「明日からこの基地も静かになるわねぇ〜」
「もう夕呼、白銀と暫く会えないからってそんな事言うなんて」
「ま、まりもっ、アタシは別にっ……」
「夕呼せんせ〜って寂しがり屋だって本当なんだ〜」
「……はい、ツンデレだから素直になれないんです」
「武様、つんでれとは一体どう言う意味でしょうか?」
「はぁ……後が怖いんだからその辺で止めておいた方がいいぞ」
「ふんっ」
「夕呼先生も拗ねないでくださいよ」
「どうせ可愛くなって言いたいんでしょ、それぐらい解ってるわよ」
「え、いやぁ、まあ最近はそうでもないかなぁと……あっ」
「えっ?」
「あら〜、良かったわね夕呼、白銀が可愛いって言ってくれたわよ」
「まあ武様、わたくしにも是非……」
「タケルちゃ〜ん、わたしにも言って言って〜」
「…………」
「あ、あの月詠さん、そうやって無言で睨まれるのは怖いんですけど?」
「……みんなの気持ちは一緒なんです」
「霞、ちゃっかり自分も入れてるんだ」
「……わたしも女の子ですから」
「ねーねータケルちゃん、無視しないでよ〜」
「ああ、かわいいかわいい〜」
「うわー、それってちょー適当じゃんかよーっ」
「……純夏さん、武さんもツンデレですから」
「やーいやーい、タケルちゃんのツンデレー」
「うっせ」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 79 −2000.9 前夜−




2000年 9月29日 12:10 国連横浜基地

アラスカへ行く全ての準備が終わり、朝から武は霞と共に純夏達に付き合って訓練に混ざっていた。
ランニングから始まって射撃訓練の指導や格闘訓練の相手も体力の続く限りがんばって、お昼休みになった時に武はPXのテーブルに
体の力を抜いて突っ伏していてた。

「うばー、疲れたぜ〜」
「……お疲れ様です、どうぞ」
「ありがとう霞、ずずっ……ぷはぁ〜、お茶が美味い〜」

霞が貰ってきたお茶をのろのろとした動きのその手で湯飲みを掴むと、ごくごくと飲み干してしまった。
それを見て立ち上がった霞はお代わりを貰いにカウンターへ行ってしまうと、呆れた顔した純夏が話しかけてくる。

「タケルちゃん、だらしないよ〜」
「あのな、オレ一人で全員相手してるんだから体力持つわけねーだろぉ……」
「その割には余裕があると見たが?」
「冥夜、これのどこが余裕があるように見えるんだ……」
「そうやって反論しているあたりだな」
「うおー、霞〜、優しいのはお前だけだ〜」

冥夜にまで突っ込まれてしまった武は、お茶を持って戻ってきた霞を抱き締めると頭を撫で始める。
そうされて照れてはいるけど霞の顔に浮かんだのは幸せな笑顔で、そばで見ていた純夏はさっきの意見を翻して武の背中に抱きつく。

「タ、タケルちゃんっ、わ、わたしも優しいよっ」
「自分で優しいなんて言う奴は信じられん」
「あーうそうそっ、さっきのは冗談だって〜、信じてよタケルちゃ〜ん」
「タ、タケルっ、わたしもその優しくない訳では……」
「さすが純夏の親友だな、似たもの同士だ」
「むぅ……」

こんな騒ぎもPXでは日常になっていたが、暫く見られなくなると解っているのか誰も暖かい目で見つめていた。
しかし、それを収めようとするのもまたいつも通りだと、委員長が席を立つ。

「ちょっと食事中よ、遊ぶのなら食べ終わった後にしないさいよ」
「委員長に怒られちゃったじゃないか、お前らの所為だぞ」
「人の所為にするなんてセコイよタケルちゃん」
「まったくだ、士官なのに大人げないぞ、タケル」

