「待たせたわね、まりも」
「なによいきなり?」
「何ってついにまりも専用機が完成したのよ」
「はぁ…」
「そこでどうしてため息をつくのよ?」
「別に」
「もう、すんごいんだから〜、あたしってやっぱり天才よね〜」
「天災の間違いじゃないかしら…」
「何か言った?」
「気のせいよ」
「それで最後の調整は白銀の方でやって貰うんだけど、ついでにあんたもアラスカへ行く?」
「あのね夕呼、わたしはあの子達の教官だって忘れてない?」
「うん、だから総戦技評価演習が終わった後にでも…」
「それはもう少し先の予定じゃないの?」
「鑑達の成長が予想以上にいいし、もっと先に進めるべきと判断したわ」
「…で、本音は?」
「南の島でバカンスしたいのよ〜」
「やっぱりそれね…」
「もちろんまりもの水着も用意したわ、これよ」
「ってなによこれ!? ほとんど紐じゃない?」
「これで白銀もあんたに釘付けよ♪」
「…夕呼、徹夜続きなのがよーく解ったからもう寝なさい」
「はーい」
「…はぁ、白銀が夕呼の相手をしてくれないのがこんなに大変になるなんて…」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 103 −2000.10 strategy−




2000年 10月5日 15:12 アラスカ州ユーコン陸軍基地

誰かの思考を読んだ所為か、イーニァの行動は率直だった。
戸惑うクリスカの話もスルーして、ユウヤのいる場所に向かって歩いていく。

「ま、待ってイーニァっ」
「だめだよクリスカ、それじゃ誰かにユウヤを取られちゃうよ?」
「っ!?」
「だから行こう」
「で、でもっ」
「じゃあ、勇気をあげる」
「えっ」

そう言ってにっこり笑うイーニァは、クリスカに対して力を使う。
瞬間、クリスカの見えている素肌の部分は残らず真っ赤に染まり、頭の上からは湯気が立ち上っているようである。

「スミカがいってた、すきになってすきになってもらえたら、今みたいにしてくれるんだって」
「〜っ!!」
「うん、クリスカのこころ、あったかくなってる」
「イ、イーニァっ!?」
「ほら、はやくはやくー」

もし、ここに武がいたら問答無用で純夏の頭を叩いていただろう。
何をイーニァに教えたのか、クリスカの状態からも聞かなくても理解できる。
そんなクリスカはユウヤのいる場所にたどり着くまで、頭の中はとあるラブシーンで埋め尽くされていた。
恋人同士が交わすその意味は解らずとも、自分とユウヤに置き換えて想像してしまったりしたクリスカは更に顔を赤くしてしまう。
だが、それが人として当たり前の事を純夏から学んだイーニァは、クリスカにもそうなって欲しくて力を使った。
それ以外にも純夏から教えてもらった事があるのだが、まだ内緒にしようと思うイーニァだった。
ちなみにクリスカ自身が気づかないところで、純夏の影響を受けたイーニァがどんどん小悪魔化しているらしい。
その頃、アルゴス小隊の仲間を集めたユウヤは、空いていたブリーフィングルームで武とのシミュレーター戦について聞いていた。

「なるほど、それもありだなぁ」
「確かに今のユウヤじゃ、一対一じゃ無理だよなぁ」
「悔しいがそれが今の実力だしな……」

ヴァレリオとタリサの言葉に苦笑いを浮かべるが、卑屈ではなく事実として受け止めて認めているユウヤは落ち着いていた。

「それで他に誰を誘うのかしら?」
「とりあえず、イーニァ達には話したが……」
「なっ、なんであいつらなんかっ」
「俺が知っている中じゃ、近接戦闘戦において飛び抜けているのはあいつらだ」
「だからってよぉ」
「勝つために必要だと判断したから誘っただけだ。でもタリサが気を悪くしたら謝る、すまない」
「い、いいって、別にアタシはっ……」
「ユウヤよぉ、タリサの乙女心も理解してやれよ」
「へ、変な事言うなっ、VG!」

ヴァレリオの言葉に顔を赤くしてそっぽを向くタリサを、ユウヤは乙女心ってなんだろうと思っていた。
そんな鈍感なユウヤと素直になれないタリサを見て薄く笑っていたステラは、話を本題に戻す。

「タリサの気持ちも解るけど、ユウヤは白銀少佐に勝つ為に必要だと判断したんだから、それはリーダーとして正しいわ」
「解ってるよぉ……ってステラも変な誤解するんじゃねえよ」
「あら、何が誤解なのかしら?」
「ううっ」

