「なにこれ…」
「どう、すんごいでしょ♪」
「確かに全身金色なのは凄いけど…」
「ちゃんと意味はあるのよ〜」
「言わなくても良いわ、仕様書は見たし」
「ふっふ〜ん、解ってるみたいね。まあ見かけ倒しじゃない事は保証しておくわ」
「でも、今まで見た戦術機とはデザインが違うのね」
「あったりまえよ〜、世界でただ一機だけなのよ? しかもまりも専用機なんだから〜」
「仮にも国連軍でそんなことしていいのかしら?」
「文句は言わせないし、これってXG−70より安いわよ。一応完成って事だけど、バージョンアップの予定も織り込み済み」
「一応って言い方は、夕呼らしくないわね」
「まあ、現状でも零に匹敵する作りになってるから問題はないわ」
「そう…でも、わたしに扱いきれるかしら?」
「大丈夫よ、白銀の愛情が詰まってるんだから〜」
「愛情って言われてもね…」
「アラスカに行って体にも愛情詰めて貰えばいいじゃない、妊娠でもしたら万々歳ね」
「な、なんの話をしてるのよっ」
「もう、カマトトぶって〜」
「はぁ…」
「それとテストが終わったら霞を連れて一緒に帰ってきてね」
「そうね、あの夕呼…」
「これはあたしのミス、何も言わなくても良いわ」
「らしくない程、素直な夕呼って不気味ね」
「なんですってーっ」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 104 −2000.10 EAGLE DRIVER−




2000年 10月6日 9:10 アラスカ州ユーコン陸軍基地 テストサイト18

イーニァの作戦でやることが決まった対武シミュレーション戦の知らせがあったその時、武はハンガーでACTVを前に唯依と会話中だった。

「ふーん、タリサの奴、そこまで使いこなせるようになったのか」
「意外と思われがちですが、マナンダル少尉は良いセンスを持っています」
「あんなにちっこいのにな〜」
「今の言葉を聞いたら、彼女は怒りますよ?」
「ははっ、そうかもな〜」
「一番飲み込みが早かったのはソビエトの二人です、特にシェスチナ少尉は驚嘆に値します」
「素直で真面目だからな、クリスカの奴はイーニァの為にってところだろう」
「そのようですね」
「…ブリッジス少尉は?」
「彼はその…悪くはないです、寧ろ的確に操作していますが…」
「気になる?」
「はい…ってそ、そう言う意味ではなくてっ」

ニヤニヤ笑う武の様子から違う意味を含んでいると気が付いた唯依は、頬を赤くして抗議する。
小さく息を吐いて思い出すように唯依の口から出た言葉に、武は自分も感じていた事を思い出す。

「テストパイロットとしてXM3を理解して機体性能を引き出していますが、吹雪や武御雷を見る時の目が気になるんです」
「まあ、好意的な目じゃないよなぁ…ヴィンセント軍曹も言ってたけど、日本が嫌いらしい」
「やはりそうですか…」
「ハーフだからって小さい頃からいろいろあったらしいからな…」

その言葉だけで唯依はユウヤの生い立ちが如何様な物か想像して俯く。
だから日本人が…自分の中に流れる血にも嫌悪感を持っているのだろうと思う。

「どこかで折り合いを付けないとな…でなければ戦場では生きていられないし、まあ何とか出来ればなぁ…」
「そうですね…」
「それはともかく、昨夜に夕呼先生から連絡が有って新型機が完成しちゃったからこっちに送るってさ、しかも衛士付きで」
「香月副司令らしい言い方ですが、衛士もですか?」
「ああ、しかもどうやったのか知らないがまりもちゃん本人らしい」
「ですが神宮司軍曹は訓練校の教官では?」
「なんでも都合良く代理が見つかったとか言ってたけど、半分嘘っぽい」
「はぁ…でも、正規の搭乗者ならば調整はしやすいかと思います」
「だよな〜、今更言ってもしょうがないし、夕呼先生が決めた事だし…と、言う訳で新型機の件はまりもちゃんとお願いします」
「了解です」
「ああ、取得したデータは篁中尉の好きにして良いってさ」
「いいんですか?」
「夕呼先生だし」

と、会話が一段落したところで話題に出ていたユウヤが真面目な表情で現れたので、武と唯依はそちらへ向く。

「白銀少佐」
「やる気になったか?」
「はい、、それでこちらにも条件があります」
「ブリッジス少尉の好きなようにしていい」
「えっ」
「どんな条件でも良いから思いっきりやってみればいい…けど、それで勝てるのならな?」
「っ! 解りました、シミュレータールームで待っています」