純夏、冥夜に留まらずその場にいた207隊の全員が次々に武へ突っ込みを入れる。

「白銀はお子様……」
「そうだねー、たけるさんって時々駄々捏ねている所もあるし……」
「タケルだって男の子だもん、そーゆーのあるんじゃない」
「そんなことよりどうしてみんな社と鑑の事を突っ込まないのよ?」
「それは言うだけ無駄だってわかっているからだよ、茜ちゃん」
「白銀の戦っている姿も格好いいけど、そんな可愛い所もあるんだね〜」
「……武さんは子供っぽいところがチャームポイントですから」
「うぐっ、みんな言いたい放題な。それと霞、それフォローになってないって」

最後にはみんなに笑われてしまうが、笑っている純夏を見つめながら武は何となく嬉しかった。
冥夜達と仲間になり確かな絆を結んだ事がきっと新しい力になると信じられたからでもあったが、男の自分よりきっと本当の
意味でみんなの親友となれると思っていたからかもしれない。
もちろん冥夜達を軽んじている訳じゃなかったが、それでも前回を同じ事を繰り返す訳にいかない意志が、今の自分の立ち位置を
決めていたからである。
お陰でかなり強引ではあったけど自分の求める未来に至る道を造る事が出来たが、その分冥夜達から離れてしまったのが寂しいが
口に出して言う程子供でもいられないのは武は理解していた。
だが、それを知っている純夏や霞が冥夜達との日常を色々と話をしてくれるので、今はそれだけで武には充分だった。
そして午後からは第一演習場でヴァルキリーズ相手にF−22Aを使っての模擬戦を行っていた。

「この〜、そこよっ!」
「うおっと、やばかった〜」
「こら避けるなっ」
「避けなきゃ当たっちゃうじゃないですか」
「そうよ、この墜ちろーっ」

過日、偶然とは言え武を撃墜した結果を得られた事が幸か不幸か発憤材になったのか、水月の力は一段レベルアップしたように
F−22Aにペイント弾を当てていた。
行動不能判定になる直撃は無い物の、肩や腕や足にとペイントまみれになっている状況から、ヴァルキリーズのみんなからも
感心するような声が上がる。

「凄いね速瀬中尉、今度は掠ってるんじゃなくて当ててるよ」
「突撃前衛長の面目躍如って所ね」
「あきらにまりかも感心してないで白銀を落としなさい」
「大尉、それはちょっと難しいかもしれません」
「なんだ宗像、早々と降参とはだらしがないな」
「いえ大尉、美冴さんの言いたい事はそうではないかと思います」
「どういう事だ?」
「つまり、変態に付き合えるのは変態だけって事です」
「宗像中尉、それはちょっと……」
「涼宮中尉が親友を庇う気持ちは解りますが、これは事実ですから……っ!?」

そう口にした美冴は急に機体を動かして飛んできた模擬弾を避けると、モニターの中で睨んでいる水月に抗議の声を上げる。

「味方を撃つなんて酷いですよ、中尉」
「むーなーかーたー、そんなに敵になりたかったのなら今すぐ白銀共々やっつけてあげるわよっ!」
「申し訳ありませんがお断りします、わたしは白銀や中尉と違って変態では無いので……」
「誰が変態よっ、変態は白銀一人で充分よ」
「落ち着いて水月、今は演習中よ。宗像中尉も真面目にやりましょう」

そんな会話が続いている間、相手にされていない武は何をしていたのかと言うと、起用にF−22Aの指先で地面にのの字を書いて
小さな声で呟いていた。

「……別に良いんだけどさ、オレが変態だって言うのは誰も否定してくれないんだ」
「仕方有るまい、本当の事だしな」
「みちる大尉が一番ひでーよ、正樹さんに孝之さんも傍観してないでなんとか言ってくださいよ」
「「なんとか」」

武に対して女性が絡んでいる場合どうなるかよく解っている二人は、余計なとばっちりを遠慮して第三者に徹していた。
何しろ武の行動で多大な影響を実感している身としては、お互い武に続いて複数の彼女がいるので後は穏便に日常を過ごしたい
事を切に願っている思いから無視を決め込んでいたらしい。