二人の会話を聞きながら話の趣旨がどこか違ってるよなぁと漠然と思っていたユウヤだったが、そこにドアをノックして
入って来た彼女たちに会話が途切れる。

「ユウヤ」
「イーニァ、それにクリスカ?」
「クリスカがさっきはごめんなさいって」
「イ、イーニァ」
「だめだよ、だからクリスカはユウヤの隣に座るの」
「お、おい」

ここでも抵抗むなしくイーニァに背中を押されたクリスカは、ユウヤの横に座らせると逃げられないようにその横に座った。
片やにこにこ、もう片方は真っ赤な顔で俯いたまま奇妙な沈黙が続くが、面白くないと言った感じでタリサが口を開く。

「と、とにかく、話の続きをしようぜ」
「あ、ああ」
「あらら」
「やれやれ」
「そこの二人、にやにやしてるんじゃねーっ」

タリサの突っ込みにこれ以上はまずいと判断したヴァレリオとステラは視線をユウヤに戻す。

「顔が赤いけど、大丈夫なのかクリスカ?」
「も、問題ないっ」
「大丈夫だよユウヤ、気にしないで」

気遣うユウヤに楽しそうに話すイーニァの横で、クリスカは激しく胸の内で高まる鼓動と格闘していた。
それは戦闘状態における高揚感に似た気もしていたが、それよりも暖かく気持ちのいいものだと朧気に感じていた。

「そうか、じゃあイーニァ達が来たから改めて話すけど、正攻法じゃまず勝てない。だからセオリーを無視で攻めてみて、
そこにチャンスを見つけるしかないと思う」
「何でそう決めたんだ?」
「みんなは白銀少佐の広報ビデオは見たんだよな?」
「ええ」
「あの笑えるやつな」
「俺はそれだけじゃなくって、ここに来る前に数ヶ月前に起こったH21から進行してきたBETA相手に単独で戦う映像を
見た事があるんだ」

その言葉にタリサとヴァレリオとステラは表情を変えるが、イーニァはきょとんとしていてここでやっとクリスカも落ち着いた
のか顔を上げる。

「支援はあったのかよ?」
「多少はな、でもそれでも単独でBETA相手に戦う姿は凄まじかった。応援が駆けつけたときには敵はほぼ殲滅していたんだ」
「タケルが凄いのは解っていたけど、そんなになのか」
「ああ、だから数でぶつかっても無意味だって解るんだ」
「なるほど、それじゃあ正面からは得策じゃない。返り討ちに合うのが決まっているようなもんだな」
「それでセオリーに捕らわれないアイデアが必要なのね」
「そういう事だ、だからどんな変な事でもいいから意見が欲しい」
「はい」

そこで少し手を挙げたのは意外にもイーニァだった。
みんなの注目を浴びてちょっと怯えたようにクリスカの腕をつかむが、それでもきちんと話を始める。

「タケルはばかだから作戦はない方がいい」
「あのなぁ、もっとましな事言えないのかよ」
「だってほんとうだよ、スミカも言ってた。『タケルちゃんなんて馬鹿だからマジメに相手したらダメだよ』って」
「け、結構きついんだなぁ、タケルの彼女って」
「何も考えないか…」
「おい、ユウヤ?」

イーニァの言葉に考えるそぶりを見せるユウヤに、タリサが見つめる。
だけどすぐに顔を上げて口を開く。

「それも一理あるなって、他には無いか?」
「あ、あとね、タケルは女の子にやさしすぎるって……」
「そうか?」
「う、うん、だってわたし達にやさしいよ」
「あ……」
「そうね、タリサだってその辺は解るでしょ?」
「ああ」

霞に対してしてしまった事があるのに、それでも武が今まで自分たちにしてくれた事を思い出せば、イーニァの言葉に納得する
タリサだった。
そこに空気を読んでいるのかいないのか、VGが口を挟む。

「おいおい、作戦会議が白銀少佐の事とすり替わってないか?」
「いや、今更だけど俺たちは白銀少佐の事を知らなさすぎる」
「確かにな……あまり自分から話さないし」
「わたし知ってるよ、タケルの事」

