「どうだった、鑑?」
「凄いよ香月せんせっ、ちゃんと撃てたよっ」
「そう、まあ試作とは言えあたしが作る物だからそれぐらいは当然よ」
「これでBETAにお返しできるよ〜」
「それじゃもっとすんごいの作らないとね、凄乃皇ぐらい迫力あるみたいな感じで?」
「そーゆーのタケルちゃんが好きそう、でもお金がかかりそう〜」
「平気よ、アイツと霞にした事でソ連と米国からたっぷり慰謝料ふんだくったから」
「さすがせんせー、あ、そう言えばどうして速瀬中尉をアラスカにいかせたんですか?」
「懲りないと言うかバカの集団がろくでもない事企んでるらしいのよ。しかもそれを利用して米国がねぇ…」
「タケルちゃん、大丈夫かなぁ〜」
「平気でしょ、沢山の女の子に囲まれてうはうは状態だし」
「それ違う気がします」
「いいいのよ、まりもだってわざわざ行かせたのに意味はあるし」
「んー、なんとなくわかるかなー」
「それに今度白銀と会う時はみんなと一緒だからね」
「えっと、確かそーせんぎひょうかえん…あれ?」
「難しい言葉を考えないの、量子電動脳じゃないんだから」
「香月せんせ〜、それじゃわたしがバカだって言ってません?」
「気のせいよ」
「う〜、ごまかした〜」
「要は大っぴらに戦術機へ乗るための試験って事よ」
「なんかてきとーに言ってる」
「意味が伝わればいいのよ、世の中そんな物よ」
「ってどーして水着を用意…ってええ〜っ!? これほとんどヒモじゃないですかっ!?」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 107 −2000.10 Storm Vanguard One




2000年 10月14日 10:37 アラスカ州ユーコン陸軍基地

追いかけてくる水月から仕事だと言って対決を先延ばしにした武は、ハンガーに運び込まれた暁を見上げながらシミュレーション戦の
後に顔を合わせたユウヤとの会話を思い出していた。

『予想外の作戦だったけど、負けは負けだ。約束通りなんでも答えるぞ』
『…白銀少佐』
『なんだ?』
『俺は…勝ったなんて思っていない』
『そっか、でもいいのか?』
『イーニァ達には悪いけど、俺自身が納得してないから…だからその時まで少佐の事は聞きません』
『少佐じゃない、武だ』
『えっ』
『リターンマッチはいつでも受け付けるぜ、ユウヤ』

そう言い笑う自分を驚いたように見返すユウヤの肩を軽く叩いて、じーっと睨んでいたイーニァに頭の中でごめんと謝った。
ちなみに会話の間、武の脳裏にはイーニァがプロジェクションした『うそつき』という文字で埋め尽くされていた。
別に武が嘘を付いたわけでもなく、ユウヤ自身が断ったのだから誤解じゃないが少女には理解はしてもらえなかったらしい。
それを横で見ていたクリスカはただ落ち着かない様子でユウヤの顔を見つめていた。

「白銀」
「え、あ、なに、まりもちゃん?」

自分を呼ぶ声に現実に戻ると目の前には国連軍の制服ではなく強化服に着替えたまりもがいて、いつも通り名前を呼ぶと武に近づき困った
ような表情を浮かべる。

「ここは横浜じゃないから、その呼び方は止めない?」
「えー」
「えーって言われても困るんだけど」
「ごめんなさい、俺の中で呼び方が『まりもちゃん』で固定されているので変更が出来ません」
「はぁ、まあいいけど」

実際、霞の事が在ったがその呼び方がいつもの武だったので、内心ほっとしながらしょうがないと大げさにため息をつくまりもだった。

「それよりも、どうですか、これ?」
「これね…いくらなんでも狙いすぎでしょ?」
「やっぱり」
「夕呼だからね…」

ハンガー内の照明に照らされて輝く金色の機体を見上げながら、二人は同時に苦笑いを浮かべる。
まるで公然と武のパートナーがまりもだと宣伝しているが、将来的に見せかけだけの機体ではないと国連軍の中でも人気を誇る機体になる。
それはともかく、今までの戦術機と違ってかなり違う事を仕様書から知ったまりもは、それを武に問いかける。

「まあ、見た目は派手だけど、今まで以上に機体の気密性が高いのはどうしてなの?」
「そもそもこの暁は地上戦だけを考えて作られた訳じゃないんですよ。設計段階から宙間戦闘を思想に入れています」
「宙間ってまさか宇宙で?」
「当然じゃないですか、地球からBETAを排除したら次は月ですからね」
「そこまで考えてるのね…」
「落ち着いて月を見たいですからね」
「いつも見てるくせに」
「まりもちゃん?」

