「で、鑑とはやった?」
「通信繋げて最初の言葉がそれですか……」
「なによー、あたしの計画には大事な事なんだから聞いたっていいじゃない」
「あの禄でもない計画ですか、まったく」
「ふん、人の事言えるのアンタこそ」
「なんすか?」
「本当の理由は察してるけど、ソ連の二人組の事よ」
「むっ」
「殿下もあたしと同じで理解しているからいいけど、誰かさんは誤解したまんまなのよね〜」
「ま、まさかっ!?」
「帰ってきたら放課後に体育館の裏に呼び出しかしら?」
「その前に誤解を解いてくださいよっ」
「イヤ」
「ちょ、夕呼先生!」
「だってその方が面白いんだもん」
「オレは面白くないですよっ」
「でもねー、それだけじゃなくて例の未亡人隊長まで手を出すとは……恋愛原子核もパワーアップしたのかしら?」
「はあっ!?」
「まあ、先を見越して戦力増強は良いけど、マジにまりもに刺されるわよ?」
「ちょ、何の話っすか?」
「でもそっかー、こうして白銀を各国に派遣してハーレムの充実と戦力の増強を確保出来る……両手に華ってこの事ね」
「違うから、ぜってー違うからっ」
「とりあえず、まりもがここに来たらその事も伝えておくわ」
「頼むから余計な事を吹き込まないでくれーっ!」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 101 −2000.10 snow−




2000年 10月5日 11:10 アラスカ州ユーコン陸軍基地

99式の試射を終えて詳細データを纏めている唯依の頭の中は、別の事を考えていた。
朝に交わした武との会話の中で、以前に考察した事が現実味を帯びてきたからだった。

「おじ様……おそらくおじ様が口にしたあの話は本当なのかも知れません。白銀少佐は未来を……はっ」

つい口に出してしまい唯依は辺りを気にして周囲を見るが、皆仕事に集中していて誰も聞いてはいなくほっとため息を付く。
そこで意識を切り替えると、頭の中は99式の事に集中することにした。
未来を知っている……そんな荒唐無稽な物語が在ったとしても、今するべきはこれ以外無いと唯依は黙々とレポートを作成していく。
一方、不知火弐型の足下で先程まで乗っていたそれを見上げているユウヤにヴィンセントが後から声を掛ける。

「よおユウヤ、そんなに気に入ったか?」
「ヴィンセント……」
「試作機とは言え、ほぼ完成に近いスペックを引き出しているからな。それに加えて白銀少佐が持ってきた装備で更に性能アップまで
しちまったし」
「なあヴィンセント」
「なんだ?」

振り返り後にいたヴィンセントを見つめるユウヤの表情は穏やかで、だけど口から出た言葉はかなり重要な意味を含んでいた。

「お前は矛盾に気が付いていたのか?」
「当たり前じゃん、俺はメカニックだぜ。これから『完成』させる兵器とそれを元に『量産』された兵器が同時に存在してる、
気が付かない方がおかしいだろう」
「そうだな……なら、なんで指摘しなかったんだ?」
「だってその方が面白いじゃん」
「面白いって……」
「興味はそそられるが命をかけて真実を知る必要はないって事さ、その時が来れば話してくれるだろう」
「いいのかよそれで」
「じゃあ知ってどうするんだ?」
「えっ」
「だからぁ、それでもしハイサヨウナラになったらつまんねえじゃん」

にやりと笑うヴィンセントに呆気にとられるが、言葉の意味をよく考えてユウヤは黙り込む。
そんなユウヤにやれやれと肩をすくませて、ヴィンセントはもう一言付け加える。

「あのさ、少佐の言葉忘れたのか? 色々話してくれるって言ってたんだろう、まあ条件付だけどな」
「ああ……」
「だったら勝ってみせればいい、それで何もかもケリが付く」
「だけど俺一人じゃ……」
「おいおい、頭固くなってんぞ、ユウヤ。何も一対一だなんて決まってないだろ?」
「えっ、まさかっ!?」
「二人でも三人でも、それこそソ連のお姉さん達とみんなでやっちゃっても良いって事だ。それに唯依姫に言われなかったか?
セオリー通りでは勝てないって」
「それはそうだけど……」
「なら考える事はないだろ、後は実行するだけだ。ああ、ついでに一応ハーレム入りしたあの二人にも話してみればもっと面白くなる
かもな」
「結局面白ければいいのかよ、お前は」
「おうっ」

満面の笑顔で肯くヴィンセントに呆れながらも、その言い分にも一理有るなとユウヤは考え込む。
シミュレーターで勝てたらと言ってたが、それ以外の条件は言われなかったと思い出して、ならば唯依の言った通りこちらの解釈で
戦っても良いと思い始めるユウヤだった。
そんな話題の中心である武は、純夏と霞の病室にいた。
無言で霞と額を重ねる純夏を見つめながら、武は二人への思いを心の中で噛み締める。
やがて顔を上げた純夏が笑顔で武の胸に飛び込んでくる。

