「…………」
「え、えーっとぉ、その睨まれると怖いんですが、まりもちゃん」
「後ろめたい事があるからかしら?」
「ないないっ、ないですってば〜」
「ホントかしら、だって白銀は恋愛原子核なんだし……」
「ああもう、まりもちゃんまで止めて〜」
「ふふっ、冗談よ」
「うば〜」
「安心して、わたしは夕呼とは違うから、ね?」
「はぁ、良かった」
「ちょっとちょっとぉ、なんでそうなのよ〜」
「あら夕呼、いたのね」
「いるわよっ、何よまりもったらさっきと言ってた事が違うじゃないの」
「ああ言う事に関して夕呼の言葉を鵜呑みにするなんてしないわよ、だから適当に答えただけよ」
「うっ」
「大体、アラスカ行く前に土下座までしてくれた白銀を信じないでどうするのよ?」
「ああ、やっぱりまりもちゃんは優しいなぁ〜」
「白銀のばかー、帰ってきたら絶対に復讐してやるんだから〜」
「あっ」
「あら、ちょっとやりすぎたかしら? でも、すっきりしたわ」
「たまには良いんじゃないですか」
「そうね、たまにはね。でも白銀は覚悟しておいた方がいいんじゃない」
「へっ?」
「夕呼との約束、どうなるか心配よねぇ」
「げえっ、忘れてたっ!」
マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction
God knows... Episode 102 −2000.10 Twins−
2000年 10月5日 13:05 アラスカ州ユーコン陸軍基地
ヴィンセントと別れてハンガーから出たユウヤは、武とのシミュレーター戦の事を考えながら歩いていた。
今の自分では一対一だと勝機が無いのは解っているので、ここは素直に親友の意見を採り入れて作戦を考える。
そうなるとやはりクリスカとイーニァ達の力も必要だなと、ユウヤは声だけでも掛けてみるかと決めていた。
「ユウヤ」
「イーニァ?」
実にタイミング良く自分を呼ぶ声に顔を向けると、そこには建物の影からひょこっと顔を出したイーニァがいた。
だが、いつも一緒にいるクリスカの姿が見あたらないので、ユウヤは怪訝な表情になる。
「なあ、あいつはどうしたんだ?」
「クリスカ、すねてるの」
「すねてる?」
「うん、隠し事ばれちゃったから、それで怒って……」
「そっか、でも拗ねてるなんて可愛い所あるんだな」
「クリスカとお話ししたいの?」
「ああ、話というか相談したかったんだが、お前でもいいか」
「なに?」
何やら期待に満ちた表情で見つめてくるイーニァに、ユウヤは簡潔に武とのシミュレーター戦について話し始める。
「あの人に……タケルに勝ちたいんだ?」
「そう言うことだ、ちょっとずるいとは思うんだけどさ」
「……いいよ、手伝う」
「いいのか?」
「うん」
「あ、でもさ、そのお前らに取って白銀少佐って……」
「あのね、ユウヤ……」
そこで一旦言葉を切ってユウヤの腕を掴むと、自分の方に引き寄せたイーニァは小さな声で囁く。
「あれは違うの、タケルはわたしたちを助けてくれたの」
「助けた?」
「そう……だからその事がばれちゃったからクリスカすねてるの」
「あー、えっと、つまりお前達と少佐は……」
「しーっ、みんなには内緒だよ? ユウヤだから話したの」
「あ、ああ」
「うそ付いたらハリ千本飲まないといけないから忘れちゃだめだよ」
「ハリ千本?」
「スミカが教えてくれたんだよ、うそ付いたらそうするんだって」
「なんだそりゃ……」
「イーニァっ」
さらっと重大なことを聞かされたとユウヤが思っていた所に大きな声で走り寄ってきたクリスカは、二人の間に割ってはいると
イーニァを庇うようにして睨む。
「貴様、イーニァに何をしていたっ」
「何って話をしていただけだ」
「そうだよ、どうしたのクリスカ?」
「い、いや、なんでもない」
遠目から見た二人が顔を近づけていたのでキスでもしていたのかと思いこんでいたクリスカだったが、それが自分の思い違いにほっと
しながらもどちらに対しての安堵感なのか自覚がなかった。
それに気づいたのかイーニァがくすっと笑いながらクリスカに話しかける。
「あのねクリスカ、ユウヤがクリスカのこと、かわいいって」
「なっ!?」
「おい、イーニァ」
「それにね、わたしじゃなくてクリスカとお話ししたかったんだって」
「な、何を……」
「良かったね、クリスカ」
「イーニァっ」
