝箱って……まさかゼルレッチの宝箱!?」
「そうだ」
「何であんたがアレの事……」
「ここまで言って解らないか、凛?」
「え……あ、ああっ」

どうやら凛さんには解ってもらえたみたい、まあ持ち主だしね。
しかし、事情が解っていないパパとママは釈然としない顔をしている。
おじさまはいつものように挑発する皮肉な笑顔を浮かべて、パパを鼻で笑う。

「どうした小僧、言いたいことが有るのなら口にしてみろ」
「うるせー、よく分かんないけどなんで助けようとしたお前まで、一緒になって落ちるんだよ?」
「事故だ」
「ウソ付けっ」
「まあまあ、ウソじゃないですよ、ただわたしが不用意だっただけだから」
「衛宮くん、話はまだ途中なんだから口を挟まないで」
「う、すまん」
「無駄だと思うけど……その娘は誰?」

ジロリと凛さんに睨まれてしまったけど、それも予想範囲内なのかおじさまはあっさり答える。

「彼女の名前は『アルトリア』だ」
「トリアって呼んでくださいね♪」
「待ちなさいっ」

あちゃー、やっぱりママは突っ込んできたかぁ……、当然と言えば当然か。
ママも凛さん以上に厳しい目でわたしから目を離さない。

「あからさまな嘘は止めなさい」
「なんで?」
「なっ……開き直りですかっ」
「わたしが『アルトリア』で、何か問題でもあるのかなぁ?」
「むっ、大ありです!」
「何が?」
「アリトリアは私です!」
「え、だってセイバーって呼ばれていませんでしたか?」
「あれはっ……と、とにかく、本当の名前を言いなさい」
「だからアルトリアだって……ね、アーチャーさん?」
「う、うむ」
「むむっ……」

アレは納得してないって顔だねー、まあいつも見慣れていたから直ぐに解ったけど。
そこで黙って聞いていた凛さんが話に割り込んでくる。

「止めなさいセイバー」
「凛っ」
「無意味なのよ、そんなことを聞くのは」
「どう言う意味ですか?」
「だって、この娘もこのアーチャーもこの世界の住人じゃないんだから」
「え、そうなのか、遠坂?」
「っ……いいから、衛宮くんは黙ってて、ね」
「うぐっ」

あーあー、もうこの世界のパパは凛さんのお尻に引かれちゃっているんだ。
うーん……ちょっと減点かなぁ、でも若いパパだから今後に期待しちゃおう。

「それで、帰る手段は有るの?」
「いや、皆目わからん……せめて宝石剣でも有れば、可能性は探れるだろう」
「え……ちょ、ちょっとアーチャー、宝石剣ってっ」
「ああ、向こうの『凛』は、すでに宿題の答えを説いていたぞ」
「やっぱり……それでアーチャー、見たんでしょ?」
「うむ」
「そっか、ならわたしもいずれ……」
「ああ、凛ならば時間の問題だろう。それに未熟ながら小僧もいるしな」
「それならあなたの投影じゃ、ダメなのかしら?」
「真に迫ることは可能だが、同行者がいるから不確定な要素は避けたい……まあ、それは最後の手段だ」
「うん……そうなると……ふむ……」

どうやら思考の海に潜り込んでしまったみたい、あの状態の凛さんは何回も見たこと有るので、
今は話しかけても無駄ね。
それで一番解っていないパパとまだ睨んでいるママに、わたしは近寄って話しかけた。

「えっと、改めて……アルトリアです、よろしくね」
「あ、ああ、こちらこそ、俺は」
「衛宮士郎」
「え、なんで……って、そっか遠坂の話通りなら、そっちの世界にも俺がいるんだな」
「うん……それとこんにちは、セイバーさん」
「……」
「人と出会ったら挨拶は基本って、パパとママにはよく言われたんだけど……」
「あからさまに偽名を名乗るのは正しい事とは言えないでしょう」
「だから偽名って決めつけ……あ、なるほどぉ、うんうん」
「な、なんですか」
「大丈夫大丈夫、士郎さんの事を狙ってないから、安心して」
「な、なななにを言ってっ!?」
「これでもわたしって一途だし、好きな人いるから安心して良いよ」
「それは誤解です、シロウの相手は凛……」
「でも、剣は捧げちゃったんでしょう?」
「な、何故それをっ!?」
「ふふん、内緒♪」
「ぐぐっ」
「そこまでだ、トリア」
「はーい」

