「あれ、香月せんせ〜? いないのかなぁ…って、そんなところでなにしてるんですか?」
「ん〜、ちょっと捜し物よ」
「一緒に探しましょうか?」
「そうね、これぐらいの箱なんだけど…」
「えーっと…あっ、これですか?」
「あー、それそれっ、ありがと〜鑑」
「なんですかそれー?」
「気になる?」
「もしかして重要な物とかですか?」
「そうね、アタシの未来に必要不可欠な物だわ」
「つまりおるたね…」
「何言ってるのよ、そんなのどーでもいいのよ…ってそうよ、ここに経験者がいたじゃないっ」
「あ、そう言えばタケルちゃんが呼んでたなぁー」
「逃がさないわよ、鑑。ふふふっ…」
「せ、せんせーの目が怖いよ」
「大丈夫よ、痛くないから〜、さあ鑑…」
「いーやー、助けてタケルちゃ〜んっ。襲われる〜っ!」
「いーから逃げないでこっちにきなさい」
「まずはこれね…えーと、スイッチはこれかしら?」
「きゃーっ、なんか動いてるよ〜。やだやだ〜」
「うふふっ」
「ううっ、こうなったら…ていっ」
「うっ」
「はぁはぁ…は、はやく帰ってきてタケルちゃ〜んっ」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 108 −2000.10 CARNIVAL−




2000年 10月14日 13:42 アラスカ州ユーコン陸軍基地 演習場

「ほらそこっ」
「ちぃ」

XM3に触れ、進化とも言える程に上達したタリサのテクニックは、ユーコン基地の中でも群を抜いているだろう。
そして水月が相手でなければ、例えF−22相手でも撃墜する確率は高かったと言えよう。
しかし、武相手に訓練を重ねた月日の差が、月詠も一目置く実力が、指定された戦いの中で水月の力を押し上げ始める。

「このアタシ相手によくやったって誉めてあげるわ、だから…墜とす!」
「なにっ!?」

水月の指が突撃砲のトリガーを弾くと、放たれた弾丸はACTVの左肩全体と背後のスラスターをペイント弾の黄色に染まる。

「しまっ…」

次いで右腕の肘から先が黄色に染まり、タリサ網膜には機体の損傷度が急激に増え始めた。
掛け値なしに突撃前衛の力を見せつける水月は、掠らせるに留まっていた攻撃を狙い通りに当て始める。

「これでラストーっ」
「ちっくしょおっ…」

著しく低下した出力でなんとかコントロールしようとするタリサは、撃墜されると理解して叫んだ。
だが、それはいつまでたっても訪れなく、それに気づいた時には多少は冷静さが戻ってきた。

「なんで…って、なんだありゃ?」

ついさっきまで自分の相手をしていた筈の水月は、次から次にと現れる機体を片っ端から撃墜していた。
あと少し、もう墜とせると確信していた時に邪魔された水月の心中は、実にシンプルに切り替わっていた。

「まったく…誰に喧嘩を売ったのか、体に教えてやるわっ」

そんな水月の相手に旧OSの機体では文字通り烏合の衆としかならない各国の実験小隊は、単なる射撃場の的だった。
十数機の戦術機を物ともしない動きから、ユウヤは自分が知っているF−22のとまるで違う様子に、あれもXM3
搭載と納得して内心舌を巻いた。

「やっぱりXM3の恩恵は、計り知れない。ましてパイロットはヴァルキリーズの突撃前衛を勤める腕前か…」
「ユウヤかっ」

そこに乱入者のお陰で一息ついていたタリサから通信が繋がる。

「大丈夫か?」
「不知火かと思ってたら、とんでもねーの持ち出してきやがった」
「油断大敵だな」
「うっせー」

武との戦いを経て、少しは状況判断に置いて冷静さが出てくるようになったユウヤは、距離を詰めようとしているイーニァ達に声を
掛ける。

「イーニァ、あの機体の特徴はステルス性以上に機動性がずば抜けている、だから迂闊に近づくな」
「うん」
「そう言う訳だから、クリスカ」
「な、なんだ」
「俺が囮になって引きつけるから、チャンスが出来たら切り込め」
「な、何でお前とっ…」
「決まってるだろ、あれに勝つためだ。それにはおまえ達の力が必要だ」
「簡単ではないぞ」
「なんだ、あっさり墜とされる方がいいのか?」
「わたしはいやだよ、クリスカは?」

