「おい純夏、なにやってんだ?」
「ふーんだっ、タケルちゃんなんてしらないよーだ」
「夕呼先生、純夏のやつ何拗ねてるんですか?」
「ああ、それは白銀が自分だけに構ってくれないからよ」
「訓練見てるじゃねーか」
「……違います武さん、もっとラヴラヴしたいと言う事です」
「か、かかかすみちゃんっ!」
「そーゆーことかよ、で純夏よぉ……」
「な、なんだよっ」
「具体的に何をすれば良いんだ?」
「うぇっ!?」
「こうして手を握ればいいのか? それとも抱きしめればいいのか? それとも……」
「わーわーわーっ! タケルちゃん何考えてんだよっ!?」
「お前は何考えたんだよ?」
「あうあうっ」
「大体なぁ、今更恥ずかしがっても意味無いだろ……」
「ええっ、なんで?」
「お前が目覚めるまで、素っ裸だったじゃないか」
「あ、ああーっ!!」
「今頃気づいたなんて、鑑は鈍いわねぇ〜」
「……でも、わたしと同じです。これでいつでも一緒にお風呂は入れますね」
「「えっ!?」」
「……次は香月博士の番です、ご自慢の胸で武さんを悩殺してください」
「なっ、ちょっ、か、霞っ!?」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 55 −2000.9 −シロガネの武御雷−




2000年 9月8日 15:00 帝国陸軍技術廠 第壱開発局

巌谷の変貌振りにどっと疲れたのか、対戦を終えて開発局へ戻ってきた唯依と武は、渇いていた咽をお茶で潤してから
ソファーでぐったりとしていた。
そんな武の横で月詠は表情は凛としているつもりなのだが、ご機嫌と言った感じが体から溢れ出していて雰囲気は明るい。

「どうした、二人とも若い者らしくないぞ」
「中佐……」
「はぁ〜、なんだかなぁ……」
「白銀少佐、お茶のお代わり如何ですか?」
「あー、たのんます月詠さん」
「はい」

しずしずとお茶を注ぐ月詠をぼーっと見ていた武に、巌谷は気楽な感じで話しかけるがその目は違っていた。

「さて、二人がお見合いしている間に、少しだけ三枚目のディスクを見させて貰ったが、あれはオリジナルハイヴの
攻略シミュレーションなのかな?」
「それはもういいですからっ……ええ、中佐の想像通りです」
「しかし不明な点がある、最下層にある標的まで示されていたが、ただの想像にしては細かすぎる。まるで見てきたとしか
思えない程にな……」
「だとしたらどうしますか、巌谷中佐?」
「私の知る限りでは喀什のハイヴ攻略した作戦も部隊も有りはしない、だがこのデータは行ってきた者が作成したと考えられる」
「まさかそんな事が……」

巌谷の言葉に唯依は疲れた表情を消して、武の言葉を待つように二人から視線をそらさない。
そしてこの場にいる者の中で武以外、事情を知っている月詠は口を挟んだりせずに静かに控えている。

「巌谷中佐……フェイズ6のハイヴは地獄ですよ、今はそれしか言えません」
「そうか」
「待ってください、白銀少佐。それじゃ貴方はっ……」
「篁中尉、君に発言を許可した覚えはない」
「しかし、中佐っ!?」
「部下が失礼をした、何も語らずとも少佐の表情で理解させて貰った……だが、時が来れば教えて貰いたい」
「そうですね……オレがアラスカから戻ってきた時に、全部とは言えませんが語りましょう」

語っている時にどうしても最後の戦いを思い出してしまった武が、ほんの一瞬だけ見せた悲しみに満ちた表情を見逃さなかった
巌谷はそれ以上は人として踏み込むのを止めた。
軍人としては失格なのかもしれないが、自分たちに渡してくれたデータがどれほど重要なのかを考えると、それは無理に
聞き出す必要がないと判断した為である。
最新のOS、戦術機の強化計画と支援装備、そしてこのオリジナルハイヴ攻略シミュレーションまで受け取った上に、他人の
心の中へ土足で踏み込む行為は出来なかった。

