「ふぃ〜、しろがね〜、あんたも飲む?」
「……夕呼先生、お正月なのは解るけど、朝からへべれけじゃないですか」
「な〜によ〜、うるさっいわね〜」
「まあいいんだけど、オルタネイティヴの方は大丈夫なんでしょうね?」
「あったりまえでしょ〜、あんたこのあたしを誰だと思っているのよ〜」
「そうっすね、それで純夏の事なんですけど……」
「あ〜、一応00ユニットは出来ているんだけど、どーっしよっかな〜」
「夕呼先生、純夏に説明したんですか、その……00ユニットの事は」
「したわよ〜、そうしたら鑑のやつ、なんて言ったか知ってるぅ?」
「なんて言ったんですか?」
「『タケルちゃんのハーレムを止めるなら何でも良い』だって」
「……このままって訳にはいきませんよね?」
「諦めなさい、それに霞の気持ちもね……」
「あ、そっか、ごめんな霞」
「……いえ、それに純夏さんとは正々堂々と勝負するって決めていましたから」
「そ、そうか」
「もてもてねぇ、しろがね〜……やっぱり法律改正しておこうかしら」
「だからハーレムから離れてください」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 08 −2000.1 謹賀新年−







2000年 1月1日 9:00 国連軍横浜基地 PX

世界が違うとは言え、日本人にとって正月というのは特別なのかもしれない。
ここ横浜基地の中でも派手な飾り付けは無いが、新年を迎えて新たにBETAとの戦いに
気を引き締めながらそれぞれに祝っていた。
しかし、伊隅ヴァルキリーズはここぞとばかりに、新年の催し物に借り出されていた。

「百花繚乱だなぁ……」

武の目の前には、着物に着飾ったヴァルキリーズの仲間達が、帝都で行われる新年会に出席する為に
迎えのバスを待っていた。
今や人類の希望の星、国連軍の顔になっているけど、構成人員が日本人という事もあり、
殿下自ら新年会に招待していた。
もちろんみんなが着ている着物も、殿下から用意された物で、さすがに断る事も出来ず参加する事に
なった。

「……武さん」
「ん、おー、霞か」
「……どう、でしょうか?」
「ああ、似合ってるな。可愛いぞ」
「……あ、ありがとうございます」

みんなの中から振り袖姿の霞が話しかけてきたので、武は素直な感想を口にした。
その言葉に霞の顔はほんのり赤くなっていたけど、笑顔が浮かんでいたので満更でも無いようだ。
そこで不意に目が合った水月が、武に話しかけてくる。

「どうどう白銀、この姿は?」
「速瀬中尉、聞く相手が違うんじゃないですか?」
「な、なんでっ」
「もう水月ったら。恥ずかしがっちゃって」
「は、遙っ、あたしは別に……」
「なるほど、じゃあオレは敢えて馬子にも衣装と言っておきましょう」
「し〜ろ〜が〜ね〜」
「ほら水月、鳴海くんの所に行こう」
「ちょ、ちょっと遙、離して……」
「あ、涼宮中尉はよく似合っていますよ」
「ありがとうございます、白銀くん」

今日だけは年相応の女の子に見えた水月が可愛かったのだが、霞の視線が微妙に痛かったので
口にしない武だった。
しかし、一難去ってまた一難なのが、武が恋愛原子核たる由縁なのかもしれない。
女性を惹き付ける事に特化している武のスキルは、時間も場所も世界も選ばない。

「お邪魔するよ、白銀」
「失礼します、少佐」
「宗像中尉に風間少尉も、よく似合っていますよ」
「ふむ、こう言うのは着た事がないから新鮮でね」
「こんなに立派な着物なんて、ちょっと驚きました」
「二人ともこれも仕事だと思って諦めてください」
「白銀は紋付き袴じゃないのかい?」
「オレはいつもの軍服でいいすよ」
「まあ、逃げましたね?」
「正樹大尉や孝之中尉がいるから、それで充分でしょう」
「ふーん、まあそれ以上は聞かない事にしておくよ」
「助かります」