イーニァの意外な発言に、みんなの視線が注目する。
その中でタリサが問いかける。

「お前、いつ聞いたんだよ?」
「スミカとお話した、いっぱいいっぱい話してくれた」
「ああ、鑑少尉か……」
「タケルの事ならなんでも知ってるのは、小さい頃からずっと一緒にいたからなんだって」
「幼なじみって奴だったな……」
「タケルはね、みんなが思ってるより強くないんだよ? いつも泣いてるの……自分は無力だって、もっと救えたはずなのにって」
「あんなに強いのにか?」
「うん……あ、あのね、これは本当は内緒なんだけど……タケルとカスミはハイヴに突入した部隊で生き残った二人なの」
「ハイヴに突入って、そんな作戦ヴォールク以外じゃ……」
「待った、イーニァ……それってどこのハイヴなんだ?」
「……カシュガル」
「H1なのかっ!?」
「嘘だろっ!?」
「聞いた事無いぜ……」

そこでクリスカは驚いた表情でイーニァの顔を見つめる。
何か言おうとしたが、その前にユウヤが真剣な表情でイーニァに詰め寄った。

「本当なのか、イーニァ?」
「うん、でもこれは内緒なんだよ」
「とてもじゃないが口にしたらこっちの身が危ないぜ。やばすぎる話だぞ?」
「解ってるVG、ステラもタリサも口外無用だ。クリスカもな」
「あ、ああ…」
「この話はここで終わりだ、イーニァも他の奴に喋るなよ」
「うん…」

最後にみんなを見つめると、これだけは危険すぎる情報と判断したので、ユウヤの言葉に黙って頷く。

「それよりも今は少佐に勝つ作戦を考えないと…」
「はい」
「またかよ…」

今度は勢いよく手を挙げたイーニァは、タリサの呟きを無視してユウヤに向かって微笑む。

「今度はちゃんとした方法、でも今は言えない」
「言えない?」
「うん、たぶん一回しか通用しないと思うから、だから…みんなはわたしが撃てって言ったら撃って」
「なんだよ、お前の指示に従えって事かよ」
「…あなたはいなくてもいい、わたしとクリスカとユウヤだけで十分」
「なにぃ?」

敵意むき出しで睨むタリサからイーニァを庇うように身を乗り出したクリスカは逆に睨み返す。

「イーニァが言うのなら間違いない、他に作戦がないのなら黙って従え」
「てめぇ…」

一色触発の雰囲気になる二人だったが、イーニァの言葉を考え込んでいたユウヤが止める。

「タリサもクリスカも落ち着けよ、俺たちの相手は白銀少佐だぞ」
「ふ、ふんっ」
「わ、解っている」
「イーニァなりに何か確信があるんだろうから、今回はその方法で挑んでみよう」
「あ、ユウヤ」
「なんだ?」
「その…もし上手くいったらお願い聞いてくれる?」
「お願いってなんだ?」
「うん、もしね…タケルに勝ったら二人だけでお話しして欲しいの」
「なんだ、それぐらいならいつでもいいぞ」
「ユ、ユウヤ!」

そこで思わず声を上げたのはクリスカではなくタリサだった。
しかも後から自分の行為に気が付いて、それを見ていたステラとヴァレリオにニヤニヤされて顔を赤くして縮こまってしまう。
奇しくもそれはイーニァの言葉に真っ赤になったまま俯いたクリスカと同じポーズになっていた。
なにしろイーニァの言葉でここに来る前の会話を思い出してしまい、その二人だけの意味を理解していたからであった。
ニコニコするイーニァとほほを赤く染めて俯くクリスカ、そしてユウヤを睨み付けるタリサを見ながら、傍観に徹していた
ヴァレリオとステラは楽しそうに笑う。

「なるほどね」
「いやいや、これは楽しみだ」
「ん? どうしたんだ、二人とも?」
「そして我らがアルゴス1は話に聞いた少佐並に鈍感だという事か」
「でも、いいんじゃない。その方が面白い事になりそうだわ」
「ステラ、VG、何の話だ?」
「ユウヤはそのままでがんばって」
「そうだな、期待してるぜ」

二人の言葉を理解していないユウヤは一人憮然とした表情になるが、自分が武と同じ状況になりつつある事実を知るには
もう少しだけ時間を必要とした。
そして初めてXM3に触れた時の気持ちを思い出したと同時に、唯依の言葉も改めて思い出していた。
だからこそ、どうしても武に勝って何を思い戦っているのか……その本音を知りたいと思うユウヤだった。

「うん、がんばる」

そんなみんなの様子に、イーニァは楽しそうにうんうんと頷いていた。






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