「いやー、面白くなってきたわねー」
「月詠さんが不憫だ……」
「い、いいのです武様、気になさらずに……」
「そうよねー、何と言っても白銀を取り合ってって訳じゃないし」
「ねータケルちゃん、何の話しているの?」
「純夏か、実は今来ているお客さんの事で話してたんだけどさ……」
「お客さん?」
「……はい、武さん、月詠さんそれぞれのライバルです」
「はぁー、タケルちゃん、どこで女の子引っかけてきたの?」
「言うに事欠いてそれかっ、俺はそんな事してないってーの」
「ふーん、へー」
「てめぇ、信じてないな」
「だってタケルちゃんだもん、この間だって仕事とか言って斯衛軍の女の子と会ってたし、帰りは月詠さんと
デートしてたくせによく言うよ」
「ぬあっ」
「……純夏さん、今回は違います」
「えっ、そうなの?」
「……はい、武さんの相手は男の人ですから」
「へっ? ま、まさかタケルちゃん、そっちの趣味までっ……」
「あほかーっ!」
「あいたーっ!」
「気色悪い事言うな考えるなーっ!」
「ううっ、この間と言ってた事が違う〜」
「なんのことだよ」
「そ、それはほらっ、今度から叩かずにって……」
「しらん、忘れた」
「えーっ、そんなのずるいよ〜」
マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction
God knows... Episode 66 −2000.9 月と月−
2000年 9月15日 15:05 国連横浜基地 PX
初めて会ったと言うのに、武と一真は意外にも意気投合っぽい感じで話をしていた。
特に一真は武が自分の身分なんてまるっきり気にしていない態度や話し方に自然と好感を持つ事が出来て、
僅かな時間で古い友人よりも気さくに話せるようになっていた。
「なるほど、苦労しているのだな」
「解ってくれますか、いやー、ホント毎日必死ですよ」
「しかしそこまで女性に好まれるのは吝かではあるまい」
「普通に町中でとかならまだしも、我の強い女の子の集団が鬼気迫る表情で追い掛けてくるんですよ?」
「ふむ、言われて想像してみれば確かにな……」
「でもまあ、その反動と言うかまるっきり違った面を見せられると対応に困ると言うかその……ねえ、月詠さん?」
そこで背後に立ってプレッシャーを掛けていた真那へ武は顔を上げて見つめると、にまっと笑う。
つい狼狽えてしまってそれを知られまいと口調が堅い物になってしまう。
「なっ、そこで何故私に振るんだっ」
「あれ月詠さん、喋り方が変ですよ?」
「貴様、わざとだな……」
「やだなー、そんなことないですよ、真那ちゃん」
「あうっ!」
「ほう、確かにこれはそなたの言うとおりだな」
「一真様までお止めくださいっ」
「あー、ごめん、月詠さん」
「ふんっ」
武の言う通りプチツンデレな真那の姿に一真は感嘆の声を上げてしまうが、女性らしい一面を見せるようになった方も
驚いていた。
恋は人を変えてしまうと言う言葉を目の当たりにした一真は、これも武の持つ魅力の一つなんだとはっきり認識出来た。
しかし、そんな和気藹々の様子に我慢が出来ないとばかりに真耶は真那に向かって声を上げる。
「ふん、最早斯衛の誇りも忘れたか、真那」
「何を言っている、真耶?」
「その様な腑抜けた表情で恥ずかしくないのか?」
「私は私だ、見た目がどうであろうとも本質は変わっていないぞ」
「良くも言えたな……」
「言えるだけの事はしているからな」
「…………」
敵意と言っても良いぐらいの感情を表に出して睨む真耶に対して、真那は飄々とした自然体で返したのは、そのいらつきを
逆撫でしたに過ぎなかった。
そんな今にも殴りかかりそうな雰囲気に京塚のおばちゃん特製、本物のおはぎを食べ終わった夕呼がお茶を飲んでから人事の
様に口を開く。
「言葉でらちが明かないのなら、実力行使してみればいいんじゃないのかしら〜」
「また夕呼先生は適当に言うんだから……」
「だってー、このままじゃ取っ組み合いの喧嘩しそうじゃない。それは周りに迷惑なだけだし対面も良くないでしょ?」
「それはそうですけど」
