「あ、香月先生〜」
「あら鑑、白銀は?」
「女の子に囲まれてウハウハしていましたから軽く一発喰らわしておきました」
「そう、良くやったわ」
「ソビエトの隊長さんが未亡人なんですけど、迫られたら赤くなってもー、タケルちゃんのスケベ!」
「まりもや月詠中尉に弱いからそれは解ってたけど、そんな仕草をあたしに見せないのは理不尽よね」
「だってー、香月先生怖いし」
「か〜が〜み〜」
「あーっ、今の無し」
「しっかりと聞こえたわよ、今更無しには出来ないわねぇ〜」
「あううぅ〜」
「とまあ、それは戻ってきた時にお仕置きすればいいとして、本題に入りましょう」
「は、はい」
「結果は?」
「少なくてもタケルちゃんに周りにいる女の子達は大丈夫だと思います」
「ふーん、ソビエトの二人は?」
「あの娘たちは……霞ちゃんと同じです」
「そう、助けたい?」
「タケルちゃんはそう思っているはずです」
「霞の件を踏まえて?」
「だってタケルちゃんですよ」
「そうだったわね」
「あ、そう言えば熊の置物売ってなかったです」
「……はぁ」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 99 −2000.10 All attention−




2000年 10月4日 19:40 アラスカ州ユーコン陸軍基地 テストサイト18

ハンガーの外で話を終えた武とユウヤ達は連れだってPXまでやって来た。
時間も夕食時らしく人も多かったが、何とか席を確保すると夕食を食べ始めるが武はコーヒーだけだった。
それを疑問に思ったタリサは口に入れた物を飲み込むと武に聞いてみる。

「なんだ食わないのか、タケル?」
「うん、ああ……約束があってな」
「約束?」
「どうやらその相手が来たみたいよ」
「あ……」

ステラの言葉に促されて視線を追った先に、斯衛軍の制服を着た月詠と純夏が向かってくるの見つけた。
武に気が付き笑顔で近寄ってきた純夏は妙な表情を浮かべて、テーブルに座っている者達を見てから口を開く。

「タケルちゃん、男の友達出来たんだ」
「おいっ、どーゆー意味だこらっ」
「どうもこうもないよ、タケルちゃんの知り合いって女の子99%で男の子なんて数える程しかいないじゃん」
「99%!?」

タリサの驚きに純夏はうんうんと肯いて暴露を続ける。

「えっと、前島大尉と鳴海中尉に斉御司少佐と紅蓮のおじさん……ほらっ」
「うっせーよ、たまたまだよ」
「はー、恋愛原子核が何言ってんだかー」
「恋愛原子核?」

純夏の言葉に反応したのは驚きながらも興味津々と言った感じのステラである。

「そっ、タケルちゃんはね、そこにいるだけで女の子達を引き寄せる力があるの。原子が電子を引き寄せるようにね……お陰で色々
苦労しちゃうんだよねー、月詠さん♪」
「なっ、何故ここで私に振るっ!?」
「えー、だって横浜基地の中じゃ神宮司先生か月詠さんが一番ヤキモチ焼きだって香月先生が言ってたし」
「そ、そんなことはないっ」

しかし否定するにはどもった上にその顔は朱に染まり、アルゴス小隊のメンバーは初めて見た表情に注目してしまう。
それに気づき一瞬だけ狼狽える月詠だが、持ち前の精神力で何とか耐えると席に座り黙って食事を取り始める。
ここで武が純夏に向かって呆れるように見つめると、ため息混じりに話しかける。

「純夏よぉ、あんまり月詠さんいじめるなよ」
「いじめてないよっ」
「それにな、お前は少尉で月詠さんは中尉だぞ? 上官侮辱罪になってもしらんからな」
「もうっ、すぐそうやって庇うんだ。やっぱりタケルちゃんは年上に弱いんだから、スケベっ」
「誰がスケベだっ」
「知ってるんだからね、講義だかなんだかしらないけど、篁中尉を膝の上に乗せてデレデレしてたって」
「うるせー、良いから黙って食え」
「あー、誤魔化したー!」
「みんな五月蠅くてすまない、コイツはただのアホの娘だから気にするなよ」
「ムキーッ、無視するなーっ!」

頭の触覚をとんがらせて騒ぐ自分を無視して食事を取りに行ってしまった武を目で追っていた純夏に、タリサが話しかける。

「なあ鑑少尉……」
「はい?」
「タケルと恋人同士ってホントなのか?」
「うん、もちろん月詠さんもねー、悠陽殿下に夕呼先生とか神宮司先生もそうだし、あとピアティフ中尉に他にも恋人候補が
わんさか……なんか言ってて腹立ってきたなぁ〜」

純夏の言葉に一瞬だけフォークの動きを止めた月詠だが、すぐに無視して食べ始める。
だが、そんな事よりもあっさりハーレムを肯定する純夏は口で言う程怒ってなく、寧ろどこか照れているようにみんなに見えていた。
そこでタリサは真面目な顔になると、いきなり頭を下げる。

