「……夕呼先生、これってマジですか?」
「マジもマジよってあたしも白銀に影響されてきたわねぇ……」
「これじゃ前回と違いすぎませんか?」
「だってつまんないんだもん、同じじゃね〜」
「つまんないって……それじゃ、向こうの夕呼先生みたいですよ」
「だってする事は解っているしぃ〜、悩まなくていい分時間が余っているんだも〜ん」
「それはそうだけど……ああ、じゃあオレからお願いがあるんですけど?」
「どんなこと?」
「戦術機の強化改良、および支援パーツの開発です」
「……良いわよ、後で希望する仕様を教えて頂戴」
「了解、しかしこれはみちる大尉が恥ずかしがるだろうなぁ……」
「ほらほら、新メンバーも来ているし、そっちを頼むわね」






マブラヴ オルタネイティヴ Fun Fiction



God knows... Episode 05 −1999.9 新生 伊隅戦乙女中隊−







1999年9月1日 10:00 有明臨時戦略ベース

部隊再編成に伴い、先任の少尉を中尉に昇進させて小隊長に割り振りしてからも訓練は続いていた。
連日の新型OS【XM3】の実機訓練は、一通り動作課程を終えた後に、武を交えてミーティングを
しながら練度を高めていった。
前回のように座学で機動概念を教えるより、まずは実際に武の機体に同乗して貰い体感した後、
それを再現出来るように訓練した結果、三週間と言う時間で同じように三次元機動をこなせる様になった
みちる達を見て、武はさすがと関心していた。
これにより、後から来る新人達にもそれぞれが教える事が出来るから、武の手間も省く事ができると
言う物である。
ただ、現在は新型CPUの生産が間に合わないので、エミュレーションモードだから換装した時には
更に反応が上がると確信していた。
後は武の希望を夕呼がどこまで反映してくれるかによるが、これはかなり期待しているらしい。
それはひとまず先の話だと頭の片隅に置いて、今日はその新人達がやってくる日だと思い出していた。

「さてさて、姉妹の対面をしている頃かなぁ……ん? どうした霞?」
「……例の人たちですか?」
「そうそう、まあ後はみちる大尉にお任せだから、これ以上は何もしないぞ」
「……みんな、幸せになって欲しいです」
「そうだな」

霞が握ってきた手をぎゅっと握り返して武が笑うと、そこには笑顔が浮かんでいた。
だいぶ表情が豊かになってきた霞に気分が良くなったから、そのままブリーフィングルームのドアを
ノックして入っていた。

「お待たせ」
「敬礼っ」
「ああ、いいってみちる大尉、仲間内ぐらいは楽にしましょう」
「しかし新人もいますから……」
「うーん……よし、今度そう言うことしたら、オレは大尉のことみちるちゃんって呼びますよ?」
「なっ!?」
「もちろん、他の隊員にもそう呼ばせちゃおうかなぁ……」
「わ、解りましたからっ、ちゃんづけは止めてください」
「可愛いのになぁ……なあ、霞?」
「……はい」
「止めて頂戴、霞……」

あたふたするみちるを見て笑う武と霞たちを見ていた水月と遙も、同じように笑っていたが孝之は
何とか我慢していたが、その肩は震えていた。
そして新人の隊員は唖然としてその様子を見ていたが、これ以上からかうのは可哀想だと思い、
話を変えることにした。

「みんな驚かせて済まない、オレは白銀武で階級は少佐だけど、白銀でも武でも好きなように呼んでくれ。
あと、堅い話し方したら今の大尉の様になるから気を付けるように。さあ、霞」
「……社霞です、階級は少尉です。みなさんよろしくお願いします」

武達の自己紹介が終わると、変わって新人たちは緊張しながらも話し出した。

「宗像美冴少尉です、よろしくお願いします」
「風間梼子少尉です、よろしくお願いします」

梼子はともかく以前の記憶では散々からかわれたり美冴の初々しい姿に、武は内心苦笑いをしながらだまって次の自己紹介を
待った。
心配事の一つが無くなった事で安心して、今回武が夕呼に頼んで帝国軍からスカウトした人物に視線を移した。

「伊隅まりかです、階級は中尉になります。よろしくお願いします」
「伊隅あきらです、階級は少尉です。よろしくお願いします」

名字から解るように二人はみちるの妹たちだった、つまりみちるの恋愛的不利を何とかして上げたのが、
夕呼に頼んだ事がこれだった。
さすがに長女のやよいは帝国内務省の勤務だったので、そう簡単には呼べなかったがこれはこれでみちるにも
悪い事ではないと思う。
ここにいるそして後から来るみんなを守るんだと決めている武の心を、霞だけはリーディングしなくても
理解して協力したいと思っていた。
それがどんなに困難な事でもこの人はやり遂げる、だから霞の心は決まっているし揺らぎもない。

