「と、言うわけなんですよ〜」
「まったく…何やってるのよ、夕呼は?」
「だから早くタケルちゃんに帰ってきてって伝えてください」
「それはかまわないんだけど、そう簡単にはねぇ…」
「え〜、それじゃわたしはどうすればいいんですか〜?」
「自分の身は自分で守る、かしら?」
「神宮司せんせ〜」
「そんな目で見ないで、鑑。一つだけ元教官としてアドバイスぐらいはしてあげるから」
「なんですか?」
「京塚曹長にお願いしたらいいわ」
「PXの?」
「うん、そう。あの人の言葉なら夕呼も聞くはずよ」
「わ、解りました。ところで神宮司せんせい…」
「なにかしら?」
「タケルちゃんの監視、お願いします」
「監視って…」
「だって、この前は一日しかいられなかったし。おまけに周りは女の子だらけだし」
「一応、白銀だって任務で来てるんだから、少しは信じてあげなさい」
「でもでもっ、ソ連の未亡人と良い雰囲気で話してたり、二人も俺の嫁宣言したりやりたい放題なんだもん」
「…全部がそうじゃないし、鑑だって事情は聞いているでしょう?」
「それはそれです! 神宮司せんせいは気にならないんですか?」
「気にならない訳じゃないけど、信じてるからね」
「うっ、大人の余裕だぁ〜」
「(本音はそうでもないんだけど…ね)」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 109 −2000.10 to Element−




2000年 10月14日 14:22 アラスカ州ユーコン陸軍基地 演習場

前を行く弐型の、ユウヤの背中を見つめながらクリスカは思う。
仲間と行動する事は在ったが、ここまで心がざわめく事はなかっただろう。

「それはね、わくわくするって言うんだよ。つまり、たのしいって事だね」

クリスカの心を感じたイーニァが、今感じていた思いを答えてあげる。
胸を高鳴らせる高揚感、以前から少しずつ感じていた気持ちがそうだと納得できた事で、クリスカは一歩少女になる。
それは軍人として正しくないかもしれないが、一人の女の子としては間違ってないと誰かが脳裏で囁いている気がしていた。
だから口元が自然とゆるみ、ユウヤを見つめる視線も僅かに何かが含まれる。

「イーニァ、クリスカっ」
「な、なんだっ?」

そこに通信ウィンド越しにユウヤに見つめられて、慌てたように気を引き締めるクリスカは、戸惑いながらも返事をした。

「どういう意図が在るかこの際無視するが、あの戦い方はアメリカ軍のやり方だ。つまり、接近戦に関しては無いに等しい」
「接近戦をしないか、なるほど…」
「そうだ、圧倒的な火力と機動性で戦場を支配する。戦域支配戦術機として作られたF−22Aの戦い方としては理想通りだ」
「ああ、だが」
「そうだ、白銀少佐や篁中尉の戦い方を見て解ったが、BETA相手じゃ接近戦なしなんてあり得ないんだ」
「物量による力押しでくるからな。だからこそ、その戦い方をしている相手には付け入る隙がある」
「その通りだ、クリスカ」
「ならば、答えは出たんだな?」
「ああ、ついでに言えばあの戦い方は俺が一番理解している」
「それで策は?」

ユウヤが自分を見つめている状況で、口ではまじめな受け答えをしながらクリスカは違う事を思っていた。
真剣に語る瞳は吸い込まれそうなぐらい綺麗で、さらさらとした髪はさわったらどうなんだろうととか、よくイーニァが抱きつ
いている腕や胸板も結構逞しいとか。

「…クリスカ、それは後で」
「イ、イーニァっ!?」
「なんだ、クリスカ?」
「な、なんでもないっ、話を続けてくれ」
「そうか、それで…」

ニコニコと微笑むイーニァを軽く睨んでクリスカは、内心では最近理解した羞恥心で真っ赤になっている。
それを顔に出さないでユウヤと話すのは、これから戦う水月より強敵だと心の中で孤軍奮闘していた。

「だからこっちは其処をつく。一戦やり合って解っが、お前達の力ならやれるはずだ」
「ブリッジス…」
「うん、がんばる。だからユウヤも一緒に」
「ああ、ヴァルキリーズに一泡吹かせてやろうぜ」

サムズアップとウィンクで応えたユウヤに、クリスカの胸は更に高鳴りときめいてしまう。
日々、純夏から知った事をイーニァが教えたお陰で、感情を理解し始めたクリスカは思うままに笑顔になる。
一瞬、それに見とれてしまったユウヤは、誤魔化すように口を開く。

「なんだ、笑うと結構可愛いじゃん」
「なっ」
「クリスカ、顔まっか」
「ち、ちがっ…」
「うんうん、かわいいよクリスカ」
「イ、イーニァっ」
「…っ、話は後だ。こっちに来るぞ」

