「夕呼先生、届いたよ……タケルちゃんに伝わったよ」
「そう、なら少し休みなさい」
「うん……」
「お願いまりも、鑑を休ませて上げて」
「解ったわ、さあ鑑……」
「さてと、次はこっちの番ね」
「香月副司令には何かお考えがあるのですね?」
「それは貴方と同じですわ、殿下」
「無論です、霞さんに重傷を負わせわたくしの伴侶となる方に手を出した事が如何なる事か思い知らさねばなりません」
「オルタネイティヴ5推進派はこれで白銀を始末する気でいるでしょうけど、思い通りになる訳ないでしょう」
「ほほほっ……」
「ふふふっ……」
「で、殿下?」
「うーん、久しぶりに怒ってるわねぇ、夕呼は」
「人事みたいに言ってんじゃないわよまりも、行かず後家になっても良いの?」
「そうですわ月詠、そなたの伴侶でもあるのですよ?」
「わたしだって怒ってない訳じゃないわ」
「もちろん私も憤りは感じています、殿下」
「ならまりもは伊隅達や訓練兵達の対処を任せるわ、特に御剣達の方をね」
「了解」
「月詠、そなたには征夷大将軍として、勅命を下します」
「はっ」
「まったく、アイツも幸せ者よねぇ〜」
「はい、こんなにも慕われているのですからもう少し優しくして欲しいですわ」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 84 −2000.9 GASH−




2000年 9月30日 10:15 米国合衆国アラスカ州ユーコン陸軍基地 大会議場

輸送機撃墜から始まったソビエト軍管轄地内ので戦闘は治まったが、次は武力によるぶつかり合いではなく国際問題に発展する内容
に集まった各国代表の間でそれぞれ立場で意見を出して話し合われていた。
特に一方的に攻撃され殆どの戦術機を破壊された当事者のソビエト軍幹部の言葉は、大きな声と共に室内に響いていた。

「この様な行為で多大な損害を被った我が国としては、当然の如く白銀少佐に極刑を求める他はないっ!」
「しかし輸送機を撃墜したのはソビエト軍機だと、白銀少佐の機体から回収した映像記録から確認した事実はどうするつもりかね?」
「確かに発砲した事は認めますが、これは模擬弾と実弾の装弾ミスだと整備兵から報告が届いています。つまりそれは事故だと説明
しできます、それと当事者達にもそれなりの厳罰で対処します」
「そもそも何故このタイミングで広報撮影なのか? 白銀少佐たちの渡航予定とフライトプランは前もって各国に知らされていたの
に時間と良い場所と良い、作為的な物を感じられるのだが?」
「広報撮影に関しては国連の広報部から正式に依頼が有った事です、問い合わせに対しても何ら不明瞭な所は有りませんでした」
「ソビエト軍が事故だと言う主張したいのは解るが、それならば何故ソビエト軍も該当機体もユーコンHQの緊急通信に応答しなかっ
たのだ? それに被弾した輸送機が墜落する可能性があったあの時に、何故を無視をしたのか……それこそ何か含む所があったと思わ
れても仕方があるまい」
「それはそうですが……」
「ここで仮に白銀少佐を極刑にしたとして、後の事はどうするつもりかね? 新OS【XM3】を制作した社少尉は意識不明の重体で、
この先回復した時に事の詳細と少佐の処分を知って協力するとは思えん」
「ここは国連軍と言う軍隊です。BETAと言う驚異に立ち向かわなければならない時に、子供の我が侭に付き合っていられません」
「しかし社少尉に対する命令権は我々には無いのだよ。彼女は国連横浜基地の香月副司令の直属兵であり、現在日本主体で行われて
いる極秘計画の中核を担っている人物なのだ」
「ならば香月副司令に要請すればいいだけの話だ」
「その香月副司令にこの騒ぎを知らせた時になんて返事をされたか教えておこう、『G弾でも撃ち込んであげましょうか?』だったぞ」
「な、なんっ……」
「そもそも白銀少佐と社少尉はこちらが要請して来て貰った賓客だったのだよ。しかも快くXM3の発案者と開発者の二人を二つ返事
で送ってくれた香月副司令にそんな事をした上でどの面下げて言えるのかね? もっと言えば向こうはこちらが二人を誘い出して暗殺
を仕掛けたと取られているらしい現状をソビエト軍は理解してもらいたいな」
「むっ……」
「それにだ、各国の方々も記録映像を見たと思うが、二人が生み出したXM3の力は我々にもたらす恩恵は計り知れない。今回の戦闘
と合わせて白銀少佐の広報用ビデオからもその力は確かな物だと言えよう。人類の劣勢を覆すには必要だと感じているのは私だけでは
無いと思う」

