「あーもー、速瀬中尉の相手は勘弁して欲しいぜ」
「……アラスカ行ったら暫く出来ないのでその分がんばっているんだと思います」
「まあな、一応無駄にもなってないから良いんだけどさー」
「……データで見ても解ります、かなり武さんに迫っていますね」
「実際やり合っているから解るさ、うかうかしてられねーな」
「そんなことはどうでもいいのよ、白銀っ」
「うわっ、なんすか夕呼先生?」
「あんたね〜、恋人でも無い女の子の相手はするくせに、あたしたちを無視とは良い度胸してるじゃない」
「意味が違うでしょっ」
「それともなに? 人の女に手を出すのがアンタの趣味なの?」
「訳分かんないっすよ」
「速瀬なんでどーでもいいから、あたしたちを満足させなさいよっ」
「……えっと、俺と夕呼先生って恋人同士でしたっけ?」
「あ、あ、あんたねぇ〜」
「だめよ白銀」
「まりもちゃん?」
「ああ見えても夕呼って案外古風なんだから」
「どこが古風ですか?」
「可愛いじゃない、初めての本気でキスをした人と添い遂げるんだって乙女らしいでしょう」
「ま、まりもっ、いきなり現れて変な事言わないでよっ」
「……確かに可愛いですね、照れまくっています」
「霞まで止めて頂戴」
「だからしっかりと責任取って上げなさい、どっちにしろ逃げ場無いんだし」
「いつの間にか俺が悪者っぽいんだけど、なぜだ?」
「……甲斐性を見せない武さんの所為です」
「ぬあっ!?」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 68 −2000.9 千客万来−




2000年 9月16日 6:05 国連横浜基地 武自室

この日、目覚めた純夏は隣で寝ていた二人の姿を目にして一瞬固まった後、ぶるぶると体を震わし握り拳を眼前に掲げて
怒りを抑えようとしていたが、それも限界間近だった。

「な、ななななっ……」
「ぐー」
「……すー」
「な、なんて格好してるんだよタケルちゃんーーーーーーーっ!!」
「ぐはあっ!?」

いきなり振り下ろされた純夏の拳は実に良い一撃で、本来なら宇宙にまで飛ばされるのだが、上から来た為にベッドにそのまま
めり込んでしまった。
もっとも、武のある一部分だけは元気を主張しているけど、検閲の為に細かい描写はカットします。
それで何で純夏が朝から怒っているのか……それは武と霞の格好にあった。
二人とも裸でしかも抱き合ったまま寝ているので、何か在ったと勘違いするには十分すぎる理由である。
で、鼻息荒く怒り収まらない純夏の前で寝ていた霞が目を覚ました。

「……あ、おはようございます、純夏さん」
「おはようじゃないよ霞ちゃんっ、なんで裸なのさーっ!?」
「……え? あ……そう言えばお風呂から出たらもう眠くてそのまま寝ちゃいました」
「タ、タケルちゃんも?」
「……はい、一緒に入っていましたから」
「そ、そう……でも、寝間着ぐらい着ようよ」
「……はい、それで武さんの悲鳴が聞こえた……あっ」
「み、見ちゃダメ霞ちゃんっ」
「……お風呂でいつも見てますけど?」
「うえええぇぇぇーっ!?」

当たり前のように言う霞の言葉に真っ赤になって狼狽える純夏の前で、ベッドにめり込んでも一部元気なままの武を起こして
上げる様子はもう大人の関係としか思えないと、自分がかなり出遅れていると感じている純夏だった。
それから三人は着替えてPXまで朝食を食べに来ると、先に来ていた一真と真耶に挨拶をする。

「おはようございます斉御司少佐、月詠中尉、よく眠れましたか?」
「おはよう白銀少佐、昨日はいろいろ在ったが充分休めたよ」
「……環境が変わろうとも体を休めるのは軍人の努めだ」

一真はともかく真耶の方はまだ昨日の事を引きずっているようなので、武に対する態度は硬いが初めて会った時の様な
険悪さ見たいのものは無くなっていた。
それよりも武の袖を引いている純夏が気になって、そっちを向くと小声で話しかける。