なんとなく、からかう表情で見つめてくるまりもに、話の意味を理解した武はあたふたし始める。

「そっちの月じゃなくてっ…」
「あら、じゃあ『香月』じゃなくて『月詠』だったかしら?」
「うぐっ」
「ほらっ、図星じゃない」
「勘弁しください、ちょっと会わない間に突っ込み厳しくないですか?」
「ふふっ」
「はぁ…とにかく、コレの扱いは任せます」
「了解、『今度』は最後まであなたの背中を守ってみせるわ」
「まりもちゃん…」

笑顔付きの敬礼でまりもに見つめられ、武は嬉しそうに自分も笑って返礼し、自分のやるべき事の為にハンガーを後にした。
もちろん、その先にいるのは伊隅ヴァルキリーズが誇る突撃前衛長がやる気満々の笑顔で待っている事に、内心げっそりしている武だった。

「遅いっ」

遅れてきた武がブリーフィングルームに入ると、強化服に上着を引っかけた水月が叫ぶ。

「仕事してるんですよ、これでも少佐なんですから」
「あたしには関係ないっ」
「はー、自己中ですか…」
「そんなことよりも、勝負よっ」
「はいはい、でも相手は俺じゃないです」
「なんですって〜」

矛先をかわされて詰め寄る水月だったが、指先で室内にいた他の人を指さして武は説明を続ける。

「相手はそこにいるブリッジス少尉です、無論シミュレーターじゃなくて実機による模擬戦でどうですか?」
「乗った!」
「…戦えれば何でも良いんですね」
「ちょっとむしゃくしゃした事があったのよ」
「むしゃくしゃ?」
「なんでもないわ、それで腕前の方は?」
「米国のトップガンです」
「なるほど、実戦経験のないトップガンね」
「てめぇっ!」

それまで黙って話を聞いていたアルゴス小隊の中で、水月の言葉にいきり立ったタリサが声を上げる。
確かにそれは事実だが、武との出会いから腕を上げてきた事を知っているので、馬鹿にしたような水月の言葉に我慢が出来なかったらしい。
なによりユウヤは自分たちの仲間であるから、それを馬鹿にされてば黙っていられないタリサだった。

「初対面でいきなりそれかよ?」
「事実でしょ?」
「このっ…ユウヤの前にあたしが相手をしてやるぜっ」
「白銀、このちんちくりんは何?」
「誰がちんちくりんだっ」
「ユウヤと同じアルゴス小隊のタリサ・マナンダル少尉ですよ」
「ふーん、じゃあアンタで良いわ」
「よしっ、VG、ステラ、手を出すなよっ」

そう言い放ったタリサと水月がにらみ合いながら出て行ってしまうと、説明の途中で残された武と他の人達は微妙な空気に何とも言えなくなる。
だが、空気を読んでいるのかいないのか、イーニァが口を開く。

「ねえタケル、あの人強い?」
「ああ、強いな」
「じゃあ、わたしも戦いたい」
「どうして?」
「わたしが強くなればクリスカが無理しなくてすむから、それにユウヤの事も守って上げられる」

答えながら笑顔で小さくガッツポーズするイーニァにそうかと笑いながら頭を撫でる武だった。
それを聞いたVGとステラが黙って聞いていたユウヤに話しかける。

「で、我らがアルゴス1としてはどうする?」
「白銀少佐と違って甲斐性あるでしょう?」
「あのな…あんな見え透いた挑発に乗ってどうする。でもまあ、守られる側じゃない」
「ほうほう、言うようになったね」
「男の子とは言えなくなったかしら」
「お前らなぁ…」

突っ込まれているユウヤはやれやれとため息をつくが、そこに武が割ってはいる。

「さりげなく酷い事を言われた気がするが、それよりもタリサを慰める事を考えた方が良いぞ」
「タリサだってそう簡単には負けないと思うが…機体だって不知火・改だろうし」
「違うぞ」
「えっ」
「実は速瀬中尉とここにいるメンバーとリディア大尉達を戦わせた後、各国の所とも模擬戦をさせる気だったんだ…米国が介入してくる前にね」
「米国が?」
「そう…俺がここに来た事ですべての予定が前倒しになった事が原因と言えばそうだけど」

そこまで聞いたユウヤは、武が笑顔のままで話している違和感に気が付いて、何かを思い出したのかあっと声を上げた。

「どうしたユウヤ?」
「何か思い当たる事があるの?」
「俺が開発された当時のF−22に乗っていた時、国連の要請で先行量産型が一機だけ日本に送られた話を聞いた事がある。そして米国が
俺以外でこの戦術機開発計画に介入してくるとすれば、来るのは間違いなくそれを使っている第戦65闘教導団『インフィニティーズ』だろう」
「誰が来るかはまだ内緒だから、大きな声で言うなよ?」
「やっぱり、それじゃ速瀬中尉の機体はっ?」
「想像通りだぜ、ユウヤ」