周囲を見回しながら発言したハルトウィックの言葉に、各国から集まった関係者は隣の者と言葉を交わしたりするがソビエト軍の幹部
は声を荒げる。

「それでは白銀少佐の件は不問にするつもりなのかっ!?」
「最初にそちらが言った通りただの事故になるだろう、ソビエト軍管轄地で起きたのは大規模な演習になるな」
「そんな事は認められない、国連軍としての方針がそうなのなら重大な主権侵害だと抗議も辞さないっ……」
「どうあっても主張は変えられないと?」
「当然です、この様な個人の身勝手な振る舞いが通る軍隊など聞いた事がないっ」
「そうか……どうやら貴官は知らないようだから話しておこう。白銀少佐はただの国連軍兵士ではないのだ、事は日本帝国が法律の
改正と同時に日本帝国全権代行の煌武院悠陽殿下自らが自分の伴侶としてその名を公式発表としてした事で、彼の立場は非公式ながら
煌武院殿下と同等の権利と立場を日本は保証している。そしてこの状況を聞いた煌武院殿下からは正式な抗議が国連本部に提出されて
いて、目下向こうでも緊急会議の真っ最中なのだ」
「そ、それはどう言う事ですかっ!?」
「煌武院殿下からの言葉は『我が伴侶となる白銀武の命を奪おうとする事は、即ち我が命を奪う事に等しい。引いては日本帝国全権
代行である煌武院悠陽に弓弾く事に他ならない。今回のソビエト軍の攻撃は日本に対しての宣戦布告と受け止める事になるが返答は
如何に?』と本人自ら国連事務総長にはっきり伝えたのだ」
「そんなばかな、大体宣戦布告等と……」
「それと国連横浜基地の香月副司令からも正式な抗議と事件に関する調査請求が直接ソビエト連邦の大統領宛に届いている」
「なっ……」
「調査請求の内容は『社少尉暗殺計画』についてだそうだ。細かい内容は伏せるが社少尉の出生に関してソビエトの研究機関が大きく
関わっていて、それを隠蔽する為に証人になりえる存在の社少尉を事故に見せかけて暗殺しようとしたと言う事らしい」
「わ、私は知らないぞっ」
「しかし、現実に社少尉を乗せた輸送機は着陸直前に攻撃されて撃墜され、助け出されたが重傷でまだ意識の回復はしていない」
「うっ」
「そして社少尉もまた白銀少佐の婚約者であり、事故に見せかけて暗殺しようとした者を追いつめ取り押さえようとしただけだと、
香月副司令の意見もあった。現にあれだけの戦闘を行い戦術機を行動不能にしただけで死亡者は出ていない。これだけでも充分相手に
配慮した戦いであり、白銀少佐がただ怒りに任せて戦っていたとは考えにくいし香月副司令の言葉を証明している」

つまりこう言う事である……武は霞を殺そうとした相手を捕まえようとして、邪魔をしてきた者を殺さずに退け捕まえたに過ぎないと。
実際、ここで武が一人でも命を奪っていれば状況は変わっていたかもしれないが、状況を考えれば目的は実行犯である意志を行動で
示した結果だとこの会議に出席している者達は理解していた。
また国連議会としても招待して来て貰った相手に重傷を負わせた事、そして暗殺を計画した者達と一緒にされては困るという意志に
会議中の各国代表の間でも武への処罰を望む者はいなかった。
特に恋人を傷つけた犯人を命がけで捕まえようとした武の行為は、女性が多い各国代表の評価も追い風になったのかもしれない。
ハルトウィックにそこまで言われ会議内でもソビエト軍の味方になろうとする者がいない今、ソビエト軍幹部は口を噤んで何も言えなく
なってしまう。
その様子にハルトウィックは会議を纏めようと出席者全員に宣言する。

