「もうっ、タケルちゃんのえっちっちーっ!」
「んだよぉ……たまたまだろ」
「……純夏さん、じっくり見てましたけど?」
「うっ」
「純夏の方がえっちっちーじゃねーか」
「だ、だだだってあんなになるなんて、聞いてないよ〜」
「まあいいや、これでおあいこだしな」
「なんか納得いかないんだけどぉ……」
「……じゃあ、今夜は三人でお風呂に入りましょう」
「そんなのむりムリ無理〜っ」
「なによぉ鑑、据え膳されてるのに意気地無いのねぇ〜」
「夕呼せんせ〜」
「いいわ、じゃああたしが一緒に……」
「遠慮します」
「なんですって〜っ」
「添い寝であれだけの事しておいて良く言えますね」
「なによぉ、ほんとーは期待している癖に〜」
「くっ……もしオレが暴走したらどーすんですかっ」
「べっつにぃ〜、最後までOKだって前から言ってるしぃ〜」
「ちょっと夕呼、あんたには羞恥心って物が無いの?」
「まりも……そうだわ、まりもも一緒なら安心して入れるわね」
「はぁ!?」」
「香月副司令、何を言ってっ……」
「なによもう月詠中尉まで……って解ったわ、あんたもかも〜ん」
「はあっ!?」
「かも〜んじゃねーって!」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 69 −2000.9 天使への贈り物−




2000年 9月16日 6:50 国連横浜基地 PX

「タケルちゃんはね、悪い奴をやっつけるヒーローなんだよっ」

純夏の一言で今まで緊張していた空気は無くなり、一真は朝食の席を忘れて豪快に笑い出してしまう。

「そうかっ……ヒーローかっ……はっはっはっ……」
「か、一真様っ!?」
「純夏、お前はやっぱり純夏だよ」
「……純夏さんはいつまでもそのままでいてくださいね」
「え、えっ?」

武に頭を撫でられて霞に優しい微笑みを向けられて、純夏はなんでそうされているのか解らなかったが、時間が経ってくると
自分がバカにされていたと理解して叫び出す。

「なんだよ二人ともっ、わたしはホントーにそう思ってるのに酷いよ〜」
「まあ思うのは勝手だけど、どうすんだよ」
「へ?」

武に目で促されて向かいに座っている一真が笑いすぎて悶絶しているのを教えると、純夏の顔は引きつって固まる。
その一真の隣にいた真耶が背中をさすっているが、復活までにもう少し掛かりそうだった。

「とにかく食っちまえよ、遅刻するとまりもちゃんに怒られるぞ」
「ああっ、そうだった〜」
「……ごちそうさまでした」
「霞ちゃんはやっ!?」
「ごちそうさん」
「ああっ、タケルちゃんまでずるいよ〜」
「なにがずるいんだかわからん」

慌てて食べる純夏の横で武と霞はお茶を飲みながらまったりしていると、なんとか一真が体を起こすと真耶に礼を言ってから
咳払いをして武に話しかける。

「不作法で済まなかったな」
「いえいえ、純夏がボケた所為だから気にしなくて良いですよ」
「ボケてないもんっ」
「良いから食え、そしてみんなの所に行けって」
「く〜、おぼえてろよーっ!」

純夏はがつがつと食べて最後にお茶を一気に飲み干すと、あっかんべーをしてすたすたと歩いて行ってしまう後ろ姿を武は笑い
ながら見送った。
その瞳に凄く暖かい物が込められている事に気づいた一真は、笑わせてくれた礼をしたくなりつい思った事を言ってしまう。

「ただの幼なじみではないようだな、鑑訓練兵は……」
「いやあ、その……なんでしょうね」
「……面と向かって本当の事を言われると照れてしまうのが武さんの可愛い所です」
「くっ……」
「そのようだな……それよりも白銀少佐」
「はい?」
「今日の所は白銀少佐がヒーローと言う事で納得しておこう」
「ええっと……」
「その代わりと言ってはなんだが、昨日の話で聞いたF−22Aへ搭乗してみたいのだが宜しいかな?」

一真の表情からそれが本心だと理解した武は、敢えて純夏の話に乗ってくれた事に心の中で感謝しながらOKの返事をしたが、
更に一真からの提案に驚いたのは真耶で笑いながらだったが命令の一言で承伏させられてしまった。
そんな三人の話を聞いていた霞は、もう大丈夫だと判断したのか純夏たちと訓練する為に一足先にPXを後にした。

「一真様、何故問い詰めなかったのですか?」
「白銀少佐の事か……」
「はい、やはり何か隠しているのは明確です」
「ふむ……」

ロッカーで強化服に着替えて第一ハンガーへ歩きながら、真耶は一真にその事について考えを窺っていた。
純夏の言葉がわざとかどうかはともかく、武が何かを語ろうとしていたのは確かで、しかもかなりの機密情報なのは間違い無かった。
なのに一真は純夏の言葉に乗っかるようにして、それ以上聞こうとしなかった事が真耶には理解出来なかった。