「なんだ純夏?」
「えっと、この人達誰?」
「ああ、そっか……昨日からこの基地に滞在している斯衛軍の斉御司少佐と月詠中尉だ」
「月詠?」
「月詠さんの従姉妹だそうだ」
「ふーん」
「白銀少佐、そちらの女性は?」
「ここ横浜基地衛士訓練学校の第207衛士訓練部隊所属の訓練兵で鑑純夏って言います」
「は、初めまして鑑純夏ですっ」
「こちらこそよろしく」

爽やかな微笑みで挨拶をする一真に純夏はほけーと見とれるけど、すぐに我に返ると隣にいる武に向かって思って事を
口にした。

「ねーねー、タケルちゃんより少佐っぽいよ」
「大きなお世話だっ、いいからさっさと食わないと遅刻するぞ」
「なにさ、タケルちゃんもそう思ってるくせに〜」
「くっ……」

そんなやり取りを目の前で見ていた一真は、二人の関係がただの友人ではないと率直に感じてふと聞いてみる。

「二人の関係を聞いてもいいかな?」
「ああ、俺たち幼なじみなんですよ」
「ほう……」
「わたしとタケルちゃんはお隣同士で、毎朝起こして上げていたんですよー」
「余計な事言うなっ」
「なんだよ、いつも寝坊してたくせに〜」
「仲が良いのだな、どの辺りに住んでいたのかな?」
「ああ、ここから少し行った所ですよ。今は崩れかけた俺の家しか残ってませんけどね」

その言葉に一真は己の失言を悔いてすぐに詫びながら頭を下げる。
なぜならばこの横浜周辺で何か在ったのかを、日本で知らない者は居ない。

「……すまない、不躾だったな」
「ああ、気にしないでください。今はこうしていられるからもう平気なんですよ」
「うん、わたしもタケルちゃんと一緒だから幸せだよ」
「おい純夏っ、恥ずかしい事言うなよっ」
「あー、タケルちゃんてば照れてる〜」
「うっせ」
「強いな君たちは……」

目の前で話している武たちに一真は感じていた……この強さはどこから産まれてくるのだろうと。
BETAによる日本侵攻で国民のほとんどは悲観的な思いを持っている方が当たり前なこの時代に、武と純夏の笑顔からは
そう言った物が微塵も感じられず明るさに満ちていた。
ここで一真はどこかでこれと同じ物を見たなと記憶を探ると、九州から戻ってきた時に会った悠陽の顔を思い出した。

「そうか、殿下は……」
「一真様?」
「なんでもない、真耶」
「はっ」

悠陽の変化の理由が武と出会った事なんだと理解して思わず呟いた言葉に真耶が反応したが小さな声で制した。
それから武と純夏のじゃれ合いに霞が混じって楽しい会話をする朝食は思いの外楽しく、一真は斯衛軍の立場を忘れて一緒に
笑い出して真耶が止めるが無駄に終わった。
食後、お茶を飲んでこれからの事を話していると、葵達エンジェルズが朝食を食べに来て武達に気が付いて、近くまで来ると
斯衛軍の一真と真耶に敬礼をする。

「敬礼は良い、我らは私用で来ているので気にしなくて良い」
「はっ」
「そなたらが帝国軍で初のXM3実戦部隊になると聞いているが……」
「はい、XM3に関してはそちらの白銀少佐にお墨付きを頂いたので、まもなく帝国軍に戻ります」
「そうか、そなたらの活躍を期待している」
「はい」
「そうだ、まだ名を窺っていなかったな、私は斯衛の斉御司一真少佐だ」
「第133独立部隊の隊長を努める水代葵少佐です」
「朝食の邪魔をして済まなかったな」
「いえ、それでは失礼します」

葵達はは敬礼はせずに頭だけを軽く下げると、そのまま空いている席に腰を下ろすとそれぞれに食べ始める。
その葵を目で追っていた一真に武は軽い感じで話しかける。

「水代少佐たちが気になりますか?」
「いや、殿下といい真那といいそして今の水代少佐や部下達と何故か表情が活き活きしていると言うか、瞳に力が溢れている
気がしてならないのだ」
「それはたぶん、戦う目的がはっきりしたんじゃないかなぁ……」
「戦う目的?」
「目標と言っても良いかな、えっと月詠中尉……俺たちはBETAに勝てると思っていますか?」
「なに……」

