「ようこそまりも、とうとうここに来たわね」
「夕呼、ここはなんなのよ?」
「もちろん決まっていますわ、まりもさん」
「ゆ、悠陽殿下っ!?」
「あー、神宮司先生お疲れ様〜」
「か、鑑訓練兵っ?」
「むっ……」
「月詠中尉?」
「……これで一応主要メンバーが揃ったみたいです」
「霞まで……夕呼、一体ここは何なのよ?」
「ふふん、もちろん決まってるじゃない、ねぇ白銀?」
「深く考えないでください、ただのお茶会みたいな程度に思っていれば気にならないと思いますよ」
「そ、そうかしら……」
「……まりもさん」
「なに、霞?」
「……武さんとの甘い時間はどうでしたか?」
「んなあっ!?」
「……こちらのまりもさんは積極的で良かったですね、武さん?」
「か、霞っ!?」
「ん? なになに〜……もしかしてまりも、白銀のこと食べちゃったの?」
「ゆ、夕呼っ、馬鹿な事言わないでよっ」
「ムキになる所が増々怪しいわねぇ〜」
「白銀、何をしたんだ?」
「つ、月詠さん、表情と言葉遣いが戦場と同じになってますが……」
「黙れ、さっさと答えろっ」
「ふふっ、月詠が一番嫉妬心が強いみたいですね」
「……くすっ、そうですね」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 61 −2000.9 その手に掴むもの−




2000年 9月12日 18:10 横浜基地

まりもに打ち明けた後、暫くこれからの事を話してから別れた武は、一人訓練校のグラウンドまで来て空を見上げていた。
いつもなら純夏たちが汗水流していた場所だが、今ここには自分以外誰もいない静かさに浸っていた。
実の所、まりもにキスされた動揺がまだ残っていたので、落ち着く為に一人でここにいると言った方が正解だった。

「ふー、まさかまりもちゃんからしてくるとは思ってもみなかったなぁ……」

そう口に出すとさっきの事がはっきりと頭に浮かんでしまい、何の為にここにいるのか意味不明になってしまいそうで、慌てて
他の事を考える様にした。

「しかし、受け継いだ記憶には無かった展開だからこれがどう影響するのか解らないけど、問題はBETAの行動も以前と違う
のが頭の痛い所だ、たはー……」

自分たちの状況はある程度なんとかしようとすればそれに合う様に行動することを目標にすればいいが、敵の事までは武でも
予想外の事なので現実的には手出し出来ない。
まだ、戦力的にも不足だからいきなりハイヴ攻略間無理だと理解はしているが、いくつかの未来を知っている武にはもどかしくて
歯痒かった。

「悩んでもしょうがないか、とりあえずはアラスカでやることやらないとなぁ……」

この武と霞のアラスカ行きが夕呼にとっては囮であり、本当の意味は反オルタネイティヴ4派の誘いと諜報活動をしてくる米国や
他の国々の動向を探る事が真の目的である。
霞と夕呼が前回の記憶を持っているので実質オルタネイティヴ4はすでに成功しているから今更邪魔をしても無意味なのだが、
こちらの思惑に横やりを入れられると困るのでなんとしたいと言った所だった。

「うーん、どっちにしろ身近な事からやるしかないか」

沈みゆく太陽に目を細めながら両手を上げて体を伸ばす武は、背後から近寄ってきた足音に振り返るとそこには純夏がいた。

「よお、訓練はどうだ?」
「ううっ、すっごい疲れたよ、今日が休日で良かった〜」
「じゃあ止めるか?」
「ううん、止めないよ……それにみんなを守りたいのはタケルちゃんだけじゃないんだよ」
「ああ、そうだったな」
「もうっ、忘れてるなんて酷いよ〜」
「わりぃ……」

そう言いながら武の手が純夏の頭をぽんぽんと軽く叩くと、不思議そうにその手を見つめる純夏が口を開く。

「タケルちゃん、なんか優しいよ……」
「そうか? いつも純夏の事、びしびし叩いてばっかりだったしなぁ〜」
「違うよタケルちゃん、アレは殴っていたの間違いだよ〜」
「お前もな……でも、悪かったよ。ほらっ」
「タ、タケルちゃんっ」

今度は優しく撫でられて戸惑う純夏だったが、えへへと笑って武の腕に抱きつく。

「いっつもこうならタケルちゃんもお星様にならなくて済むよ」
「そうだな……って、純夏もすぐに手を出すなよ」
「そんなのタケルちゃん次第だよ」

そのまま二人で夕日を眺めていると、寄り添った影が地面の上を長く伸びていく。

「ねえタケルちゃん……」
「ん?」
「一人でがんばらないでね、みんなでがんばろうね」
「ああ……」
「それでタケルちゃん……神宮司先生とキスしたの?」
「ああ……って、なんで知ってんだ純夏っ!?」
「へへっ、秘密だよ」
「あ、おいっ」

するりと抱きしめていた腕を放して逃げ出した純夏だったが、あっさり追い掛けてきた武に捕獲される。
今度は武がそのまま背中から純夏の体を抱きしめてしっかりと捕まえる。