武のニヤリとした笑いに挑発されたと解ったユウヤだが、ここで熱くなっても勝てないと拳を握るだけでその場を後にした。
それを見ていた唯依は、武の思惑に気づいてため息をつく。

「そこまで挑発しなくてもいいのでは?」
「別に俺は嫌われてもいいんだ、慰める役はそっちだし」
「は?」
「俺に負けて傷心のあいつを、軍人ではなく大和撫子な篁中尉で落としちゃってくれれば弐型の開発も問題なくなるだろ?」
「な、なんですかそれはっ…って白銀少佐、待って下さいっ…」
「篁ユウヤっていいじゃん」
「っ!? まさか一人だけ逃げる気ですね?」
「さて、待たせるのも何だし行くとするかな〜」
「白銀少佐っ、狡いですっ」
「何の事かなぁ〜」
「少佐っ」

背後から聞こえてくる唯依の言葉をスルーして格納庫を後にするが、すぐに追いつかれて歩きながら抗議される。
武としてはユウヤが唯依と仲良くなれば弐型の開発も進むし、ついでに巌谷の話もそっちになればいいなあと思いつきで言ったのを
唯依は見逃さなかったのである。
もっとも、その抗議は武と一緒にロッカールームまで入って来たところで指摘され、顔を赤くして飛び出していった事で終わった。
そして強化服に着替えてユウヤが待っているシミュレータールームまで来ると、そこには武が予想していたメンツが揃っていた。

「アルゴス小隊にソビエトの二人か…」
「大勢いても勝てないのは知っています」
「そっか…で、他に条件は?」
「はい」

手を挙げて武を見つめるイーニァが、口を開く。

「あのね、ユウヤが勝ったらわたしたちのお願いも聞いてくれる?」
「イーニァ達もか?」
「うん、だめ?」
「そうだなぁ、まあ俺に出来る範囲内なお願いならいいぞ」
「ホント?」
「ああ」
「嘘付いたらはりせんぼんだよ?」
「解ってる、そっちが勝ったらみんなのお願いを一つずつ聞くぜ」
「うん、がんばる」

なぜかユウヤよりも気合いを入れるイーニァを怪訝に思ったクリスカは、そっと耳打ちする。

「イーニァ、何を考えているの?」
「ひみつ」
「え」
「大丈夫、きっとクリスカは喜んでくれるよ」

そう笑顔で返されてしまい、クリスカは今まで感じなかった不安を覚えてしまう。
更にもう一人不安を抱えてここまで来た唯依は、武の言葉が気になってユウヤをまともに見られないでいた。
それを知ってか武は先ほどの会話を思い出して、これからの為に切っ掛けになればとユウヤに向かって人差し指を立てる。

「そうそう、勝っても負けてもブリッジス少尉には約束して欲しいことがある」
「なんでしょうか?」
「俺とは違って篁中尉は真面目にここまでやってきているんだ、だからこの勝負の後はその気持ちに応えてやって欲しい」
「それは…」
「日本が嫌いって言うのは解るが、それを仕事に持ち込むのはやめて欲しいって事だ。もちろん今すぐにでもすべての気持ちを
入れ替えろって無茶は言わない。せめて一人ぐらいは普通に付き合える日本人の友達がいても良いと思うんだが、どうかな?」
「…解りました」
「よし(ニヤリ)」

その瞬間、後ろ手にピースサインをしてみせると、唯依の顔は真っ赤になり何か言おうと口を開くが言葉が出ない。
この様子をじっと見ていたイーニァが武に話しかける。

「タケル…」
「不満か、イーニァ?」
「ううん、おっけーだよ。これが第一歩だよね」
「うんうん」

ニカっと笑う武とニコっと笑うイーニァを見ていたみんなは、クリスカや唯依と同様に不安を募らせていく。
一体何を考えているのか、解っているのはこの二人だけだった。
そして唯依にCPを頼んで筐体に乗り込むと、白銀武に取って語られることのないシミュレーション戦が始まった。