なんとなく見抜かれているかなと武は苦笑いを浮かべるが、二人に言ったように自分も仕事だと
解っている。
そのまま、仲間の輪に戻った二人を見送っていると、隣に座っていた霞が武の袖を引っ張った。

「どうした、霞?」
「……仕事だから、着物着ないんですか?」
「ああ、ちょっと重要なことだからな……」
「……気を付けてください」
「ん、ああ、だからオレの分まで霞は何か美味しい物を食べてくるんだぞ」
「……はい」
「し、白銀少佐っ」
「はい?」

霞と話していた武の側に、なにやら焦った顔で近寄ってきた正樹が立っていた。
その後ろには伊隅姉妹がしっかりと着いてきていた。

「どうしたんですか、正樹大尉?」
「何とかしてくれないかっ」
「なにをです?」
「解っているくせに……」
「全然解りません、オレはもてませんから」
「うっ」
「正樹っ」
「正樹ってば」
「正樹ちゃん」
「お呼びですよ、正樹大尉」
「くっ」
「「「さあ、はっきりしてもらいましょうかっ」」」

そのまま引きずられていく正樹に霞がばいばいと手を振る姿が、武の目頭を熱くしてしまう。
伊隅姉妹三人同時に告白されている正樹はまだ知らない、これから行く会場に伊隅四姉妹の長女
がいる事を……。
その様子を見ながら手を合わせる武の所に、ここ横浜基地のラスボス……夕呼が一人の女性を伴って
やって来た。
それは武がよく知る女性だった。

「ちょっと白銀」
「はい、あれ夕呼先生、誰か……えっ」
「紹介するわ、あたしの親友で伊隅たちの教官もしていた神宮司まりも軍曹よ」
「え、あ、はい」
「まりも……これがあんたのお見合いの相手、白銀武少佐よ」
「ちょ、ちょっと香月博士っ、聞いてないわよ、それっ!?」
「今言ったじゃない」
「そう言うことじゃなくって」
「大丈夫よまりも、白銀はあんたを決して未亡人にしないわ」
「何言ってるのよっ!?」
「新OS【XM3】を発案者にして、極東国連軍のエースと言える実力を持つんだから、そう簡単に
くたばらないし」
「あ、あのー、夕呼先生……」
「白銀、人類を救う一環として、ついでにまりもの結婚運も救って頂戴」
「ゆ、夕呼っ!」
「……香月博士」
「あら、どうしたの霞、そんな顔して……もしかしてジェラシー?」
「……わたし、負けません」
「ふふん、言うわね。どうするのまりも、霞からライバル宣言されたわよ?」
「あ、あのね、夕呼が勝手に言ってるだけじゃないっ!」
「あははは……はぁ」

ヴァルキリーズは言うに及ばず、PXにいた職員たちによって、武争奪戦も新たなトトカルチョとして
成立することになった。
そして無し崩し的に武のお見合い相手にされたまりも意見は誰にも聞いて貰えず、彼女をよく知るみちるたちや
京塚のおばちゃんとかに応援されて困りまくっていた。
ただ、武に対しては最初に謝られてしまったので怒るどころか、夕呼という悪魔に関わり合った
不運を労り合うのだが、それを霞に誤解された武はそのご機嫌を取るのに数日掛かったという。
その後、ヴァルキリーズと共に新年会の会場に向かったのだが、その道中でも騒がしくて武は
寝る暇もなかった。

「それじゃみちる大尉、あとよろしく」
「解ったわ」
「みんなまた後でな、しっかり食べてこいよ、霞」
「……いってらっしゃい」
「おう」

到着後、武はみんなと別れて一人である所に向かった。
これはまだ非公式の事なので、まだみんなには詳細は話せなかった。
やがて、指定された部屋の前に立ちノックすると、中から扉を開いて武を室内に招き入れた。

「失礼します、国連軍所属の白銀武少佐です」
「時間通りだな、シロガネタケル」
「フルネームで呼ばなくても良いですよ、鎧衣課長」
「そうか、では話を始めるとしよう」






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