「くっ、二人とももう尻に敷かれているのか……」
「白銀、もう一度言ってみろ」
「白銀、今度こそトドメを刺して上げるわ」
「うげぇ!?」
「どうした白銀? 極東国連軍のエースが負けたら言い笑い物だぞ」
「おらおら、とっとと地獄に逝ってしまえーっ」
「うおおぉぉ〜っ!?」

武の言葉にみちるも水月と一緒になっていきなり攻撃を再開してその半端じゃない行動に、武も全力で逃げ回るしかなかった。
実に目が笑っていない笑顔で突撃砲を撃ちまくる二人の姿に、武と同じ男である正樹と孝之は顔が引きつって何も言えなかった。

「馬鹿だなぁ……」
「少佐、一言多いです」
「あはははっ、みちるちゃん、やっぱり怒ると怖いね〜」
「正樹も怒らせないように気を付けてね」
「ああ、よく解ってるって、あははは……はぁ」
「あ、あの孝之くん。わたしはあんな事しないから、ね?」
「う、うん、解ってるよ、遙……」
「孝之くん」
「だ、誰でも良いから二人をなんとかしてくれ〜っ!!」

しかし武の叫びを聞き届ける者は誰もいなく、いつの間にか武達の戦いを休憩しながら見ているのだった。
それでも結果、なんとかみちるを退けた後水月が相打ちに持ち込めた事で、前回とは違ってガッツポーズをして喜んでいた水月に
武は苦笑いを浮かべつつも水月が一つ壁を越えた感じを受けていた。
これで不測の事態が起きて自分がいなくても対処が出来るだろうと言う事が解り、日も暮れ始めた空を眺めながら体の力を抜いた。
後は自分の事で少しやっておきたい事が有った武は、夕食も軽く済ませて腹具合が落ち着いた頃に練武場まで足を運んだ。

「すいませんお待たせしました、月詠さん」
「いえ、気になさらずに……」

そこに待っていたのは月詠で、手にしていたのは刃引きをした真剣の二振りの一つを準備運動を終えた武に渡すと、お互いに
向き合い居合い抜きの構えをとる。
笑顔で出迎えた月詠の表情は戦場にいる顔に変わり、武の方も腰を落として同じ構えをしながら相手を見つめ返す。
二人の呼吸の音が聞き取れる程の静寂の中で武の顔には汗が浮かんでいて、顔を流れ顎の下から畳にこぼれ落ちた瞬間に止まっていた
時は動きだし、同時に抜刀した刀は火花を散らしてぶつかり合いそのまま二回三回と斬り合いに移る。
戦術機の時と違い余裕がない武と違って月詠の凛とした表情は綺麗で、真剣な斬り合いの中でもつい見とれてしまい、結果は首筋に
冷たい刃を感じて短い戦いは幕を下ろした。

「武様、戦いの最中に考え事とは感心いたしません」
「ごめん、つい月詠さんに見とれちゃって……その、戦っている時の表情が綺麗すぎてさ……」
「た、武様っ……」
「不謹慎だよなぁ、でもしょうがないじゃん。これが俺だし」
「そうでしたね」
「あれ、納得されちゃったよ」
「ふふっ……」

微笑む月詠が差し出したタオルを手に取るが、そのまま差し出された手を一緒に握っていて離さずに武は穏やかな表情で見つめ返す。

「武様?」
「行ってきます、後よろしくお願いします」
「はい、皆でお帰りをお待ちしています」
「うん」
「あっ……」

手を引かれいきなり強く抱き締められて硬直してしまう月詠だったが、その耳元で武は本音を呟くと赤くなっていた顔は落ち着いて
耳を傾ける。

「ホントは怖いんです、月詠さんやみんなを信じているけど、もしオレがいなくて何か有ったらと思うと不安が消せなくて……
ははっ、本当に情けないなぁ……」
「いいえ、そんなことはありません。それにそんな弱音を言ってくれた方が私は嬉しく思います」
「月詠さん……」