「きっと伝わってるよ」
「純夏が言うんなら間違いないな」
「当たり前だよ、だから安心してタケルちゃん」
「ああっ」

自信を持って肯く武に満足したのか、純夏はそのままずっと甘えていたかったが、輸送機が出発する時間はそれを待ってはくれない。
顔を上げその温もりから離れると、きりっとした表情で敬礼をしてみせる。

「では鑑少尉、任務に戻ります」
「おいおい、いつから少尉になったんだよ?」
「あー、そこで突っ込むのは無しだよ〜」
「漫才の基本なんだろ」
「もうっ、そうやってムード壊すんだからっ」
「はははっ、それがオレなんだろ?」
「そうなんだよねぇ」
「じゃあしょうがない、諦めろ」
「うう〜」

と言いつつ純夏を抱き寄せると、別れを惜しむように武はきつく抱き締める。
息が詰まる程の抱擁に純夏は嫌な顔をせず、自分の方からも武の背中に腕を回す。
この時、静かに残された時間を過ごしている二人の側で、ベッドの上の霞の顔が微笑んでいたような表情を浮かべていたが、それを
見る事は無かった。
そして時間となり霞に別れを告げた純夏を連れて地上に出てくると、月詠が二人を出迎える。

「待たせちゃってごめん」
「いえ、お気になさらずに」
「月詠さん、霞ちゃんの事お願いします」
「ああ、心配するな……鑑少尉も任務を果たせよ」
「はい、月詠中尉ってアイタっ」
「くくっ、勢いよすぎんぞ」
「ああ、笑うなー」

格好良く決めるつもりで敬礼をした純夏だったが、そのまま自分のおでこにチョップをかまして涙目になってしまう。
それを見て笑う武に抗議するが月詠に時間だと促されて、帰ってきたら覚えてろーのセリフしか言えない純夏だった。
再び歩き出し、滑走路の駐機スポットまで来ると輸送機のタラップ前にいた唯依と雨宮が待っていた。
ここで純夏との逢瀬で時間が掛かり予定時刻に近すぎてしまった事で、武は雨宮に謝る。

「待たせて悪かったな、雨宮中尉」
「いえ、紅蓮大将からも伺っていますので気にしていません」
「はぁ?」
「BETAと戦う前に馬に蹴られて死んでしまうのは、斯衛として恥ずべき事です」
「あのおっさんは〜」
「それと篁中尉の事をよろしくと巌谷中佐から言付かっています。すでに祝言の用意も整っているとか……」
「へっ?」
「なっ!?」

最後の最後で置き土産を置いていく雨宮に、唯依と武はそろって声を上げる。

「まて雨宮、それは初耳だぞっ!?」
「まだ諦めて無かったのかよ……」
「紅蓮閣下も言うに及ばず、煌武院殿下も多大な関心を寄せられているとかいないとか……なんにせよおめでとうございます、篁中尉」
「そ、そんなっ……」
「くっ、物分かりのいい振りしてあの場を収めて、人がいない間に何考えてるんだっ!」
「そうそう、追伸ですが中佐は篁中尉似の女の子を、紅蓮大将は白銀少佐似の男の子を希望しているそうです。それと名前の方は
候補があるので、任せろとお二方は仰っていました」
「お、おじ様のばかーっ!!」
「ええーい、おっさんどもは暇なのかっ」

唯依は真っ赤になって叫び、武は大きくため息を付いて項垂れ、そんな様子を純夏と月詠と顔を見合わせて笑ってしまう。
だからつい雨宮に便乗して二人をからかう気持ちになってしまう。

「じゃあ篁中尉の部屋を用意しておくように夕呼先生に言っておくね〜」
「雨宮、殿下には全て順調だとお伝えしてくれ」
「はっ、承りました」
「おいっ、純夏っ!?」
「月詠中尉っ!?」
「では、失礼します」
「またねー、タケルちゃん」
「おいこらっ、人の話を聞けよっ」
「あ、雨宮っ、殿下達に余計な事を伝えないでっ」

抗議する二人を無視して良い笑顔と敬礼をして、純夏と雨宮は輸送機に乗り込んでしまう。
そして問題なく滑走路を離陸する輸送機を護衛するように、待機していたカレリア中隊が随伴していく。
空の彼方に小さくなっていく機体を呆然と見つめて、唯依は力無く呟いてよろめく。

「何でそんな事になってるの……」
「今更何を言っている」
「月詠中尉?」
「もしかして気づいてないのか?」
「え?」
「大体、ここユーコン基地でも二人は周りに見せつける程に深い恋仲だと思われているんだぞ」
「ええーっ!?」