イーニァの言葉に驚き反応してついユウヤの方を睨み返すが、その瞬間クリスカの頬に赤みが差してしまう。
それを見たユウヤも意外な出来事だったので、ついまじまじと見つめてしまう。
なんとなく固まる二人を交互に見た後、イーニァは微笑むとその場から歩き出す。
「ユウヤ、クリスカのことお願いね」
「お、おいっ」
「クリスカ、ユウヤとちゃんとお話しようね」
「イーニァっ」
「またね」
ニコニコしながら手を振ってどこかに行ってしまったイーニァを呆然と見送り、この場に残されたユウヤとクリスカは暫く無言のまま
立ちつくしていたが、ユウヤの方を見ないままクリスカが口を開いた。
「ブリッジス……その、話と言うのはなんだ?」
「ああ、実は白銀少佐とシミュレーター戦をするんだけど、その事でお前達に協力して貰えないかって」
「勝てる見込みはあるのか?」
「普通にやったら無理だけどな……でも、条件は決まってないから、それならそれで好きにやらせてもらう事にしたからさ」
「そうか……」
「で、どうなんだ?」
「その前に、イーニァはなんて答えたんだ?」
「いいよって」
「なら、わたしも協力しよう」
「無理に頼むつもりはないぞ?」
「イーニァが引き受けたなら、わたしの意見も同じだ」
「解った、それじゃよろしくな」
そう言ってユウヤが差し出した手をまじまじと見つめるクリスカは、正直どうして良いのか解らなかった。
だからその疑問が自然と口から出てしまう。
「それはなんだ?」
「握手だよ、知らないのかよ」
「なんの意味があるんだ?」
「いろんな意味があるけど、今は協力してくれて感謝って所かな」
「感謝……」
「まあ深く考えなくても良いさ、挨拶みたいなもんだ」
「そうか……よ、よろしく」
自分が握ろうとして指先が触れた瞬間、クリスカは体を振るわせるがそっと握るとユウヤの暖かさがそこから伝わってきた。
しっかりと握りかえされて戸惑いながらもクリスカはユウヤの顔を見つめると、浮かべている笑顔に僅かだが胸の奥が熱くなる。
安堵感に似たような気持ちが有ったからなのか、普段使わない力が無意識に働いてしまった為にユウヤの心を感じてしまったクリスカは
イーニァの言葉が本当だと理解してしまう。
逆にいつまでも手を放そうとしないクリスカに、そのタイミングを逃してしまったユウヤもどうするかなと戸惑っていた。
「暖かいな……」
「えっ」
「……っ!? な、なんでもないっ」
「あ、おいっ、クリスカ?」
「くっ」
つい乱暴にクリスカは繋がれた手を振り払うと、ユウヤの顔を見ないままに踵を返して走り出してしまう。
ユウヤの言葉を背中で聞きながら走り出していたクリスカだったが、まだ残っている温もりを逃さないように触れ合っていた手を
胸元に抱えるように握りしめていた。
その走るクリスカの顔には少し前から降り出した雪が当たっていたが、火照った顔を冷やすにはまだまだ時間が足りないようだった。
「なんなんだよ、一体……それにあんな顔するなんて……」
突然のクリスカの行動に一人残ったユウヤは、身を翻したクリスカの顔が真っ赤になっていたのを見てしまっていた。
以前、武との事で気を使っていた時に見せた落ち込んだ表情よりも、今の方がユウヤにはかなり衝撃的だったらしい。
そんなクリスカは自室に戻ると、ベッドの上で枕を抱えて出迎えたイーニァから笑顔で問いかけられていた。
「ユウヤとお話しした?」
「あ、ああ」
「どうだった?」
「イーニァが良ければわたしもそれでいい」
「それじゃだめだよクリスカ、それじゃだめ」
「イーニァ?」
「自分で決めないといけないの、スミカもそう言ってた」
「スミカ? 鑑少尉の事か……」
「うん」
不意にイーニァは笑顔を消して真剣な表情を浮かべると、見つめられていたクリスカは彼女が何を言うのか気になっていた。
「いままで、わたし達は命令されたから、戦ってきた」
「それは当然だ、わたし達は軍人だから命令は絶対だ」
「でも、それじゃだめなの」
「何故だ?」
「じゃあクリスカ、わたしを見捨てろって命令されたら従うんだ?」
「そ、それは……」
さらっと単純なことを口にしたイーニァだが、自分を見捨てるなんて命令されても出来ないクリスカの葛藤を知りながら話を続ける。
「命令は大事、だけどそれ以上に大切なものがあるの……わかる、クリスカ?」
「…………」
「わたしはずっとクリスカといっしょにいたい、だからタケルはチャンスをくれたんだよ」