「ちなみに斯衛軍と横浜基地の衛士たちはそのシミュレーションをしているので、国連軍の中でもかなりの強さを身につけて
いると思います。特に月詠中尉の技量は斯衛軍の中でもほぼトップでしょう」
「恐れ入ります、少佐」
「なるほどな、会った時から月詠中尉に感じていた身に纏う気配が研ぎ澄まされていたのはそう言う事だったのか……」

以前見た時の月詠の強さは知っていた巌谷だが、傲りとは違う余裕すら感じる気配の理由が武の言葉で納得できて、
帝国軍でもこのデータを使えば更に強くなる事が証明されていた事に気づいた。

「巌谷中佐」
「なにかね?」
「実際の所人類に残された時間はあまり無いんですよ、ならば自分の出来る事を最大限にするしかない。いつまでも足の引っ張り
合いをしている馬鹿な人たちの所為で大切な仲間や場所を失うのは嫌なんです。それがオレの本音でありデータを渡した理由です」
「軍人としてはともかく分かり易い理由で納得しやすかった、だから有効に使わせて貰うよ」

表情を崩して語る仕草からやっぱりそうだと武は心の中で納得していた、巌谷は信じられる人だと……。
だから武の口から本音の続きが出てしまったのかもしれない。

「お願いします、いつまでも地球上で小競り合いをしている暇があったらさっさと地球上からBETAとハイヴを駆逐して、
月を取り戻して足場を固めないと……あ、今のは聞かなかった事にしてください」
「……解った、それも時期が来るまで記憶の奥底に沈めておこう」
「ありがとうございます、中佐」

頭を下げる武の様子に話が一区切り付いたので今度は巌谷が机にあった書類を差しだして、それを見るように促した。
隣の月詠も少し気になったのか、書類を見ていく武の邪魔にならないように横で見ていた。

「これは武御雷? だけどこれは……」
「兼ねてから悠陽殿下直々の命により造らせていた物だが、少佐の話で合点がいったよ。それに先ほどの演習でも本気をだして
いたようだが、不知火では少々足りなかったようだな?」
「見抜かれていましたか……」
「これでも元テストパイロットだからな……それと篁中尉、一つ言っておくが決して白銀少佐は手を抜いた訳ではないぞ」
「解っています、それに対戦したのは私ですから」

唯依は自分自身で感じていた事が巌谷と武の様子から間違いないと感じていて、先ほどの戦いを思い出していた。
先の信濃川河口付近で戦闘していた武の力が、まだまだあんな物じゃない事に……。
巫山戯た鬼ごっこで捕まえられなかった事がそこまでの力量差があると、雄弁に語っていたから巌谷と同じで納得出来る理由を
聞けたので、その表情は穏やかになっていた。

「それは悠陽殿下から来た話だが、本当は香月副司令からと言った方が正しいのだろう」
「すみません、夕呼先生はそう言う人ですから」
「だが、それは少佐の力を活かす為の行為だと、そしてその命を守りたいと言う思いから出た物だろう」
「遊んでいるだけかもしれませんよ? でもいいんですか、今年配属されたばかりの最新鋭機をテスト機に使われても?」
「戦術機は戦術機だ、それ以上でも以下でもないがその分見返りは大きいと期待している」
「なるほど……しかしこの仕様は滅茶苦茶ですね。通常の武御雷の倍近くの耐久性に、この機体各部に設置された装備は、オレの
機動特性を活かすようだけど……やりすぎだよ、夕呼先生は……」
「普通の衛士ならこれだけの高機動の機体は扱いきれないだろう。だがこの目で少佐の力を確かめた以上、私には何も言う事は
ない。帝国陸軍技術廠の威信を懸けて造らせて貰った、存分に活用してくれ」
「ありがとうございます」

すでにこうして話している間に横浜基地に運び込まれていたその武御雷は、ハンガーで整備員達がメンテナンスを行っていた。
それを見ながら巌谷の話通りその造りを整備班長と確認していた夕呼は、ほぼ注文通りの完成度に納得しながらこれを元に
武用の新型戦術機を開発していく事になるが、オプションで考えていたドリル装備は却下されてふて腐れるのは別の話である。
と、堅い話が終わったと巌谷は再び近所のおじさんのように話を始める。