しれっと楽しそうに言う月詠に、事態は変わってなかったどころか自分が知らない所で引くに引けない部分まで進んでいたと
唯依は思いこんでしまった。
もっともこれはまだ唯依をからかっている月詠の冗談なのだが、等の本人はそこまで思いつくまで思考が回復していない。
そんな誤認した事に茫然自失で立ちつくす唯依を哀れに思って、武は月詠に話しかける。

「あの、月詠さんっ」
「はい、なんでしょうか武様」
「何でそんなに良い笑顔なの?」
「これは異な事を……武様の後宮作りがまた一歩前進した事を喜んでいるのです」
「嘘だーっ!」
「先程もソ連の二人を手に入れたばかりでありませんか?」
「あ、あれは月詠さんだって事情を知って……」
「存じません、私は鑑から何も聞いていません」
「んがっ」
「ですが武様、少しは自重して頂かないと困ります。ここには任務で来ている事を努々お忘れ無きように……」
「まさか月詠さんっ!?」
「ふふっ」
「もう勘弁してくれよぉ……」

ここでやっと武は自分達がからかわれていると気づいたが、もう一人の方はそうはいかなくなっていた。
今、唯依の中では日本に帰ってた時に紋付き袴姿の巌谷と紅蓮が、『祝・ご成婚』と書かれた垂れ幕を手に出迎える姿が
ありありと浮かんでいた。
しかも二人とも爽やかな笑顔で拳を握り親指を突き立てる後で、何故か斯衛軍も勢揃いで声援を贈っていたりした。
一人有り得ない想像に頭の中がテンパっている唯依の肩を武が叩いた時に、運命は面白い方に転がってしまったのかも知れない。

「あのさ篁中尉、今のは月詠さんのじょうだ……うっ」
「…………すん」
「え、えっと、篁中尉?」

涙ぐんで潤んだ瞳で見上げてくる唯依の顔は、それはもう美少女にこんな顔させたら男なんてイチコロですよって表情だった。
思わず注視してしまい記憶と経験から多少の耐性があった武だったが、唯依の肩に手を乗せたまま体は硬直してしまう。
そして唯依は武を見つめながら小さな口が何かを呟いた。

「……ください」
「え、な、なに?」
「……責任、取ってください」
「責任っ!?」
「祝言の日取りまで決まっている上にそこまで応援されたら、もうお断り出来ません……」
「だからその話は無かった事になってるし、それに今のは月詠さんのっ……」

だが、唯依の口からは言葉が途切れない。

「胸、触られました」
「あれは事故でっ」
「大事な部分に顔押しつけられました」
「あれも事故だしっ」
「何回も抱かれてしまいました」
「そんな誤解されるような言い方はしないでっ」
「……もうお嫁に行けません」
「自分は軍人だから行かないって言ってなかったっけ!?」
「貸しがありましたよね?」
「ここでそれを持ち出すのかーっ!」
「だから、責任を取ってください」

と、普段なら側にいる月詠からきっつい視線が突き刺さる筈なのに、何故かニヤリとしたまま唯依を止めようとはしない。
それを見た武は何かおかしいと、月詠に向かって叫ぶ。

「月詠さん、焚き付けたのは月詠さんなんだから、黙って見てないで何とかしてくださいよ〜」
「そこは甲斐性の見せ所です……と、霞なら言うでしょう」
「甲斐性無しでいいからっ」
「なるほど、鑑の言う『へたれ』とはこう言う事ですか」
「くっ、とにかく篁中尉、落ち着いてくれ。今はきっと気が動転してるだけだからっ」

掴んだ肩を引いて振り返らせると、そのまま両肩をがっしり掴んで少し揺すって落ち着かせようとする。
されるがままに至近距離で向き合う唯依は、武の必死の表情を見つめながら自分の何を口にしたのか思い返していた。

「白銀少佐、わ、わたしっ……」
「うん、とにかくPXでお茶でも飲んで落ち着けば大丈夫だ」
「は、はい……」
「よし、いこう。月詠さんもちゃんと謝罪してくださいよ」
「……むぅ、少々やりすぎたか」
「何か言いましたか?」
「いえ、別に……それよりも武様、雪が……」
「アラスカなんですから雪ぐらい降ります、それよりも……」

歩き出しながら隣にいる月詠に文句を言う武の後で少し俯いた様子で付いていく唯依は、今更ながらに自分の発言に対して
羞恥心で耳まで赤く染まっていた。

『わ、わたしったら何を口走ってるのよ〜〜〜っ!?』

その所為でせっかくの雪を見る余裕も無いままに、頭に寒さが染みてきて冷静さを取り戻した唯依の顔はそれを溶かす程に
熱くなっていた。
暫くして落ち着いた唯依は日本の巌谷に報告と言う名の抗議をするべく通信を入れるが、画面に映し出されたのは紋付き袴姿で
現れただけでなく、子供の名前を羅列した紙を見せられた彼女の怒号が廊下にまで響き渡った。






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