「さあまりも〜、悠陽殿下が快く譲ってくれたんだから、拒否しないわよねぇ」
「そ、添い寝ってどういう事よっ!?」
「そのままの意味でしょ、ねえ霞?」
「……はい」
「なんでいきなりそうなるのよっ!」
「ちなみに、霞はともかく月詠中尉とアタシも添い寝したから〜」
「あの時の照れまくりの初々しい月詠は、とても可愛くて忘れられませんわ」
「で、でで殿下っ!!」
「……まりもさん、ただ横で寝るだけですから、キスより簡単だと思います」
「知らなかったなぁ、神宮司先生って積極的だったんだ〜」
「霞に鑑もっ……喋ったの白銀っ!?」
「オレじゃないけどオレでいいですよまりもちゃん、はぁ……」
「それってどういう意味なの、白銀?」
「まりも、それはあたしが後で教えて上げるから、今夜は弾けなさいよ〜」
「夕呼先生じゃないんだから、まりもちゃんが襲う訳無いでしょ」
「なによ、ただ寝ぼけて抱きついただけじゃない」
「あのね、そんなんでマウントポジション取って服脱がすわけないでしょっ」
「たまたまよ」
「なにやってんのよ、夕呼……」
「アタシの事はどうでもいいでしょ、それよりもまりも……どっちが先に白銀の子供を身籠もるか、勝負よ」
「苦労しているのね、白銀……」
「解ってくれますか、まりもちゃん」
「な、なによ二人とも、その手の掛かる子供を見る親の様な目はっ」
「「はぁ……」」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 62 −2000.9 信じる力、思う力−




2000年 9月13日 10:30 横浜基地 

この日は朝から武は忙しかった。
まずは葵たちの仕上げという意味でヴァルキリーズと合同でオリジナルハイヴ攻略シミュレーションを行っていた。
まだ、最下層の目的まで到達はしていなかったから、今回こそはそこにたどり着けと言う武が命令を出していた。

「いいぞ凛、ハイヴ内では一々BETAなんて相手にするなっ」
「はいっ」
「日比野中尉は撃ちすぎだ、速瀬中尉じゃないんだからもっと押さえて」
「はいはーい」
「なんですってーっ、白銀っ」
「やる気は認めますけど、弾切れなんかで途中で撃破されたら孝之さんが心配しますよ?」
「ううっ」
「天野原少尉は今の感じで、葵少佐は……ばっちりです、みちる大尉と同じで言う事無いです」
「は、はいっ」
「了解です」
「なによその差はーっ!」
「危ない水月、後ろっ」
「てぇーいっ、このこのっ」
「ああもう、言った側からそれですか。みちる大尉、速瀬中尉には後でドリンク沢山呑ませて上げてください」
「了解だ」
「うげっ、覚えておきなさいよ〜、白銀っ!」

余裕がない様で実のところ最下層一歩手前まで来ていた合同チームは、ここまで撃破された機体は無くてほぼ満点に近い状態で
進んできていた。
もちろん、武の存在にダイレクトな戦域管制の遙の的確な指示が有り、戦術機の強化装備にXM3にチームワークと言う条件が
揃っているからである。
弾薬や推進剤の消耗率は高かったが、それでも全員でここまで来たのは初めてでみんなの志気は高いままだった。
そして最後の大広間の所で武の顔が険しくなり嫌でも受け継いだ記憶が蘇り、感情がこもって言葉が使いが荒くなり叫んでしまう。

「正樹さん、孝之さん、風間少尉はレールガンで目の前の扉を破壊しろっ」
「「「了解っ」」」

扉を開閉するシステムは知っていたが、武は敢えてそれをせずに破壊する事を選んで前に進む。
無論、感情の押さえが聞かなかった事もあったが、温存していたレールガンを試すという事も忘れていなかった。
三挺のレールガンの連射を受けた隔壁はあっと言う間にぼろぼろになり、射撃のターゲットみたいに崩れ去った。

