「……それでは順番に引いてください」
「おっ、なにやってんだみんなして?」
「……くじ引きです」
「そっか、じゃあオレも……」
「……武さんはダメです」
「んがっ、なんで?」
「……女性限定です」
「ちぇー」
「……みんな引きましたか? それでは一番の人は?」
「あ……」
「まあ、わたくしは三番ですが、そなたは先日から幸運続きですね月詠」
「あたしが二番か、なんか嫌な番号ねぇ……」
「ううっ、わたしびりっけつ〜」
「……それでは確認します、月詠中尉、香月博士、悠陽殿下、わたし、純夏さんの順番ですね?」
「おいおい、なんの順番だ?」
「……武さんと添い寝の順番です」
「はあっ!?」
「……わたしだけが武さんと添い寝するのは不公平になりますから、ここは平等にということで順番を決めていました」
「ちょ、おいっ、そんなのきーてねーぞ?」
「……今、話しました」
「か、霞ーっ!?」
「武様、月詠を可愛がってくださいね。もちろん子作りも構いません」
「で、ででで殿下っ!?」
「ま、待て待てっ、それじゃ添い寝じゃねーし、そもそも結婚してねーだろっ!?」
「……婚前交渉は良くある事です」
「勘弁してください霞さん、マジでお願いしますっ!」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 57 −2000.9 海の向こう−




2000年 9月10日 10:30 アメリカ合衆国ネバダ州、グルームレイク基地

朝から機体の調子が悪く調整している所に司令室へ呼び出されたユウヤ・ブリッジス少尉は、多少機嫌が悪く憮然とした表情で話を聞いていた
がその内容に戸惑いすぐに聞き返してしまっていた。

「どういう事ですか、司令?」
「知っての通りアラスカでは国連軍主体で次期戦術機開発計画が行われている。その為に我が基地からも少尉はローウェル軍曹
と共に派遣される事は聞いていただろう」
「それは聞いています、ですが予定よりも半年以上も早まった理由はなんですか?」
「もちろんその疑問について問いただしてみた所、最初は渋っていたがこれを提示されたよ」

司令は机の上に『TOP SECRET』と書かれた書類をざっと投げ出すと、ユウヤはそれを手にとって中身を確認する。

「これはっ……」
「国連太平洋第11方面軍が独自に開発した日本のTYPE94の強化計画及び支援装備一式、それに噂だった新OS【XM3】の評価試験が
決まったからだという事だ。その所為で新型戦術機開発が前倒しに変更された結果が現在の状況だ」
「なんでいきなり……」
「これらの物はすでに戦闘証明済みだそうだ。しかも今回はゲストも来るという事で、国連本部はこの機会に計画を推し進める腹づもりらしい」
「ゲスト?」
「国連横浜基地、特殊任務部隊A−01所属の白銀武少佐と新OS開発主任の社霞少尉だそうだ」
「白銀武……」
「第11方面軍……通称では極東国連軍のエースと呼ばれ、その戦術機を操る実力は世界一と噂に名高い白銀少佐に、今までの
機動概念を一蹴してBETAを物ともしない戦闘機動を可能にした【XM3】を開発した社少尉が来るとなれば躍起にもなるだろう」
「ですがOSもその少佐の実力は噂だけじゃ……」
「これを見ろ」

そう言って司令はテーブルの上に有ったリモコンを手にすると、壁に掛かっていたモニターに映像が流れる。

「これは過日、佐渡島ハイヴからBETAが侵攻を始めた時の衛星からのリアルタイム映像だ。中央で戦っている機体が白銀少佐の操縦する
TYPE94の改修型だ」
「なっ!?」
「凄まじいだろう? これだけのBETAを相手に一歩も怯まず単独で倒し続ける驚異的な戦闘力を見せつけられたら、各国が戦闘機動
データや新OSを欲しがるのは当然と言えよう」

