「先生先生先生先生先生先生先生先生先生っ!」
「なによ五月蠅いわねぇ……鼻息荒くして迫ってこないでよ。あたしを襲う気?」
「そんなことするわけ無いじゃないですかっ」
「……なんかムカつくわねぇ」
「え?」
「なんでもないわ、それでなんなの?」
「今日の事なんですけど……」
「あ、あー、あれね。上手く行かなかったの?」
「いえ、上手く行ったんですけど、行きすぎたと言うかなんて言うか」
「なによ、はっきりしないわねぇ……さっさと言いなさい」
「実はですね……」
「……なによそれ?」
「ど、どうしましょう?」
「あたしが甘かったわ白銀、まさかハーレムを合法的に作る気だったなんて」
「どこをどう聞いたらそうなるんですかっ!」
「……武さん」
「ああっ、そんな目で見ないでくれ、霞っ」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 09 −2000.1 帝国斯衛軍−







2000年 1月1日 11:00 帝都某所

「さて、話と言うのは香月博士から伺っているが、その前に」
「なんでしょう?」
「君はシロガネタケルで間違いないのかどうか……」
「後にも先にもオレは白銀武としか言えませんよ」
「ふむ……」
「正直、オレをどう思うかはそっちの勝手ですが、時間を無駄にするのは止めてください」
「何故かね?」
「このままなら後10年で人類は滅亡ですよ、つまらない事に時間を割いている暇は無いはずです」
「と、言う事ですよ。殿下」
「へ?」
「そのようですね、鎧衣……」

部屋の奥から二人の人影が近づいてきて、武はその顔を確認して驚愕した。
一人は初対面の大柄な帝国斯衛軍の服装を着ていた、そしてもう一人は武が知っている女性だった。

「悠陽……殿下」
「白銀武……元気で何よりです」
「えっ……」
「紅蓮、鎧衣、済まぬが席を外してはくれまいか」
「殿下っ!?」
「……解りました、では部屋の外でお待ちしていましょう」
「いいのか、鎧衣?」
「殿下の命ならば、臣下としては従うしかありません」
「むぅ……」
「済まぬ、我がままを言う」
「では」

そして紅蓮と呼ばれた人物と鎧衣の二人は、部屋の外へ行ってしまい、残ったのは武と悠陽だけになる。
暫くの間、お互い何も言えずに黙っていたが、先に動いたのは悠陽だった。

「白銀武……こうして『また』会えるとは、夢のようです」
「で、殿下、何を……」
「信じてくれましょうか、この身が同じ事を二度体験していると」
「えっ!?」
「クーデターのおり、我が身を気遣ってくれたそなたの思い、忘れてはいません」
「そんな、まさかっ!?」
「ああ、そなたの目が何故悲しみに満ちていたのか、今なら解ります」
「悠陽殿下…………」
「自分でも信じられない事ですが、でも白銀武の名を知った時にこの記憶が嘘ではないと確信しました」
「…………」
「白銀……あの人形、冥夜に渡して貰えたのでしょうか?」
「…………確かに渡しました、殿下」

一途に自分を見つめる悠陽の目に、武は誤魔化しも嘘も付けなかった。
そして武は同時に思った、自分たちと同じ思いを持つ『仲間』に出会えた嬉しさを……。
しかし、疑問は残る……なぜ悠陽は自分の事を知ったのか。

「殿下、どうしてオレがそうだと思ったのですか?」
「社霞と言う少女が話してくれました……たった一人で何度も世界を救おうとした白銀武と言う人の事を」
「霞が……」
「誰も覚えていない話を、彼女は何度も何度も話してくれました。『みんなが忘れているけど、わたしだけは
決して忘れたりしません』と、あのハイヴ攻略戦後に横浜基地まで出向いた私に語ってくれました」
「すみません殿下、オレは冥夜を守れませんでした。それどころか俺がこの手で冥夜をっ……」
「解っています、社が秘匿していたハイヴ内での通信記録を聞かせてくれました」
「くっ……」
「でも、そなたのお陰で人類は滅亡を免れたのです。それこそが皆の命を無駄にしなかった証なのです」
「殿下……」

悠陽がそっと差し出さした手が、武の手を握り寄せてぎゅっと力を込める。
暖かい手に込められた気持ちが切っ掛けなのか、武の目から涙を流させた。
それでも声を上げずに泣く武を、悠陽は手を解きそっと抱きしめる。

「す、すみません殿下、男が泣くなんてみっともないですね」
「いえ、そんな事はありません」
「あ、あの、殿下に聞いてもいいでしょうか?」
「遠慮せずに聞くのが白銀なのではありませんか」
「あ、あははっ、そうでした……それで殿下はどうして『ここ』に?」
「それがよく解らないのですが、あのオリジナルハイヴ攻略戦後、社の話を聞いた次の日に目覚めたらこの
『時代』にいました」
「どうしてだろう……」
「それは解りません、ですが嬉しいのです。こうして白銀と再会でき、今度は力になれる事が嬉しいのです」