「ならば真耶、己の目で確かめるが良い」
「一真様?」
「その為の機会だと思う事だ」
「はっ」

一真の言葉にぎゅっと拳を握ると、真耶は私情を捨て斯衛軍として武の真意を見抜こうと瞳に決意を漲らせていた。
なにしろその一真の提案した事はまたとないチャンスであり、後になってシミュレーターで聞かされた真那の言葉を実践している
事に気づく真耶だった。

「待たせたな」
「いえ、こちらもちょうど準備が整った所です」
「そうか、では……」
「あ、斉御司少佐」
「なにかな?」
「せっかくなのでヴァルキリーズとエンジェルズの模擬戦に参加することにしてみましたが、良いですか?」
「実戦に近い感じでならばこちらは喜んで参加させて貰おう」
「機体の特性が武御雷とかなり異なるので、それだけは忘れないでください」
「了解した」

返事をしてリフトに乗るとF−22Aのコクピットに乗り込んでいく姿を見てから武達も不知火・改の復座型に乗り込むと、
真耶を後席に座らせて機体をハンガーから滑走路まで移動させる。
その間、真耶は一言も話さず武の背中から視線を反らさず静かに見つめ続けていたが、武が頭の後ろを指で適当に撫でながら
話しかける。

「えーっと、そんなに見つめられると照れちゃうんですけど?」
「なっ、馬鹿な事言うなっ」
「月詠……ああ、真那さんの方だけど、初めて会った時に感じた視線と同じだったんで……」
「戯れ言を聞く為に同乗を了承した訳ではない、一真様の命令に従ったまでだ」

やはり真那より堅い話し方に武は笑いそうになるが、さすが従姉妹だよなと納得して主機の出力を上げていく。

「……なら見せて上げますよ、そちらが気絶しない程度にね」
「ふんっ、侮るなよっ」

振り返って後ろを見た武は摩耶に向かって笑うが、その摩耶は憮然とした表情で睨み返すだけだった。
しかし、模擬戦に突入してから真耶の表情を苦悶と驚愕に変えさせた。
レーダーに移る全ての光点は自分たち以外全てが敵なのである、しかも相手はヴァルキリーズとエンジェルズに一真だった。
一応、エンジェルズの葵たちの後方から機体の扱いを覚えながら付いていく一真は、目の前で起こっている戦いにシミュレーション
で見た以上の動きを見せる武の操る不知火・改に目を奪われていた。

「何と言う動きだ、これだけの戦力比に加え一流の衛士たち相手のこの状況でよくもああまで動けるものだ……」

武と戦ってからかなりの腕を上げているヴァルキリーズと教え子とも言えるエンジェルズを相手に、武は的確に避けて淀みなく
反撃する動きを見せて演習場の中を駆け巡る。
だから、同乗している真耶は武の機動操作を見る余裕なんて存在しなくて、激しい動きにひたすらに耐えしがみつき気を失わないだけでも
かなりの精神力を必要としていた。

「ぐぅ……な、なんだこれはっ……っ」
「まだまだあっ、FLASH MODE スタートっ!」
「うぁっ!?」
「これからが本番だぜっ」

どう猛に笑う武が攻勢に転じると、容赦なく襲いかかる挙動に真耶は口元を押さえて込み上げてきた物を吐き出さないように耐える。
新兵でも無い自分がこんな状態になるなんて想像もしてなかった真耶だったが、武はその様子を無視して動き続ける。
見せて上げると宣言した通りに武は全てを出し切るつもりで動かす不知火・改は限界を超え始める。

「ヴァルキリー1より各機へ、全機FLASH MODEで即応しろ、この間の仮を返してやれっ」
『了解っ』

武の動きに呼応してみちるの檄が飛ぶと、ヴァルキリーとエンジェルズは高機動モードをスタートさせ、一気に高速戦闘と呼べる
戦いに突入してこれを見た一真は更に驚きの表情を見せて離れた場所から見つめ続ける。

「これがあれか……凄まじいの一言に尽きるな」

一真の目を持ってしても追っていくのがやっとな戦闘を見ながら、自然と握っているグリップを動かしたくなる衝動に駆られるが、
なんとか押さえ込む。
とにかく動きが止まらない、突撃前衛どころか後方支援や制圧支援も今までの常識を無視して動き続ける。
つまり、武の動きに合わせてフォーメーションをリアルに動かして崩さないように戦況をコントロールしながら戦うのである。
機動概念の違いが戦術さえも変えていき、それを実行しているヴァルキリーズとエンジェルズに一真は感心のため息をもらす。