「チャンス……」
「そう、あの娘のように……わたしたちが笑っていられるように、ただの道具みたいに使い捨てされないように」
「そんな事をして、アイツになんの意味があるの?」
「意味なんて無いよ、タケルがそう決めたんだから」
「それじゃアイツはただのバカだ」
「うん、ばかだよ。すっごくばか……でも、そんなの関係無いの。自分で決めたことだから後悔なんてしてないんだよ」
「それが祖国を敵に回すことになっても?」
「だってタケルはばかだもん、スミカは『タケルちゃんはちょー大バカだよ』だって」
再び笑顔になったイーニァは本人が聞いたら項垂れそうなぐらいバカを連呼していたが、実に楽しそうに言う彼女を見ていたクリスカ
は緊張していた体から力が抜けていくのを感じた。
イーニァが何を言いたかったのか、漸く理解したからである。
「つまりアイツはバカだから深く考えなくて良いのね」
「うん、タケルはなんにも考えていないから、考えるだけ無駄なの」
「はぁ……」
「ふふふっ」
「もう、イーニァっ」
「きゃあー」
武がどう言う者なのか理解したクリスカは、同時に自分がからかわれていた事に気づいてイーニァを抱き締めて振り回す。
きゃあきゃあ言って笑うイーニァを見ながら、からかいの中にも自分達の未来を考えるヒントが有ったことも同時に教えられていた。
だからこそ武がバカなんだと理解出来た……正直、イーニァ以外の他人には興味がなかったが、それだけじゃ彼女を守れないと
自分の考えを改められるようになっていた。
この時、脳裏に先程見たユウヤの笑顔が浮かんで僅かに鼓動が早くなると、それを力を使って感じたイーニァが呟く。
「ユウヤのこころ、暖かかったでしょう?」
「なっ!?」
「ねえクリスカ、ユウヤのこと考えるとどんな気持ちになる?」
「別に、どうと言うことは……」
「うそ、顔赤いよ?」
「そ、そんなことないっ!」
「クリスカ、うれしそうだもん」
「ちがっ……」
「それはね、クリスカがユウヤを好きってことなんだよ」
「ブリッジスの事なんて、なんとも……」
「ユウヤ、だよ」
「うっ」
ユウヤと別れた後、胸の動悸が変なのも顔が熱くなっているのも体調不良に過ぎないと考えていたクリスカは、イーニァの言葉を聞いて
何かが心の中に落ちた気がしていた。
頭では否定していたユウヤに対する気持ちだが、イーニァの言葉通りに考えると今度は不思議に胸の奥が熱くなり、苦しさよりも安堵感
で満たされていく。
そんなクリスカは知らず知らずの内に自分の口元に指先を当てて、ユウヤの名前を口にしてみる。
「……ユウヤ」
「ほらっ、クリスカのこころ、暖かくなってる」
「やぁ……」
「大切にしようね、だってクリスカの気持ちだもん」
「…………」
自覚を持たされてしまったクリスカは、名前を呟いてからユウヤと話していた時以上に赤くなり、火照った頬を隠すように手で覆ってしまう。
初な少女のように恥ずかしがる姿を見て、イーニァは自分の出来る限りの応援をしようと決心する。
「わたしがんばるね、クリスカが幸せになるように」
「な、何を……」
「きっとタケルに勝てば、ユウヤはよろこぶし、もっと笑ってくれるよ」
「待ってイーニァ、話を……」
「行こう、クリスカ」
「ど、どこに?」
ぴょんとベッドから立ち上がりクリスカの手を引いたイーニァは、笑顔のままはっきり答える。
「ユウヤの所、一緒に作戦会議だよ」
「イーニァ!?」
「それにさっきは逃げて来ちゃったみたいだから、ちゃんとあやまらないとユウヤに嫌われちゃうよ?」
「あ、あうっ」
「でも大丈夫、わたしと話すみたいに笑顔になれば、ユウヤもクリスカのこと好きになってくれるから」
「あっ……」
「さあ、はやくはやく」
驚く時間も与えないように、普段からは考えられない力で自分を引っ張るイーニァにクリスカは抵抗も出来ずに連れられていく。
その間、ユウヤに会ったらどんな顔をすればいいのか解らないクリスカは、ただ俯いたまま歩かされていく。
だがここでクリスカは一つ大きな見落としがあるのに気づいていなかった。
イーニァと純夏がいつ武のことを話す機会があったのか……今はただ、自分の気持ちを持て余すクリスカにそんな余裕はなかった。
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