「……なんでこんな事になってるんだ」
「……武さん」
「白銀、悩んだってしょうがないでしょ。現状を認めて対応しなさい」
「しかし夕呼先生、いくらなんでもこれは……」
「ふぅ、とはいえあたしも驚いているのよ。まさかね……」
「純夏……」
「とりあえず、早めに00ユニットの制作に入るけど、別の『器』も用意してみるわ」
「別の?」
「あんたは嫌でしょ、00ユニットの鑑なんて」
「夕呼先生……」
「時間が掛かるけど、何とかしてみせるわ」
「お願いします……それでどうしましょう、これ?」
「とりあえず、外側の世界を見られる様にしてみるわ」
「……武さん」
「大丈夫だ霞、希望はあるんだから」
「……はい」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 07 −1999.12 純夏 2−







1999年 12月17日 10:00 国連軍横浜基地

新装備での実機演習を前に、ブリーフィングルームではそれの説明が始まっていた。

「つまりこの装備はそれぞれのポジションに合わせていますのが、作戦でそれが入れ替わった
場合でも即座に換装して対応できるようになっています」
「なるほど、これならば個性も活かせるし活動時間も増えて、総合的に戦闘力もあがると」
「ええ、そして涼宮中尉を加える事によって、ヴァルキリーズは一個大隊以上の力が
出せると、オレは思っています」
「少佐、それは過大評価だと思うんですけど……」
「いえいえ、涼宮中尉の状況把握能力は極東どころか全国連軍中でもトップだとオレは思っています」
「責任重大だね、遙」
「水月、そんなにプレッシャーを掛けないで、緊張しちゃうわ」
「あーそうそう、孝之に見とれて指示間違えないでね」
「み、水月っ」
「それじゃ始めますか、速瀬中尉が暴れる前に」
「白銀、絶対に倒す」
「はははっ、お手柔らかに」
「よし、編成を発表するぞ、B小隊の速瀬、宗像、風間それに鳴海を加えて仮想敵機で、
A小隊が迎え撃つ。尚、B小隊の目的は涼宮中尉の機体を撃破だ。状況次第では攻守入れ替えて
続行する、いいな」
「「「「「「「了解っ!」」」」」」」

みちるの言葉に敬礼でみんな応えると、それぞれチーム毎に別れて作戦を決めに入る。
そんな中、突然武は声を上げる。

「あっすまん。みんなに一つ言い忘れてた。そのままで聞いてくれ」
「なによ、白銀。今更逃げるのは無しだからね」
「そんな事は後が怖くて出来ませんよ、えっとこれから始まる演習で、ブレイズ隊の方に一人加わります」
「と、言う事は男?」
「そうです、それで彼はもう先に演習場で待っていますから、演習中に関してはみちる大尉に任せます」
「解った、じゃあこちらに組み込むわ」
「宗像、風間、鳴海、大尉たちは任せた」
「中尉、敵は伊隅大尉のA小隊なのでは?」
「……白銀少佐とだけ戦えれば満足なんですね」
「ごめんな遙、今回は守れなくて」
「ううんそんなことないよ、鳴海くんが来るの待ってるから」
「よーし、白銀と遙を倒せばすべてが上手く行くわ」
「そう簡単に負けないんだからね、水月」
「「ふっふっふっ」」
「なんか異様に盛り上がっているけど、まあいいか」
「……武さん、時間です」
「あと頼むな、霞」

霞を残してブリーフィングルームを後にすると、ハンガーへ向かいそれぞれの機体に乗り込む。
この機体も装備を合わせてカスタムした新型なので、ヴァルキリーズとしては嬉しい事だらけである。
特に日頃の芸能活動まがいで、口に出さなくても溜め込んでいる物があるはずだから、この演習で
発散して自分にとばっちりが来なければいいなぁと思うのは武だけだった。
ハンガーに着くと、そこには真っ白なカラーリングされた、肩にはヴァルキリーズの
赤色でパーソナルマークが描かれた不知火・改が、出撃を待っていた。
そして乗りこんで行くみんなの顔には、遠足に行く様な楽しそうな雰囲気があった。
全員が演習場に着いた時、そこには同じブレイズ隊と同じ黒いカラーリングで、肩のパーソナルマークは
黄色で描かれていた機体があった。

