「今年ももう暮れなんですねぇ……はぁ」
「どうしたのよ白銀、元気ないじゃない?」
「もう忙しくて忙しくて……主にマネージャーの仕事が」
「当然でしょ、伊隅たちがメインなんだから、男達は裏方なのよ」
「……先生、オレたち国連軍ですよね?」
「何言ってるのよ、当たり前じゃない」
「そうですよね、最近そうなのか自信が無くなっていましたよ」
「愚痴を言ってもBETAはいなくならないわよ。あ、そうそう」
「なんですか?」
「例の戦術機の強化プランと支援パーツなんだけど、一応出来上がってるわ」
「え、出来たんですか?」
「これだけ時間があるし、後で白銀にテストしてもらうから」
「了解です。あと帝国斯衛軍への話はどうにかなりそうですか?」
「一応、鎧衣課長とは連絡取れているから、その内返事が来るでしょ」
「は〜、オレあの人苦手なんだよなぁ……」
「あたしもタイプじゃないわ」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 06 −1999.12 純夏−






1999年 12月10日 13:00 国連軍横浜基地

横浜ハイヴ攻略後、この場所を国連軍は極東防衛線の拠点として、基地の建設に着手していた。
すでに大まかな施設は完成しているが、まだまだ未完成の部分もあり、部隊の配置も
正式とは言えない状態だが、ここには活気があった。
数ヶ月前に表舞台へ上がったオルタネイティヴ計画直轄部隊『イスミ・ヴァルキリーズ』の
勇姿である。
隊長の伊隅みちる大尉を筆頭に、全員が美女美少女で、揃いも揃って実力は折り紙つきの
腕前とあって、注目の的である。
人類の希望として人々の前に現れ、BETAを倒していく姿に、世界じゅうの人々が勇気付けられた。

「はぁ……」
「良い若いもんがため息ついているんじゃないよ」
「おばちゃん、オレだっていろいろ考える事があるんです」
「そうかい、でもあんたには似合ってないよ」
「ひでぇなぁ〜」
「ほら、これでも飲んでしゃっきりするんだよ」
「ゴチになります」
「霞ちゃんにもね」
「……ありがとうございます」

PXで先ほど夕呼から渡された戦術機の強化プランと支援パーツの仕様書一式を眺めながら、
おごりの合成宇治茶を一口飲む。
一緒にいた霞にも用意してくれた辺り、京塚のおばちゃんに感謝しつつ、ページをめくる。

「うわぁ、まさかアニメの話だけでここまでやってくれるとは、凄いな夕呼先生は」
「……武さん、あーん」
「あーん、もぐもぐ……予定スペックは良いとして、後は実機でテストか……」
「……武さん、あーん」
「あーん、もぐもぐ……霞」
「……はい?」
「自分でも食べるんだぞ」
「……食べています」
「ならいいんだけど……おおっ、総合出力で36%も上がってるのか、やるなぁ……」

お茶を飲みながら、横に座っている霞から合成羊羹をあーんして貰っている武の姿に、
回りで食事を取っている軍人や建設現場の作業員たちの視線はきつかったが、武は気付かない。
そこに、華やかな雰囲気を振りまきながら、みちる大尉たちヴァルキリーズの面々が現れた。

「あら〜白銀、霞に羊羹食べさせて貰うなんて、良い身分ね〜」
「まったくだ、あやかりたいものだね」
「速瀬中尉に宗像中尉、クリスマスプレゼントは無しと。霞メモしといて」
「……はい」
「あ〜、いるっ、いりますっ」
「ほんのジョークです、少佐」
「まあいいけど……みちる大尉、少し早いけどクリスマスプレゼントです」
「これは、白銀?」
「まあ、読んで見てください。霞、頼む」
「……みなさん、どうぞ」

テーブルの脇に積んであった小冊子を霞が部隊の全員に渡すと、それぞれ読み始めた。
もちろん、一番最初に声を上げたのは、水月だった。

「これって本当なの、白銀っ!?」
「嘘じゃありません、実物も完成しています」
「いつ、いつから使えるのっ?」
「今週中にオレがテストしますので、来週から使用出来る予定かな」
「わおっ、楽しみだわ〜」
「もう水月、子供じゃないんだから」
「遙、これを喜ばないんじゃ、突撃前衛なんてやってられないわ」
「それと涼宮中尉、あなたには専用の戦術機を用意したので、こちらのマニュアルを
読んでおいてください」
「はい」
「あー、遙だけひいきだ〜」
「違うって、現場での戦術レベルを上げるのに、必要なんだよ」
「それって移動指揮所みたいな感じでしょうか?」
「良い読みです、風間少尉」
「どれどれ……うわっ、まりか姉さん、この仕様って偏り過ぎじゃない?」
「んーっと……思い切って振ってるわね。どう思う、みちる姉さん?」
「……これは白銀の考えなのか?」
「そうです、それで涼宮中尉の機体には直衛としてブレイズ隊が着きます」
「あー、やっぱりひいきだっ。白銀〜、あんた業とでしょ?」
「速瀬中尉、何の話かさっぱりです」
「そ、そうだよ水月、仕方がないよ」
「は〜る〜か〜、その笑顔は何よ?」
「え、えっと、気のせいじゃないかしら」
「く〜っ」

ヴァルキリーズは女性だけで構成されていて、今のところ武と孝之がブレイズ隊の構成になっている。
つまり、戦場でも常に孝之が遙の側にいる状況が、水月には納得が出来なかったようだ。

「さて、オレは次の仕事があるから、みなさんがんばって」
「あ、白銀ちょっと待って」
「なんですか速瀬中尉?」
「孝之はどこに行ったのか知ってる?」
「鳴海さんなら一足先にハンガーで、届いたばかりの機体を調整してます」
「白銀っ、今度の実機演習、覚悟しときなさいよっ」
「……八つ当たりだね」
「む〜な〜か〜た〜、何か言った?」
「なんでもありません、中尉」
「あーもーっ、この気持ちをどこにぶつければいいの〜っ」

叫んでいる水月たちに苦笑いしながら、武と霞はPXを後にした。
楽しげな空気の中から、夕呼との待ち合わせ場所に向かう間に、二人の表情は一変していた。

「遅かったわね」
「すいません、みんなに仕様書とか渡していたので」
「まあいいわ、こっちよ」
「はい」
「……武さん」
「大丈夫だ、霞」

握ってきた手を握り返して、武は霞に肯く。
夕呼の後に続いてエレベーターに乗り込み、かなり深い所まで降りていく。
やがて、止まった階で降りると、薄暗い照明に照らされた廊下を歩いていくと、
扉の前で足を止めて夕呼が振り返る。

「いいのね?」
「オレは逃げたりしません」
「そう……」

セキュリティーを解除して、中にはいると暗い部屋の中心にシリンダーみたいものがあり、
そこにはよく知っている物が浮かんでいた。

「……純夏」

武はシリンダーに手のひらを当てて、何度も心の中で純夏の名前を呼ぶ。
離れた場所で黙って見ている夕呼とは違い、霞は何故か驚いたようにうさみみが動いた。
それを見逃す夕呼ではなかったのか、霞に話しかける。

「どうしたの、霞?」
「……武さんっ」
「ど、どうした霞?」
「……こんなことって」
「霞?」
「霞、なにがあった?」
「……純夏さん、はっきり意識があります」
「まさかそんなっ、先生っ!?」
「……どう言う事?」

霞の言葉に振り返った武と夕呼は、純夏だったものを見つめる。
これがどういう事なのか、誰にも解らなかった。
淡い光が照らす室内で、暫く言葉を発する事は無かった。






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