「この件は広報撮影中にソビエト軍所属機による発砲に責任があり、それを捕まえようとした白銀少佐の行動は過剰な部分が有ったと
言えるが心情を考えれば充分考慮出来る」
「ま、まってくれ、それでは我らが全ての責任を取らされると言う事になるじゃないかっ!?」
「そう言う事になるが国際問題となった場合、我々国連太平洋方面第3軍は一切関知しない事を言っておく」
「ばかな……」

すでに会議の流れはソビエト軍に同調するどころか、関わり合いを持っていられると見られて日本に敵対していると思われたりXM3の
配備がされない事に懸念を表してどう収めるかに目的が変わりつつあった。
それに軍隊だと声を上げるならば事前に危険を回避させれば問題は起きなかったし、通信拒否をして命令を無視した結果がこの惨事を
招いたので自業自得と言うしかない。

「それでも問題にしたいのならば白銀少佐達から直前の通信を受けてニアミスの危険を回避する行動もしなければ、緊急通信を無視
して模擬戦になっていた行動を止めもせず続行した上に、墜落しかけている輸送機を放置した部下の責任をどう取るのか返答をした
まえ」
「それは……」
「軍隊ならば命令を聞かなかったソビエト軍機とネパール軍機に非があり、あの場合即時行動を中止して救助活動を手伝い、HQの
指示に従っていれば少なくても白銀少佐の戦闘行動は無かったはずだ。輸送機が墜落した直後でも広報撮影とは名ばかりの模擬戦は
止まる事が無かったのは冗談では済まされない」
「…………」
「後補足だが、当事者達を捕獲したのはソビエト軍に勝手に処分される可能性があり、真相が不明になる事を恐れた為に白銀少佐が
確保したと言っていた。だから当事者のネパール軍の少尉を含めた三人は厳重な監視をして保護している」
「し、しかしその為に戦術機一個中隊を撃破された損害は多大になるっ」
「ああ、そう言えば香月副司令からソビエト軍には損害賠償請求が国連とこちらへ提出されているな」
「な、巫山戯ているのかっ、香月副司令はっ!?」
「白銀少佐の機体の専用装備が撃墜された輸送機に搭載されていたそうで、試作品であったがこの武器も各国へ配備を考えていた物
だからかなりの開発費が掛かっていたそうだ。参考までに言うが大型シールドに使用されていた試作対レーザー蒸散塗膜加工の開発
費用はSu-27の十機分以上に相当すると言っていたな……」
「そ、そんなばかな……」
「いいかね、これらの人的被害に物資の損害を被った上でも、今後の協力を惜しまないと香月副司令は言っている。社少尉の事で
憤りを感じているのにそうまでしてくれる意向をどう捉えるかはソビエト軍次第だからよく考えて発言した方が良いと思うぞ」
「ぐぐっ……」

確かに武がソビエト軍管轄地に入って戦闘行為を行ったのは事実だがそれは応答しない不明機を追撃した結果であり、問題があると
すればその一点のみでありその行動の趣旨は襲撃犯を追撃して捉えた事は筋が通っていた。
ソビエト軍の損害は戦術機のみで軽傷者は少なく死亡者は一人も出ていない、反対に武達は輸送機を落とされ装備を失い霞が重傷で
ありそれを広報撮影だの事故だの言い張るソビエト軍の言葉を納得する者はもういなかった。
さらに武の個人的立場として自分と同等の権利を保障すると公言した悠陽のお陰で、武達を襲った事は正に主権侵害に他ならないし、
その上霞の事件を詳細に調査依頼をしてきた夕呼のダメ押しが武本人が求めずして結果を決めていた。
ここ会議室内にいる者達の頭では、不意打ちを装って自分の恋人を殺そうとした犯人を捕まえる為に、武が無意味な血を流さずに邪魔
した者を制して犯人を確保しただけと言う話に纏まっていた。
ここでハルトウィックは大きなため息と共に最後通告と言える言葉をソビエト軍幹部に話し始めた。