「お待たせしました、前島大尉」
「え、正樹っ!?」
「本日付けでイスミ・ヴァルキリーズの所属になる前島正樹大尉です。コールサインはブレイズ2
です、よろしくお願いします」
「正樹なの!?」
「正樹ちゃん!?」
「久しぶりだな……っと、今は訓練中だから話は後にしよう」

その様子に興味津々なヴァルキリーズのみんなは、ひそひそと話している。

「もしかしてみちる大尉の?」
「いやいや、まりか中尉かもね」
「でも、あきら少尉もそうみたい……」
「なるほど、ライバル同士……」
「お、お前らっ、私語は後にしろっ」
「そうだぞ、そう言うのは後のお楽しみに……じゃなくって、演習始めましょう」
「……白銀、後で全部話して貰うからな」
「いえっさー、ははっ」

ギロリとみちるに睨まれて、自分が仕組んだ事がばれた気がした武だが、夕呼先生の所為に
して誤魔化そうと思っていた。
後はみちるの姉だけになるのだが、これは意外な所から話が来る事になる。
そして異様な空気に包まれた第一演習場は、実戦顔負けの戦闘が半日も続いた。
お陰で手に入った運用データはかなりな物で、夕呼から開発スタッフに渡されていて、
次の開発に活かされる事になった。

「〜だぁ、死ぬぅ」
「……武さん、あーん」
「もぐもぐ……まったく、なんでみんなしてオレを狙うんだよ〜」
「……武さん、人気者です」
「霞、そんな人気はいらないんだ。愛がないんだぞ〜」
「……やっぱり、ハーレム作る気なんですね」
「違うって」

ぶっ続けて行われた演習は、最後の方は武VSヴァルキリーズな過酷な状況で、それでも武は辛くも撃破だけ
は免れたが、銀色の機体がペイント弾でかなり愉快な色に染まっていた。
それからシャワーを浴びてブリーフィングルームで、みちるにつるし上げを食いそうになって逃げ出し、
こうして霞に癒されながらPXで食事に有り付いていた。

「……武さん、あーん」
「もぐもぐ……自分も食べてるか〜、霞」
「……はい、もぐもぐ」
「でもまあ、思った以上だったよ、戦術機も装備も……」
「……良かったですね」
「ああ、それで純夏なんだけど……」
「……はい、もう大変です」
「なんて?」
「……うわーん、タケルちゃんどこー、ってはやくこっからだしてー」
「…………」
「……なんで霞ちゃんといっしょなのっていうかどーゆーことかせつめいしてー」
「…………」
「……あー夕呼せんせいまでそんな格好でなにしてるのー」
「……緊張感無いな」
「……はい」
「説明したんだろ、今の状況を?」
「……武さんがハーレムを作っている事だけは解ったようです」
「霞、夕呼先生の話を本気にするなよ」
「…………」
「そこで黙らないでくれ〜」

なぜか純夏は意識がはっきりしていて、しかも精神は壊れているどころか、向こうの純夏の
ままな感じが、武には理解出来なかった。
でもこれが願っている未来に取って、良い事であると武は思うしか無かった。
そしてある人と約束をしていた事をすっかり忘れていた武の危機は、すぐそこに迫っていた。

「楽しそうね、白銀」
「た、たたた大尉っ!?」
「どこの国の王様か知らないけど、ちょっと顔貸して」
「その、顔は取り外し出来ませんが……」
「いいからこい」
「さー、いえっさー」
「……ばいばい」

それから小一時間後、トイレに放置されていた武の顔には、綺麗な模様が残されて、
部屋に戻ったらその顔見て霞によしよしと頭を撫でられていた。
翌日、伊隅姉妹と正樹大尉の話が広まり、横浜基地ではファン倶楽部の
メンバーが涙を流している姿が、あちこちで見かけられたらしい。
そのお陰で水月と遙はほっとして孝之にアプローチしているのだが、こちらもなかなか進展はしない、
そして横浜基地の中では、密かに恋のトトカルチョが開催されている事を、本人達だけは知らない。






Next Episode 08 −2000.1 謹賀新年−