一人は目の前で、もう一人は通信ウィンドウ越しに見つめられクリスカは困惑するが、ユウヤの本気を感じ取った時にその頭は小さく
縦に振られた。

「よし、派手に陽動するからチャンスを見逃すなよ」
「解っている、お前こそ簡単にやられるなよ」
「…いつものクリスカに戻ったな、そうじゃないと調子が狂うぜ」
「なっ…」

それだけ言って通信を切ったユウヤは全力噴射で突進していくと、水月の気を引くために突撃砲を撃ちまくる。
一方、その言葉にどういう意味があるのか考えていたクリスカにイーニァが楽しそうに答えを教える。

「くすくすっ、いつものクリスカが好きだって、良かったねクリスカ♪」
「な、何を言って…」
「ここでユウヤに良いところ見せて、こうかんどアップだよ」
「イ、イーニァっ」
「いこう、クリスカ」

微笑んで前を向いたイーニァに抗議をしようと口を開きかけるが、今する事はそれじゃないと意識を切り替える。
相手は米国の最新鋭機で不足はない…XM3を熟知して今まで以上に機体を操る事が出来る自信を持ち、ソビエトが誇る『紅の姉妹』は
ユウヤとの連携をする事に決める。
ただ、不思議とクリスカの胸には今までに感じた事のない高揚感がわき上がり、口元がほころんでいる事に自分も気づいていなかった。
そしてユウヤと紅の姉妹が水月と戦っている間、ユーコン基地全域に前回使ったオープンチャンネルでとある放送が流れていた。

「よう、アミーゴ! 元気にやってるかい? 今日はみんなに耳寄りな情報を教えるぜ。なんと今、あのイスミ・ヴァルキリーズ
の突撃前衛長の速瀬中尉がアルゴス小隊と模擬戦をやってる。しかも、乗っている機体は米国の最新鋭、F−22ときたもんだ。
そこで白銀少佐からステキな提案があって、腕に自信のある奴は速瀬中尉の相手をしていいそうだぞ。しかも、速瀬中尉に勝った奴には
豪華特典付きだ! これを見逃すなんてそんな奴はいないと信じてるぜ」

モニターの中で饒舌にしゃべりまくるヴァレリオの言葉に、各国のテストパイロット達は我先にと仲間達に声を掛けて立ち上がると、
自分の機体へ向かう事で参加する行動を取り始める。
同時にこの放送を自分の執務室で見ていたハルトウィックに、向かい合い机の前に立っていたステラが口を開く。

「と、事後承諾で申し訳ないと白銀少佐からの伝言です」
「なるほど、だがこちらとしても是非もない」
「はっ」
「しかし、これも先を見越しての事か…」
「独断で行ったのもユーコン基地の『指令』に見せつける為だそうです」
「ふむ」
「それともう一つ、大佐に個人的な話があるそうなので、時間を作って欲しいとの事でした」
「解った、近い内にこちらから連絡すると伝えてくれ」
「了解です」

敬礼をして部屋を出て行くステラを見送った後、一人になったハルトウィックは目を閉じて武との話がどんな物かと考えを巡らしていた。
それが悪い事ではなく、今回の模擬戦からしてどこか楽しいといった気持ちになる予感を感じていた。
一方、そんな話になっているとは知らない水月は、いきなりわらわらと現れ始めたユウヤ達以外の参戦者達を片っ端から撃墜していく。