「あ、あのさっ……ごめん」
「うん?」
「その、社少尉の事……」
「ああ、それかぁ……別に怒ってないよ」
「どうしてだ? ああなった原因はあたしにも有るんだぞ」
「だってタケルちゃんが納得してるしもう怒ってないし、それに霞ちゃんはみんなで笑っている世界が好きだからね」
「いいのかよ、それで?」
「じゃあタケルちゃんみたいに宇宙まで飛んでみる?」
「いいっ!?」

ぐっとタリサの目の前に拳を突き出す純夏に、みんなの脳裏には錯覚だと思いこんだ映像が浮かび上がる。
その表情に純夏は表情を和らげると指を解いてタリサの頭に手を伸ばして撫で始める。

「あ……」
「大丈夫だから、ちゃんと気持ち伝わってるよ」
「うっ」

まるで母親のように慈愛に満ちた笑顔を浮かべる純夏に、タリサは嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちを表すように
頬が赤く染まる、
そのまま撫でられ続けていると、側で見ていたアルゴス小隊のメンバーが呟きを洩らす。

「おいおい、タリサの奴、まるで普通の少女じゃないか」
「いいじゃない、可愛くて。ね、ブリッジス少尉?」
「お、俺は別に……」
「もしかしてお前、惚れちまったか?」
「違うっ」

そう言って狼狽えるユウヤだったが、タリサを見ていた筈の純夏の目が自分を見つめていて動けなくなる。
吸い込まれそうな不思議な感覚にユウヤは言葉も出せず、ただ呆然としていると純夏が口を開く。

「……無理しなくて良いんだよ」
「えっ」
「心に刻まれた事は簡単には変えられないし、それが今の自分になったのも否定出来ないんだからね」
「あ、あんた、なにを……」
「だけどあの娘達ぐらいは守れるよね?」
「あの娘達……」
「そう、それぐらい頑張らなくっちゃねー、男の子でしょ?」
「男の子って……」
「それと篁中尉、本当に真面目過ぎなだけなんだからもっと話した方がいいよ」
「篁中尉が……」
「そ、月詠さんよりプチツンデレなだけだから、仲良くなるとすっごく可愛く見えるはずだからねー」
「だから私を引き合いに出すなっ」
「いたっ、痛いよ月詠さ〜ん」
「まったく……」

その場をかき回していく純夏の言葉に、我慢の限界を超えた月詠が頭にげんこつを喰らわす。
頭に手を当てて涙目になって抗議する純夏だったが、ギロリと睨まれてしまい目を反らすと手にしたフォークで食事を始める。
そこに食事を載せたトレイを持って武が戻ってくるが、腰を下ろしながら純夏に注意をする。

「大きな声で騒ぐなよ、純夏」
「ふーんだ」
「な、なあタケル」
「んあ?」

もぐもぐと口に入れたままタリサの方を向くと、武はごっくんと飲み込んで次の言葉を待つ。

「ハーレムって本当だったんだ」
「ぶふーっ!?」
「うわっ、きったねえなぁー」
「タリサが変な事に感心するからだっ」
「いや、よく言ったアルゴス2。俺も一番気にしていた事だからな」
「そうね、やはり当事者から聞くってなかなか出来ないし」

ヴァレリオもステラも息を合わせてタリサの援護射撃よろしく言葉を繋げ、狼狽える武に対してハーレムの核心に迫る。
ただ、ユウヤだけは興味なさげに傍観していた。
そして原因になった純夏に対して武は低い声で唸る。

「す〜み〜か〜、お前なぁ……」
「事実じゃん」
「俺が率先してそうなったと思ってるのかよっ」
「諦め悪いよタケルちゃん……あ、もしかしてタリサちゃんもタケルちゃんに興味ありなの?」
「ち、違うっ。パイロットとしては尊敬しているけどあたしは別に……」
「まあ、タケルちゃんは守備範囲が広いから気を付けた方が良いよ」
「おいっ、言うに事欠いてそれかよっ」
「だって事実じゃん、霞ちゃんに手を出しておいて今更何を……一緒にお風呂入ったり添い寝してたくせにー」
「お前と違って霞とはまだキスまでしかしてねーよっ!」
「お前と?」
「違って?」
「まだ?」
「タ、タケルちゃん、自爆だよそれ」
「ぐはっ」

頬を染めていやんいやんと体をくねらせる純夏と激しく動揺する武を、手にしたフォークが何故か変形している月詠の目は
もの凄く冷めていたが誰も気が付かない。
いつの間にかPX内でも話し声がしなくなり、殆どの人が聞き耳を立てているらしい状況で、二の句が継げない武だった。
なにしろ極東国連軍から回された広報ビデオはここユーコン基地でも数多くの者が見ており、目の前で赤裸々な話を聞けると
思えば興味を持たない方がおかしい。
しかも、周りの殆どは武達と同年代の女性が多くこの手の話には飢えており、もはやPXは武の私生活暴露ステージに変わりつつあった。