「この件は国連からもソビエト連邦に伝えられており、現場の指揮官である貴官に説明を求める事が通達されるはずだ。その事を考え
た方がよいのではないか?」
「そんなっ!?」
「それと日本の情報省から貴官が日本主体で行われている極秘計画の反対派との関係を示唆する資料も国連本部に提出されている」
「濡れ衣だっ……」
「他にも米国を初め各国に協力を依頼した結果、それぞれに不審な行動をしていた人物もすでに拘束されている」
「違うっ、私はその様な組織とはっ……」
「残念だよ、ここには各国が協力してBETAに立ち向かう力を作り出す為に集まったのにな……」

自分が責任を取って詰め腹を切らされるという事で話は決まっていると理解したソビエト軍幹部は、乗り出していた体を椅子に深く
腰掛け項垂れて何も言えなくなってしまった。
それを見て各国の代表達は静まりかえり、ハルトウィックは周囲を見渡してから立ち上がると最後に補足を口にする。

「最後に白銀少佐から意見があり、本人もいきすぎた行為だと強く反省しているのでソビエト軍に対しては優先的にXM3の提供と
戦術機動概念の転換講習を少佐自ら行うと強く嘆願が有った事を考慮して、本会議は白銀少佐に対し一切の行状は不問とする」

その言葉にソビエト軍以外の参加者は頷き席を立つと次々会議室を後にするが、入れ替わりに入ってきたMPがソビエト軍幹部を拘束
して連行されていった。
暫くしてその場に残っていたハルトウィックの所にハイネマンが近づくと、ぽつりと呟く。

「ふぅ……どうやら我々は彼らに利用されたようだ」
「大佐?」
「今回の事件は有る程度、香月副司令には予想範囲内の出来事だったのかもしれん。出なければこうまで対応が早いのは些か出来すぎ
だな……」
「つまり、前もって襲撃はあると?」
「おそらくはな、ただ着陸直前に事が動くとは思っていなかったようだ」

ハルトウィックの言葉にハイネマンは考え込むが、会議中に出た武の事が気になり問いかける。

「大佐、先程の言葉は全部本当なのですか?」
「ん? ああ……白銀少佐に関する事は全て事実だ。国連本部のあるニューヨークでは事の重大さに大騒ぎだ」
「BETAと争っているのにこの時にこれでは、人類で自滅を促すような物ですからね……」
「まったくだ」
「しかし大佐、話にあった極秘計画反対派とは一体……」
「ここからはオフレコだが、白銀少佐と社少尉が香月副司令の直属なのはその計画の参加者であり、人類の生存をかけた香月副司令の
研究の集大成……オルタネイティヴ第4計画が順調に進んでいる事に反対してすぐにでも次の計画に移行したい勢力が今回の事を画策
したらしいと白銀少佐本人からも話が出ていた」
「つまり、白銀少佐達がここにきた二つ返事の理由とは……」
「自分達を囮にしたのだろう、ただ社少尉の事が予想外過ぎたので反対派の勢力と思いソビエト軍と交戦してしまったらしい」
「大佐はそのオルタネイティヴ計画に関してどこまで聞いたのですか?」
「今は言えない、ただこの問題はプロミネンス計画のその物すら揺るがす程に重要な内容だった」
「そうですか……それで白銀少佐は今、何を?」
「手術が終わった社少尉の付き添いだ、一応監視の意味を建前に護衛を付けている」
「まだ危機は去っていないと?」
「地球を守る事と人類が生き延びる事が同義では無いと言う事だ、ただどちらも必死なのかもしれんがな……」

帰還した武から事情を聞く為に面会したハルトウィックは、夕呼の計画を邪魔する勢力とその次に控えている計画のシナリオを聞いて
内心は聞かなかった方がよいと思ったぐらいである。
人類に残された時間は余りにも少なく、その為に一つになれない事を憂いているのはもう武達だけに留まらない方向に進み始めていた。
そして会議が夕呼と悠陽の介入で終わりを告げた時、武は霞の病室で握り返す事のない手をしっかり握って離さないでいた。

「ごめんな、一人にして……純夏に怒られたよ」

繋がれた機械から規則的な音の他に聞こえるのは霞の浅い呼吸で、それがなければただ寝ているだけにしか見えなかっただろう。
しかし現実は残酷で、手術を担当した医師の話では脳の腫れが引くまでは予断を許さないし、症状が安定しても意識が戻るかどうか
解らないと告げられていた。