おじさまに頭を軽く叩かれて、ちょっと浮かれていたかなと少し反省した。
だって、同じ年ぐらいのパパたちに会えるなんて、普通は体験できないからついうきうきしちゃって。
でも、これ以上話すと余計なことまで話しちゃいそうだから、止めてくれて良かった。
そして思考の海から上がってきた凛さんを交えて、おじさまはこれからの事を話し始めた。

「さて、現実問題として私達は暫くの間、この世界に留まらなければならない」
「そうね」
「無論、私一人ならばどうにでもなるが、彼女もいるしそれに不用意な接触も出来る限り避けたい」
「世界が揺らいでもしたら大変ね」
「余り騒がなければ状況的には『旅行者』と変わらないから、影響も少ないはずだ」
「いいわ、あなたがアーチャーなら、『元』マスターとして面倒見て上げるわ」
「その代わり、雑用は引き受けると言いたいが、小僧の数少ない仕事を取るつもりは無いから、
せいぜいお茶くみぐらいで許して貰いたい」
「この野郎、大きなお世話だっ」
「ほう……それでは少しは満足な力でもついたと言えるのか?」
「てめぇ……」
「はいはい、ストップ! 士郎さんもアーチャーさんも喧嘩しない。どうせ凛さんに怒られて終わるんだからっ」
「「むっ」」
「ふーん、まるで見てきたようなこと言うわね」
「それはもう毎回毎回……あ、ちなみにわたしの師匠は凛さんですから」
「はぁ!?」
「あー、えっと魔術は教わってないですよ? あくまで人生の師匠と言うことですから」
「トリア」
「はーい、これ以上はひみつです♪」

えへへと笑って誤魔化すと、お世話になるから今夜の夕飯はわたしが作ろうと話になって、
二人で市内へ食材を買いに出かけた。

「すこしはしゃぎすぎだ、それではいずれボロが出る」
「えへへ、ごめんなさい」
「素直に謝るのは君の良い所だが、物事を複雑にして楽しもうとするのは、凛に影響されすぎだぞ」
「師匠だからしょうがないよ、それに違う世界だけど若い頃のパパと凛さんに会えたと思ったら、嬉しくって……あ、
ママは別だけどね」
「あまりセイバーをからかうなよ、この世界では小僧の相手は凛なのだからな」
「うん……そうするとわたしはいない世界なんだよね、ちょっと寂しいかなぁ……」
「いや、いずれ凛の子供が出来れば、その娘がこの世界での君となるかもしれないしな……まあ、気にするな」
「うーん……あ、そう言えばおじさまの凛さん大丈夫かなぁ、たしか臨月だったような」
「それは心配だが……まあ、一人じゃないからなんとかなるだろう」
「……おじさま、生まれる時は側にいるとか約束してなかったっけ?」
「むっ」
「うーん、のんびりしてて間に合わなかったら、おじさま大変だね」
「くっ……」

そう、向こうの凛さんのお腹の中にはおじさまの子供がいるの。
ちなみに二人目、一人目は凛さんと外見はそっくりだけど、中身は正反対な物静か美少女なのだ。
そうそう、もちろん彼女はわたしの親友で同級生だったりする。
英霊の子供を産むなんて、凛さんは気合いでなんとなるわよと胸を張っていたけど、
それが魔術師らしい言葉なのか疑問だなぁ……まあ、いいんだけどね〜。