「聞きましたかアルゴス4?」
「ええ、しっかりとねアルゴス3。つまりここいる鑑少尉とは男と女の関係だと言う事ね」
「や、やっぱりやってるんだ」
「やってる言うなっ」

タリサの呟きに思わず突っ込みを入れてしまう武だが、真っ赤な顔して怒っても迫力の欠片もなかった。
その間にもヴァレリオとステラは純夏に詰め寄り、もっと詳しく聞こうと二機連携を仕掛けていく。

「それで鑑少尉、やっぱり少佐はあっちの方もエース級なのか?」
「え、えっ?」
「どんなテクニックなのか教えてくれないかしら?」
「えぇっ!?」
「そこの二人、変な事聞くんじゃねぇーっ!」
「いえいえ、これは情報収集の一環であり、少佐の人となりを知る絶好のチャンスなのです」
「そうです、やはり身近な存在から得られた情報は大変貴重だと判断出来ます」
「もっともらしい言い方するなっ」
「な、なあ、やっぱりアレって痛かったのか?」
「うえええぇぇぇーーーっ!?」
「だからタリサまで変な事聞くなーっ!!」

しかし武の抗議は何処吹く風と言った感じであっさりスルーされ、純夏の周りには数多くの兵士達が集まってきて、根ほり葉ほり
他人の恋の話に夢中になっていく。
本当は武を困らせてやろうと思っていた純夏だったが、逆に取り囲まれ身動きが取れなくなり困り果てしまった。
最後にはプロジェクションまで使って武に助けを求めるが、虚ろな目ではははと笑っている誰かさんには聞き届けて貰えない。
人波に押されるように純夏達から離れた場所でがっくりと項垂れる武に、ちゃっかり食事を終えて食器を片付けてきたユウヤが
なんて声を掛けて良いか解らず困っていた。

「くっ、ここでも俺の風評が大げさになっていくのかよ」
「あ、あの白銀少佐」
「これも夕呼先生の差し金なのか?」
「ま、まあ、事実は事実ですから認めるしかないかと……」
「うがーっ、俺はハーレム作りに頑張ってるんじゃないからな、くっそーっ!!」
「少佐!?」

何やら涙目になって走り去って行ってしまった武を呆然と見送るユウヤだったが、その行動が自分より年下らしく感じてしまったので
微妙に苦笑いになって吹き出してしまうのだった。
ただ、この時ユウヤも気が付かなかったが月詠の姿もPXから消えていたのだった。
そしてその二人は帝国軍管轄の倉庫の中で、一人の人物と会っていた。

「待たせちゃったかな?」
「いやいや、恋人との時間を邪魔して馬に蹴られたくはないからね」
「それはもういいですからっ……それで?」
「彼女たちはともかく上の方は気を付けた方が良いな」
「そろそろ何かアクションがあると思ってますよ、なにしろあの時に彼女達の上官は出てこなかったから」
「中央戦略開発軍団……今は戻ってきているが、ちょうどそちらへ呼び出されていたらしい」
「道理でいなかった訳か」
「ハイネマンと接触している事も確認済みだ、そちらも気を配った方が良い」
「イェジー・サンダーク中尉か……月詠さん」
「はい」

鎧衣課長の言葉に、少し考えていた武は月詠に視線を向ける。

「霞の事を最優先に、俺は仕返しの1つぐらいしておくからさ」
「はぁ……」

しかし、月詠の返事はため息混じりの物で、なんか変だと思って問いかける。

「な、なに、そのため息は?」
「まさかとは思いますが……増えるのですか?」
「ちょ、ちがっ、月詠さんまで言わないでくれよ。それに相手は俺じゃない、もっと打って付けなのがいるだろう」
「まさかローウェル軍曹?」
「呆けても突っ込まないよ」
「妙齢の女性に何を突っ込むのか気にはなるが、程々にしないと殿下に斬られてもしらないぞ、シロガネタケル」
「おっさんも有る事無い事を悠陽に伝えるなっ」
「これでも口は堅い方だ、君が社少尉と見た目同じぐらいの少女と仲良くしているなんて誰にも言ってない、信じてくれ」
「笑顔で言われて信じられるかーっ!」

ひそひそ話の筈が最後は武の大絶叫が倉庫内に響くが、辺りに人影はいないのでそれに関しての問題は無かった。
そして純夏が部屋に戻ってきた時、いなかった武に文句を言うのだが取り合わず自業自得だと逆に頭をぐりぐりされてしまうのだった。
でも、やはり最後は頭を撫でられてキスをして貰うと、おとなしくベッドに入る純夏に武は肩の荷が下りた気がしていた。
なんでこうオチを付けないと一日が終われないのか悩む武だったが、明日にはユーコン基地全体に広まった噂に合わせて
上層部にしか伝わっていなかった現在の自分の立場が知れ渡っているのに愕然とするのだった。
このやり場のない憤りをどうするか……その八つ当たりは問題の中尉に向かうのは致し方なかったかも知れない。
それから数日後に悠陽と話している時、背後に飾られた長刀と終始笑顔で自分を見つめてくる姿に、武は言いしれぬ恐怖を感じて
いたのだった。






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