「……純夏、お前今リーディングしただろ?」
「な、なんのこと〜」
「くっ、迂闊だったぜ……」
「知ってた癖に忘れていたタケルちゃんの自業自得だよ」

そこでふと武は今まで純夏に必殺技を決められた時の事を思い出して憤慨した。

「それじゃオレが無実だって知ってて殴ったんだよなぁ、純夏?」
「うっ、そ、それは……」
「純夏ぁ〜」
「あううぅぅ〜」
「お返し、してもいいんだよな?」
「い、いいっ、いらないよっ」
「だめだ」

武の言葉とプレッシャーにじたばたと逃げ出そうとした純夏だったが、抱きしめていた腕の力が強くなり動くのを止めてしまう。
純夏の耳元に顔を寄せた武は、赤くなっている頬を横目に囁く。

「もうちょっとだけこのままでいよう」
「タケルちゃん……」
「暫く会えないしな」
「うん」

肯いた純夏も自分の手を武の腕に重ねて、体の力を抜いて身を委ねる。

「なんか初めてだね、こうしてくれるの」
「そうか?」
「うん、だから凄く嬉しいよ」
「確かめたかったんだよ、純夏がここにいるってな……」
「いるよ、タケルちゃん。わたしはここにいるよ」
「ああ……」

意外にも二人っきりになる時間がなかったから、ゆっくりとこうして出来たのは純夏が復活してから初めてだったりした。
邪魔する者も居ない夕闇の中まだ二人は離れる事はなく、会話は続いている。

「冥夜達とは仲良くなったみたいだな」
「うん、もう向こうの世界と変わらないよ。やってることは大変だけどね〜」
「オレの代わりって訳じゃないけど、冥夜と連携を組むのは純夏だからがんばれよ」
「へへん、タケルちゃんが嫉妬するぐらいの冥夜との連携を見せて上げるよ」
「名前で呼ぶ程仲良くなったか〜」
「今だってわたし達は207隊じゃ最強コンビだよ」
「そっか」
「そうだタケルちゃん、昨日なんて……」

楽しく会話する中で、武はみんなとの絆を深めていく純夏が嬉しそうに話すので、同じ気持ちになっていった。
また、逆にまりもに怒られていた事を思い出して、前回みたいに深くみんなに関わっていない事を反省した。

「なあ、純夏……」
「んー、なにタケルちゃん?」
「アラスカ行くまでそんなに時間無いけど、なるべく訓練の様子を見に来てやるよ」
「ホントっ?」
「うん、約束だ」
「あーあ、やっぱり年上に弱いんだ、タケルちゃんのえっち」
「なんでそうなるっ」

そう言って武の腕の中でくるりと振り返った純夏は、にやにやした顔で見つめ返す。
もちろん、隠す必要がないリーディングの力を惜しむことなく発揮する純夏は、ここぞとばかりに畳み掛ける。

「月詠さんとか神宮司先生には甘えちゃうし、香月先生になんてお願いだらけだもんね〜」
「うぐっ」」
「でも、年下も好きだもんね〜、霞ちゃんとか七瀬さんとか壬姫ちゃんとか〜」
「タマは同い年だろっ」
「あ、そうだった……とにかく年上から年下どころか、胸のサイズまで大小OKなタケルちゃんは本当にえっちだよっ」
「てめぇ」
「なにさっ……んっ!? ……んん……」

いきなり唇を塞がれて自分がキスされていると解ったら、純夏は目を閉じてそれを受け入れる。
まりもに言われたからじゃないだろうけど、今まで叩いて黙らせてきた分他の方法が思いつかなかっただけかもしれないが、
純夏にしてみれば理由なんてどうでも良かった。
こうして武に抱きしめられてキスされた事の方が、純夏には遙かに大事だったからである。

「……ん、はぁ……タケルちゃん……」
「今度から叩くよりこうするか?」
「え、そ、そそそれはっ、でも嬉しいけどさ……」
「冗談だ」
「むきーっ、雰囲気台無しだよタケルちゃんっ!」
「そんなのオレに期待するなよ」
「もうっ、でもだからタケルちゃんなんだよね、はぁ……」

憎まれ口をしながらも、がっしりとした武の胸に頬を寄せて甘える純夏は幸せの絶頂だった。

「まあ責任は取ってやるさ、裸見ちゃったしな」
「ふんーだ」
「んだよ?」
「そんな事言ってもだめだかんね、わたしに嘘は通用しないんだから」
「ぐっ、そうだった」
「うんうん、タケルちゃんの気持ち、ちゃんと知ってるから何言われても大丈夫だよ」

純夏の力を思い出してこれはいかんと武は甘い雰囲気をすっぱりやめて、純夏を腕の中から乱暴に押し出した。

「なにすんのさっ」
「いかん、このままではオレのプライベートが丸裸じゃねーかっ」
「何を今更……」
「夕呼先生に言って対策してもらわねーとな」
「ああっ、それはダメーっ!!」
「うっさい」
「ダメったらダメったらダメのダメーっ!!」

そのまま走り出そうとした武の腰に捕まって純夏は何とかそれを阻止しようとするが、そのまま引き連れられてグラウンドを
後にした。
この頃にはすっかり夜になり、その星空に二人の騒がしい声がどこまでも響いていた。






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