「それなら、早めに何とかしないとな。救助を期待しても無理に等しいだろう」
「やっぱりわたしが魔法少女になっておけば良かった?」
「いや、あれは悪魔だ。そんな物と君を契約させるわけにはいかん」
「そうかなぁ、結構面白そうだったけど……」
「たとえこの世界に跳ばされても、あの悪魔から君を守れたことは自慢したい事だ」

しかし、まさにこの瞬間、わたしの親友が母親に続いて魔法少女になっていようとは、今のわたしたちには知る由もなかった。
まさに運命だね、ちょっとお気の毒だけど。
と、話しながらも必要な物を買ったわたしとおじさまは、お店を後にして凛さんの家へと戻った。

「えっと、それじゃちょっと待っててくださいね〜」
「ふーん、中華料理とはやるわね」
「はい、料理の達人たちから仕込まれた技を、遠慮無く披露させて貰いますね」
「ふーん、楽しみだわ」
「味は私が保証しよう、少なくてもそこの小僧には負けてはいないがな」
「いちいち引っかかる言い方だな……よし、明日は俺が作ってやるからなっ」
「面白い、その数少ない特技がどこまで成長したか、見てやろう」
「あーもー、それ以上喧嘩すると二人ともご飯抜きだからね!」
「「むぅ」」
「うん、よろしい♪」

ウィンクしてにっこり笑うと、パパは顔を赤くしておじさまは素知らぬ顔をしていたけど、アレは照れ隠しだね。
もちろん、そんなパパを見た凛さんとママの突っ込みは間髪入れず二人に投げつけられる。

「……シロウ、顔が赤いですよ」
「士郎のスケベっ」
「なんでさ?」
「ふっ」
「お前に笑われる筋合いはないぞ」
「はいはい、わたしが可愛すぎるのがいけないのは十分に解っているから、大人しくしててくださいね〜」
「「ぐぅ」」

あくまでもにこやかに、笑顔を絶やさず注意をして空気を重くしないのは、普段から慣れているのは
日常だから。
本当に二人とも大人げないんだから……って、パパはまだ若いからしょうがないか。
とりあえず、背中に突き刺さるママの作るなら早くしなさい視線の後押しされて、包丁や中華鍋を動かしながら
次々と料理を作り上げていくと、香ばしい食欲をそそる匂いがキッチンから広がっていく。
きっとママもよだれを我慢する顔でこっちを見ているんだなぁと、振り向かなくても解った。

「さあ、召し上がれ♪」
「ふむ……また腕を上げたな」
「えへへ〜」

おじさまが炒飯を一口食べて笑顔になる、食に関してはお世辞を言わないから、誉められれば素直に嬉しい。
ちなみにメニューは凛さん直伝の黄金炒飯と四川風麻婆豆腐とかに玉と金華ハムのスープです。
って説明している間にママは炒飯を完食しているし。
どこの世界でもママはパパ曰く『食いしん王』だと、わたしは確信した気がした。

「むむむっ……」
「どうかしましたか?」
「くっ、確かに言うだけは有るわね」
「はい、なんと言っても中華料理は師匠直伝ですから」
「ってわたしっ!?」
「もう十年以上教わっていますけど、最近やっと免許皆伝貰えたので……ホント、厳しかったなぁ」
「くっ、ならわたしにもこの味は出せるわね」
「そうなりますね……んっと、士郎さんはどうですか?」
「うん、美味い」
「やった、で、セイバーさんは……聞くだけ無駄だし、見れば解るからいいや」
「むむむ……」

お茶碗持ってうなっているママを見てから、おじさまにピースサインをしてみせる。
おまけに自慢の胸までしっかり張って。

「勝ったよ、アーチャーさん♪」
「セイバー相手に勝ってもしょうがないだろう」
「どう言う意味ですか、アーチャーっ」
「食べることに甘んじている時点で勝敗は決している、誰にでも解ることだ」
「ぐっ」
「そうね」
「凛っ!?」
「い、いいじゃないか、幸せそうに食べているんだから」
「シロウ、それはフォローのつもりですか?」
「え、いや、あの……」

