「フラッシュバックして取り乱すなんて、本当にこっちの白銀なのね……」
「すいません、まさかあんなに感情が高ぶるなんて自分でも思っていませんでした」
「ま、アンタにとっては『初めて』の事だから、まだまだ深い部分では甘ちゃんなガキかもしれないわ」
「否定ししませんよ、でもオレだって白銀武ですからこれぐらいで負けていられません」
「……ふん、その目はあの時別れる間際と同じ光をしているから信用してあげるわ」
「ありがとうございます」
「……武さん、わたしも応援しています」
「ありがとう、しかし霞には世話になってばかりだなぁ……」
「……いいんです、武さんの力になりたいんです」
「タ、タケルちゃんっ」
「純夏?」
「わたしもいるからねっ、ずっとずっと側にいるからね」
「ああ、そうだな」
「武様、私も微力ながらお力添えを……」
「月詠さん……」
「白銀、もちろんわたしもよ」
「まりもちゃん……」
「わたくしもこれまで以上にお力になりますわ」
「悠陽……みんなありがとう」
「ん、どうしたの、霞?」
「……みんな笑っています、それが嬉しくて」
「霞の見たかった光景だったわね」
「……はい」
「それじゃもっと笑顔を増やして幸せを大きくしないとね」
「……はいっ」
「って夕呼先生っ、そこでさりげなくハーレムを助長するようなこと言うなっ!」
「ちっ」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 63 −2000.9 コンビネーション−




2000年 9月13日 11:15 横浜基地 訓練校グラウンド

屋上で霞と話していた時に見つかった武は、先日の約束を思い出して純夏の所までやってきた。
もちろんそこには第207衛士訓練部隊の面々も揃っており、出迎えたまりもに一言二言話すと格闘訓練の相手を買って出た。
普段は武芸に秀でた月詠を相手に戦っているので、実際の所強くなっているのか月詠の強さがあだになって自分でも良く解って
無い武はここで試してみようと二人同時を相手にすると提案した。

「よし、それじゃ純夏と冥夜を相手にするか」
「タケルちゃん、泣いたって知らないよっ」
「タケル、その余裕の顔を変えてみせよう」
「オレの顔色はともかく、お前らはヴァルキリーズでは二機連携を組む事になっているからそれを頭に置いて掛かって来いよ」
「もちろんっ」
「承知」

言うや否や純夏と冥夜は武に対して同時に左右からの挟撃を仕掛けていく。
純夏が素手に対して冥夜は模擬刀を構えて武に斬りかかっていった。

「甘いっ」
「それはタケルちゃんだよっ!」
「ちぃ」
「まだまだっ」
「うおっ、そこで突いてくるのかっ」

冥夜の一振りで姿勢を崩してその隙に懐に飛び込んだ純夏の拳を叩き込むが、難なく避けて口を開き掛けた時に武の目の前には
終わりじゃないとばかりに模擬刀の切っ先が迫っていて無様にも転がって服が土まみれになる。
それを見てへへんと笑う純夏が挑発してくる。

「なんだ、タケルちゃんって弱いんだ〜」
「へん、言ってくれるじゃねーか」
「こうして見下ろすわたしと冥夜が勝者、地面に這い蹲って見上げるタケルちゃんが敗者だよ」
「んなろっ、泣かしてやるぜ」
「タケル、その言い方は大人げないように聞こえるぞ」
「ぐあっ」
「ばーかばーかっ」
「くっ」
「では、参るっ」

立ち上がった直後の武に冥夜の言葉を合図に、同じ様に純夏が拳を繰り出してくるがそれを両手で裁いていると、急に体を沈めた
純夏の背中を踏み台にして上段に模擬刀を振りかぶった冥夜が武に迫る。
だがそれも大きなアクションだったので、余裕を見せて避けようとしたら純夏がスライディングして武のその足を挟んで動きを
封じてしまう。