「おいおいっ、なんだこの威力?」
「ハイヴ内の隔壁が紙みたいだ……」
「これがレールガン……」
「三人なら使いこなせるだろう、後で実物も撃たせるから慣れておいてくれ。さあ、最後の扉も吹き飛ばせっ」
「「「了解っ」」」

そしてとうとう最下層にある目的地にたどり着いたみんなの前には、グロテスクな標的が鎮座していた。
武もシミュレーションでは初めてそれを見た瞬間に目の前が真っ白になり表情も強張ったままだったが、それに気づかないの女性陣
の何人かは顔を赤らめていた。
その中で純情とはほど遠い様に見えて実は乙女心満載な水月が耳まで真っ赤な顔をして叫ぶ。

「なによあの形? あれじゃまるでっ……」
「み、水月っ、それ以上言っちゃだめっ」
「さすが速瀬中尉、見慣れているんですね」
「まあ速瀬中尉ったら、こんな所で何を考えたのですか?」
「む〜な〜か〜た〜と風間っ、あんたらねぇ〜」
「まりかちゃん、顔赤いよ?」
「あ、あきらっ、なんでもないわよっ」
「立派よねぇ〜、葵」
「照子、下品よ」
「あうあう〜、いやいや〜っ」
「凛ちゃん落ち着いて、あれはBETAですよ」
「まあ、なんだな、孝之?」
「俺に振らないでくださいよ、正樹さん」
「みんな落ち着け、最後の目標を前に何を言っているんだっ」

みちるはみんなを落ち着かせようとするが、その顔が赤い所為もあり説得力の欠片もない。
そんな騒がしい中、あ号標的を見てしまった武の脳裏には冥夜を撃たなければならなかったあの時の記憶が明確にフラッシュ
バックしてしまい、その手は無意識にFLASH MODEを作動させ、意識は零の領域に入ったのだが剥き出しの感情は叫びと
なってハイヴ内に轟いた。

「うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

あ号標的から伸びてきた触手を長刀で切り払い、突撃砲を撃ちまくり一人で無謀とも思える攻撃を繰り返す。
そんな武の叫びと行動に唖然としたヴァルキリーズとエンジェルズだったが、気を取り直して自分たちも攻撃をしようとしたら
モニターの中で睨む武の表情に動けなくなる。

「……誰も手を出すな、アイツは……アイツだけは俺がやるっ!」

乗っている機体設定は不知火・改なのだが、その動きは先日見せた武御雷の時と変わらない動きであ号の触手を触らせもしない。
叫びながら戦う武の顔は怒りと悲しみが混ざった顔で、みんなも初めてそれを見てこんなにも強い感情が隠されていたのかと
戸惑いを隠せなかった。

「貴様の……貴様の所為でっ、くそったれがああぁぁぁーっ!!」

こんなにも激しい感情を見せて我を忘れて戦い続ける武の姿に、誰も声が掛けられずただ見つめるしかできなかった。
しかし、だからこそ白銀武の人間的な本音の部分を初めて知る事になり、その強さと弱さの一端を感じる事が出来ていた。
何時までも終わらない武の攻撃だったが、突然シミュレーションが強制停止して筐体が止まり静かになるとみんなは
中から出てくるが、そこで強引に夕呼に筐体から引きずり出されている武を目撃した。

「何やってんのよ、白銀っ!!」
「あ……」
「しっかりしなさい、この馬鹿っ!」
「夕呼、先生……」
「ったく、暫くどこかで頭冷やしてきなさいっ」
「はい……」
「霞、後お願いね」
「……はい」

仕上げと言う事で今日はシミュレーションのデータを取っていた霞が、項垂れて出て行った武の後を追っていく。
腕を組んで眉間に皺を寄せる夕呼に、みちるは控えめに声を掛ける。

「香月博士、白銀はどうしたんですか?」
「伊隅?」
「あの取り乱し様は異常です、いつもの白銀らしくありませんでした」
「そうね……これも良い機会なのかもしれないし、みんなには話しておいた方が良いのかもしれないわね」

