「えへへ〜」
「…………」
「あん、もう〜」
「…………」
「そこはだ、だめぇ〜」
「…………」
「タ、タケルちゃんのえっちぃ……」
「「「…………」」」
「むにゃむにゃ……」
「聞かなかった」
「うん、何も聞いてない」
「我々は警護をしているだけだ」
「まだするのぉ〜、もうっ……」
「「「っ!?」」」
「元気すぎだよぉ、タケルちゃん……あんっ」
「な、何が元気なんだ?」
「さ、さあ?」
「し、知らないっ」
「はぅん、おっきいよぉ……
「「「っ!?」」」
「な、何が大きいんだ?」
「なにって……」
「ナニ?」
「「「…………」」」
「タケルちゃん、だいすきぃ……ん……」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 96 −2000.10 Obtained−




2000年 10月4日 2:16 アラスカ州ユーコン陸軍基地 テストサイト18

演習場の上空を軽快に飛び回るACTVは、XM3のお陰で名前に相応しい機動特性が更に磨きを掛けていた。
もちろんOSに対応した操縦技術を会得したタリサ自身の力もあったが、武のもつイメージを再現したXM3が彼女にマッチした結果
とも言えた。

「よし、機体には問題ねぇ……あん時の借りを返してやるっ」

タリサが強い輝きを漲らせた目で早く来いとレーダーを見つめていると、近づいてくるイーニァたちの機体が反応した。

「来たなっ!」

網膜スクリーンの中でトリガーロックが外れた事を示されると、機体を反転させて下方から迫ってくるSu-37UBに向かって突撃砲を向けて
構えた。
それに気づいたクリスカも銃を構えると、ACTVと向かい合うように機体をホールドさせながらお互いモニターの中で睨み合う。

「その澄ましたツラ、変えてやるぜ」
「ふん、今度は手加減しない」
「上等だぜっ!」

挑発には挑発で返したクリスカの言葉が合図となって、お互いの機体は弾けるように距離を開けていく。
そして始まったこの対決を地上でモニターしているユーコンHQでは、ハルトウィックとハイネマンが早朝と同じように見守っていた。

「両方の機体は良い反応をしているがACTVは目に見えてその違いがはっきりしてるな」
「マナンダル少尉にXM3と新しい戦術機動がベストマッチしていると言えるでしょう。お陰でフェニックス構想の有用性が証明され
ました」
「ふむ、しかしそれも白銀少佐と社少尉がいたからこそか……」
「その協力を得られた結果がこの模擬戦で見られるのは嬉しい事です」

ハイネマンの言葉に頷きながら見つめるモニターでは、映し出された二機の戦術機が目を見張る動きを見せて戦っていた。

「ちぃ、やるなっ……だけどなっ!」

以前なら見失っていた動きを視界に捉えつつ、簡単にロックオンされないで機体を動かすタリサの表情に焦りはない。
また、クリスカとイーニァも同様に機体を滑らかに動かしつつ、螺旋を描くように背後を取らせたりしない。

「くっ」
「すごい、あの子の動き、前と全然違うよ」
「ああ、だけどこちらも同じだ」
「うん」

気負いもなければ焦りもなく、冷静に相手を見据えて機体をコントロールする二人はタリサに向かって突進させる。
Su-37UBは大胆に正面から向かっていくが、ACTVの突撃砲の照準がロックオンされた瞬間に横にずれて半円機動で背後に回り込むと
見せかけて更に縦に半円機動も混ぜてその距離を詰める。

「あめぇぜ、そこだっ」

当たらないと解っていて引き金を引き続けながら模擬短刀を取り出すと、タリサは徐にそれを何もない空間に放り投げる。
そこに銃撃で誘い込まれるようにSu-37UBが入り込むが、こちらも慌てず模擬短刀で弾き返す。
だが、その僅かな隙がXM3のお陰でタリサに突撃砲の銃口を向けさせるチャンスを作り出す。

「おらっ、落ちろーっ!!」
「くっ」
「クリスカっ」

イーニァの操作が放たれたペイント弾を避けながら機体を反転降下させるが、肩の装甲部分を派手な色で汚される。
すかさず追撃を仕掛けるタリサの顔には驚きと歓喜の表情が浮かんでいた。

「あの距離で避けるのかよっ? だけどこれならいけるっ」

確かに今は直撃は出来なかったが、タリサの中には落とせる確信が産まれていた。
前回の様に背後を取られてロックオンされ続けた一方的な展開ではなく、相手の動きを視界の中に捉えていられる事実がタリサにそう
思わせていた。
そしてイーニァとクリスカも直撃されなかった事に安堵しながらも、新しい力となったXM3に改めて感心していた。

「ありがとう、イーニァ」
「ううん、でもあぶなかったね……」
「ああ」
「新しいOSのお陰だよ、この子が思った通りに動いてくれたから落とされなかった」
「そうね」
「じゃあ今度はこっちの番だよ、クリスカ」
「ああ、勝つのは私達だ」
「うん!」