司令の話を聞きながらユウヤは映像から目が離せなかった。
それはテストパイロットとしての興味もあったが、嫌悪している日本人が自分を遙に凌ぐ力を発揮してBEATを倒していく様子に、
次第に心の中を落ち着かせなくしていた。
知らず知らずに拳を握りしめている事に気が付いたのは、ユウヤが司令室から出てドアを閉めた後だった。
表情も幾分険しくなったまま、ハンガーで整備されている自分の機体の側まで戻ってくると、工具片手に顔を上げたヴィンセントと
目が合った。

「ようユウヤ、話って何だったんだ?」
「…………」
「おいっ」
「あ、ああ、アラスカへの出向が早まった」
「なんだそりゃあ?」

訳が解らないと怪訝な表情で聞き返してきたヴィンセントに日本から出された改修計画と新OS、それとゲストの事を大まかに説明すると
感心したように肯く。

「なるほどねぇ、噂のエースに新OS開発のお姫様まで来るとなれば、そりゃあしょうがないか……」
「お姫さま?」
「なんだしらないのか、その新OS【XM3】って国連軍の中ではかなり前から噂になっていてな、しかも組んだのが年端もいかない美少女
だって話だから、ネットでも話題になってたぐらいだぜ」
「そんな子供が組んだ物なんて使い物になるのかよ……」
「なってたんだろう? お前が見たその映像は合成だったのか?」
「むっ……」
「大体、その少佐が所属している特殊任務部隊A−01、通称『イスミ・ヴァルキリーズ』はそれを使って戦闘までしているとなれば認める
しかないだろ」
「イスミ・ヴァルキリーズか……」
「そうだ、あの美女美少女が盛りだくさんで、今じゃ国連軍どころか各国にファンは多いぜ。しかも実力はその少佐に負けず劣らずだって
話は信憑性が高いな」
「そうかよ……」
「なんだ、自分より操縦が上手い奴が気にくわねぇのか?」
「そんなんじゃない」
「ふーん、まあいいや。それじゃ準備は早めにしないと大変だこりゃ」

そう言いながらヴィンセントが工具を片づける横で、ユウヤは先ほど見た映像の中で動くTYPE94……不知火・改の事を思い出していた。
自分が習い覚えた物とは根本的な違いはテスト・パイロットの立場からすぐに理解できたが、果たしてあの動きを自分で再現可能かと考えた
が無理だとしか答えが出なかった。
そもそもこの世界と違い、ゲームで覚えた武の戦い方を理解出来たらそれはそれで凄い事ではある、だがしかし根本的な発想が違うから
ユウヤにはたどり着けない答えなのだ。

「あ、そうだった。さっきユウヤが途中で呼び出されたからその間に不調だったブーストの調整してたんだが、試してみてくれよ」
「了解」

だが、ヴィンセントの言葉に考えるのを止めて、ユウヤはF−15Eストライク・イーグルのコクピットに乗り込むとエンジンを始動させる。
今の仕事はこれだと、意識を集中させるとパワーを上げてハンガーから機体を発進させた。
しかし、ユウヤの脳裏からはあの武の動きが消える事な無く、アラスカで出会いその圧倒的な力を嫌という程味わう事になる。
そして同じ頃、アメリカから遙か遠くの地で、一人の少女が夢を見ていた。
いつも見守ってくれている人は側にいなく、一人何もない荒野に立ちつくす少女は恐る恐る辺りを見回す。
草も木もない寒々とした大地に見上げた空は雲が厚く太陽も見えず、ここがどこなのかさえ解らない状況に心が不安になっていく。

「クリスカ……?」

小さな呟きに応える声は存在しなくて、不安は増す一方だった少女の心は急速にその限界を超えようとしていた。
自分の息と胸の中の鼓動、それしか聞こえない静寂の中でぎゅっと目を閉じて俯いてしまうが、突然この世界に轟音が響き渡った。
その音に驚いて目を開けた少女は、頭上から聞こえてくると解り顔をゆっくりと上げる。