もうママってパパの気持ちが解っている癖にそうやって責めるんだから。
パパが誰と結ばれても、ママの思いは変わらないって事ね。
うーん、もう少し刺激して三角関係になったら、それはそれで面白そうだなぁ〜。

「まあまあ、セイバーさんも本当は解っている癖にそう怒ったふりをするんだから♪」
「何を勝手なことをっ……」
「それはさておき、あの士郎さん」
「な、なんだ」
「わたし、結構尽くすタイプだから士郎さんならサーヴァントになってもいいよ♪」
「待ちなさい、何でいきなり話がそんなことになるんですかっ!」
「ご飯だってお掃除だってお洗濯だって、もちろんお背中だって流しちゃうから〜♪」
「いいっ!?」
「あー、でも夜伽はちょっとあれかなぁ……それはセイバーさんに任せちゃうから……だめ?」
「ま、まてまてまてっ」
「ご希望ならメイド服だって着こなしちゃうよ」
「うっ」
「な、なにがうっですか、シロウっ」
「セイバー、ご、誤解するなっ」
「まんざらでもないみたい、えへへっ」

そこまでパパとママをからかっていたら、凛さんが飲んでいたカップを音を立ててテーブルに置いた。

「士郎もセイバーも落ち着きなさい、それとアルトリアさんも面白がってからかわないでくれる」
「はーい、ごめんなさい。あ、わたしのことはトリアで良いですから」
「……似たもの同士か」
「何か言った、アーチャー?」
「いや、少しは成長したんだなと、関心していたんだ」
「それはどうも」

少し照れた顔に凛さんをおじさまは静かに笑って見ていた。
そして紅茶を飲み干すと、立ち上がってわたしに話しかける。

「さて、そろそろ始めるか」
「えー」
「いいのかな、ここで止めて?」
「うー」
「どこかの小僧も、毎日鍛錬はしていたぞ」
「おいっ」
「誰もお前の事だとは言ってないぞ、衛宮士郎」
「はいはい、解ったから……」

何もここまで来て鍛錬するとは思わなかったけど、物事は積み重ねも大切だよね。
残っていたカップの紅茶を一気に煽ると、わたしも席を立っておじさまの後を追おうとしたら、
凛さんに呼び止められた。

「鍛錬って?」
「あ、えっと見ます?」
「そうね、見せ……」
「是非、見せて貰いましょう」
「セイバー?」
「シロウ、行きますよ」
「あ、ああ」
「……ふふっ、じゃあ皆さんどうぞ」

そう言って慣れ親しんだはずの家の中を歩いて、中庭に出る。
結構便利かも、平行世界だって言っても同じだから、迷わなくて済むなぁ。
先に出ていたおじさまは、月明かりの下で静かに佇んでいた。

「どうしましょう、アーチャーさん?」
「む……そうか」
「わたしはどっちもでいいんだけど、ね」

ちらっと横目でわたしたちを見つめている観客に視線を向けると、おじさまも理解してくれた。
いくらなんでも投影とかしたら、まずいよねぇ……。
と、思っていたらおじさまが投影を始めた。

「トレース・オン」
「そ、それはっ」
「すまんが借りるぞ、セイバー」

ママがその剣を見て声を上げた、まあ当然よね。
おじさまの投影したのはカリバーンだった、エクスカリバーは練習には不向きだからこっちの方がいいか。
差し出されたそれを受け取って、わたしは目の前に掲げる。
その間におじさまは、いつもの干将・莫耶をその手に握っていた。

「では、始めるぞ」
「お願いします!」

この手にあるのがカリバーンだから、わたしは敢えてママと同じ戦い方をする。
パパの生き方にそっくりでまっすぐな力強い太刀筋で、おじさまに本気で打ち込んでいく。
それでも軽く流される辺り、おじさまが英霊だって実感する。