「ふむ、その意見は一理有るな……どうだ真耶、久しぶりに真那と仕合ってみるのも良かろう」
「一真様っ!?」
「私は構いません」
「真那っ」
「はい決まり、それじゃ今日はもう遅いので勝負は明日って事にしますので、部屋を用意させるのでお泊まりになってください」
「うむ、一晩だが世話になる」
「くっ」
「楽しみにしているぞ、真耶」
翌日まで泊まる事になりその間は基地の中を自由に見学しても良いと言って夕呼は自分は執務室に戻ってしまい、その場に
残された武たちは結果として一真と真耶の案内を引き受ける事になった。
そして一真が見たいという場所に連れて行く間、二人の月詠の間には見えない火花が散っていたと後で霞が武に語っていた。
「ここが第一格納庫です、主に俺たちヴァルキリーズがメインに使っています」
「ほう、人の動きも統率が取れているな」
歩きながら説明しているとすれ違う整備兵が敬礼をしようとするが、武がそのまま作業を続けてくれと手で合図すると、一々敬礼
する人がいなくなる。
武としてはわざわざ一真に気を使わせないようにしたのだが、真耶にとっては武の行動が自分の上司を蔑ろにされたとしか思え
なくて口を出さずにいられなかった。
「白銀少佐、何故止めさせた?」
「整備兵のみんなにとって、仕事と敬礼のどっちが大切かって言わなくても解るでしょう」
「なんだと」
「俺たちに彼らの仕事を邪魔する権利はないよ、それぐらい察して欲しいなぁ〜」
「くっ」
「真耶、我らは見学者なのだから白銀少佐の言葉は正しいのだ」
「はっ」
さすがに一真に言われては真耶もこれ以上は言えず黙り込むが、その視線はきついままで歩き出した武の背中を睨んでいた。
そんな従姉妹の様子を真那は内心苦笑いが止められず、かつて自分も武と初対面の時を思い出してしまった。
「ふっ……」
「何か言ったか、真那?」
「いや、何も……」
「ふんっ」
それからハンガーの中で話でしか聞いていなかった不知火・改や強化装備を見て、いろいろと質問してきた一真に武の足りない
言葉を霞がフォローして歩いていたが、一番奥に格納されている機体の前で足が止まる。
「これがあれか、白銀少佐の為に用意された武御雷か……」
「夕呼先生が無茶言って作らせたらしいけど、正直助かってますよ」
「そうか……」
「……正式名称は武御雷・零になります。背中の大型フライトユニットは従来の匍匐飛行と違い高機動を可能とする高い飛行能力
を持っています」
「空が飛べるからと言って意味はないだろう、光線級の的になるだけだ」
「真耶っ」
真耶の物言いを諫める様に一真が名を呼ぶが、続けて話す霞の声は気にもしていないようである。
「……ですが、武さんが操縦するのなら意味は有ります」
「何?」
「……この機体と武さんの操縦技術ならば、レーザーなんて掠りもしません」
「馬鹿な事を、そんな事可能な訳が……」
「……ちなみにこの機体に月詠さんが搭乗すれば、同じ事が出来ます」
「ほう、そこまで腕を上げているのか、うかうかしておれんな」
「そうですねぇ、この機体に乗っている俺を倒せるとしたら月詠さんだけだしなぁ……」
「あ、あの、二人ともお止めください」
「……事実ですから」
「霞、それぐらいで勘弁して欲しい」
真耶の突っ込みにあっさり切り返した上、それとなく今の真那の実力を教える霞は、嘘ではないと笑顔で見つめ返す。
その迷いのない瞳を見て、まさかとは思いつつ隣にいる真那の様子を伺うがそれが真実かどうかの判断は出来かねた。
次に一真の目に留まったのは隣にあったF−22Aで、米国の最新鋭機は武の機体と同じカラーで塗られていたのに気づいて、
武に話しかけていた。
「これもそなたの機体になるのか?」
「武御雷が出来上がるまで乗ってましたが、個人的には設計思想がちょっと好きになれないと言うか……」
「どういう事かな?」
「もちろん兵器として見るなら良く出来た機体ですよ。でも米国らしくBETAとの格闘戦なんて論外らしく、圧倒的な火力で
制圧する意味が強いのは仕方ないですが、根本的に対BETA用だけって訳じゃないのが嫌なんですよ」
「そう言う意味か、言わんとする事は解るな」