「だが、それを持ってしても白銀少佐は墜とせない……いや、墜とされないのか」

水月とあきらが接近戦で斬りかかりその間隙を狙って梼子やまりかが射撃をするが、解っているように射線から機体を外して直撃を
避ける武の動きは一真の目から見て異常に思えた。

「何かまだ有ると言うのか……心眼とでも表現すればいいのか」

知覚の限界、つまり零の領域で戦う武の力を見て一真は押さえ込んでいた衝動が暴れるのを歯を食いしばって耐える。
だが圧倒的な強さ、若い頃に稽古をつけて貰った彼の紅蓮大将を彷彿させる強さ、それを目の前にして機会を逃したくない一真は
PXでの会話を忘れてF−22Aの出力を最大まで上げて、その指先はFLASH MODEを作動させる。
初めて乗った機体だから十分な慣熟までほど遠いが、それでも武と戦いたい衝動は武人としての心だったのかもしれないなと、
口元に笑みを浮かべて戦いに参戦していく。

「……っ、斉御司少佐かっ!?」

レーダーに映らない方角から射撃を受けて武は避けながらそちらの方を向くと、不知火・改を超える機動性を見せてラプターの名に
恥じない動きで迫ってきていた。

「白銀少佐、参るぞっ!」
「遠慮はしないぜっ」

一真の操縦センスはかなりのレベルで、初搭乗とは思えない程にラプターを操り、機体の特性を活かして火力で武の動きを封じようと
してくる。
だがそれでも武は動きを止めずに反撃し撃墜されるつもりなんて無いと意志を明確に表している動きは、また一段と早くなる。
一度は見ているから武の挙動を把握したと思っていた一真はまた驚かされて、自分もそれに応えるように持てる力を振り絞る。

「よしっ、このまま白銀を追い込めっ、撃墜した奴はわたしが奢るぞ」
「よっしゃあ〜っ、あたしが貰うわっ!」

一真の参入にこの気を逃すまいと理解したみちるが、今日こそはと叫びそれに応えた水月がぎらりと目を光らせて突撃前衛長の意地
を爆発させて突っ込んでいく。
ここで特筆すべきはヴァルキリーズもエンジェルズも被弾はしているが撃墜された者がいないことだったが、それは後から付いてくる
結果論なのでこの時点ではまだ誰もそこに意識はいってない。
武相手に誰も墜とされていない、これがどれほど凄い事かを知りアラスカに行く前に皆が揺るぎない自信を持つに至る演習になる。
そして決着はFLASH MODEの終了と同時に動きが鈍った隙をついて水月が初めて武を撃墜できたが、ハンガーに戻ってから
自慢しようとしていた水月は不知火・改から降りてくる武を見て悔しそうに顔を歪める。
その理由は武の腕に抱かれて降りてきた真耶の姿であり、おそらくFLASH MODEの動きに耐えられず気を失った真耶を
気づかって機体の動きを鈍らせたと解ったからである。

「あーもうっ、やっと墜とせたと思ったのに〜っ!!」
「水月、そんな地団駄踏まなくても……」
「悔しいったら悔しいのよ、こんなの認めないわっ」
「まあまあ速瀬中尉、棚からぼた餅って事で良いじゃないですか」
「こんなの嬉しくないわよっ」
「さすがは中尉、先に行かれたからって満足してないんですね、体が……」
「む〜な〜か〜た〜っ……アンタ今日こそは決着付けて上げるわっ」

遙や梼子に慰められて美冴にからかわれるいつもの騒ぎを見ながら抱き上げている真耶を医療班が用意したストレッチャーに乗せて
それを見送ると、葵達エンジェルズが武の側まで来る。

「最後に戦えて良かったです、まぐれかもしれませんが白銀少佐の撃破も出来ましたし」
「偶然だろうと結果は変わらないよ、それよりみんなが自分の力に自信を持ってくれた方がこっちも嬉しいです」
「ええ、もちろんです」
「白銀少佐」

そこにラプターから降りてきた一真が声を掛けると、真耶の代わりに手にしていたドリンクを手渡す。

「お疲れ様でした」
「ああ、良い経験をさせて貰った」
「そうそう、帰る前に今のデータも用意させるので持っていってください」
「良いのか?」
「オレたち仲間じゃないですか、一真さん」
「……そうか、そうだな。ありがとう、武」

笑いながら最後に名前で呼び合う事で武は信頼をしていると言い、それに応えた一真もまた得がたい友と出会えた事に感謝していた。
武自身に何か複雑な事情が有るのは理解したがそれは決して自分たちを不幸にする事はないと、戦いの中でそう感じた一真は悠陽と
同じく信頼していこうと決めていた。
すでに未来は大きく変化し始め、それはこれから起きる良い事も悪い事も変わっていくと言う事だった。






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