「もうなんなのよ〜って、まさか白銀の奴っ!」

素早く事態の変化を女の感で理解した水月は、FLASH MODEを使ってF−22を名前の通り獰猛なラプターに変化させる。

「上等じゃない! アンタが出てくる前に全機撃墜してやるわよっ!」

舌なめずりをして叫んだ水月は、包囲してくる十数機の戦術機を恐れもせずに、突撃砲を撃ちまくり遠距離から仕留めていく。
突然の乱入者達に水を差されこの様子を冷静に見つめていたユウヤは、その戦い方が見覚えのある物だったのですぐに思い出した。

「なるほど、アレは俺たちの…アメリカ軍の戦い方か」

接近戦をせずに高機動の機体特性をフルに使って砲撃のみで仕留めていく、ユウヤにとってはやりなれた戦い方であった。
これが武の意図かどうかはともかく、よく理解している自分ならばやり用はあると口元に笑みが浮かぶ。

「そうなら、あの二人にチャンスを作ってやれる」

そう呟きグリップを握り直し、背中のマウントラックから長刀を引き抜くと、F−22に向かって一直線に弐型を突進させた。
無論、他の敵を撃墜しながら水月はユウヤの動きに気づいていて、ニヤリと笑い視線を向ける。

「ふん、あれが噂の新型ね。だったらあっさり終わったりしないでよ」

アレが将来に自分達が使う予定の機体候補だと知らされていたが、武に逃げられたと知った水月にはそんなのはもうどうでもよかった。
八つ当たりの意味もかねて砲撃するが、その狙いは正確無比で言葉とは裏腹に冷静だった。
だからこそ、忠実にアメリカ軍の戦い方をする水月に対して、ユウヤは武が見せつけた戦い方をしてみせる。

「墜ちろ!」
「なめるなっ」
「ちっ」
「甘いぜっ」
「こんの〜」

弐型と言っても自分達の改とさほど差はないと思っていた水月は、一瞬とはいえ焦らせるほどの突進力を見せた弐型に口元を
大きくゆがめる。

「へ〜、やるわね。でも、それだけじゃわたしには勝てないわよ」

ぎらりと瞳を輝かせた水月は、弐型より高出力の跳躍ユニットを唸らせると、一気に距離を開けて間合いを取り突撃砲を
撃ちまくる。
さすがF−22のパワーだと納得しているユウヤは焦らず、武の動きを真似るように変則的な戦い方を見せる。
これに気づいた水月は、弐型と一緒に現れてからずっと一定の距離から近づかず旋回運動で回避し続けるチェルミナートルから
意識を離すと、武の動きに酷似した弐型ににんまりと笑いを浮かべる。

「そう…そう言う事ね。それじゃどこまであの変態を真似できるかやってもらいましょうかっ」

ユウヤとガチンコを選んだ水月は、それでも自分のスタイルを出さずに、今のやり方のままで戦闘を続行した。
また、ヴァレリオの放送を唯依と一緒にハンガーで見ていたまりもはやれやれとため息を付いていた。

「気の毒ね、速瀬に八つ当たりされる相手は…」
「八つ当たりですか?」
「そう、ここに来てやっと白銀と戦えると思ったら、本人はのらりくらりと相手にしない。それで出てくるのは現状では対等に戦えない者達
ばっかりでしょう?」
「ほとんどの者は速瀬中尉の相手にはならないでしょう、ですがブリッジス少尉と弐型ならば…」
「XM3を搭載している機体で尚かつ熟知している者がいるから尚更ね、白銀が出てこないって言ってるような物よ」
「なるほど」
「まあ、せっかくだし、私が相手をして上げてもいいんだけど」
「この機体でですか?」
「白銀の武御雷・零と同等の機動性を持っているから、後はわたしの腕次第ってところかしら」