「なにっ!?」
「いけーっ、冥夜ーっ!」
「はぁーっ!」
「冗談じゃねーっ」
「あ、あわわっ!?」

純夏の足の力が思ったより強く振り解く間に冥夜の一撃を食らうと判断した武は、そのまま体を前に倒して純夏に覆い被さると
一緒になって地面を転がって冥夜の間合いから抜け出した。
しかし、そこで別の問題が発生してしまう事は武にも純夏にも予想なんて出来る訳ながない。

「あ……」
「う……」

抱き合っている状態で転がって止まった時には純夏が体の下になっていて、見つめ合う二人は言葉を失ってしまう。
しかも、顔が近かった所為でキスした事を思い出したのか、お互いの頬は赤くなっていた。

「タ、タケルちゃん……」
「純夏……」

そこで何故か純夏が目を閉じてしまって、キスを待っている様子に武の鼓動は若干早くなってくる。
やがて二人の唇がゆっくりと近づいていくが、あと一センチという所で武は大きな衝撃を後頭部に受けて加速した結果、がちんと
歯と歯がぶつかって純夏と武は口元を押さえてのたうち回った。

「むぅううぅぅうぅう〜っ!?」
「〜っ、な、なんだっ!?」
「それはこちら聞きたい事だ」

視界にあった軍靴の元主が異様に低く冷めた言葉で答えるので、なんだと思って武が見上げるとそこには怒りな目で見下ろす冥夜と
目が合った。

「め、冥夜?」
「そなたら、今何をしようとしていた?」
「なにって……あっ」
「ううっ、ひどいよ冥夜〜、後もうちょっとだったのに、ムードぶちこわしだよっ」
「空気読めよ、純夏っ」
「へっ?」

ぶるぶると怒りに震えている体に合わせて模擬刀をゆっくりと構えていく冥夜に事態の深刻さを悟った純夏だがもう遅かった。
その冥夜を応援するように訓練兵たちから次々と声が掛かる。

「じゅ、授業中なのに不謹慎だわっ」
「……ホントはして欲しい癖に」
「タケルと純夏さんがちゅーしたっ」
「ちゅーした、がっちんてちゅーしたっ」
「あははっ、上手い手で白銀の唇を奪うね〜」
「そう言う問題じゃないでしょ、晴子っ」
「鑑さん、だいたーん」
「……御剣、止めを刺しなさい」
「はっ!」
「まりもちゃんが一番酷いってぎゃあああぁぁぁーっ!」
「いたっ、痛いよ冥夜っ、な、なんでわたしまでぇ〜」
「問答無用っ!」

冥夜の縦横無尽に振るわれた模擬刀に武と純夏はしこたましばかれて、あまりの激しさに見ている方もテンションが下がるぐらい凄惨な
物だった。
それを見ていた霞はハンカチで涙を拭いながら無言でいたが、よく見たら肩は震えていて覆ったハンカチの影から見えている
口元は笑っていた。
遠慮がない冥夜の模擬刀は気の済むまで振るわれて、巻き添えを食った純夏の上で武が気絶してしまい、それでまた大騒ぎに
なっていたからである。

「いててて〜、まったく容赦ねえなぁ……」
「……自業自得です」
「霞、最近なんか言葉が冷たいような気がするんだけど?」
「……香月博士、まりもさん、純夏さん、次は誰ですか?」
「うぐぅ」
「……いつになったら武さんはわたしとしてくれるのでしょう?」
「それはそのなんだ……うん、お腹空いたな」
「……ふっ」
「な、なんだそのすっげー気になる笑いは?」
「……何でもありません」
「か、霞ーっ」

あの後、武相手の格闘訓練は散々で、柏木とか彩峰とか美琴などは積極的に抱きついていったりしたのだが、
茜や委員長は必死の形相を浮かべて逃げ回って格闘訓練なんて名ばかりで全く授業にならなかった。
また、それを見ていたまりもがお手本だと言って武に対して本気で仕掛けていくから、もう何がなんだか解らなかったが『マッド・
ドッグ』の恐怖を実感出来たのが武にとって貴重な経験となった。
それから昼食の時間になったので霞を伴って先に逃げてきたのだが、こちらもまたご機嫌が宜しくないのである。
見た目は小さいとは言え、立派なレディの霞に対してデリカシーの欠片も見せないので、霞の胸の奥にある気持ちは全然伝わって
いなかった。