「……なるほどね」
「どうした、遠坂?」
「アレ見て何か思い当たらない?」
「ああ、セイバーの太刀筋にそっくりだな」
「まるで鏡に映った虚像と変わらない、セイバーもそう思うわよね」
「ええ……」
「でも、あの娘はセイバーじゃないわ」
「それは俺にも解る、あの子は人間だよ」

うーん、冷静に分析しているなぁ、さすが凛さん。
なんてよそ見をしていたら、おじさまの一降りがわたしの剣をはじき飛ばした。

「いった〜」
「何を考えていた、余計な事を考える余裕があるとは、大きくなったものだ」
「……アーチャーさんのえっち」
「おい」
「たしかに自慢できる胸だけど、そう面と向かって言われちゃうと、恥ずかしいなぁ」
「誰がそっちの話をしている」
「あれ?」
「まったく、まあいい……直前までの剣の裁きは悪くはなかった」
「えへへ、ありがとう」
「でも、まだ動きにムラがあるな、それだから呼吸が乱れるんだ」
「はーい」

ふー、英霊と打ち合っていて呼吸が穏やかだったら、わたし人間じゃないよ。
でもママも息が切れたの見た事ないし、まだまだ動きに無駄があるんだなぁと実感させられた。
そして息を整えていたら、凛さんたちが側に寄ってきた。

「ねえ、トリア」
「ん、なんですか、凛さん?」
「正直に答えてくれる」
「内容によりますが」
「あなたは『セイバー』をよく知っている?」
「……もちろん、よく知っていますよ」
「そう……ありがとう」
「いえいえ」
「あ……それと今度、あなたの『本気』を見せてくれる?」
「機会があったら」
「期待しておくわ」

その後ろでわたしを見つめている(ママは睨んでいるけど)二人に近寄ると、そのまま両手を広げて
抱きしめた。

「う、うわっ!?」
「な、なにをっ!?」
「えへへ、なんでもない〜♪」

直ぐに二人を離すと、近くの地面に突き刺さっていたカリバーンを引き抜き、ママに差し出す。

「何のつもりです?」
「んー、出会った記念に」
「意味が解りません」
「固いなぁ……まあ、それでこそセイバーさんですよね?」

受け取り拒否されたカリバーンを見つめると、振り返っておじさまに放り投げる。
すっと手に取ったおじさまの手の中で、それは砂がこぼれるように消えていった。

「それじゃお風呂に入って寝ようかなぁ……あ、一緒に入ります? お背中流しますよ、士郎さん♪」
「い、いやっ、それしなくていいからっ」
「わたしは全然平気だけどな〜」
「からかわないでくれよ、ホントに」
「そっか、残念だなぁ」
「ふん、その小僧に度胸などあるまい」
「な、何の関係があるんだっ」
「アーチャーさん」
「すまん、ではお先に休むとしよう」

一睨みすると、おじさまは肩をすくめて家の中に入っていってしまう。
残されたのはわたしとパパとママの三人だった。

「それじゃお風呂場で待ってますから♪」
「行かないからっ」
「あははっ」

二人を残してわたしも鍛錬で流した汗を洗いに行く事にした。
さてと、明日はどうやって楽しもうかなぁ……パパとママが初々しくて楽しみだわ。






NEXT EPISODE






この世界に来て二日目なのに、早くも大いなる騒動が起きる。

「くっ、なんて事だっ」

おじさまは為す術もなく、つぶやき。

「うー、なんでアレをまた見る羽目に……」

凛さんは頭を抱え。

「なんでさ?」

パパはため息をついて。

「凛、シロウ、あれはなんですか?」

一人事態を飲み込めないママは呆然として。

「あ、あの、魔法少女カレイドルビーと言います。よ、よろしく……」

そう名乗ったのは間違いなく、わたしがよく知っている女の子で。

「うわちゃー、可愛さ炸裂ね」

わたしはびっくりやらおどろいて、親友の姿に苦笑いを浮かべていた。






次回、Kaleidoscopes Chronicle Vol.2 「戦慄!助けに来たのは魔法少女!?」






サービスカットは自分で想像してね♪