モニターの中で見つめてくれるイーニァの笑顔にクリスカははっきりと肯くと、背後から迫ってくるACTVに対して無造作に向けた
突撃砲を撃ちまくる。
照準もしないで撃ったのだから当たるとは思っていない、先程タリサがやったように一瞬の隙を作る為の牽制である。

「イーニァっ」
「うんっ」
「ぐっ」

そのまま誘いを掛けながらブーストの出力を上げ降下速度を上げると、地表すれすれで減速も無しに横滑りをさせると同時に機体を
反転して発砲する。
二人は歯を食いしばりながらその急激な過重に耐え、突撃砲をACTVに向けて狙い撃つがぎりぎりの所で直撃を避けられる。
それでもACTVの膝辺りはペイント弾の飛沫で汚されてしまうが、タリサの顔には悔しさは感じられない。

「ちっ、掠ったか……でもなあっ」

すぐに反撃を始めるACTVとSu-37UBは交差しながら模擬短刀で斬り合い、突撃砲を撃ちまくりながら上昇していく。
共に準第三世代機と思えない程に高機動を見せる戦いの決着は簡単に付かない。

「どうだ?」
「手加減無しでやってますね。見てくださいこれ、ACTVの可動部分の消耗度が予測値を超えちゃってますよ」
「やっぱりそうか、少佐の言った通りだ」
「白銀少佐が?」
「ああ、XM3に慣れ操縦がスムーズになればなるほど、反応が良くなった戦術機への負担は増大する。今回、少佐があの三人を戦わ
せたのはこれを知りたかった為だ」
「なるほど、しかしSu-37UBはかなり抑えていますね」
「シェスチナ少尉は熱心に少佐から話を聞いたらしいからな、その辺で負担を掛けないようにしているんだろう」
「その差がこれだけ出るのかぁ……」
「一見は互角見えるがACTVの消耗度の方が大きいから、このままならマナンダル少尉の負けだな」
「白銀少佐も意地悪ですねぇ〜」

装備のテストは月詠から先にやって貰いながら、タリサ達の模擬戦を観測して戦闘データを見ていた唯依とヴィンセントは、武の思惑
通りの結果に軽くため息をつく。
はっきり言うと慣れたのはタリサ、熟知したのはイーニァとクリスカ、その差がデータとなって現れていた。

「これも貴重なデータだ、しっかり記録しておくように」
「了解です、あ、ユウヤの方も見ますか?」
「そうだな、あの装備は初めてだろうし気にはなる」
「じゃあ、切り替えますよ」

そう言ってヴィンセントがモニターしていたシステムを切り替えると、画面に映し出された弐型が匍匐飛行から高々度まで上昇し旋回
した降下させる、その繰り返しをしながらコクピットのユウヤは感触を確かめていた。

「ACTV以上だな、主機の出力の上昇とこのバックパックの相乗効果で良い感じで機動性が増している。でも少しブーストのツキが悪い
感じがするなぁ……」
「ブリッジス少尉、調子はどうだ?」
「良好と言いたい所ですが、僅かにバックパックのブーストが不調な気がします」
「そうか、では一度戻って再調整を受けてくれ」
「了解です」

返事をして唯依の指示に従い演習地から滑走路まで戻ってきたユウヤは、機体を着陸させてからゆっくりハンガーへ歩いてくる。
その間もコクピット内でユウヤは、モニター内で点滅しているワーニングシグナルが出ている部分が自分の推測と合っている事に
納得する。

「しかし、不具合が合った事を差し引いてもこの機動性は第三世代機なんだな……」

呟きながらハンガー前で機体を停止させてハッチを開くと、降りてくるユウヤをヴィンセントが出迎える。
入れ替わるように整備兵達が集まってくると、機体を固定してからバックバックの交換作業に入った。

「おつかれ、で不具合ってどの辺りだ?」
「バックパックのブーストだ、タイムラグみたいにツキが悪い」
「解った、それじゃこっちは見ておくからもう一つの方も試してくれよ」
「ああ、解った。あれは砲撃戦用だったな?」
「そうだ、向こうでアルゴス小隊の二人が大砲ぶっ放しているから発砲するならそっちでやってくれ」
「1200mmOTHキャノンか……」
「ありゃーすげーぜ、見た目だけならレールガンより迫力有るぜ」

ヴィンセントがニヤニヤしながら指さす方から聞こえる砲撃音に武の本気を感じ取ったユウヤは、この時自分もハイヴに突入すると
信じていた。
その際装備すると思っていた99式が見あたらないので、ヴィンセントに聞いてみる。

「ヴィンセント」
「なんだ?」
「99式レールガンの方はどうなってんだ?」
「あれは今、新しいパーツを組み込んでるらしい。組み上がり次第、試射する事になると思うが……」
「新しいパーツか……」