はっとしたように叫んだユウヤの言葉に、クリスカの表情は再び引き締まる。
素早く意識を切り替えて、迫ってくるF−22Aを見据えると、牽制を始めたユウヤに合わせて機体を動かす。
バラバラではなくお互いの考えを理解して動く、クリスカとイーニァは本当の二機連携を初体験する。
そんな二機を睨んで、ほかの戦術機をすべて倒した水月は、新しいマガジンを突撃砲に突っ込んだ。

「今更何機増えよーが、あたしには同じよ」

言うや否やF−22Aの突撃砲が火を噴き、弐型とチェルミナートルにペイント弾を浴びせかける。
しかし、ユウヤと紅の姉妹は慌てることなく左右に展開した。
再び、アラスカに来るまでさんざんやり尽くした武の動きをユウヤは再現する。
すなわち、本来のXM3の力を発揮する意味でもあり、ここに来てからも間近で見せつけられたお陰で、かなりの再現力を
見せていた。

「ちっ、変態二号は伊達じゃないって事?」

うん。孝之は変態じゃないもん等と自分の恋人は差し置き、目の前のユウヤをそう決めつけた水月は反対側から来る紅の姉妹に
も意識を向ける。
掛け値なしに落とすつもりで撃った弾は武のようにすべて先読みされている感じで斜線を外され、唸りをあげて襲いかかってくる
モーターブレードから全力で離れる。

「っ!?」

その瞬間、水月は女の感で察知したのか、本質的な物が武に近い感じを受けて、ユウヤより紅の姉妹を強敵と判断した。

「トップガンのあいつより、こっちの方がやばいわね…ったく、白銀の奴はっ」

口ではそうぼやくが、強敵と戦えるのは水月の喜びであり、戦い方の縛りがなければ良かったと思うほどである。
しかし、夕呼の命令はユーコン基地司令にXM3搭載のF−22Aを凄さを見せつけなければならないと言う事を忘れない様に
する水月だった。
霞の件で辛酸を舐めた夕呼的にはオルタネイティヴ5推進派を牽制、また自分を支援しているアメリカ側の人間に研究の成果の一部として、現状を知らしめる為の課したオーダーでもある。
旧OSとは比較にならないXM3の即応性、コンボとキャンセルによる操作性の柔軟、そして武が生み出した戦術機動を存分に発揮
する自国の最新鋭機を目の当たりにさせた。
最強と謳われるF−22Aではあるが、水月の駆るそれはインフィニティーズの物とは別物であると、ブルーフラッグ戦後に各国の
パイロット達が口々に語るまでに差は大きいのである。
それはさておき、ユウヤの牽制を合わせて紅の姉妹は水月を見据える。

「はやいね、あれ」
「ああ、だが…」
「タケルじゃないから、問題ないよね」
「怖さはない」
「じゃあ、勝とうね」

イーニァの言葉に頷いたクリスカは、更に出力をあげて自分たちの間合いに飛び込む。
だが、そう易々とやられるわけにもいかない水月は、ヴァルキリーズの突撃前衛としての意地と誇りを見せる。
左右から挟み込まれながらも回避し、両手に持った突撃砲でそれぞれ牽制をかける。
ユウヤは武のような動きで、紅の姉妹は攻撃を分かり切ったように避けて水月に迫る。
上唇を舐めて水月は目の前のソ連機が模擬刀でもないモーターブレードを使っている事は気づいていたが、当たるつもりはないと
手にした突撃砲を向けて連射する。
だが、自分を挟み込むようにしてくる二機は、共にXM3仕様の第三世代戦術機で、操縦者もかなりの熟練度を持っている事が
水月に決定打を決めさせない。
特にユウヤの牽制は武の変則的な武そのものな動きのお陰で、水月の意識もどうしてもそちら側に行こうとしてしまう。
精彩に欠けるそれを見てユウヤの顔はしてやったりと内心思いつつ、更にセオリーを無視した牽制を行う。

「とどめを刺すのは俺じゃない、ならっ…」

突撃砲をマウントへ戻して両肘の所から短刀を取り出すと、それをF−22Aへ向かって投擲する。

「甘いっ、そんな程度で…っ!?」

余裕で避けてとっととユウヤを撃墜しようとした水月は背筋に悪寒を感じ、反転降下しながら全力でそれから逃げた。

「ああ、おしいっ」
「やるな」
「まだだ、いくぞっ」
「うん」
「ああっ」

二人が何をしたのか、それはユウヤが投げた短刀をモーターブレードで弾き返したのだった。
本来、相手を挟み込んだ状態では相打ちの可能性もあるから斜線上にならない動きをするが、ユウヤはわざと直線上に正対するように
動いて、それを「理解」した二人は狙いすまして合わせたのである。

「危なかったわ…そうよね、あの変態に教わったんだからこれぐらいしてくるわね」

多少焦った水月だが、自分も同じ武に教わった事は棚上げである。
そんな水月に更に不運が迫ってきた…出遅れてたと言うか狙っていたのか、一機の戦術機が向かってきた。

「真打ちは最後に登場する…物語の定石ね」

勝ち気な瞳とツインテール、殲撃10型を操るのは統一中華戦線所属の暴風実験小隊の崔 亦菲中尉である。
ここに来るまで撃墜された各国の様子を横目に、アメリカが誇る最新鋭機を落とせば自分の実力を示せると自信をみなぎらせる。