「なるほど、それぞれ得意の機体を選んだ訳か…まあ、俺もそうだけど」

呟く武が選んだのは、衛士になって初めて乗った機体『吹雪』であった。
別に手を抜いた訳でもなく、武なりの意味を込めた機体選択だった。

「タケルの奴、第三世代って言っても練習機だぜ?」
「それでも驚異なのは変わらない、嘗めると痛い目をみるな」
「解ってるよVG、全力でやってやるぜ」
「そう言って一番にリタイヤしないようにね」
「ステラ〜」
「がんばろうね、クリスカ」
「ああ」
「お喋りはそこまでだ、では各機にルールを説明する…2時間内に少佐を落とせばブリッジス少尉達の勝ちだ。その間は何回撃墜されて
も再出撃しても良い。以上だ、質問は?」

CPの唯依が説明に対しての問いかけをするが、皆一様に頷くだけで返答した。

「それでは、戦闘開始っ」

唯依の宣言と共にそれぞれ散っていき、既存のフォーメーションは組まずに、武からの狙いを分散させる手に出る。

「なるほどな、なら俺もチャレンジャーになってやるぜ」

そう言って手にしていた突撃砲をその場に捨てると、長刀を引き抜いて一番近いタリサへ機体を跳躍させる。

「来たなっ、堕ちろーっ」

タリサは両手の突撃砲を残弾も気にせず撃ちまくり、弾幕を張って武の動きを制しようとする。
それに併せてステラとヴァレリオが支援砲撃を行い、武の目の前には砲撃の壁が展開した。

「やるなっ、だけど!」

武の意識は零の領域へ入り込み、機体を加速させると吹雪の性能限界を引き出す動きを見せて僅かな隙を見つけてタリサへ接近する。

「ちっ、アレをぬけてくるのかよ? でも、おもしれーっぜ」

叫びと共にタリサは喜色を浮かべて出力を最大にすると、ACTVの全能力を使って武を撃墜しようと突撃砲を撃ちまくる。
ここで僅かな機体の差が、二人の力を近づけさせることになり、直撃とはならないがお互いの機体にかすり傷を負わせた。

「タケルーっ!」
「くっ、速瀬中尉よりXM3との相性がこんなに合うなんて…うおっ?」
「もらったーっ」
「嘗めるなっ」

機体を反転させてわざと背中を向け死角を作ると、そのまま短刀を取り出し振り向きざまにACTVへ向かって投げる。

「なっ!?」
「そこっ」

短刀に気を取られた一瞬の間が、タリサにとって致命的な隙となり、武が振るった長刀がACTVの胴体を下から斬りつける。
だが、刃先が機体に触れる前に武は距離を取り、襲ってきた砲撃に回避運動をさせられる。

「大丈夫か、タリサ?」
「助かったぜVG、今のはやばかった」
「ほら、油断しないで、あの二人に笑われるわよ」
「う、うっせー」

展開して距離を取ったステラとVGは、客観的に見ることで支援に徹していたので、タリサに当たるかもしれないが二人の間へ砲撃を
行った。
結果として武の意識をそらすことに成功したお陰で、撃墜されることはなかったが、気を引き締めたタリサは果敢に攻撃を再開する。
そしてここまで手を出さずに見ていたユウヤは、作戦を立てたイーニァに話しかける。

「なあイーニァ、タリサを助けなくて良いのか?」
「いい、どうせ負ける」
「それは…」
「いっぱい負けてくれれば、タケルもちょーしにのってくるってスミカが言ってた」
「そ、そっか…」
「ほかにもタケルのこと、たくさん教えてくれたから大丈夫だよ」

にこっと微笑むイーニァに、ユウヤはともかくクリスカまで言いしれぬ恐怖を感じてしまう。
なにがイーニァをここまで変えてしまったのか…原因が武の彼女と知ってしまうが、何故か同情してしまう気持ちもわき上がる二人だった。
それよりも、こうして話している間にタリサは一回目の撃墜を味わっていた。

「ちっくしょー、もう少しだったのにっ」
「どうした、もう終わりか?」
「まだだ! 次は墜としてみせるぜ」

唯依の問いかけにタリサは即座に答えると、拳を握って自信をみなぎらせる。
その言葉通り再びシミュレーションに戻ったタリサは、果敢に攻め込み武相手に楽しそうに戦っていく。
だが、唯依の視線はまだ動かないイーニァ達とユウヤの状況を考え思考していた。

「なるほど、マナンダル少尉は囮か…仕掛けるのはどちらかだろうが、白銀少佐に普通の手は通用しない。ならばどうする?

残された時間は多くはないが、それでも余裕を見せるイーニァを見て、戦いの結果に機体をしてしまう唯依だった。
もっとも、その予想ははるか斜め方向で現れてしまい、唯依を更なる混沌へ誘い込むことになる。






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