そこで夕呼は多少の嘘を織り交ぜて、前回の記憶を少しだけ話す事に決めた。
もしかしたらこれもこの先に影響を与えるのかもしれないと頭の中で考えながら、慎重に言葉を選んで話し始める。

「みんなにやらせていたオリジナルハイヴシミュレーション、細部までリアルだったでしょう?」
「はい、まるで見てきた様だとしか思えない作り込みでしたが……まさかっ!?」
「その通りよ伊隅、白銀はね……オリジナルハイヴに突入して生還した内の一人よ」
『っ!?』

夕呼の衝撃な発言に誰もが言葉を失う、なにしろフェイズ6のハイヴから生還した作戦記録なんて公式には無いからである。
どれだけ秘匿性の作戦なのか想像出来て、その部隊構成も少数精鋭なんだとみんなは朧気に理解するが、それは夕呼の言葉に
乗せられた意味も含まれていた。

「これ以上の細かい事は機密事項で言えないけど、後一つ言えるのは仲間の犠牲で生き延びた事が白銀が今も引きずって
いることね」
「そうだったんですか、だからあいつは……」
「あんたたちも覚えておきなさい、任務に対して死力を尽くすのは良いけど、生き延びてこそ意味があるのよ。だからどんなに
苦しくても絶望的な状況でも、仲間と共に助け合い生き延びる事を考えなさい。それが出来ればアイツは心から笑えるんだからね」

それだけ言ってシミュレーションルームを後にする夕呼の背中を、ヴァルキリーズとエンジェルズは目で追い掛けていた。
その頃、武は基地の屋上から訓練校のグラウンドで訓練している純夏たちをぼーっと見下ろしていた。
汗を流して苦しいはずなのに、持ち前の根性で笑っている純夏の笑顔を見るたびに心が抉られる気がした武の手は堅く握られる。

「……武さん」
「…………」

呼びかけにも振り返らず黙って見下ろしたままの武の背中に、霞はそっと手を重ねる。

「みんなにみっともない所見せちゃったな、情けないぜ……」
「……いいえ、わたしも知っていますから」
「っ! すまない……」
「……いえ」

それから武の横に並ぶと、同じように純夏たちを見つめる霞は小さな声だけど意志を篭めて呟く。

「……弱音を言っても良いんです、だってわたし達は人間なんですから」
「霞……」
「……わたしには隠さずに弱音を言って欲しいです」
「オレだって男だし、受け継いだ記憶ぐらいで取り乱したりしないと思ったんだけど……無理だった」
「……当然です、それが人です」
「格好悪りぃなぁ……」
「……大丈夫です、そんなことぐらいでわたしもみなさんも武さんを嫌いになったりしません」
「そっか……」
「……記憶は記憶です、だから今の自分を信じてください」
「そうだな、繰り返す為にオレはここにいるんじゃないからな」
「……はい」

ぎゅっと武の腕を抱きしめると、そのまま体を預けて寄りかかり目を閉じる霞はそれ以上何も言わない。
腕から感じる霞の温もりが冷え切っていた武の心に暖かさを取り戻させて、顔色も良くなっていつもの飄々とした表情を取り戻した。

「ありがとう、霞」
「……これも妻の努めですから」
「結婚した記憶は無いんだけどなぁ?」
「……わたしの恥ずかしい所まで全部見た人の言葉じゃないです」
「ぐはっ」
「……アラスカへの婚前旅行、楽しみです」
「頼むから向こうで自己紹介する時、余計な事言わない様にな?」
「……それは、武さん次第です」

そこでやっと笑顔になった武と霞は視線を合わせて微笑み合うのだが、なぜかグラウンドの方から純夏の大声がここまで届いた。

「なにやってるのさー、タケルちゃんっ! やくそくはどうしたーっ!」
「……ったく、落ち込んでいる暇もないな……今行くぞーっ!」

純夏に負けない大声で返事をする武を見上げる霞は、自分で力に慣れたんだとそれが嬉しく思っていた。
この思いがあればきっと未来は変えていける、そう信じる霞は武より先に歩き出すとその手を引いて純夏の元へ向かった。






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