武を見つめる悠陽の目に浮かんでいたのは、生まれたばかりの淡い恋心だと本人はまだ気付かない。
なにやら照れくさくなって真っ直ぐに見つめるその瞳から視線を反らして、武は話を続ける。

「と、とにかく、詳しい事は別の日に話すとして、今日はどうしてここに?」
「ええ、ですから白銀に会いにですが」
「で、殿下〜」
「あ、そうです……白銀、私も冥夜と同じように名前で呼ぶ事を許します」
「ええっ、いくらなんでもそれはっ!?」
「恥ずかしいのなら二人の時はその様に、私も武殿と呼ばせて頂きますから宜しいですね」
「は、はぁ……いいのかなぁ」
「構いません、さあ武殿……呼んでみてくれませぬか?」
「それじゃその……ゆ、悠陽」
「はい、武殿」
「たは〜、なんか悪い遊び教えた気分だ」

名前で呼ばれて上機嫌な悠陽に武は何故か笑えなかった、なんとなく脳裏にジト目な霞の顔が浮かんでいた。
それでは本題に入りましょうと、悠陽は足取りも軽くドアに近づくと、外にいた二人を呼び寄せる。

「お話はお済みになりましたか、殿下」
「はい、滞りなく……」
「では本題に入らせて頂きます、大まかには香月博士から聞いているが、説明をしてくれるかな」
「はい、新型OS【XM3】と実戦機動データの譲渡、それに伴う機動概念転換の為に斯衛軍の教習です」
「ふむ、紅蓮大将はどう思われますか?」
「正直な所、この目で見ぬ内は何とも言えん」
「そうだと思います、ですから実機演習でそれをお見せしたいと思います」
「なるほど、それでは相手は同じ部隊の……」
「いえ、出来れば斯衛軍の精鋭による1小隊と俺の不知火だけを希望します」
「大きく出たな、だがその意気は良し」
「それでは彼の者達に相手をさせましょう」
「悠陽殿下?」
「紅蓮、第19独立警護小隊を白銀の相手に」
「解りました、殿下」
「それって月詠さんたちか……」
「ほう、よく知っているなシロガネタケル」
「き、聞いた話ですよ、聞いた話っ」
「……まあいいだろう、それでは後ほど日程の詳細をこちらから知らせよう」
「よろしくお願いします」

うっかり月詠の名前を口に出してしまったが、元々怪しまれているから訂正するだけ無駄だと、武は
適当に誤魔化したが、悠陽の目が笑っているのに気が付いてちょっとだけ拗ねて見せた。
そして秘密の会合は悠陽と言う飛び入り参加を交えて、多少戸惑ったものの概ね上手く行ったのだが、
武には別の試練が待っていた。
襟元をただして、みんながいる新年会の会場に現れた武は、グラスを手に取ると壁際により、ヴァルキリーズの
艶姿を長めながら咽を潤した。

「ふぅ……なんとかなったけど、よく考えてみればこの新年会に出るんじゃなかったのか、悠陽は……」
「……武さん」
「うわおっ!? か、霞か……脅かさないでくれよ」
「……悠陽殿下と会っていたのですか?」
「えっ?」
「……今、武さんが言ってました。『悠陽は』って」
「あ、そうだな。霞のお陰でな……詳しい話は基地に戻ってから話すよ」
「……解りました」
「だからさ、そんなふくれた顔しないでくれよ。可愛い顔が台無しだぞ」
「……た、武さんっ」
「あははは〜っ」
「楽しそうだな、白銀……」
「えっ」

そこには着物姿なんだけど、どこか真っ黒なオーラを醸し出しているみちるが、極上の笑顔を浮かべて
手にしたグラスを握りつぶさんばかりにその指が白くなっていた。

「良くもまあ懲りずにやってくれたわね、白銀」
「な、なんの話ですか?」
「しらばっくれるとはね……あれはなんなのよ?」
「はい?」
「どうして姉さんまでここにいるのよっ」

そう目で示す先には、伊隅姉妹の長女が妹たちに混ざって、正樹を取り囲んでいた。
この時、最初は武は彼女が誰なのか解らなかったが、みちるの姉さんという言葉からあれが長女の
やよいなのかと理解したが、同時にみちるの形相から自分の身が危険だと感じた。
このままではまたボコられてトイレに放置かと思ったが、今回は救いの女神が側にいた。

「……みちるさん、あの人は偶然です」
「霞?」
「そうなの、霞?」
「……はい、それに武さんはさっきまで別の任務を遂行していましたから」
「本当なの、白銀?」
「あ、はい。今は言えませんが、確かにオレが今までいなかったのは任務が有ったからです」
「そ、そうか、すまなかった」
「いえ、解って貰えればいいです」

そして納得したみちるは、世間体を保ちつつ姉妹同士の戦いを繰り広げていた事に、武は心の中で
賞賛を送っていた。
BETAより恋のバトルが注目される横浜基地では、伊隅姉妹の長女が登場したのでさらにオッズが
変化したと言う。






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