「あ……」

見た事もない戦術機が厚い雲を切り裂いて日の光を浴びた機体は銀色に煌めき、ゆっくりと降りてくるその腕には一人の少女が抱かれている。
目を離さず見ていると目の前に着地して片膝を付いて動きを止めると、空いていた片方の手をゆっくりと差し出されて少女は戸惑った。
貴方は誰? 何の為に? どうしてわたしに?
浮かぶ疑問を問う様に自分を見ている少女を見つめると、戦術機と同じようにその小さな手を差し伸びてきた。

「どうして?」
「…………」
「あなたは、だれ?」
「…………」

何も語らずただ微笑を浮かべて優しい瞳で黙って自分を見つめている、まるでそれは迎えに来てくれた家族の様に静かに待っている。
そこで踏みだそうとしたが、留まって口を開く。

「あの、クリスカも一緒でいい?」

この場にいない大切な人の事を口にすると、その問いに少女は微笑んだままはっきりと肯き何かを言っているがそれは聞こえない。
でも漠然と感じていた、ただ自分たちをありのまま受け入れてくれる……そんな風に浮かんできた思いと共に少女は一歩踏み出してその手を
掴もう自分の手を伸ばす。
そして重なる瞬間、世界が暖かい光で白く染まった。

「イーニァ、イーニァ……」

眩しさに目が眩んだ時に優しく自分を呼ぶ声に気づいたイーニァは目を開けると、すぐ側で心配そうに見つめているクリスカを不思議そうに
見つめ返す。

「どうしたの、クリスカ?」
「寝言が聞こえたから、それに……」
「それに?」

そう呟くクリスカの視線を追っていくと、自分の手がぎゅっと握りしめているのがクリスカの手だと解った。

「夢? ううん、違う……」
「イーニァ?」
「クリスカ……」
「なに?」
「うん、なんでもない」
「そう……」

でも、イーニァは手を放さないでニコっと笑うだけで、クリスカは意味が解らず戸惑ってしまうが、別に魘されていた訳でもないし
機嫌が良いみたいだからそれ以上は問いつめなかった。

「あのね、クリスカ……」
「うん?」
「きっとね、良い事があるよ」
「良い事?」
「うん、きっと」
「そう……イーニァが言うなら信じるわ」

イーニァの言葉を聞いても何が嬉しいのかまだ解らないクリスカだったが、久しぶりに見た笑顔に自分も嬉しくなっていた。
今朝聞いた急な任務変更の時からイーニァは嫌そうな顔をしていたから、今はそれでいいと安堵出来た。
しかし良い事とはなんだろうと思いつつ、クリスカは手を繋いだままイーニァの横で目を閉じた。
来月からは適地と言える場所での任務なので、良かろうが悪かろうが自分がするべき事は決まっていたから、程なくして眠りに落ちていった。

「ん……」
「んがぁ〜」

そして武に添い寝していた霞の寝顔はいつもより微笑んでいたが、それを知る者はいない……はずだったが今回はいたりする。

「…………はふぅ」

二人きりではないが初めて愛しい男性の腕枕で寝ているという事実になかなか寝付けない月詠は、熟睡している二人の様子を見ていた時に
見る事が出来た様だった。
ちなみに、いくら何でも結婚前の男性と寝所を共にするなどと月詠には出来るはずがなかったので、勢いでつい参加したくじ引きで添い寝の
一番バッターを獲得したのに今回だけは困り顔で懇願された霞が一緒という事で、これなら間違いも起きないだろうと最後は夕呼に言いくる
められて今に至っていた。
もちろん、夕呼にしてみれば『白銀なら二人ぐらいどうってことないと思うのよねぇ、寧ろOKカモーンって感じぃ?』と呟いていた。
添い寝の事で頭が一杯だった月詠にはその言葉は聞こえていなかったが、その声はやや大きく悠陽や純夏には聞こえていたと赤面している
状態で寡黙に答えていた。
だがしかし、肝心な事に武が純情でそう簡単に女の子に手が出せる訳がないと誰も信じていない事の方が問題の様な気がしなくもない。
そんな状況を楽しみながら夕呼は次が自分の番だと思い出して、より過激に大胆に武へ迫ってみようかと考えていた。






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