ここでわざとらしく声を潜めたヴィンセントはユウヤに近づくと周囲を気にしながら呟く。

「あのさ、白銀少佐の機体用に用意された突撃砲あるだろ? あれは小型だけどレールガンなんだぜ」
「なんだって?」
「詳しい話は聞いてないけど、出所が違うらしい。改と弐型の違いって言えば解るか?」
「まさか今組み込んでいるパーツも『横浜』なのか?」
「びっくり箱だよな〜、この先巨大ロボットが出てきても俺は驚かないぜ」
「いくらなんでもそれはないだろう……」

等と笑っているヴィンセントだが、もし武の記憶を見る事が出来たらその言葉が本当な世界も有って驚く事間違いないが、残念ながら
それは不可能であった。
ただ、話を聞きながら内心この噛み合わない様な状況を考えながらユウヤは苦笑いを浮かべて装備の換装作業が終わるのを見つめていた。
ハンガー前でそんな会話がされている間もタリサとイーニァ&クリスカ達の戦いは続いていて、決定的なダメージを与える所には至って
いなかった。

「けっ、やるじゃねぇか……XM3になった分、向こうも腕が上がったからか……だが、負けねぇっ!」

タリサはそう呟きACTVを動かすが、唯依の指摘通り機体の以上を知らせるワーニングシグナルがスクリーンの中で点滅していた。
それでもその闘志は衰えることなく、突撃砲のマガジンを交換すると今度こそ落としてみせると意志を表情に表す。

「まさかここまでやるとはな……大丈夫、イーニァ?」
「う、うん、ちょっと疲れたけど平気だよ」
「解った、次で終わらせよう」
「クリスカ、楽しそう」
「えっ」
「勝とうね」
「もちろんよ」

疲れた様子でもその顔には充足した笑顔が浮かんでいて、それを見たクリスカは肯いてグリップを握り直す。
そしてACTVと対峙している間に感じていた事をイーニァに指摘され、その感情を朧気ながら理解し始めていた。

「楽しいか……そうだな、これが楽しいということなのかもしれない」

殺し合いではなく競い合う楽しさを初めて実感しているクリスカの笑顔は凄く良いなとイーニァは喜んでいた。
こうした感情の変化が武の思惑なのかどうかはともかく、イーニァ以外を拒絶していたクリスカは少しだけど他人と触れ合う事を
疎ましく思わなくなっていく。
それがソビエト軍の計画を大きく逸脱する結果になるが、暫く先の話である。
クリスカが自分の気持ちを理解したのを待っていたかのように、向かってきたACTVを睨むと機体を加速させた。

「墜ちろっ!!」
「それはお前らだーっ!!」

二機の戦術機は決着を付ける為に残っていた力を全て吐き出し、視界の中にいる相手に向かって叩き付けた。
最後に高速ですれ違い戦術機同士のドッグファイトを終えて降りてきた双方の機体は、どちらも派手な色で塗り変わっていた。

「ちっくしょーっ、またかよっ!!」

コクピットで怒鳴りながら悔しがるタリサの目に映るのは、ワーニングシグナルのオンパレードで機体の消耗度は激しい物だった。

「まさか墜とされるとは……」
「もうちょっとだったね」
「ごめんねイーニァ、私の責任だわ」
「ううん、そんな事ない。クリスカがんばったもん」
「ありがとう」
「次は絶対勝とうね」
「ああ、約束するわ」

イーニァとクリスカは初めて撃墜された事に悔しさを感じる中、今までに無い充足感と高揚感を心で味わっていた。
お互いが負けた事を認めているがそれを知らないままハンガーまで戻ってくると、待ちかまえていた唯依が三人を出迎える。

「三人共ご苦労だった、こちらも良いデータが取れた」
「うぅ」
「は、はい」
「…………」
「さて、気になる結果から言うと双方の負けだ」
「へっ?」
「え……」
「なぜ……」

唯依の言葉に納得がいかないように呟くクリスカに、唯依は珍しく苦笑いを浮かべながら話す。

「動力部への被弾が先だったのがSu-37UBに対してACTVは機体が限界に達していた、だから引き分けではなく両方の負けだ」
「そ、そんなぁ……」
「マナンダル少尉、お前はXM3を使いこなしているが表面的に過ぎない。これからは機体に負担を掛けないで今以上の機動が出来る
ようになれ」
「は、はいっ」
「シェスチナ少尉は白銀少佐に聞いた事が活かされたようだな、ビャーチェノワ少尉も彼女に見習えば問題ないだろう」
「あ、ありがとうございます」
「……了解した」
「よし、三人は暫く休んでいて良いぞ。それともし余力が有るのなら、ソビエト軍と戦っている少佐の映像を見ると良いだろう」

最後に唯依はそれだけ言うと99式が組み立てられている方に行ってしまい残された三人は無言だったが、イーニァが歩き出すと釣られる
様にその後を着いていく。
もちろんその行き先は武とリディア達の演習の様子だけど、そこで見た映像に呆然として立ちつくす三人だった。






Next Episode 97 −2000.10 Example−