武は敢えて真耶に話を振ってその答えに期待する感じで挑発の意味を込めてにやりと笑うが、一真はその問い掛けに深い意味を
感じ取る。

「60億人いると言われた人類はここ数年でもう10億人ぐらいしかいません。日々占領範囲を拡大してくる圧倒的な戦力差を
持って力押しで来るBETAに本当に勝てると思いますか?」
「勝たねばならぬ、それだけだ」
「なるほど……その意気込みは買いますが結論から言えば無理です、あと10年で人類は滅ぶでしょう」
「貴様っ」
「でもっ、俺が考えた機動概念と霞が作り上げたXM3で、人類はあと30年持ちこたえられるでしょう」
「…………」
「でも、これだけじゃあまだ勝てません、だってそうでしょう……これだけ危機に瀕しているのに人類は一つに纏まらない」
「何が言いたい」
「仮にですよ、国連太平洋方面第11軍が独自に日本と手を組みたいと言ってきたらどうしますか?」
「愚問だな、そもそも国連軍は米国の思惑で動いているから手など組めるか」
「だからダメなんですよ」
「なんだとっ」

ばっさり真耶の言葉を斬ると、武は笑顔を消して真面目な顔で真耶を睨み付ける。

「そんな子供みたいな事を言ってるから、人類はBETAに滅ぼされるんですよ。まだ解らないんですか? 敵は米国じゃなくて
BETAなんですよ? それをまず排除しなければどうにもならないでしょう」
「だからと言って日本にした仕打ちや世界の覇権を手にしようとしている事を見逃せと言うのかっ!」
「そんな気は米国に更々無いですよ、BETAに滅ぼされる地球の覇権なんて意味無いでしょう。だから奴らは俺たちの計画を
邪魔するんですけどね……」
「待て白銀少佐、それはこの様な場所で口にしても良いのか?」
「悠陽は全部知っていますよ」
「なっ……」

武が口にしている事は国連軍と日本主体で行われている極秘計画に触れる話だったので、一真は口を挟まずにいられなかったが
悠陽がそれを知っている事実に驚きを隠せなかった。
霞は元より純夏もそれは良く知っているから話に割り込まないので、二人の様子を見つめながら武は話を続ける。

「米国の中では地球はもうダメだと解っているので俺たちが行っている計画の後に予定されている作戦を早めたくて、いろいろ
ちょっかいを出しているんです。それは現存しているG弾集中投入によるハイヴ殲滅作戦と他星系移住作戦、通称戦略名『バビロ
ン作戦』っていうんですけどね」
「そんな馬鹿なっ……」
「しかも、脱出できるのはたった十万人、残った人たちは抵抗空しくBETAに滅ぼされて死ぬだけです」
「…………」
「今も宇宙では必死に移民船を作っているけど、それも無駄なんだよなぁ……」


その呟きに一真は表情を厳しくする、そして武に問いかける。

「白銀少佐、何故そう断言出来る?」
「斉御司少佐……移民出来る都合の良い惑星が有ると思いますか? その星にはBETAがいないと言えますか? もっと言えば
この宇宙にBETAがどれだけいるか知っていますか?」
「白銀少佐、何を知っているんだ……」

この時一真は自分が聞いた事のない極秘情報を聞いているんじゃないかと肌で感じて鳥肌が立つのを感じた。
ずっと表情を変えないで話す武の雰囲気は冗談を言ってるように見えなくて、一真は背中に流れる冷や汗を止められない。
同様に真耶も武の言葉に得体の知れない恐怖感みたいなものを感じて、体が硬直している自分に気が付く。
さっきまで軽口を言っていた空気はどこにもなく、その横にいる霞と純夏も同じ表情をしていることから、これは自分や真耶が
知って良い情報ではないと判断出来た。

「白銀武……そなたは何者なんだ?」

一真の問い掛けに武は苦笑いで返事をしなかったが、代わりに純夏が笑顔になって応える。

「タケルちゃんはね、悪い奴をやっつけるヒーローなんだよっ」

純夏の脳天気と思える言葉で呆気にとられる一真と真耶を見て、霞はそれを肯定するように微笑みを浮かべていた。






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