「……アラスカ、楽しみですね」
「解った、霞が望むだけやるからなにとぞお許しを〜」
「……おはようのキス、いってらっしゃいのキス、ただいまのキス、おやすみなさいのキス、まずはこんなところでしょうか?」
「サーイエッサーっ!」
「……気持ちを込めてちゃんとしてくれる事を期待しています」
「はうあうあ〜」

にっこりと微笑む霞に項垂れる武だったが、一緒に風呂に入って寝起きを共にしているのに何を今更と思わない方が変だった。
逆にそれは武にとって家族である証拠だと霞も後から気づいて、特殊な力を発揮させる為に作り出された自分が独りじゃないと否定してくれる
武の無意識に現れている優しさに感謝もしていた。
だから霞は人として当然の感情を出して、大好きな人の側で生きている実感を楽しんでいた。
その後、PXで京塚のおばちゃんから妙に誉められて超大盛りの鯖味噌定食を腹一杯食べて、純夏とした約束通り再び午後の訓練に
付き合う武だった。

「さあ、タケルちゃん、覚悟はいいね?」
「くっ……オレの負けだ、好きにしろっ」
「ふっふっふっ、じゃあわたしが一番ね」
「卑怯な手を使いやがって……」
「敗者は大人しく勝者に従うしかないんだよ」

午前中と同じく行われた格闘訓練は、最終的には小隊単位で武の相手をする事になったのだが、まりもと純夏の策略にあっさりはまった
為に完全敗北してしまい、膝を突きがっくりと項垂れる武の前で高らかに勝利宣言する純夏は笑いが止まらない。
そもそも軍人である武が訓練兵である純夏たちに負ける理由は無かったのだが、幼なじみな純夏と事情を知っているまりもが結託して
武の動揺を誘いながら追い詰めていく事に成功した結果だった。
そして何かを手にした霞が歩いてくるの見つけた純夏が元気な声で話しかける。

「霞ちゃん、用意出来た〜」
「……はい、純夏さん」
「な、なんだよそれ?」
「……『白銀武一日自由券』です」
「ぐはっ、そ、それはっ!?」
「……お一人様一枚配布するので受け取ってください」
「何でそんな物を……ってまりもちゃんまで受け取らないでくださいよ」
「あら? 鑑達を指揮して白銀に勝ったのがわたしなら、当然受け取る権利はあると思うんだけど?」
「ぬあっ……」

華麗にウィンクを決めてその券をひらひらさせるまりもに武は反論出来なくて、純夏のあっかんべーを横目にため息を付くしかできない。
この在りし日の記憶にあるクリスマス・パーティーにおいて武が用意したプレゼントな手作り券をアレンジして用意したらしいが、
すでに武が負けると見越していた霞の凄い所にみんなは感心していた。
まあ、貰った彼女たちの表情は迷惑な感じは無くて、赤い顔で武に視線を送る所から好感触だったのは言うまでもない。

「……ちなみに、明日も用意するので皆さんがんばってください」
「おいおーいっ!?」
「……十枚集めると特典として武さんと一緒にお風呂か添い寝が出来ます」
「か、霞ーっ!!」

この言葉を聞いた207隊はともかく、なにやらぶつぶつ言い出したまりもに武はただ恐怖するしかできなかった。
そして翌日、何故かそこに赤い顔した月詠とピアティフまで現れた事に武はもう勝ち目なんて無いじゃんと笑うしかなかった。
日一日とハーレムが現実味を帯びてきた事実から必死に逃げようと藻掻く武を側で見ている霞は、また一歩前進したと笑顔で肯いていた。






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