乗っていた自分だから解るその性能に合わせて、ヴァルキリーズの突撃前衛長の力が重なれば、F−22の力は相当な物だろうとユウヤは
理解した。
しかも、搭載されているOSは間違いなくXM3だとすれば、タリサの劣勢は明らかである。
これがまだ不知火なら拮抗に近い感じに持っていけるかもしれないと思い、ユウヤも駆けだして行ってしまう。
その様子に満足げに頷いた武は、残っていた者達に補足的な説明を加える。

「速瀬中尉の実力もさることながら、俺が乗っていたF22は先行量産型を横浜基地で改修してOSもXM3を搭載してある。タリサも
腕を上げてきているが、相手が速瀬中尉じゃ悪すぎるかもな」
「悪すぎるどころじゃ…」
「あらあら、終わったら慰めるユウヤを独占かしら?」

ユウヤを独占…ステラの言葉に反応したのはここまで黙っていたクリスカで、自分の感情を理解できずに持て余しているが表情に表れていた。
これに気が付いた武はイーニァに目配せをすると、小さく頷いて自分のパートナーの手を握る。

「クリスカ」
「イ、イーニァ」
「ユウヤを独り占めされたらいや?」
「わ、わたしはっ…」
「いや?」
「……よくない」
「うん、じゃあ行こう」
「ま、まって、イーニァっ…」

ぐいぐいと力強く手を引くイーニァに連れられて、クリスカは自分達の機体が置いてあるハンガーへと走っていった。
その様子を見送りこの場に残ったVGとステラに、武は楽しそうな事を思いついた顔で二人に話しかける。

「さて、欲求不満の速瀬中尉にはもっと相手が欲しいだろうから、そこで二人に頼みがある」

武が口にした提案を聞いていた二人の顔は、すぐに同じ表情になり言われた事をする為に出て行った。
最後に残った武は水月も満足するだろうと大げさにため息を付くが、表情を変えると月詠が待つ霞の病室へと歩き出した。
そして演習場では大人げない水月が我が物顔で、米国最強と噂のF−22を駆ってタリサを弄んでいた。

「ほらほら〜、さっきの勢いはどーしたの?」
「くそっ、きたねーぞっ! ラプターなんて聞いてねーよ!?」
「あたしも不知火だって言ってないわよ♪」
「こんの〜」
「はいそこっ」
「舐めるなーっ!」
「ちっ」

予想外の相手に最初は翻弄されたタリサだったが、武との戦いと訓練を経た時間は決して無駄ではなかった。
そして、自分の駆るACTVはXM3がもたらした恩恵を存分に受けて、名前に恥じない高機動を誇る戦術機として生まれ変わっていた。
余談だが整備兵の間では『ACTV SECOND』と、不知火弐型みたいに呼んでいる者もいる。
その機体は直撃を避ける度に自分を取り戻し冷静な判断力で操作を始めたタリサは、F−22相手に一歩も引かない。

「前のあたしならやられてたけどなっ…うりゃっ!」
「むっ」
「誰に直接XM3受けたのか、教えてやるぜっ」
「上等!」
「くらえっ」

ACTVの手にした突撃砲が唸ると、水月の表情はますます楽しそうに笑い、武と戦えない事はどうでも良くなっていた。
今、目の前にいるのは武とよく似た動きを見せてくれる、ならばこれでも良いと水月の本気は更に強まる。
そんな二人の本気は、更に加速した戦いに突入していく。

「今までのACTVとあたしじゃないぜ…ただの第二世代の改修機と思うなよ!」

タリサのやる気が乗り移ったかのように、ACTVはF−22に負けない動きで懐に飛び込もうとした。
無論、予想外の動きに内心舌打ちをした水月だが、武とガチンコでやり合った動きからすれば、それは焦るほどでもなかった。

「いいわ、ただのちんちくりんじゃ無かったって事ね。ヴァルキリーズのみんなと見劣りしない腕前だと認めて上げる。でもねっ」

上唇を舌先で舐めた水月は、F−22の出力を最大まで上げると第二世代にはない瞬発力を見せて一気に距離を取り、突撃砲を撃ち放つ。

「こんの逃がすかっ」

尚も離された距離を詰めようとするタリサだったが、それを邪魔するように狙い澄ました砲撃で思うように近寄れない。
しかも、ぎりぎりで回避している機体に、少しずつだが模擬弾が掠りはじめ、迂闊に前に出られなくなった。
こうしてあくまでも米軍の戦い方をしつづける水月の顔は、もの凄く楽しそうに笑い始めていた。

「さあ、もっとわたしを楽しませてちょーだい、くくっ…」

全力のタリサと余裕を見せる水月の差はユウヤ達が来る頃には大きな差となって現れ、それを見たユウヤは自分の予想を上回るF−22の
性能に驚きを隠せなくなるのだった。



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