そう言って微笑むまりもに苦笑いを浮かべる唯依は、整備兵が持ってきたチェックリストに目を通して小さく頷く。

「各部問題無しです、どうしますか?」
「そうね、やっぱり元教官としては相手をしないわけにもいかないでしょう」

と、柔和な微笑みからして一転、水月以上に獰猛な笑みを浮かべたまりもを見て、唯依は似たもの同士みたいと感じてしまうのであった。
一方、水月に取ってはそんな怖い参戦者が来るとは予想もしてない戦いの中で、ユウヤ相手に思いの外手こずっていた。
機体性能で言えば断然有利であり、また操縦技術に関しても武に迫っていると自負していた。
だが、あくまでもアメリカ軍の戦い方をしろと夕呼から命令を受けている水月は、武の動きを驚くほど再現してくるユウヤの弐型に
決定的なダメージを与えられなかった。
それだけユウヤのXM3に対する完熟度は高まりつつあった。

「くっ、ここまであの変態そっくりにやるとは、面白すぎて腹が立ってくるわ」
「俺だって…今までの俺じゃないんだぜっ」
「白銀の奴〜、こんな所まで来て変態仲間作ってんじゃないわよ」
「…よしっ、見えてきたぞっ」

そんな愚痴を零しつつも、水月の顔はより楽しそうに、そして笑顔に凄みが増してくる。
また、ユウヤも相手の予測を上回り思考が段々とクリアになっていく。

「こっちの方がF−22の事は詳しいんだ、だからっ…」
「それぐらいでヴァルキリーズを舐めないでよねっ」
「どんな条件かしらないが、その戦い方ならこっちの方が先輩だっ」
「っ、来る気ね? 上等!」

余談だが通信も繋げていないし、お互いの顔も確認してないのに、二人の言葉は会話が成立しているように言葉を出していく。
それはともかくユウヤが仕掛けてくると感じて水月は圧倒的な推力を使い、接近を許さず機体を大きく旋回させながら加速させる。
同時にありったけの弾をばらまいて不知火の動きを押さえて距離を取ろうとする。
しかし、それを許したら勝てないと践んでいるユウヤは、後方でこちらを見ている二人の為にチャンスを作り出すべく、距離を詰める。
その思いを感じたのか、イーニァはクリスカに呟く。

「そろそろだよ、クリスカ」
「ああ、解ってる」
「ユウヤ気持ち、伝わってるよね」
「う、うん」
「でも、『力』は使っちゃダメだよ?」
「どうして?」
「ここは使う時じゃないから…」
「そうか、ならそうしよう」
「うん」

自分の方を見て笑うイーニァに、クリスカも自然と表情が緩む。
以前なら戦闘中にこんな表情を浮かべるなんて本人は自覚していないが、イーニァはその僅かな変化も嬉しく感じていた。
変わっていく、自分もユウヤもみんなも…だから、イーニァは願う。
傷つけてしまってごめんなさいと、まだ目を覚まさないもう一人の自分と思った少女にありがとうと伝えたいと。
そして待ちに待ったユウヤからの合図に、チャンスを作ってくれた事を感謝しつつ、二人の少女は思いを機体に乗せる。

「こいっ、イーニァ、クリスカっ」
「うんっ」
「了解だ」

いつもとは違う暖かい思いを胸に、二人の少女は瞳を輝かせた。
視線の先にはユウヤがいる、そう思うだけで負ける気がしない紅の姉妹だった。
時、同じく黄金の機体がハンガーから外に出て、真新しいコクピットにいるまりもは深く深呼吸する。

「ふー…」

ちなみに、この機体が完成時に見せられたお揃いの金色強化服は全力で却下した事を思い出し、今度はため息に変わる。

「はぁー…って、ため息付いてる場合じゃないわね」

ぎゅっと操縦桿をゆっくりと握り込むと、まりもの表情は一瞬で衛士に戻る。

「神宮司まりも、発進しますっ!」

雲間から差し込んだ日の光を浴びて、後に「暁の女神」と賞される黄金の機体がアラスカの空に舞い上がった。






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