「さあ、いくわよっ」

都合良く自分の方へ向かってきたF−22Aに対して、亦菲はロケットモーターを唸らせて突進した。
その加速は確かに凄い物で、一気に接近した事は評価出来たかもしれないが、後に「暴風姫」等と言われる亦菲はそのまま突っ込んだ。
別名体当たりと言うが、まさかそのまま武器も使わず特攻してくるとは思っていなかった水月は避けきれず、ぶつかった左腕が使用
不能になる。

「ちょっ、何考えてんのよっ?」
「ふふん、驚いたようね」
「驚くより呆れたわよ、あんたアホでしょっ」
「誰がアホよっ」
「あんたに決まってるじゃないっ」

気の強い猫がいがみ合っている所だが、この隙を逃さずユウヤは紅の姉妹へ呼びかける。

「クリスカ、イーニァっ、決めるぞっ」
「うん(こくっ)」

返事をするイーニァと頷くクリスカにユウヤは笑いかけると、呼吸を合わせて口げんかしている二機へ襲いかかる。
ユウヤは亦菲へ、二人は水月へと戦場で油断した所へたたみ掛ける。

「「なあっ!?」」

寸前の所で気が付いた二人だが、やはりそれは遅すぎた回避運動で、それでも自慢するだけの腕前は有ったようである。
結果としてはF−22Aは突撃砲を、殲撃10型は片腕を破壊されたに過ぎないが、困ったのは水月だった。

「げっ、まずっ…」

旧OS相手に負けるわけがないと余裕だった為に、模擬戦闘だからと予備の突撃砲を持っていなかったのである。
つまり、武器無しの素手状態でどうやってアメリカ軍の戦い方を続ければいいのか、いろいろ考えるがまとまらない。
おまけに脳裏には横浜を発つ前に夕呼から言われた言葉が甦ってきた。

『ねぇ速瀬〜、もし無様な事になったらどうなるか、解ってるわよね?』
『もちろんです、楽勝ですから大船に乗った気でいてください』
『じゃあ、もしあたしの顔に泥を塗るような事したら、もの凄い恥ずかしい事させるからよろしく〜』
『サー』

余裕綽々で返事をした物のリアルで大ピンチな水月は、嫌な汗が止まらなくなった。

「マズイマズイマズイ…このままじゃ横浜に帰れないっ」

三機に囲まれた状態で水月の思考は一向に整理されず、無様にも回避運動を続けるしかなくなる。
このチャンスにユウヤと紅の姉妹は止めを刺す為に距離を詰めようとする。
ついでに亦菲もこれに加わって、通常なら問題ない相手から逃げまどう水月に通信がつながる。

「しょうがないわねぇ、わたしの教導は無駄だったのかしら…」
「え?」

網膜に映し出されたのは恩師でもあるまりもだったが、その顔は爽やかな笑顔からほど遠い微笑みだった。
それを見た水月の表情は固まり、訓練校時代の恐怖が甦ってしまう。

「じ、神宮司教官…」
「速瀬中尉、わたしは軍曹ですが?」
「そ、そうでしたっ」
「だから敬語なんてしなくてもいいんですよ」
「は、はいっ」

とはいえ、まりもに対して命令口調で言えるはずもなく、ニコニコと目が笑っていない微笑みから水月は目が離せない。
そこにわざとらしく、思い出したかのようにまりもは呟く。

「そうでした、ひとつ言い忘れていた事が…」
「な、なんでしょうか?」
「香月博士が言っていたのだけれど、わたしがこの機体に搭乗している時は…」
「と、時は?」

ニヤリと凶悪な笑顔になったまりもが、楽しそうに水月へ言葉を続ける。

「白銀と同じく少佐としての権限、及び元教え子達への教官としての立場を行使しても良いと…」
「ひいいいぃぃぃ〜〜〜っ!!」
「だからな、速瀬…」
「ははははいいっ!!」
「こんな無様を晒すだなんて…教導し直してあげるわ」

直後、それぞれのレーダーに映ったそれは近づいてくると、金色に輝く暁が上空から現れその姿を披露した。
今までとは異なるデザイン、背中の飛行ユニット大型の砲を見てユウヤはあれがレールガンだと気づく。
ゆっくりと降りてきた暁は手にした突撃砲を水月へ放ると、反射的に受け取った水月に対して口を開く。

「さあ、まずは任務を遂行しなさい。でないとどうなるか解っているわね」
「サ、サーっ」

まさに死に物狂いで水月は三機相手に戦闘を再開する。
勝とうが負けようが待っているのは地獄の特訓かお仕置きか…知っているのは微笑みを浮かべて傍観しているまりもだけだった。



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