いくつもの記憶を持っていようが、卓越した戦術機を操る力を見せても、こうしてたくましい腕に抱き締められても武はまだ成熟
していない少年なんだと感じながら月詠は本音を聞けたのが嬉しかった。
ならば自分が出来る事はその不安を少しでも取り去る事しかないと、月詠は自分の腕をそっと武の体を抱き締めてしっかりとした
声で囁く。

「武様、私は……武様の記憶にある私はどうでしたか?」
「え、ああ、月詠さんは凄く強かった。佐渡島ハイヴ攻略戦の時もここがBETAに襲撃された時も余裕を感じさせていました」
「なら今は私はどうですか? 武様の知っている『月詠真那』より弱いですか?」
「いや、間違いなくここにいる月詠さんが一番強いです、それだけは自信を持って言える」
「ならば信じてください、私は武様の思いに応えて見せます」
「うん……ありがとう、真那……」

武の言葉通り記憶にある『月詠真那』が得られなかった物を手にした事で、ここにいる月詠は間違いなく確かな力を得た事になった。
その後、暫く抱き合っていたけれど月詠を探しにきた三バカにその現場を見られてしまい、厳しく口止めをしていたが何を今更と
口々に言われてしまい無駄に終わっていた。

「で、月詠さんといちゃいちゃしていたから遅くなったんだ、ふーん……」
「何で拗ねるんだよ、純夏?」
「知らないっ、せっかく人がシャワー浴びて待っていたのに……」
「はぁ?」
「わわっ、何でもない、何でもないのーっ」
「わけわからんぞ、純夏」

月詠と別れてから部屋に戻ってきた武を待っていたのはベッドの上で何故かぷんすか怒っている純夏で、抱き合っていた事をリーディング
で知ってやきもちしているんだろうなと思っていたが実のところは違うと気づいていない。
純夏にしてみれば暫く会えないので、少しでも一緒に過ごしたい乙女心とちょっぴりキスより先に進みたい思いが伝わらないので、
少々八つ当たり気味だけど怒ってしまうのは当然なのかもしれない。
それでも武なりに誠意を見せるように側に近づくと、気持ちを込めて純夏の頭を撫で始める。

「悪かった、よくわからんが寂しかったんだな……」
「うっ、そ、そうだよっ、明日にはタケルちゃんいないから……だからっ……」
「そっか……あれ? 霞はどこに行ったんだ?」
「……こ、今夜は神宮司先生の所で寝るって」
「まりもちゃんと? またなんで……」
「タケルちゃんのにぶちんっ」
「うっ」

顔を赤くしてぼそっと呟く純夏に見つめられて、やっとこの状況を理解した武は純夏の思いに気が付いた。
つまりそう言う訳なんだと、霞がいない理由と純夏の顔を見て、何を求めているのか想像して武は顔が熱くなった。
だから言葉で言うより先に頭を撫でていた手で純夏を引き寄せると、抱き締める腕に力を入れてしまう。

「きついか?」
「ううん、もっとぎゅっとしていいよ」
「そっか……」
「ねえタケルちゃん……」
「なんだ?」
「霞ちゃんと一緒に無事に帰ってきてね、わたしずっと待ってるからっ……」
「ああ、純夏もがんばれよ。添い寝出来ないからって泣くなよ?」
「な、泣かないよっ。もうっ……んっ……」

もう言葉はいらないと武は純夏の口を塞いでベッドの上に押し倒すと、一度離れて見つめ合う二人は目を閉じる。
伸ばされた純夏の腕が武の首にまわって、部屋の中には睦み合う時間がゆっくりと流れていく。
大事な物を守る為に側から離れなければならなかったが、だからこそ強まる絆も有ると信じて武と純夏は思いをぶつけ合った。






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