「でも、乗って見て解る事も有ったし、無駄にはなりませんでしたよ。後は相性が良い奴がいたら乗せても良いと思ってます」
「皆、格闘が得意とは限らないからそれも良い案だな」
「そうだ。良ければ乗ってみますか、これ?」
「良いのか?」
だが、一真の言葉を聞いた真耶は無礼と承知しながら前に出ると武と今まで以上にきつく睨む。
「お止めください一真様っ、米国の機体に乗るなど……」
「……小さいな、真耶」
「何っ!」
「そんな風に思っている限り、私には勝てはしないぞ」
「真那、貴様っ……」
「嫌いだから知る必要は無い等と、そんなのは己の甘えに過ぎない。図らずもこうして知る機会を得たのに邪魔するのは、
ただの愚かな行為だと何故気づかない?」
「私が愚か者だと言うのかっ!」
「そうだ」
きっぱり言い切る真那の顔は真面目だが切羽詰まった様子を見せる真耶とは違い、余裕みたいな物を武はもちろん一真でも
理解していた。
真耶がぎりっと奥歯を噛み締める音を聞いた真那は、更に言い放つ。
「明日まで待つ必要は無いな、実機を使わずともシミュレーターで十分であろう」
「おのれっ、そこまで愚弄する気かっ!」
「一真様、強化服かデータはお持ちですね?」
「無論だ、いくら私的理由でこちらに来たとは言え、不測の事態に戦えずでは斯衛の名に傷が付く。最低限、戦術機に乗る事が
出来るように備えはしている」
「一真様っ」
「真耶、シミュレータールームで待っているぞ。霞、すまぬが準備が終わった真耶を案内してくれるか?」
「……解りました」
「何を勝手な事を……」
「逃げるならそれでも良いぞ」
「逃げる物かっ! 待っていろっ」
そう言ってハンガーから駆け去っていく真耶の後ろ姿に見ながら、真那は小さく呟く。
「なるほど、確かに御しやすいな……まったく、香月副司令の言う通りかつての私か……」
以前夕呼に自分をからかっていた時の話を聞かされた時と同じ事を真耶にしてみたら、あっさり思うとおりに事が運んで
しまいつい顔が緩みそうになり無理矢理引き締めていると、多少呆れ気味に武が話しかけてきた。
「月詠さん」
「すみません武様、勝手な事をして……」
「それは良いけどさ、ホントにやるの?」
「もちろんです、出なければあの者は早死にしますので、それは私も望みません」
「解った、じゃあ先にシミュレータールームに行って準備しておくよ」
「ありがとうございます」
「いいって、じゃあ」
真耶の時とは違って熱の籠もった瞳で武の後ろ姿を見送る真那の横に、どことなく照れた様子の一真が立つとぼそりと呟く。
「なるほど、殿下と同じ瞳をしているな」
「一真様?」
「恋とはそこまで人を強くするとは知らなかった私はまだまだ未熟だな」
「え、あ、あの、一真様っ!?」
「そうであろう、社少尉?」
「……はい、恋する乙女は強くなれるんです」
「か、霞っ!?」
「これだけでもここに来た甲斐は有ったな、まったくなんと楽しい場所だ」
本当に心の底から楽しいのか、人目も憚らず笑う一真に月詠は戸惑い周りにいた整備兵たちも何があったんだと様子を窺って
いたが、笑い声は大きくなりハンガーに響いていた。
この様子に霞は武以外の男性、正樹や孝之と同じように一真に対して好感触を感じていた。
「いい所に来たわねー、し・ろ・が・ね」
「うげぇーっ、しまったーっ」
「ふっふっふっ、飛んで火に入る夏の虫ねぇ……さあ、午前中の決着を付けましょうか〜」
「俺の相手なんてどうでもいいですから、孝之さんといちゃついてくださいよ」
「そ、それはその、あれよっ。後でも良いわ」
「涼宮中尉〜、なんとかしてくださいよ〜」
「嫌です」
「ええーっ!?」
「白銀くんの所為で孝之くんを独占されちゃう事になったから嫌です」
「あが〜」
一足先にシミュレータールームに現れた武を待っていたのはいつも通り訓練をしているヴァルキリーズの面々で、しかも午前中の
結果にイマイチ納得しきれていない上に何故か闘志が満ち溢れている水月だった。
結果、逃げる事に失敗した為に真那対真耶の他に武対水月の同時対決が追加される事になった。
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