「お互いの事情はこの辺にして、白銀少佐……」
「はい?」
「唯依ちゃんは気に入ったかね?」
「だから中佐、それは冗談では……」
「何を言っているんだ、これだけ美人でスタイルも良く器量も申し分ない。どこに出しても恥ずかしくないこの娘のいったい何が
不満なんだね?」
「そうじゃなくて、そもそもお見合いなんて話は知りませんし聞いてもいません」
「私も聞いていません、おじ様」
「むぅ……」

武と唯依の抗議に眉をひそめて腕を組み、考える仕草を見せる巌谷は一人静観していた月詠を見る。

「月詠中尉、君はどう思うかな?」
「それは白銀少佐がお決めになる事です、私が意見をする必要はありません」
「ふむ……良かったな唯依ちゃん、月詠中尉も歓迎するそうだ」
「おじ様、どこをどう聞いたらそうなるんですかっ」
「むう……」
「先ほども言いましたが、任務に私情を挟むのは止めてください」

武は渇いた笑いを浮かべ月詠は軍人としての態度で、唯依は頬を赤く染めて怒ったように巌谷の言動に違った表情を見せる。
そして武は思っていた、この人はタマパパ以上に人が悪い……だから抗議しても本当に無駄だと。
同じく唯依も思っていた、どうしてこの人は私をからかうことにこうも一生懸命なのだろうと……しかも今回は一番質が悪い。
浮いた話の一つもないのは事実だが、それこそ大きなお世話だと唯依は巌谷に詰め寄る。

「おじ様、白銀少佐も聞いていないと明言していますから、もう巫山戯るのは止めてください」
「とんでもない、誤解だよ唯依ちゃん。私は本気だぞ?」
「いい加減にしてください、おじ様っ」

そんな二人の言い合いに武と月詠はこの場にいる意味があるのだろうかと思っていた。
なんとなく蚊帳の外の二人は視線を交わして目だけで笑い合うが、その間も唯依と巌谷の言い合いは止まらない。

「いいですかおじ様……自分の相手ぐらい、自分で見つけてみせますっ」
「しかし、いつになったらそうなるのか、私は不安なのだよ。アイツの代わりに見守ってきた親心を無下にするとは悲しいぞ」
「親という字は木の上で立って見ると書きます、だからおじ様も余計な気づかいは無用です」
「唯依ちゃんの白無垢姿を見る為にがんばってきたというのに、はぁ……」
「がんばる方向が違いますっ」
「ならば、私はいつになったら初孫が抱けるのかね?」
「そんなの知りませんっ」
「むっ、ならばここは私の願いを叶えるという事では駄目か……」
「おじ様の願望を叶える為に私は結婚する気は全くありませんっ!」
「それならせめて婚約というのはどうかな?」
「もういい加減にしてくださいっ!」

単なる親娘喧嘩に突入してしまった唯依と巌谷に横目に、武は月詠が煎れてくれたお茶と茶菓子を食べながら、もう帰って良いかな
とソファーに寄りかかってだれていた。

「ねえ月詠さん」
「なんでしょうか?」
「帰って良いよね、オレ?」
「少佐の判断にお任せします」
「そっか……じゃあ帰りはちょっとだけ寄り道して帰ろうか」
「寄り道ですか?」
「このまま脱力感に浸ったまま帰ったら疲れが残りそうだからさ、駄目かな?」
「そう言うお話ならお付き合いさせて頂きます」
「ありがとう月詠さん」
「いえ……」

唯依は親娘喧嘩で頬を赤く染めて、月詠はデートの約束をして頬を赤く染めて、遠目でその様子を伺っていた技術廠の人たちは
何をしているんだろうと複雑な表情をしていた。
しかし、この一件で武とお見合いをしていたという話が広まっていき、唯依にとってはアラスカ行き前に頭の痛い事を抱える事に
なってしまった。
そして武は鎧衣課長とタマパパに続いてもう一人苦手な人物が増えてしまい、同じく頭痛の種が増えてしまった。






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