「みんなよろしくな。それとさっき言った事だけど、オレたちは命を預け合う仲間だから、家族のように
仲良くなれたらいいと思う。少なくてもオレはそう思っているからさ」
「……武さん、恥ずかしい事言ってます」
「うおっ、そうだった……今のは忘れてくれ、お願いっ」

武の本音とその後の行動に、みちるたちはそれが嘘じゃないと解ってくすくす笑い出して、最後はみんなで
笑い出してしまった。

「あー、恥ずかしかった。でもな霞、言う前に止めてくれると嬉しかったぞ」
「……その方が面白そうでしたから」
「ぐあっ、霞に遊ばれてしまった」
「……くすくす」
「はぁ〜、さてと、和んだところでみんなに伝える事がある」

笑顔から真面目な表情になった武を見て、みんなの顔も少し引き締まった。
しかし、武の話を聞いたみんなの顔は驚いたまま固まり、誰も一言も話せなくなってしまう。

「まずは新しい任務を伝える、本日より特殊任務部隊A−01は国連軍の広報任務を引き受ける事になった。
つまり、『イスミ・ヴァルキリーズ』は人類の希望として、表舞台に立ってもらう」

極秘任務の為、秘匿性を重視していた筈なのに、一転して広報と言う正反対な事はかなりの衝撃だったらしい。

「言っておくけどこれは夕呼先生が決めた事だから、オレに文句を言ってもどうにもならないからな」
「……白銀、いきなり広報って言われても何を?」
「その、みちる大尉……非常に言いにくい事なんだけど、これも任務だと思って諦めてくれ」
「え?」
「霞、よろしく」
「……はい」

何故か落ち着かない武に代わって、霞が一歩前に出るとポケットから手帳を取り出して、ページを開く。
どことなく芸能人のマネージャーっぽく、淡々と読み上げる。

「本日、13:00より広報用ポスターの撮影です。ちなみに水着撮影もあります」
「「「「「「「「ええーっ!?」」」」」」」」
「それと19:00より、横浜基地竣工記念パーティーに出席です。ちなみに各種ドレス着用になります」
「「「「「「「「はぁーっ!?」」」」」」」」
「ちなみに命令拒否は認めないそうです」
「「「「「「「「…………」」」」」」」」

武は思った……もしかして向こうの夕呼先生の記憶もあるんじゃないかと。
女性陣はみな驚いた顔が赤くなり、そのまま何故か武を睨み始めていた。

「お、オレが決めたんじゃないからな、文句なら夕呼先生に言ってくれよ」
「本当、霞?」
「……はい、みちるさん。これは香月博士が決めた事です」

社とは呼ばず霞と呼ぶ辺り、みちるの動揺は相当な物だったようだ。
でもその呼び方に武は笑顔になり、霞が自分から友達を作ろうとした事が嬉しかった。
だけど、今笑うのは思わぬ誤解を生む事になるとは、武は見落としていた。
みちるは霞から武の方に向き直ると、指が白くなるほど力強くその肩を掴んで睨んでくる。

「白銀、香月博士に何か言ったでしょっ?」
「え、お、オレは何も……」
「その顔で信じられると思う?」
「これは違うって」

さらに何を勘違いしたのか、ジト目の孝之がみちるの後ろから話しかける。

「白銀少佐……」
「孝之さん、誤解だって信じてくれるよな?」
「信じたいのですが、なんで少佐が笑顔なのか説明してください?」
「ああ、丁寧な物言いにっ!?」
「少佐、私も是非、お聞きしたいですね」
「ちょっと、宗像少尉っ?」
「同じく……そんなに水着姿が見たいんですか?」
「だから話を、風間少尉っ?」
「説明してください、白銀少佐っ!」
「オレじゃないって、速瀬中尉っ」
「あ、あの……」
「涙目で見ないでくれ、涼宮中尉っ」
「わたし、アイドルじゃないです」
「夕呼先生なんだよ、伊隅中尉〜」
「うう、恥ずかしいよう……」
「話を聞いてくれないかな、伊隅少尉……」






結局、責められた武が懇願して夕呼を呼び出し説明して貰って事なきを得たが、完全に誤解が解けたかは
疑問である。
もちろん、霞に取ってこれは良い事で、武に近づくかもしれないライバルを阻止したと安心していた。






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