「なっちゃいないな、オレは……また目の前で大事な女の子を守れなかったなんて……すまない、霞っ……」

両手でそっと握りしめていた手を額の前に持ち上げると、祈るように目を閉じて元気になるようにと強く願っていた。
今出来る事はこれぐらいしかないと、武は眠る事もせずに霞の側から離れず看病を続けながら考えている事があった。
武の『記憶』には霞がこうなる事は無かった、つまり未来を変えようとした自分の行動がこの結果を招いたのかもしれないと、そう
思うとこの先にも同じ様な事が待っているのかと悪い事を想像してしまいその表情は苦悶に満ちていた。
確かに受け継いだ『記憶』の様な未来は回避したい、だが大事な物を失う可能性を見てしまった武に迷いが出るのは仕方がなかった。

「霞……オレは、白銀武は強くないんだ。大事な物を失ってまで戦うなんてオレには……」
「白銀」
「えっ」

聞こえた声に顔を上げ気配の方のある方に振り返ると、ここにいるはずのない月詠が真剣な表情で睨んでいた。

「月詠さん?」
「立て、白銀……」
「月詠さん、オレは……」
「ふんっ」
「がっ!?」

椅子から立ち上がった途端に平手ではなく拳で殴られて武はよろめくが、その襟首を月詠の手に捕まれて引きずり起こされる。
記憶にある初対面の時に近い表情で自分を睨み付ける迫力に武は呆然としてしまうが、それを気にせず月詠が言葉を続ける。

「何でも一人で背負い込むな、お前は一人ではないんだからな……」
「月詠さん……」
「その為に我らがいるのだ、それを忘れるな」
「ごめん、それとありがとう月詠さん」
「やっといつもの顔に戻ったな、殴った甲斐があったと言うものだ」
「思いっきり殴りましたよね?」
「しらんな、おそらくそれは鑑訓練兵が殴ったのではないか?」
「純夏ですか……それよりもどうしてここに?」

そこで月詠は姿勢を正すと悠陽や冥夜にしてみせる表情になり、武に向かって敬礼をして理由を告げる。

「帝国斯衛軍月詠真那中尉、煌武院悠陽殿下の勅命により白銀少佐の警護任務に着任します」
「え、でも冥夜達の警護が……」
「今の冥夜様の立場は殿下の公言された事によって危険は少なくなっています、とは言え殿下の姉妹なのですからそのまま警護小隊を
真耶が引き継いでいます」
「それで月詠さんがオレの?」
「はい、この件で白銀少佐の置かれている立場を殿下が明確に国連本部へ通達しました。今の白銀少佐は殿下と同等の立場と権利を
保持しているのです」
「ちょっとまて、それって……」
「すでにもうその命は白銀少佐個人の物では無くなっている事をお忘れ無きように」
「なんだよそれ……」
「殿下を始め皆様は武様の身を案じておいでなのですよ、ちなみにダメ亭主を救うのは出来る妻だと香月副司令は言っておられました」
「ったく、夕呼先生は……」

やっといつもの表情になった武を見て安心した月詠は、ベッドで眠る霞を見つめると小さな声で呟く。

「もちろん武様の護衛も嘘ではありませんが、本当の護衛対象は霞になります」
「やっぱり、まさか奴らがこんな強硬手段に出るとは思っていなかったからな……」
「その報いは受けて貰っています、現在の国連本部は蜂の巣を突いたような騒ぎでしょう」
「オレの事はどうでもいい、それで霞を守れるなら……」
「ええ、それに私が来た以上、二度とこの様な真似はさせません」
「頼むよ、真那……」
「はい」

みんなの気持ちを聞き月詠の存在に救われた気がした武は椅子に座ると、再び霞の手を取り意識が戻る事を思い続けた。
それから暫くして、会議の内容を伝えにハルトウィックが自ら出向いて謝罪と共に武への処遇と今回の真相究明を約束して、改めて
今回の要請に関して深く礼を述べて去っていった。
こうして波乱を含んだ武達のアラスカユーコン基地への着任は、霞が意識不明の重体と言う厳しく辛いものになった。






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